ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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本編では絶対に辿らないルート

つまり攻略ヒロインが失敗する→関係性だけは歪に続いていく→透明くん完成→コレ みたいな感じ。

正直発作の賜物


六章幕間:彼女のウラガワ ~もしもの暗闇/絶望~

 

『真墨へ

 

 

 覚えていますか? っていうと、真墨は怒りそうだけど。それぐらい久しぶりな気がします。どうしても、手紙だと堅くなってしまって自分じゃないみたいですね。実際に言っている風に思うと、僕らしくはなかったかな。どうも、兄です。

 

 

 いまはちょっとロンドンに寄っています。ので、すこし楽な暮らしができました。赤音さんに部屋を貸して貰ったので、こういう落ち着いた時間に手紙のひとつでもと思って書いています。でも洒落て羽根ペンなんか使ったのは失敗だった。これ、字がガタガタになる。ちょっと我慢してほしい。

 

 

 月並みですが、健やかにしていますか? 兄はまあいまのところ健やかです。三年前に戻ったときに片腕がないことに驚いていましたが、まだまだ僕は大丈夫です。普通に立って歩けるし、そのあたりは赤音さんも心配していないようでした。まあ隣の部屋なので、半ば監視されるようにはなっているんだけどね。

 

 

 ここまで書いて、ちょっと、字が汚すぎることにお兄ちゃんは気付きました。とても後悔しています。しかも鉛筆じゃないから消すのもアレだし、失礼ですけどこのままいかせてください。直接話したわけじゃないけど、でも、伝えたいことはいっぱいあります。

 

 

 長らく真墨には話してこなかったので、僕がなにをしているか教えたいと思います。世界一周の旅とか自分探しとか、色々と誤魔化してみましたが兄は各地を歩き回りながら困っている子供たちを助けています。

 

 

 真墨。僕たちはとても恵まれていたんだって知っていますか? あたりまえのようにご飯が食べられて、あたりまえのように歩けて、あたりまえのように暮らしていける。明日があると確信して眠りにつくことができる。最小限の苦痛のなかで生きていける。兄はそんな幸せを最初から知っていました。とても、至福で死にた楽しかったと思います。

 

 

 でも、そうではないこともあると、僕はずっと知っていました。その苦しみの中にいる現実の重さを知っていました。理由はハッキリ言いません。とても言葉にするのは難しくて、とくに筆をとっている間は躊躇してしまっています。どうしても気になったら、碧に聞いてください。彼女ならぜんぶ知っています。もしも交流が残っているのなら、零奈でも構いません。昔は仲、良かったのでそうだと僕は嬉しいです。

 

 

 そういえば、同級生の話で思い出しました。蒼唯先輩は作家になったそうですね。すごいなと思います。今度会う機会があったら、兄が喜んでいたと伝えてください。たぶんものすごく目をつり上げると思いますけど、あれで素直な先輩なので優しく微笑んでみてください。あと間違いなく連絡先は聞かれるので教えてあげてください。

 

 

 今思うと、学生時代はとても苦労しました。色々とあったのがもう笑い話ですね。とても僕は笑えないと思うのですが、赤音さんはけらけらと笑っています。真墨は笑えますか? ……正直、二度も死にかけたのはとても貴重な経験だと思います。あれで怪我の度合いなんて関係なく痛みは我慢が効くのだと知りました。いまはこの体の使い方を熟知しています。なんて言うと、格好つけているみたいですね。

 

 

 それで、ちょうど立ち寄ったお店で真墨にぴったり似合いそうな髪飾りをみつけたのでこの手紙と一緒に送ります。届いているころに時間が空いていれば、兄もそちらに行きたいと思います。お父さんの具合があまりよくないと聞きました。母さんが早逝してからだと伺いました。とても心配です。今度、顔だけでも見せに行こうと思います。

 

 

 あと、手紙で訊くことでもないかとも悩みましたが、ちょっとだけ気になったのでやっぱり書きます。広那は元気ですか? 彼女は高校時代に色々と思い出があるので、近況だけでも聞きたいかなというのが本音です。まあ、なんだかんだで僕が勝手に心配しているだけなのかもしれません。あれで結構強いですからね。真墨はそのあたり、ちゃんと分かっているようでしたので今さらでしょうか。

 

 

 長くなりましたので、ここらで終わります。こんなに書いていたら赤音さんにとなりで笑われました。ちょっと腹が立ったのは大人げのなさかもしれません。情けない兄で申し訳ないですが、近いうちに顔を出すので待っていてください。

 

 

        ――あなたが大好きな兄より』

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……まったく、お兄ったら」

 

 呟きながら、同封されていた髪飾りをそっとつけた。玄斗はコレを似合うと思ったらしい。絶妙にセンスが欠けている。だいたい、今年でもう三十だ。綺麗には綺麗だが、そんな歳の女性にこんな髪飾りが似合うと本気で思っているのか。ため息をつきながら、読み終えた手紙をそっと置く。

 

「……なんか、力……抜けちゃったなあ……」

 

 〝――最後まで、きっと目を瞑る直前まで、指ひとつの力さえ抜かなかったわ〟

 

 すこし前に聞いた女性の言葉を思い出す。思わず涙が出た。そっと指でそれを拭う。まるで正反対。どこか気の抜けたほうなのはあっちなのに、いまは真墨のほうがだらんと力を抜いていた。

 

「お兄さ……不器用すぎるよ。さすがに」

 

 なにより手紙の書き方からして変だ。堅いのがらしくないと気付きながら結局堅くなっているあたりがとくにオカシイ。日常生活でも日本語が不自由だった玄斗だが、手紙となるとこうも酷いかと再認識する。きっと、はじめての手紙だったのだろう。

 

「ちんたらしちゃってさ……お父さん、もう寝ちゃったよ」

 

 コツ、と指でつついた。明るい父親と、それに突っ込む緩い母と、穏やかに笑う兄と、そこに居る自分。想像して、ついにやけた。とても楽しい時間の記憶。家族が揃ったささやかな、けれどとんでもない幸せ。いまはたったひとりのリビングが、とても広く寂しいように思えた。

 

「……帰ってくるの、遅すぎ」

 

 愚痴をこぼすと、一緒に涙もこぼれた。どうにも我慢ができないらしい。膝の上で眠る兄は、依然として起きる気配がなかった。

 

「でも、ま……許してあげるよ。特別に、許してあげる。ちゃんと、戻ってきたから」

 

 そっと撫でて、また泣いた。アラサーの涙なんて価値もなにもないと自虐まじりに思う真墨だが、こぼれてしまうものは仕方ない。歳のせいか、涙腺が緩いのは。なんてふざけて思う。――だから、ちょっとだけ、上を向いた。

 

「……もう、さあ……本当、ずるいよ」

 

 触れた髪飾りが、ちいさく音をたてる。あるはずのない温もりを感じる。たしか、度合いはいくらだったか。誰かが来てなにかを言っていたような気もするが、もう覚えていない。たしかなのは、ここに兄が帰ってきたという事実だけ。

 

「もうちょっと、さあ……マシな格好、できなかったわけ……?」

 

 きっと玄斗が起きていたら「ごめん」なんて困りながら笑っただろう。いつまで経っても、どこまでいっても、結局自分の価値に目がいかない人だった。なにか言えば変わっただろうか。真墨はそのあたり、後悔していないと言えば嘘になる。きっと自分なら、兄に自分を見つめ直す一言ぐらいかけてやれただろうに。

 

「……おかえり。でもって、おやすみかな……ゆっくりね」

 

 色々と、言いたいことはあった。のに、それしか言えない。悲しくて、悔しくて、溢れるものが沢山あるのに、かける言葉なんてそれ以外に見当たらない。

 

「もう、頑張らなくて良いよ……お兄」

 

 そうしてそっと、いまいちど兄を撫でた。

 

 膝の上に置かれた箱は、なんの反応も示さなかった。 





というわけでこれにて六章は本当にラスト! 閉廷! お疲れさまでした!

つぎは七章です。白いあの子のメイン回です。ここで終わらせようと思ってたんですけど、やっぱり活用班も書きたいよねって。あとタグひとつだけつけ忘れてたので、それも七章終わりにつけようと思います。

……うん。いや本当に七章まではいらないから忘れてたんだ……

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