ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
――彼女は言った。
「幸せすぎてもう死んじゃう……」
私は真剣にこの人と暮らしていけるか悩んだ。
「……ね、そう言えば気になってたんだけど」
「なんだ?」
その日の深夜。珍しく洒落てワインなんか飲んでいる父親の対面に座りながら、ふと思い出したように玄斗は口火を切った。
「前に真墨から聞いたけど、母さんと酷い喧嘩したことあるんだって?」
「む……」
と、話を振れば露骨に父親の顔が歪む。嫌なところをついてきたなこの我が子……といった感じだった。ふむと考えながらも、そも父親に気を遣うのも変な話かと玄斗は思考を振り切った。なんだかんだでこの少年、父親に対する内心でのあたりが強い。
「どんな理由?」
「……言わねばならんか」
「言わなくてもいいけど、母さんに聞く」
「やめてくれ。その言葉は俺にきく」
やめてくれ、とワイングラスを置きながら父が頭を下げてきた。まさかまさかの必死の懇願である。玄斗はもう笑うしかなかった。前世ならそれこそ「余計なことを口にするな。おまえの口はそんなことのためにあるのか?」なんて言ってきそうな堅物が、こうも子供に弱くなっている。
「……名前をな、呼んだんだ」
「え? それだけ?」
「…………一美、と」
「……え? いや、本当に?」
「行為の最中にな」
ぐいっとグラスの中身を飲み干しながら父親が言い切った。その顔にはなんとも言えぬモノがある。玄斗もなんとも言えなかった。もっと馬鹿馬鹿しかったり重たい話題かと思えば――いや重たいかどうかで言えば重たいのだが――なんだかこう、とんでもなく力の抜ける内容である。
「……うちの母さんの名前って」
「黒奈だ」
「……お母さんの名前って」
「一美だ」
「…………、」
「…………、」
父はなにも言わない。ただ黙ってグラスを握りしめている。その手がちょっと震えている。ので、玄斗もなにも言わずグラスにワインを注いであげた。悲しきことは前世の記憶か。同じ境遇である父に、どことなく同情してしまう息子なのだった。
「悲しい事件だったね……」
「いやまったくだ……裸で抱き合っていたところを、ちょうど近くの箪笥に置いていたサバイバルナイフを突きつけられて「一美ってどこの女よ!?」なんて言われるもんだからなあ……」
「よく生きて結婚まで来られたね……」
「薄皮一枚裂けたがな……」
そうっと首筋をなぞる父親にぞっとしなかった。彼のミスと言ってしまえばそりゃあ弁明のしようもないミスではあるのだが、以前までの父親を思うとしょうがないとも考えてしまう。なにせロクに相手にしなかった零無でさえ亡き母親を想っていることが察せたぐらいだ。
「……ね。お母さんってどんな人だったの?」
「……聞きたいか?」
「? うん」
「……本当に聞きたいか?」
「……まあ……そりゃあ……」
そこまでもったいぶられるとなんだか不安になるが、一度は聞いてみたいことだった。零無の母親は彼を産んですぐに亡くなっている。顔は写真でしか見たことがないが、とても綺麗だったように思う。日の光を知らないような白い肌と白い髪。明透零無であった頃のそれは、どちらも母親譲りだと言われていたのを思い出す。
「……いいだろう。では真相を言う。彼女はな――
「ふじょ……ん?」
なにか、いま、言い方がおかしかったような。
「え、なんて?」
「フジョシだ」
「婦女子? ああ、そりゃお母さんなんだから……」
「違う、フジョシだ」
「…………、」
「フジョシだ」
「……まさか」
「腐っていた」
「……おぉ……」
なんだか頭痛がしてきた。ちょっとわけが分からない。詳しく説明してほしい。父親はぐいとワインを飲んだ。なにを優雅にしているのか。
「――明透一美は、腐女子だった……」
「なんでそんなコトをそんな浸りながら言うの……!?」
「仕方ない。あれは開発発表イベントに顔を出したとき。ちょうど会場で迷子になっていた彼女の手を引いて、軽い自己紹介をしたのが出会いだった」
「あ、そこは普通なんだ……」
「一言一句覚えている。――『う、わ、わわわ……! あ、あああ、明透さんですかっ!? か、感激ですっ、わたしあの、その、お、おお御社のゲームのだ、大ファンでっ!? あ、ああああもうまぢ無理ホンモノの明透社長とうといよお……!』……だ」
「母さん……っ!」
なにそのツイッターで有名人に絡まれた限界オタクみたいな反応。いやもっとツイッターのほうが文面なだけマシか。玄斗はそう思ったが口には出さなかった。いくらなんでも自分の母親がそんなガッツリ沼にはまったオタクだったとは受け止めるのに色々とクッションが必要である。
「ちなみにそのとき発表したのが『ブラック・レイヴン・チョコレート ~気になるあの子は実は!?~』だったな」
「完全にソッチ系だ……!」
「売り上げはまあ、ノベルゲーにしてはなかなか良かったぞ」
「ノベルゲー……!? え、いや、……ええ……?」
「彼女からはとても高評価だった」
「母さん……っ」
もはやなにも言えなかった。うちの家系って相当アレだったんだな、といまさらながら気付いた息子の心境はボロボロだ。嘘だそんなこと、と雪山で叫びたい気分である。
「母さんは腐女子だが、絵の天才だった。おもに男同士の絡みを描かせたら右に出るものは居ないとその界隈に名を轟かせていたそうだ」
「なにそのなんとも言えない知名度……」
「そしてそのイラストと最もベストマッチしたと言われたのが
「世間が狭すぎる……」
「私も実際にプレイしてみたが、あれは興味本位でやるべきではないな。男が色っぽく見えて一時期かなわんかった」
「悪夢だよねそれ……」
あんな堅物の塊みたいなガチガチの父親がそんな風になっていた時期があったことに驚きだが、おそらくはまだ玄斗が生まれる前だろう。短くとも父が当たり前のように幸せであれた時期があった。それはすこしだけ、良いことのように玄斗は思えた。
「でも、すごいね。母さんはじゃあ、ゲーム会社の社長を射止めたってことになるんだ」
「そうなる。いや、周りにはいないタイプだったのだ。徐々に惹かれてな……気付けば、もう惚れ込んでいたよ。彼女には人たらしの才がある」
「……良い母さんだったんだね」
「ああ、良い人だった。彼女は」
しみじみとそう言う父親に、けれど以前よりも後悔の色は消えていた。あれほどの想い、願い、望み。きっと切り捨てたワケでも、ましてや忘れたのでもないのだろう。それでも昔の感情に囚われず、前を向いていまの母親と結婚した。それは、一体どれほどの覚悟だったのだろう。
「趣味嗜好はどうであれ、おまえの名にあれほど素敵な意味を込める人間だ。私は名付けるセンスがない。おまえたちの名だって、あの母さんがつけたものだ。素敵な名だと俺は思う」
「……それ以外、なにも思わなかったの?」
「うん? ああ、特にはなにも」
「そっか……まあ、そうだよね」
「?」
たしかに父親の会社で制作したゲームだが、なにもすべて覚えているわけではないということか。かの秘書が持ってきたというのもある。父親自体はそこまで関わっていないのだろう。それこそ、十坂という名字にも玄斗という名前にも反応しないぐらい。
「父さんは、『アマキス☆ホワイトメモリアル』って知ってる?」
「……ああ、知っているぞ。続編はな」
「……続編?」
「まあ、おまえが知らないのも無理はない。なにせおまえが死んだ後だ。それが出たのは」
続編。それは、本当に知らなかった。
「……ちなみに、そのキャラクターの……名前、とかは……?」
「ほとんど忘れたよ。もうずいぶんと長くなる。……ああ、ひとりだけ、覚えていたかな」
「それって……?」
「ふむ。……内緒だ」
くすりと微笑む父親に、玄斗は合点がいった。わざわざ内緒だと言った表情は、別に単なる隠し事をしたのでもない。だから、辻褄があってしまった。アマキス☆ホワイトメモリアルには続編がある。そのキャラクターで彼が唯一覚えていて、玄斗には隠しても良いというものがある。それが、意味するのは。
「……明透零奈」
「む?」
「居るよ、父さん。……彼女は、きちんと居るんだ」
「……ハ、なにを言う。そんなことが、あるわけ――」
「十坂玄斗は、アマキス☆ホワイトメモリアルのキャラクターなんだ」
「――――なに?」
そっとグラスを置いた父親と視線が合う。こうして、秘密は外に広がった。これより世界が変わり始める。夜の闇、朝の光、昼の温もり。すべてが回って、動き出す。あと一歩、踏み出すべき足跡を待つばかり――
>ブラック・レイヴン・チョコレート ~気になるあの子は実は!?~
ある日突然現れた美少女転入生を男ヒロイン共がこぞってオトしにかかる乙女ゲー……と思わせたまさかのBLゲー。男の子バレのシーンはその手のファンも唸るほどの良さがあると話題を呼んだ(作者調べ)男だとバレるまでの美少女ムーヴや他キャラクターとの絡み合いと、男バレしたあとの葛藤及び結ばれるまでの過程で二度美味しい作品。なおとんでもなく人を選ぶ。
ちなみにPC用R18版だとえっちなシーンでブラとパンツな下着姿で手○キしてくれる男の娘のCGが見れるぞ! やったね!(やってない)
――という作品です。(真顔)
やりたいと思った人は是非ともシナリオを書いていただきたい。