ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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前話解読した人はもうちょっと容赦して……七章で一区切りするのにいらない描写削っただけだから……!


あくる日の幸福感

 

『……そう、なんにしろ、聞けて良かったわ、答え。あんたが決めたのなら私は別に、文句もなにもないわよ。それがいちばんなんだから。……はぁ? いや、別にっ……な、泣いてないわよっ!!』

『よがっだでずうぅぅうううぅうう!!!!』

『とりあえずその子を一発殴らせて? いえ、別に、私怨とかそういうのじゃないから安心して。単純な殺意だから。……あと、不倫は文化らしいわよ。そこのところどう思う? レイ?』

『へー、ふーん。そーなんだあ……ところでさあ、零無? 今日これから暇? ちょっとあたしに付き合って欲しいんだけどなあ……?』

 

 以上、報告したメインヒロイン勢から玄斗への痛烈な返しだった。色々と世話になったお礼も兼ねて直接会って話すというコトを重視した結果である。しんみりと予想外にいちばんまともな反応をしめした涙目が約一名。そして予想通りにぼろぼろと大粒の涙を流したのが約一名。それを意にも介さないとばかりにとんでもなく距離を詰めてきたのが約二名だった。どちらも諦めていないあたり強いとは思う。

 

「あたしは認めんぞっ!?」

()だって認めてなるものかっ!!」

「はいはいふたりとも落ち着きましょうねー?」

「……あはは……」

 

 どん、とジュースの入ったコップを叩き付ける真墨、グラスを割れんばかりの勢いで落とす父親、面白おかしくなだめる母親、愛想笑いの白玖である。玄斗はなんとも頭が痛くなる思いだった。うちの家族、やっぱりおかしいのでは? と半分疑ってしまう。おそらく全部疑っても良かった。

 

「見ろお兄! このあたしを見ろ! ほら! この人よりおっぱい大きいよ!?」

「真墨、ちょっと黙って」

「そうだ、まずは簡単な質問をさせてくれ。壱ノ瀬くんと言ったな。簡単な職歴と資格の有無から教えて貰おうか」

「父さんもすこし黙って?」

 

 ぐわしっと自分の胸を揉みながら強調する妹と、仕事モードに入りながらゲンドウポーズで面接官みたいな圧を飛ばす父親。ただちょっと良い感じになっていると自白した少女を連れてくるだけでどうしてこうなるのか。まったくもって玄斗はさっぱりだった。……ちなみに、良い感じとは言うがそれつまり相思相愛というコトである。

 

「壱ノ瀬ちゃん? この人たちちょっとアレでアレなだけだから気にしないでいいわよ? で? うちの息子との馴れ初めってどんな感じ? どこに惚れたの? やっぱり外見かしら。この人に似てイケメンよね玄斗」

「え、あのあの、うえぇ……?」

「面食いですか壱ノ瀬先輩!? 中身とかガン無視っすかあ!?」

「そんなの私は一向に認めんッッッ!!!」

「ああもう、ちょっと静かにしてくれ……!」

 

 もみくちゃにされる白玖をよそに、玄斗はついぞ額をおさえながらため息をついた。なんだかここ最近忙しない日々が続いている。夏休みだというのにあんまりな日常の連続だ。一体全体どうしてこうも変わるのかと、がっくり肩まで落としかけて、

 

「(……メール?)」

 

 ポケットに入れていた携帯が震えて、思わず取り出しながら確認した。とっさの判断でもある。付け加えると、このカオスな現状から逃避したいという気持ちもあった。

 

「――――っ!?」

 

 が、そんな甘い考えすら粉々に撃ち砕かれる。画面に映し出されたのは短い文面と、一枚の添付画像。ちいさく見えるそれが、なんだか、とんでもなく嫌なものに思えて――

 

「あら玄斗それなに?」

「かっ、母さん!?」

「えーっと……〝一番乗りはあたしだね〟? どういうこと? ……あら? うん? ふふ、うふふ……? あらあらぁ……」

「ちょっ、ち、違うから! えーっと、これは、なんていうか、誤解で……!」

「え、なに? 玄斗、なにかあったの?」

「な、なにもないっ!!」

 

 ズボンのポケットの携帯を仕舞いながら、玄斗は必死で否定する。アレはまずい。なにがまずいって証拠が出揃っているのに完全無罪なのがまずい。なにをどうしようと素直に言うならただありえない真実を言うしか無くなる。そんなやばい画像だった。

 

「うちの子、プレイボーイだったのね……どうりで、昨日は夜遅くに……」

「母さん!?」

「……どういうことかな、玄斗」

「えッ、や、その、白玖! 違うんだ。これは、み、碧ちゃんの悪戯で――!」

() () () () () () ?」

 

 ひっ、と喉から引き攣った声が出た。白玖の後ろに般若か阿修羅が見える。思わずぎゃーぎゃーとわめいていた父親と妹さえ静まる勢いだった。とんでもない、本気で。

 

「携帯チェック、しよっか」

「……あの、白玖。これだけは言わせて」

「いいからさっさと」

「誤解なんです」

「ハリー」

「はい」

 

 すっと玄斗は五体投地の要領で携帯を差し出した。もちろん大抵のコトを気にしない彼が自分の携帯にめんどうくさいロックなんてかけているはずもなく。スリープ状態から立ち上がった画面は、真っ先にメールの文面と添付画像を映し出す。

 

「……これが、誤解?」

「…………はい」

「ふぅーん? へぇー? ふたりっきりの夜、楽しかったよ♡(はあと)だって? 五加原さんと? ふふ、はは、はははは……!」

「……いや、本当に、これは油断で。あの、ちょっと、雨宿りで入ったビジネスホテルで、寝落ちしちゃって……」

「ふたりとも見える部分は服着てないねー?」

「おいお兄。その画像あとであたしにも見せろ」

「嫌だよ……」

「見せろ」

「……はい……」

 

 圧が凄かった。妹の圧が。父親はなぜか同意するようにうんうんと頷いている。たぶん、きっと、こういう誤解をあの人は乗り切ったのだと玄斗は直感した。おもに行為中に他の女性の名前を呼ぶという下手すればふたりともこの世に生まれていなかった可能性すらある事件で。

 

「……ま、寝顔は本当みたいだし。布団で巧妙に隠されてるけど、かすかに下半身が履いてないことはなさそうなので、不問にしておくよ」

「あ、ありがとう……白玖……愛してる」

「っ! た、ただし! 今後は気を付けること! ああもう、いつどこから他の女子が玄斗を狙ってるか分からない……!」

 

 ちなみにハイエナのごとく目を光らせているのはふたりだけなのでそこまで心配することでもなかったりするのだが、残ったひとりは油断や隙を見せた瞬間に赤信号よろしく無視してかっさらい、もうひとりは油断や隙がなくても黄色信号振り切ってぶっ刺しに来るという合計四名の十坂玄斗(明透零無)特攻兵器相手なのでどうせ気は抜けなかった。

 

「……あと、これは、白玖にも言わなきゃと思うんだけど……」

「……なに?」

「…………先輩に」

「先輩? ……ああ、四埜崎せんぱ――」

「はじめてのキス、取られた」

「――――は?」

 

 ビシリ、と白玖の体が固まる。ついでに真墨の体も固まる。母親はニヤニヤとどこか楽しげに笑っていた。父親はなぜだか涙ぐんでいる。十人十色にもほどがあろう。

 

「……いや、不意打ちで……拒否は、したんだけど……その。ガッと……頭、おさえつけられちゃって……」

「――――――――、」

「……舌、入れられちゃった……」

 

 ぶちっ、と。白玖のなかで何かが切れた。決定的ななにかが。

 

「あの女ちょっとひねり潰してくる」

「ま、待って! これは、あの! 僕が! 僕が悪いからっ!?」

「いいや玄斗は悪くない。大丈夫。玄斗は悪くないよ。――だから、待ってて」

「白玖!?」

 

 なんかマジで殺る気の目をした白玖を必死で止めながら、玄斗はとてつもなく濃かったこの一週間を思い出した。というか正直ディープはやばかった。逃げようとしても逃げられないまま口内を蹂躙されたのはおそらく蒼唯でなければトラウマになっている。ちょっと腰が抜けかけたのは男として隠し通したい秘密だ。

 

「どいつもこいつも……! だいたい恋人は私だからっ! 私以外のところなんていっちゃ駄目なんだからね!?」

「そりゃもう分かってる! 分かってるんだ、白玖! ただちょっと周りがまだ容赦してくれないだけで――」

「じゃあそれは潰せば良いよね?」

「白玖ぅ!」

 

 周りというか約二名である。諦めの悪さはそれこそ秘密を知っているからだろう。十坂玄斗が別の誰かでもあるという事実を知っていれば、そりゃあ、たかだか恋人になったぐらいでなんだと突き進みたくもなる。……かも、しれない。

 

「……まったく、もう……」

「……あはは……」

「笑わない」

「はい」

 

 なんて、そんな幸せな日。きっとこれから、そんな日々が続いてくのかと思うと、とても心が晴れやかだった。――でも、そんなことはなくて。短い幸せはひとときのまま、泡と消えていく。




「――やだ、やだやだ!」
「やめて! おねがい! ゆるして! や、や! やああ!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「や、やあ……! いやあ! ゆるして、おかあさん! ごめんなさい! ごめんなさ――」
「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

……てことで、次がラスト。とりあえず締めていこう。

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