ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
ひとり、ぼうと玄斗はベンチに腰掛ける。お花を摘みにいってくる、と離れた白玖を待っているところだった。その理由付けが分からないほど頭を回していないつもりでもない。待ってるね、とだけ笑顔で言うと彼女はすこし頬を赤らめながら去っていった。おおかた、ぽかんとした表情でもされると思ったのだろうか。
「(だいたい、たしか一回それで誰かに怒られたし……)」
あれは誰だったろうか、なんて思い出そうと考えてみる。遠くに聞こえる賑やかな声。ちょっとだけ落ち着ける空間は、実際片隅のほうに置かれたものだった。疲れていたのか、ぐったりと背中をあずけてみればなんともリラックスできた。
「…………、」
「――ね、お兄さんひとり?」
と、そんな不意をついて声がかけられた。くるりと肩を組むように回される腕。香水だろうか、すこし透き通るような匂いが鼻孔をかすめる。見れば、自分と同い年ぐらいの少年がはにかみながら立っていた。なんとなく、どこか、見覚えがある。
「……えっと?」
「まずうちさぁ……屋上……あんだけど……」
「はあ……?」
「焼いて――いやごめんネタ分かんない子にするもんじゃないわすまん十坂」
「??」
首をかしげる玄斗をおいて、ばっと後ろからベンチを乗り越えた少年がそのまま腰掛ける。無駄にスタイリッシュだった。満足したのか、「ふっ……」なんて得意げにドヤ顔を浮かべている。
「んで、ひとりか? まあ俺もだけど」
「……あの、どこかで?」
「あーっはっはっは。……まじかあ……ええ……? 俺忘れられてる……?」
そんな典型的な陰キャと陽キャの狭間で揺れ動くこのEndlessBattle(イケボ)なんてぶつぶつと呟きはじめる少年。もう一度しっかり見てみれば、どこか引っ掛かるものこそあれどそこから先がさっぱりだった。地味目な黒髪、地味目な格好、センスはまあ良いか悪いかで言えば良さげな感じ。オシャレというものを本人が理解しているかはともかく、その服装はどことなく似合っていた。
「……ごめん。どっかで、見たような記憶はあるんだけど……」
「どっかじゃねえよ……一年のときにずっと委員会同じだったろ……」
「…………あ、飢郷くん?」
「おう」
ぐるん、とこちらを向いた少年が低い声でそういった。若干涙目である。
「酷いよなあ、十坂。あの頃の俺たち、いつも一緒だったじゃねえか……」
「そうでもないよ?」
「お前のことは今日からネタにマジレス兄貴と呼ぶ」
「まあ、良いけど」
「良くないんだよなあ……」
ツッコミのセンスゼロかこの野郎、とぼやく少年に思わず笑った。名前を皮切りにしてみれば、そういえばそうだと記憶が掘り起こされた。色々とヒロイン相手に立ち回っていたお陰で薄れていたが、一年間同じ役目を全うした戦友である。
「なんか久しぶりだね、こういうの」
「だなあ……クラス変わって合いにくくなったしなあ……いや、俺は断然ぼっちですけどね?」
「じゃあこっちまで来れば良いのに」
「HAHAHA。……十坂おまえ、その陰キャムーブのなかに陽キャ的思考を混ぜるのはよくないと俺は大体十回ぐらい言ったぞ」
「え、あ、うん……ごめん……?」
「うむ」
うんうんとうなずく自称陰キャ。よく口が回るのはそれほど頭を回しているということでもある。ふざけていて色々と弱点に塗れたような少年だが、一年の付き合いでそれこそ鷹仁と比べても見劣りしないほど出来た人間なのだと玄斗は知っていた。
「D組だっけ? どう、楽しい?」
「おまえは俺の言ったコトを五秒前からリピートしろ」
「……うむ?」
「そのひとつ前だちくしょう!」
余韻が長かったか……! と腰を折る陰キャカッコカリ。面白いのがこう見えて、口を回すのが限定的であるという事実だ。初対面の相手でも大抵はうまいこと話す彼だが、それでも苦手な手合いというのが存在する。
「あーもう本当クソだわ……俺たちは日なたの道を歩けない……」
「結構歩いてたと思うけど」
「おまえのことは今日からネタにマジレスおじさんと呼んでやろう」
「君におじさんと呼ばれる筋合いはないぞ」
「呼ぶ気もねえわ」
だいたい〝おじさん〟の意味合いが違っていた。悲しいことにどちらも素ではなくネタで言っている応酬なのが玄斗の成長を表していた。分かりにくい男である。
「てかそっちはどうなんだよ。なーんか、面倒なことになってるみたいだが」
「面倒、ではないけど。でも、けっこう楽しい毎日かな」
「うっはあーすげえ……俺だったら秒で死んでるね。あんな
美少女との関わり合いは二次元だけで十分、というのが少年のわりと薄っぺらな主張だった。時と場合によってそれは変わる。信念というほどでもないのが本当に薄っぺらい。
「まだ駄目なの?」
「まだっつうかもう大分染み付いてるっつうか……いや、木下のヤツに誘われてそういう場とかにも足を運んだけどなあ……無理だわーアレ。本当ないわ……もう二度といかねえ……!」
「鷹仁?」
「おう。……合コンって、マジで地獄なんだな……」
近寄ってくる女子がまんじゅう的な意味ではなくガチで怖いと震えながら語る飢郷某。顔はそこそこなのに吃りやがってクソ童貞野郎なんていうのは被害妄想にしても、どこぞの誰かさんが女子が苦手というのはわりと有名な話だった。学年単位で。
「三年の先輩とかに結構いじられてたりしない?」
「する。めっちゃする。なんなのあれ……休み時間のたびに来んなよ本当……それで人と話して満足げに帰るなもう二度と来んなまじああもうじんましんでるからっ!」
「そこまで酷いんだ……」
「だからこうやって夏だってのに長袖だ。まあ生地が薄いからいいけど」
と、ひらひら少年が腕をふって見せてくる。思えば時季外れの長袖はふたりめだ。それだけで印象に残りそうなものだが、最初のひとりが想像をはるかに絶する着込みようだったせいで、そこまでインパクトも薄れていた。
「俺もなー、興味がないワケでは? ないんですけどね?」
「お付き合いとか、難しそうだね」
「まずうまく会話できるのが前提だからな。それこそ性転換した美少女とかじゃないと無理じゃね?」
「なにそれ、漫画の世界だよ」
「だなー」
あっはっはー、と笑い合うふたり。間違ってもそんな世界線は存在しないので自然と可能性が消えていた。ちなみにそんな男子共は、絵になるかどうかと言われればギリギリ妥協して合格ラインを下回るかどうかという感じで絵にはなる。容姿的にはそのぐらいだった。おもに合計して。
「んで、まあ長く話したが……十坂。このあと暇なら、俺と一緒に日陰道でも……」
「ああ、ごめん。白玖……女の子待ってるから」
「てめえこの野郎ッ!」
がばっ、と立ち上がった少年が胸ぐらを掴んでくる。冷や汗が滲んでいた。
「それを先に言え!? なんかNTRムーヴしてるホモみたいになったじゃねえか!」
「言っておくけど僕にそんな気はないんだ……ごめん……」
「いや俺もホモじゃねえよっ!? いや待て、おまえまさか
「え?」
「違ったくそう!」
ネタは用法用量TPOを守って使いましょう。そんなアナウンスがどこからか聞こえてくる。自分の知っているネタを勝手に叩き付ける面倒くさい典型的クソオタクの鑑がここにいた。彼を受け入れるのはギャグの世界線でなければ無理だろう。
「ああもうそれじゃあな! 迂闊に近寄って火傷するところだったわ……彼女さんと仲良くしとけよ!」
「え、や……まあ、うん、そっちも、色々と頑張ってね」
「なにがだ。まさか俺が妹とはぐれて迷子になってるのを知ってんのか」
「君のほうが迷子になってるのか……」
最後に心配するコトを言いながら、少年はすたすたと歩いていった。本当に会いたくないのだろう。別に嫌悪感とかそういうのではなく、単純に無理だというのだから仕方ない。――
「お待たせー……って、どうかした?」
「……いや、なんでもない」
答えながら、すくっと立ち上がる。自分のように必死こいたワケでもないのに、自然とそういうものを集めていた手腕は一年時の玄斗からして見習うものがあった。本当に手際よく把握するものだから、忍者なのではと一瞬思ったぐらいだ。……そんな彼に〝彼女〟なんて誤解をされたのは、一体どうしようかと思いながら。
>少年
どこかで聞いた名前だと思った方はそんなワケないので新鮮な目で見よう。別人のはずが設定付け足して喋らせる度に似てきたかわいそうな子。ついでとばかりにネーミングもポイ捨てされたかわいそうな子(二度目)ヒントは沢山あるのでゲーム内の立ち位置はもうお分かり。
アンケートの結果がいちばん主人公にクソ甘そうなルートになりそうなのでなんとかして曇らせられないか必死で考えてます。
どこからか鐘の音が聞こえる。それは―― 【ルート分岐 ラスト】
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希望の隠れるノイズ
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絶望が響く快音
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鐘なんて鳴っただろうか?