ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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絶対に言えること

 

 地方都市とはいえ、夏祭りには大勢の人だかりができていた。すこし歩けば誰かとすれ違う。行く先見る先に人影がある。こんな小さな街にもそれなりに人口はあったのだと気付かされるハレの場である。

 

「多いねえ……人」

「そうだね」

 

 同じことを思っていたのか、つぶやいた白玖に玄斗も同意した。繋いだ手はいまだに離していない。そろそろ夏の湿気と暑さで手汗なんかがマズいのだが、それに気付いた様子もなく白玖は手をにぎにぎとしてくる。なんとも言うに言い出せない状況だった。

 

「こういうの久々……っていうか、はじめてじゃない?」

「はじめてだっけ? 白玖と、夏祭りに来たの」

「はじめてだよ。だって昔は、夏になる前に引っ越しちゃったし」

「……ああ、そう言えば、そうだった」

 

 思い出して、記憶力だけが取り柄だったのにと苦笑した。物忘れが酷いというワケでもないが、最近は古いことをどんどんと忘れていって怖くなる。新しいなにかが増えるたび、それらはゆっくりと風化して消えていく。当たり前だとしても、なんだかそのことは玄斗にとってすこし悲しいものだった。

 

「だから、来れて良かったよ。玄斗と一緒に」

「そう言ってもらえるのは嬉しいかな。僕も君と一緒で良かった」

「ふふ、知ってる」

「知られてたか」

 

 くるりと回りながら笑う幼馴染みに、参ったなと玄斗は頭をかいた。付き合いは古いが長くはない。さらには決して奥まで踏み込んだワケでもない。のに、この幼馴染みならなんでも受け止めてなんでも知っている気がしてくるのだから不思議だ。()の本質こそ知っていれど、同じであるはずの彼女(・・)のコトはよく分からない。分かっているはずなのに、見えてこない。そんな、不思議な感覚で。

 

「――白玖は、自分が醜いって思ったこととかある?」

「…………え?」

 

 〝――俺なんて結局、そんな醜い人間ってことだよ〟

 

 そんな一言をふと思い出して、つい問いかけた。喧噪が静寂を周囲から押し潰していく。無音の空間は真実ふたりの間だけに流れた。ゆっくりと、ふり向いた白玖がつと頬を指でかく。

 

「……うーん……わりと、何度もあるかな……?」

「本当に?」

「うん。そりゃあ、思うよ。でも、嫌いにはなれないから、それが自分なんだとも思う」

「…………、」

「……なに、その、鳩が豆鉄砲くらったみたいな」

「いや――――」

 

 ――意外、なのだろうか。でも、どこかでその答えは予想していたような気がした。かつて彼女が幸せだと笑った瞬間。あのときから、きっと心の奥底で予感はあった。両親の死に潰れて壊れた誰かとは違う。目の前で生きる彼女は、とうのとっくに救われているものなのだと。原作において壱ノ瀬白玖が言うべき答えを耳にして、確信に変わった。

 

「……本当に、今更なんだって実感した。でも、そうだね。思えばずっとか」

「……なに、玄斗? 今日の玄斗、変だよ?」

「そうかな? ……そうかも。でも、いいんだ。やっと気付けた」

 

 くすり、と彼は笑った。まったくもって恥ずかしい思い違いをしていたものだ。必死になっていた己のなんと格好悪いことか。笑顔を浮かべる壱ノ瀬白玖を見て、そんなひとつの事実にすら行き着かなかった残念さが懐かしい。いまはたぶん、違うのだと思う。それぐらい、良い意味で心の隙間は開いていた。

 

「白玖。いまの君は、幸せかな」

「? まあ、それは、ね。いちおう? 幸せだけど」

「――――そっか」

 

 ふと、夜空を見上げた。ガラスのような白い月。祭りの明かりに埋もれてどこか遠くに感じる空の果て。それぐらい昔のような過去、彼女を幸せにすると誓った馬鹿を知っている。それはとても無意味な覚悟で、無駄な努力の結晶だった。意義を成さない人生の使い方。意味を知らない人の生き様。それはなんとも愚かだと、彼は思った。

 

「……馬鹿だなあ、僕は」

「なに言ってるの。玄斗は頭いいでしょ」

「ううん、ぜんぜんよくないよ。だって……こんな、簡単なコトにすら気付かなかった」

「?」

 

 ぜんぶ、振り返って間違い続けた道だと分かった。他人の心なんて分からない。誰かを思ってもそれが本当にためになるかなんてさっぱりだ。なにせ自分に見えるのは自分の心だ。そんなものすらロクに扱えないような人間が、誰かのためになんて夢を見るにもほどがある。

 

「……早すぎたんだろうね、ぜんぶ。僕にはちょっと、お酒みたいなものだった」

「いや、意味分かんないし……大丈夫? 玄斗」

「大丈夫。酔ってない」

「酔っ払いは全員そう言うのー。……でも、まあ、そうかもね」

「……うん」

 

 思い上がり、慢心、勘違い。どれも違う。ただ、なにも知らなくて、なにもかもが彼には早すぎた。幼い心の器はとても小さいままだ。こぼれるのは必至で、割れるのも必然だった。ならば、いつかは壊れてしまう。それを繋ぎ止めてどうにか形にまで戻したのが、彼の世話になった少女たちだった。

 

「そっか……もうそんなにかあ……じゃあ、言えないね」

「……白玖……?」

「これまでみたいには、言えないって。それだけ。……きっと、玄斗が頭を回しちゃうからね」

「……まあ、そりゃあ、回すけど……」

 

 だから、もうやめだと。白玖はなにかを誤魔化すようにそう言ってきた。遠回しな台詞の数々。それに一歩踏み込んだアピールだとか、なんだとか。そんなものはぜんぶ、余計なことにならないと踏んでのものだった。けれど、そんな心配も彼にはもう要らないらしい。

 

「……玄斗はさ、どう?」

「どう……って?」

「私に幸せかー、幸せかーって訊いてくるけど、そっちはどうってこと」

「……えっと、それはつまり……」

「玄斗は、幸せ?」

 

 聞かれて、まったく、驚くほどに。……心が、軽かった。押し潰してきそうなほどの罪悪感。こんな自分が生を謳歌しているという贅沢に死にかけていたそれが、気付けば一切ない。どうしてかと、混乱しなかったワケでもないが。ずっと、それこそ明透零無であったときから引き摺っていたそれがないことに、今更気付いた。

 

「……はは」

「……?」

「なんだろうね、ずいぶん……甘くなったんだな。僕は」

「え、あの、玄斗……?」

「…………分からないよ、白玖」

 

 手探りですらなかった問題に、すぐ答えは出せなかった。当たり前の幸せにつつまれて、実際そう思っているかどうか。幸せだと感じたとして、それをはっきり胸を張って言えるかどうか。そう思い悩んだとき、答えがうっすらとぼやけた。

 

「……どうして?」

「さあ、なんでだろうね。でも、知らなすぎるんだ。きっと、これもぜんぶ……遅れてる。僕は、まだまだ子供だった」

「そうですよー? まだまだ十六才なんて子供だからね」

「……白玖だって同い年だろう?」

「おや鋭い」

 

 にやりと笑う白玖。からかっているのが見え見えだった。真面目な話の途中にやわらかな雰囲気を持ってきたのはきっと彼女なりの気遣いだろう。分からないならそのまま、わざわざ苦しまずとも良い。そのまま流れて逃げても良いよ――と。そう言われているような、気がした。

 

「……さっきの答えだけどね、分からないけど、言える事はあるんだ」

「……うん」

 

 なに? とは聞かなかった。やっぱりそういうことなのだろう。つくづく、この幼馴染みには敵わないと思わされる。

 

「幸せかどうかなんて、分からないよ。実際、辛いことだって沢山あったように思うし、それならこれからもあるんだと思う」

「…………うん」

「でもね」

 

 ――ふわり、と。ソレを知る誰かが見たのなら、「似ている」と真っ先に思っただろう。すべてが終わったあとのコト。歩いていく道を決めた少年が、心の在り方を戻した印象的なワンシーン。重なったのはその部分だ。なにせ、見ての通りな彼が、まるで、花を咲かせたみたいに。

 

「きっと、幸せになれる。だって、こんなにも、生きていて楽しいんだから――」

 

 十坂玄斗は、心からそう呟いた。ありふれた幸福。日常のささいな暖かさ。人が人らしくあるために必要な心のカタチ。足りないと言えば、まだ足りない。けれど、十二分までいかない、それこそ十分なぐらいはあった。だから、大丈夫。

 

「――うん。なら、良いんだよ」

 

 壱ノ瀬白玖は笑った。十坂玄斗の笑顔に返すように、笑みを浮かべた。かつてどこかの世界で世に出回ったひとつのゲームがある。傷付いた主人公を正しくあるべきものへ直していくというシナリオが描かれた作品が。その、最後にとっておかれた一枚絵。

 

私もやっと、それが見えた(俺もようやく、それが見えたんだ)!」

「は――」

 

 ……なんて、最後まで油断ならないコトをしてくれる。まったくズルいにもほどがあるだろう。その笑顔は、あのゲームをプレイした人間にとって反則だというのに。本当に敵わないなと、玄斗はいまいちど夜空を仰ぐのだった。






>花咲く笑顔の玄斗くん
「壱」と「零」で「十」ができあがるのです、ということ。



一度死なないと生きたいって思えないのは正直筋金入ってるなと思わないでもない今日この頃。やっぱり主人公には甘くしちゃうのは作者の直したいところです。

長年使っていた花瓶が割れてしまいました。あなたはどうしますか? 【ルート分岐 ②】

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  • やっぱり捨てる
  • 絶対捨てる

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