ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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途中のいさかい

 

 十人十色、なんて言うが。言い換えてしまえばそれは、どこにでも染まらない人……空気の読めない人……または読まない人というのが存在するということだ。わいわいと街の住人みんなで賑やかに行われる夏祭り。もちろん、そんな目立つ場所でそのような人間がいないとも限らない。

 

「(む…………、)」

 

 ちらり、と人ごみの隙間から一瞬だけ見えた光景。それに、どことなく面白くないモノを考えた。人目につかないような物陰で、なにやら少女が金髪の男に絡まれている。きょろきょろと視線を泳がせているが、もちろんそんなのに誰が気付く筈もない。……ちょうど都合良く、視界におさめてしまった彼を除いて。

 

「白玖」

「うん? ……ああ、おっけー。どうする?」

「…………、」

「……あれ、ちょっとー? なに?」

「……いや、」

 

 相変わらずすごいな、と感心しながら人波をかきわけて前に進む。ただつるんでいるだけ……ならばなんの問題もないのだろうが、見るからにそうではない。だいいち、わざわざ見られにくい場所に居るのがどうにもという直感だった。どうせこれで間違っていても玄斗ひとりが恥をかくだけ。当たって砕けろの精神で足を踏み出して――

 

「そういうのは、良くないと思いますよ」

「!」

 

 玄斗が近付くよりも前に、男の肩へ手が置かれた。すこし伸ばした、低い身長から届かせた手。ほっと一安心しかけたところに、その人物を見てまた肝が冷える。――なにせ、そう言ったのは彼と同年代ぐらいの少女だった。

 

「……なんだ、あんた」

「え? いや、だから、そういうのは駄目じゃないかなーって……」

「なにが、駄目だって?」

「……その人、嫌がってますよ」

「――――」

 

 まずい、と思ったのはその瞬間だ。後ろでちいさく震える少女と、真正面からきょとんと当たり前のように事実を叩き付けた少女。それに挟まれる男は、まあ、見るからに真面目で大人しいとは思えない手合いだった。白玖の手を離して駆けていく。自然、するりと抜けていた。ほんのすこし首をかしげて後ろを見れば、やれやれといった風に笑う姿が見える。

 

「良い度胸してんな」

「度胸もなにも、悪いコトは悪いコトです」

「うるせえ」

 

 ――ああ、本当に、手が早い。だからああいう手合いは苦手なんだと、玄斗は思いながら走る。鷹仁のときもそうだったが、考える前に体が動くという人間はなんとも暴力までの思考がスムーズで淀みない。老若男女関係ないのであれば最悪だ。得てして、そういう相手に限って、

 

「っ!」

「あっ」

 

 容赦というものを、してくれないのだ。

 

「……危ないよ、君」

「え……?」

 

 ビリビリと痺れた感覚が走る左手を無理やり動かしながら、くるりと玄斗はふり向いた。顔の左半分を覆い隠す、茶髪の混じった黒髪。猫のように薄く光る黄色い瞳。肌は病的なまでにとんでもなく白い。そして、目を引くのがその格好。真夏だというのに、その少女は長袖長ズボンにマフラーという見ているこちらが暑くなるような服装をしていた。

 

「……いや、本当に危なくない?」

「へ? やー、えっと……?」

「暑くないのかい、それ。熱中症とか、最近は猛暑だから。平気? 汗も、すこし出てるみたいだけど」

「あっ、そ、それについては水分補給をちゃんと、してますので……!」

「そっか」

 

 なら良いんだけど、とぼんやり呟く玄斗。その左手に掴んでいる相手が真剣にこめかみに血管を浮かび上がらせていることだとか、そのまた後ろで居心地悪そうに佇む少女のことだとかを忘れている。ので、直後にドスのきいた声を飛ばされたのも致し方ないと言えばそうだった。

 

「おい……いつまで人の足掴んでんだ、てめえ……!」

「あ、ごめん」

「っ、あぁ!?」

 

 と、ぱっと離した手が逃れようとしていた勢いに乗った。ちょうど坂になっていたみたいで、見事に金髪はどんがらがっしゃーんと下へ転がっていく。木々の間を駆け抜けるボールのようだった。残ったのはじんじんと痛む手のひらをそっと隠す少年と、呆然と成り行きを観察していた少女と、ふたりに助けられたその人のみ。

 

「……あれも、自業自得っていうのかな?」

「因果応報、だと思いますよ」

「ああ、その言葉には馴染みがある。うん。良い言葉だね」

「ですね。――っと、それはそれで。あの、大丈夫でしたか?」

「あ、うん……なんか、えっと……ありがと……?」

 

 ばっと近寄った少女に、若干戸惑いながらも答える。どこか派手目な格好のその人は、あまり玄斗の近くでは見ない相手だった。手入れのされた桃色の髪、綺麗なアクセサリーやネイル、男の玄斗からすれば分からないが、化粧も気合いの入ったもの。なんにも飾っていないような雰囲気の少女が詰め寄っているものだから、また一段とその差がきわだって見えた。

 

「お礼ならこの人に。私は、ただ声をかけただけですから」

「……僕だって大したことはしてないよ」

「……あー、じゃ、どっちもありがとうございます、ってことでー……えーと……」

 

 言い淀んだ彼女に、いち早くその真意を読み取ったのは玄斗ではなかった。すこしばかり、頭の回転はそちらのほうが上だったらしい。

 

「あ、私、広那って言います。飯咎、広那」

「(……!?)」

 

 〝飯咎〟その名字を聞いて思わず少女のほうをふり向いた。同姓同名の同年代。偶然、というもので済むかどうか。まさかと思いつつ、じっと見ていれば目が合ったその子にくすりと笑われた。

 

「お兄さんの番ですよ。名前」

「……玄斗、十坂玄斗です。ちなみに、お兄さんってほどじゃないよ」

「いくつですか?」

「十六。今年で十七」

「じゃあ同い年でしたね。えっと……、十坂くん?」

 

 こくりとうなずくと、少女――広那も返すようにうなずいた。面影は、あるようで少ない。どちらかというと想起するほうが難しいぐらい、その雰囲気は飯咎狭乎と離れていた。だから結び付かない。が、もしかすると。

 

「……あっ!」

「? えっと、なにか……?」

「会長のキープくん!」

「…………はい?」

 

 ずびしっ、と桃色髪の少女が指差して突然そんなコトを言ってきた。玄斗としてはワケもわからない。広那はもっと意味不明だった。キープくんというのが余計に状況を混乱させている。

 

「トオサカってあれだ! トオサカクロトくんって、そうだよ。ああーそっかあ……ふんふむ。こんな感じ、ねえ……?」

「えと……僕が、なにか?」

「うん? 三年のなかでは話題だよ、君。静女と女帝にリード握られた可哀想なわんちゃん、みたいな?」

「ええ…………」

 

 どうしてそうなるんだ、と玄斗は自分の噂に全力でマジレスしたい気分だった。どこからどう見ればそう思えるのか。だいたいキープだなんだと言うなら答えを保留している自分にこそあるのだろうに、なぜ彼女のほうへといっているのか。そのあたりまったく分からない唐変木だった。首輪をつけているという意味では彼以外の共通認識で正しい。

 

「でも、ちょっと二之宮さんの気持ちも分かるかもね?」

「それって……」

「十坂クン、顔、可愛いし」

「……お、おお……」

 

 ずざっ、と顔を近付けた少女に後じさる。……広那が。

 

「ええ……?」

「そういう反応とか、いかにもあの会長が好きそうだし。どう? お姉さんと良いことしてみる?」

「……あ、あのっ! 私はちょっと、あの、用を思い出したので、それじゃっ!?」

「ちょっ――!?」

 

 逃げられた。ぴゅーっと走っていく広那の姿が瞬く間に遠くなる。聞くべきことも聞けないままに去っていった少女は、そのまま人ごみのなかに紛れて見えなくなった。

 

「ふたりっきりだねえ?」

「……勘弁してください」

「つれないなあ……? ま、助けてもらったから、今回はね。……ん、アタシは桃園紗八(モモゾノサヤ)。覚えておいてね、忠犬くん♪」

「えっ、あの、その――」

「さっきはありがとね。おかげで……うん。ホントに、助かったから」

 

 笑って、彼女も瞬く間に去っていった。結果的にひとり残された玄斗はぽつんとその場に立ち尽くす。白玖が近くに寄って意識を取り戻すまで二分ほど。その衝撃的な出会いは、しばらく彼の脳裏を占めていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「うわあ……やっぱ、出てるね……」

 

 

「サイアク……ほんと、声とか、かけてこないでよ……」

 

 

「ああ、でも、これはアタシも……調子、乗っちゃったかな……?」

 

 

「…………かゆい、なあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――男の子、好きじゃ、ないのに」

 

  




>飯咎広那

メカクレ系厚着女子。それが個性。

>桃園紗八
名前でお察しとか言わないであげて欲しい系先輩。前門の赤と後門の青に挟まれたかわいそうなギャル系ビッチの明日はどっちだ――?

いちばん「これだ」と直感した文字を選んでください。 【ルート分岐③】

  • 囚人
  • 別離
  • 消失
  • 喪失

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