ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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あなたはとても

 

「……いま、なんて?」

 

 震える声で玄斗がもう一度と訊ねる。きっと聞き間違いだ。なにかの幻聴に違いない。もしくは単なる空耳か。ではなんと言ったのだろう。セイノメザメなんてとんでもない言葉を妹がいきなりこの流れで言うワケはない。それこそあたしのキムチ鍋はお兄ちゃんのだったとか、そういう可能性のほうが高くすらある。いやない。

 

「だからっ…………あたし、お兄ちゃんで……その。目覚めたの」

「……なにが?」

「……性欲」

 

 マジか、と玄斗は天をあおいだ。なんと答えたら良いものかもう分からない。大体あるとしても性欲だとか兄妹でそれだとかより、話の流れが急すぎて頭の回転が追い付かない。隠し事を言ってみなよと諭してみれば私はあなたではじめて欲情しましたと言われた。冷静に考えてもどこかおかしい。

 

「……なんで……?」

「……中学のとき。お兄さ……その、委員会とかで……疲れて、帰ってくるときあったじゃん」

「ああ……あったね。遅くなって、もうソファーに倒れ込んだり」

「そう。……でさ、そのときに……お兄、ボタン、外してるじゃん」

 

 玄斗はうんとうなずく。ワイシャツのままでは堅苦しくて、第三ボタンまで一気に開けてから横になっていた日は何度もあった。慣れない中学生活で疲労が毎日蓄積され続けていったというのもある。だから、それ自体はなんらおかしなコトでもないのだが――

 

「その、格好見て……さ……なんていうか、その。……下品、なんだけどね……」

「……、うん」

「…………濡れ、ちゃったんだ……」

「…………………………………………ええ」

 

 思わずそう声を漏らしていた。いや、本当に無意識で。

 

「――っ、だ、だって仕方ないじゃん! お兄がエッチな格好してるのがいけないんだよ!? そんな、さあ! みんなが使うリビングじゃん! みんなが座るソファーじゃん! そこで堂々と寝転がって!? あまつさえワイシャツの前開けて!? ぐったりしてる姿を見るあたしの気持ちにもなってよ!!」

「……いや、ごめん。けどこればっかりは本当、なんていうか、理解が追い付かない……」

「追い付け!? あたしの思考回路についてこい!? もうさあ! あんなのさあ!? 誘ってんじゃん!!」

「ええ……?」

 

 もちろん玄斗にそんな気はない。断じてない。というか学校で疲れて家に帰ったところをソファーに寝そべりながら妹を誘うなんてのは完全な変態ムーヴだ。変態すぎてもうレベルが変態仮面一歩手前までいっている。イマイチ尺度が分からなかった。

 

「あと風呂上がりにTシャツ短パンで歩くの! あれもだから! もう雫に濡れた髪とか湯上がり直後の肌とかもうあれ目に毒だよ猛毒なんだよ! ふざけんな襲うぞオラァ!」

「待って、ステイ。落ち着いて真墨。ちょっ――ズボンに手をかけないで!?」

「脱げーっ! そしてあたしを抱けーっ! ちゅーしろよ! キスしろって! 上も下もいっそやっちまえよ!? おいなに目ぇ逸らしてんだこっち見ろよ!?」

「で、できません……!」

「っざっけんなオラァ! あたしを孕ませオラァ!」

「真墨っ!?」

 

 ――女の子がそういうコトを言うのは、どうなんだろう。無論玄斗の思考に対する答えは誰がどうであれモラル的にアウトである。むしろ逆レイプされかかっている彼にこそ色々とヒロイン的な何かはあった。男、十坂玄斗。人生ではじめて妹から明確な性的対象として襲われる。おそらくは経験したくなかった類いのモノだった。

 

「もうこの際だからはっきり言うぞ? いいかはっきり言うからな!? お兄はマジでエロいから! そんな油断とか隙ばっかり見せてるからもう本当エロ魔人だから!!」

「ピンク色なのは真墨のほうじゃないのか……!」

「違うわっ! あたしは純真な淑女っ! だいたいお兄以外に興奮しないっ!」

「それはそれで問題があると思う!?」

 

 わあきゃあと騒ぐふたり。その姿はどこまでも兄妹でありながら、どこまでも一戦を……もとい一線を越えようとしている。すくなくとも片方は、そう見えていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「……ごめん。ちょっと冷静さをかいた」

「(ちょっと……?)」

 

 脱がされかけたズボンを直しながら内心思った玄斗だったが、口には出さなかった。ヤブヘビという言葉もある。自ら危険を冒す必要はないと、彼の生存本能は必死にアラートを鳴らしていた。

 

「……色々、言ったけどさ」

「……うん」

「お兄をそういう目で見てたっていうのは、本当。……ずっと、そのときから」

「……そう、だったんだ……」

 

 気付かなかったというふうに玄斗は呟く。当然だ。なにせ気付かれないように真墨はずっと立ち回ってきた。それは生半可な代物ではない。兄妹といういまの関係性を壊すまいとして行ってきた努力だ。それが、そんじょそこらの兄にばれるものでもない。なにせ十坂真墨は、玄斗以上に頭がキレる。

 

「しょ、しょうがないじゃん。だって、さ……ネットでえっちな画像とか見ても、クラスの男子のそういう、あの、なんていうの……隙、みたいなの見てもさ。ぜんぜん、反応しないんだもん。……お兄じゃないといけなくて、お兄じゃないとイけなかった」

「……なんで言い直したの?」

「言い直してないもん。……ほんとさ、キモいよね。あたし。それぐらい分かってるのにさ……でも、お兄じゃないと駄目だった。気付いたらそれ以外考えられなかった。……もう、あたし、お兄以外じゃ満足できない体になっちゃったんだよ……?」

「……言い方」

「なんだよ照れろよ?」

「いや……あの……ちょっと」

「ガチで引くな傷付くだろ!?」

「……ごめん」

「…………、」

 

 謝ると、真墨はふいとそっぽを向いた。その表情には若干の翳がさしている。明るい雰囲気とテンションで乗り切ろうとしている。そんな本心が丸分かりだった。それは単なるやせ我慢だ。ただの強がりだ。玄斗でさえそう思う。形や方向性はどうであれ、妹が最大限の自分の言葉で自分の心を伝えている。ならば、それを曖昧と流すのはどうか。そんなの玄斗にとって、考えるまでもなかった。

 

「……でも、そっか。真墨はずっと、そうだったんだな」

「…………ま、そうなるんですかね」

「うん。じゃあ、別に。それでいいや」

「――――え?」

 

 くるりと、最愛の妹がふり向いた。なんで、と言葉にして聞かずとも表情で分かる。それもまた、兄妹として過ごした時間の多さだった。

 

「最初に言った。なんであれ受け止める。それなのに否定するのは、おかしいよ。普通とは違っててもいい。それが真墨だっていうんなら、僕はそれを受け止めるし、飲み込むよ。苦くてなかなか嚥下できなくても、無理やりにでも。だって僕は、真墨のお兄ちゃんだから」

「……なに、言ってるの。お兄……」

「だから、それで構わないって言った。そも、誰にだって邪魔なんてできないだろう。真墨は真墨のまま、真墨らしく生きていけばいいんだ」

「――――っ、ばか!!」

 

 ぎゅっと、真墨が抱きついてくる。玄斗はそれを優しく受け止めた。心には余裕がある。今までなかった余分なトコロが良い塩梅に働いてくれていた。いまさらその程度でなんだというのか。衝撃というだけならそれこそ――先ほど知らされた、父の真実のほうがよっぽど現実離れしている。だから、このぐらいは、悩むことでもない。

 

「そんなコト言って……あたしをどうしたいワケ!? あたしが……っ、あたしがどれだけ、我慢してきたと……!」

「じゃあ、しなくていい。そも、受け止めるなんて誰にでもできるんだ。ただ、答えるのが難しいだけで」

「そんなの……っ、そんなの、分かってる、から……だから、さあ……? もう、いいじゃん。こんな妹、要らないじゃんっ……あたしみたいな、気持ち悪い、家族……」

「なにが気持ち悪いんだ。誰かを好きだって気持ちのどこが、気持ち悪いの」

「――――ッ!!」

 

 本当に、本当に大馬鹿者な兄だと、真墨は改めて思った。きっと目の前の家族は自分の本性を一切知らないのだろう。だからそんなことを言えている。見つめれば見つめるほど、その汚らしさに気付かれる。最低なのは本当に、自分のほうだ。だって彼女は――

 

「お兄の……ばか……!」

 

 ――ずっと、彼が救われなければいいと思っていた。  






>妹ちゃん闇深い?
すくなくとも自分のために「ずっと壊れてて♡」って思うぐらいにはお兄ちゃん大好きです。

>はだけた玄斗くんの色気
たぶんどっかの真っ白さんならソッコーで襲うレベル。

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