ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
あー主人公記憶全損ルートとか無印ヒロイン存在喪失ルートとか十坂玄斗(本人の意識だけがあって明透零無はどこにもいない)ルートとか書きたかったのになー! 仕方ないなー!
――やがて、光は消えて。音も景色も遠くなって、静かに、沈み込むように溶けていく。一夜限りの夏祭り。それはなんとも平凡に、何事も無く終わりを告げた。いまはその帰り道。送るよ、という玄斗の提案を快く受け入れた白玖と、ふたりっきりの道中だった。
「…………、」
「…………、」
ただ、雰囲気は、どうにも変えがたい。先ほど――ちょうど花火を見上げた彼女に――伝えた一言以降、白玖は目に見えて口数が減ってしまった。どこかよそよそしく、慣れないように半歩前を歩いている。後ろから見た浴衣姿も、まあ似合っていた。
「……、」
「……、」
ただ、これはどうするべきか、と悩んでしまうのも事実だ。とくべつ息苦しいワケでもないが……白玖と居る時は大抵喋っているからか、慣れないという感覚が強い。真綿で首を絞めるほどとはいかなくても、マフラーを固く結ばれるぐらいはある。そんな、夜中の住宅街だ。
「……白玖」
「っ……な、なに……?」
ビクン、とこれまた目に見えて肩を跳ねさせた。らしくない、と玄斗は息をつく。らしさなんてひとつ取ってみても数ヶ月前まで必死に悩ませていた事実が、いまはもう遠い過去に思えるのだから自分も大概だ。すこし歩調を速めて、白玖の隣につく。
「面白い話でもしようか」
「いいよ、別に……」
「じゃあ、昔話?」
「そういうのでもないでしょ……」
「なら……」
と、玄斗はあからさまにちいさく白玖の顔を盗み見て、
「ほっぺにソース、ついてるよ」
「っ!?」
がばっ、と俯きかけていた少女の顔があがって、わたわたとその顔を両手で覆いだした。忙しない動きと赤面した表情が、乙女的に一大事だと全方位に向けて発信している。
「なっ、な、あ、ど、うぇえ……!?」
「ごめん、嘘」
「……へ?」
「だから、嘘。そんなのついてないよ」
「…………、」
にこりと笑いながら言うと、白玖の動きがぴたりと止まった。じぃいっ……と恨めしそうにこちらを見つめてくる。ので、
「やっと目が合ったね」
「――――!!」
よりいっそう笑みを深くしながらそう言うと、案の定白玖は耳まで真っ赤になった。いまのは狙ったので効果抜群である。十坂玄斗、ここに来て自らの表情の使い方を知る。一部にしか特攻が効かないあたり、便利とは言い難かった。
「なに恥ずかしがってるの。白玖」
「そっ、それはっ……あんな、タイミングで……あんなコト、言って、くるから……!」
「……タイミングの問題で、そんなに?」
「かっ、変わるよ!? その、あの……乙女心は、秋の空だから……!」
「うん。一旦落ち着こうか、白玖」
急接近して力説する少女の肩に手を置きながら諭す。自然とそういう格好になってしまった。これは狙っていない。どちらも成り行きにまかせた格好である。だから、別に、なんというコトでもないだろうに。
「……ぁ……」
「(…………!?)」
超絶至近距離でそんな甘い声を出されて、一瞬、玄斗の封じられていた獣性が目覚めかけた。この主人公スケベすぎる。そんな一文が脳裏を掠めていく。消え失せていたはずの性欲が戻りかけているという重要項目は、まあこの際わりとどうでも良かった。
「……くろ、と……」
「……白玖……」
「私……私、ね……」
「……うん」
そっと、白玖が視線をあげた。見上げるように彼女は玄斗へ近付く。ほんのりと軽い体重が胸にかかってくる。暗い夜道。周りに行き交う人はいない。誰も、ふたりを気にとめる人も、止めに入る人間だっていない。
「私は――十坂玄斗の、コトが……!」
鳴った。甲高く、周囲にまで響きわたるほどに、大きく、広く。
……携帯が、鳴った。
「…………、」
「…………、」
「……………………、」
「……………………、」
「…………でないの?」
「本当に申し訳無い」
ぶすっとした白玖に言われて頭を下げながら画面を確認する。着信相手は――見事なほどのタイミングを発揮した自慢の妹だった。
「……もしもし」
『あ、お兄ー? なんかね、こう、ざわついたから電話したんだけどー』
「……なにが……?」
『胸が』
こう、ざわっと。なんて曖昧にいう真墨。偶然とは思えないぐらいバッチリなのは本当にそうなのだろうか。血のつながりというのは侮れない。もしくは、本当に虫の知らせみたいなものが彼女には備わっているのか。
『いやあ、まさかとは思ってるけどね? 友達と花火見てきゃーきゃー言ってるかわいい妹をよそにまさかまさかの誰かさんとあっまーい恋愛くり広げてない? 大丈夫? 指詰める?』
「いや、ないから。そんなコトないから」
「…………、?」
ちら、と隣を見る。……うん、まあ、なにはどうあれ、無いと言っておくしかなかった。
『本当かなあ……? 気になるー、あたしは気になるー。ということで帰りに梨でも買ってきて♪』
「いま決めただろう、それ……」
『なんか唐突に食べたくなった。あ、でもスーパーもうしまっちゃってるか。じゃあコンビニで適当なスイーツ買ってきて。お金は帰ったら渡す。じゃ!』
ぷつり、と電話がきれる。いつもより傍若無人〝度〟が高いのはきっとちょっとキレているせいだ。なぜなのかは、本当に分からないがなんとなく想像ついてしまった。
「……妹ちゃん?」
「ああ、うん。……もう、真墨は……」
「あはは……珍しいね、玄斗。ちょっと怒ってる」
「当然だ」
むすっ、と今度は玄斗がどこか拗ねたように頬を膨らませた。その光景がちょっと意外で、なんでだろうなんて白玖が首をかしげる。だいたい、ふてくされるなら自分のほうで、電話をとった彼が拗ねる部分なんて――
「……君の大事な言葉が聞けなかった。そりゃあ、怒りたくもなる」
「――――――っ」
このように。あってしまった、ワケだが。
「あ、あは、あはは……えーっと……いつもの、天然……かな……っ」
「ばか、そんなコト言うか。……僕は白玖のそれが聞きたかったって、言った」
「いや、さあ? なんで、さあ……ええ……この流れで、私、を……選ぶ、ワケ……?」
「だって、考えたら最初からだ」
跳ねる心臓、回る血液。うるさいぐらいの鼓動が外に聞こえていないか気が気でないのに、そこまで意識がいかない。なにせ、聴覚はぜんぶ彼ひとりに向けられた。その、一言一句を聞き逃さないために。
「ずっと、ずっと。はじめて見たときから……僕は、君のために何かしたかった」
なら、これが最大限なんだと思う、と。少年はなんでもないように言った。なにもなくて、あやふやで、曖昧で、透き通るように無の塊だったひとりの人間が。たしかな自分の意思で、見つめ直して、考えて、支えられてやっと立って、出した答え。それが、自分に向いている。
「恋とか愛とか、分からないけど。でも大事にしたいって、思うよ。もっと率直に言うならだけど……」
すっと、玄斗は手を差し出して。
「君が欲しいんだ、白玖。僕のいちばん側に、居て欲しい」
「――――っ!!」
そんなのこそ、反則だろうに。
「……っ、ば、ばか、ばか! なに、言ってるの、いきなりっ! そんな、そんなの、さあ……!」
「嫌か?」
「っ! ………、………それ、は……ぃ………………、け、ど……」
「聞こえない」
胸が高鳴る。脳が沸騰する。ぼろぼろと涙が出て来た。もう顔はぐしゃぐしゃだ。壱ノ瀬白玖としてつくってきた美しさなんて微塵もない。のに、泣くのはやめられなかった。悲しいワケでも、辛いワケでもないけれど。だから、しょうがなくて。
「嫌じゃ、ない…………っ!!」
「……そっか。なら……」
良かった、とは彼は言わなかった。ただひとつ、そのときにあるべき感情を呟いて微笑む。やがてふたりは、腕を組んで歩き出した。幸せなんてありふれている。本当にそうだ。なにせ十坂玄斗にははじめから、とても近くに、最高の幸せが用意されていた。それに気付くのに時間がかかりすぎた。けれども、辿り着けたのなら上出来だろう。
「すごく、嬉しい。白玖」
笑顔を浮かべる少年は、どこまでも、どこまでも。あたりまえな幸せを噛みしめる、人間らしかった。
///◇◆◇///
「……お願いだ」
「どうか、どうか」
「あるならば、こそ……」
「――いや、あるのだとして、だ……!」
「……頼む、お願いだ!」
「奇跡だって、なんだってあった!」
「だから、頼む……!」
「――俺の願いを……!!」
――///Welcome to Paradise///――
表を返せば裏となる。それこそが世界の真理だとすれば。きっと、波長に導かれることもあるのだろう。無力な彼の伸ばした手を。掴んだ虚空こそ、あるのだろう。
歪む、歪む、歪む。
歪んで、曲がって、そして――
反転する。
見つめ直したらそりゃあこうなる、という話。そも動機がぜんぶ誰かさんのためだったヤツですのでまあ妥当。え? 他ルート? 完結後も作者の気力が残ってたら全ルート分仕上げるよ(全ルート書くとは言ってない)
真面目な話、七章で一旦区切りなので八章からはわりと蛇足です。