ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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エピローグみたいなプロローグ

 

 ――ふと、目が覚めた。あたりは燃えるような茜色。夕焼けに染まる白い病室で、息遣いだけが細く続いていく。物音なんて一切なくて、身じろぎした布団のズレでやっと生活感というものが溢れた。――なんて、静寂だろう。

 

「…………、」

 

 ぼうと天井を眺める。赤く染まった白い天井。変わらない風景が唯一色らしい色をつける黄昏時だ。思えば、こんな風景が好きなんだと考えた。変化を望むのは、恐ろしさよりも退屈がすぎるからで。でも、それ以上に。どこかで、それを望んでいるのを知っていた……ような、気がする。

 

「――――、」

 

 息を吐いて、意識を覚醒させる。すこしだけ喉が渇いていた。近くの棚に水差しとコップが置かれていたのを思いだして、すっと手を伸ばす。……そこへ、

 

「ああ、いいよ。僕がやる」

「…………あり、がとう……ございます……」

「ううん。礼なんていらない。()()()()()()()

 

 とくとくと、優しく渡されたコップに水が注がれる。まだまだぼやけた頭では判断も区別もつかなかった。流れるように注がれた水を、ゆっくり、ゆっくりと嚥下する。コップ一杯で震える手が、どうにも先の長さを――有り体に言えば短さか――感じさせてくる。

 

「まだ要る?」

「……いえ……もう……」

「そっか」

 

 すんなりと引き下がったその人は、どうにもよく見えない顔をしていた。うすぼんやりと視界が霞んでいる。なんでだろうと、考えるのも億劫なほど気分が優れない。病状が深刻化しているのだろうかと、ありそうな事実を考えてみた。そんな想像は、なんてつまらないもので。

 

「……あなた、は……?」

「さあ、誰だろう」

「…………、」

 

 薄目のままぼうと見る。ふざけているような答えに、声音の楽しさなんて微塵もなかった。どこか、親近感を覚える。色という色をすべて落としたような口調。トゲもささくれも削りきった引っかかりのなさ。なにもなく、なにも望まず。そう言われ続けてきた誰かのコトを、思い出す。

 

「でも、言わなきゃはじまらない。だから言うよ」

「…………、」

「僕の名前は十坂玄斗。はじめましてだね、()()()()さん」

「……はじめ、まして……ですわ……」

「……ですわ……?」

 

 すこし、口調が乱れた。

 

「……申し訳、ありません……こんな、状態で……」

「いいよ、知ってたし。分かってた。……でも、ちょっとは良いみたいだ」

「……良い……の、ですか……?」

「うん。安心してほしい。きっと大丈夫だよ、君は」

 

 なんて。どこから来たのかも分からない根拠を、その人はぶつけてくる。なんてことはない一言だった。自然と出たのか、意識して言ったのでは無い言葉。それが、どうしてこうも胸に突き刺さるのだろう――?

 

「大丈夫……」

「うん。大丈夫。もう、平気なんだ。君は」

「平気……なの、ですか……?」

「そりゃあ、ね……だって、そうだろう?」

 

 不思議な感覚だった。ずるずると引き摺られていく。磁石のように引っ張られる。そんな、ワケも分からないモノに包まれている。誰と話しても、なにを話しても、こんなコトにはならなかった。彼が持つ特有の雰囲気なのか。ろくに考えもせず、そう直感しかけて、

 

「君は十分、頑張ったんだから」

「――――」

 

 心が、悲鳴をあげた。

 

「……なにを、おっしゃいますの……」

「……、」

「わたくし……は……頑張って……など……」

「頑張ったよ。もう分かってる。知ってるんだ。アトウレイナは、そんな一言に救われちゃうぐらい……頑張ってたんだよ」

「ち、がう……ちがいます……! だって、わたくし……は……!」

「ちがわないよ」

 

 ふわり、と。頭に手を置かれる。その行為がとても暖かいのだと、そのときはじめて知った。だって、そうだ。こんなコトは誰からも、一度もされたことがないのだから。たったひとりの、父親からも。

 

()はとっても頑張ったんだ。やっと、それが分かった気がする」

「ちがい、ます…………っ!」

「……すぐには分からないけど、いずれはね。きっと理解できる。ひとつだけ、良いことを教えてあげる」

 

 ああ、とても、不思議だ。初対面で、顔もよく見えなくて、名前だってさっき聞いたばかりだというのに。

 

「君の未来は、とんでもないほど幸せに満ちているんだよ――」

 

 どこまでもこの人の言葉が、心に響いて仕方ない。

 

「……あ、ああ……あああ……!」

「だから、大丈夫。もう、良いんだ。……休んでいいんだよ。もう、無理しなくて良いんだよ。たくさん泣いて、それから……たくさん笑おう。()

「ぅ、あ、ああっ――、あ、あぁああ――――……!!」

「……うん、うん。大丈夫。大丈夫。ぜんぶ、分かってるから」

 

 なにを分かっているというのだろう。なにが大丈夫というのだろう。その根拠は一体どこで、理由はなんなのか。そのあたりまるでさっぱりなのに、言葉だけが重く深く突き刺さっていく。まるでいまの自分がそのとおりだと言わんばかりの言葉。幸せなんて人それぞれで、十人十色のハズなのに。

 

もう終わりにしよう(これからはじめよう)、零奈」

 

 その人の幸せは、己の幸せに思えてしまったのだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――ふと、目が覚めた。あたりは薄い暗闇。カーテンの隙間から差し込む光が、朝であることを告げていた。……どうやら眠っていたらしい。昨日までの記憶がおぼろげだ。ゆっくり起き上がってみると、どうにも体の調子がよろしくなかった。

 

「(肩こり……? 寝違えたかな……)」

 

 ごきごきと首をならしてみたが、どうにも違和感は拭えなかった。気のせいかと伸びをする。それだけで、気分がすこしは違ってきた。

 

「…………、」

 

 ほう、とひと息。昨日まで長かった夏休みも終わり、本日より誰もが待ちに待たなかった二学期である。ちょうど実家のほうへ帰っていた恋人と久しぶりに会う日でもある。自然とあがる気持ちをうまくおさえながら、勢いよくカーテンを開けた。

 

「……うん。いい天気」

 

 呟いて、着替えに取りかかる。目覚ましは鳴っていないが、登校時間まで三十分を切っていた。いつまでものんびりしてはいられない。見もせずに慣れた感覚で制服を羽織り、そのまま部屋を出て階段を降りる。リビングへ入れば、一足先に妹が朝食を食べていた。父親の姿は見えないので、先に出てしまったらしい。

 

「おはよう、真墨。父さんもう行ったんだ?」

「……ん。さっき出た。なんか、会議の準備だって」

「そっか」

 

 すこし残念に思いながらテーブルに座る。珍しくパンとコーヒーがすでに用意されていた。

 

「……真墨」

「ん?」

「ありがとうね」

「は? ……え? なに? ちょっとキモいんだけど」

「ええ……それは酷くないか……?」

「いや、事実だし、なんか……うわあ……え? なに? なんか今日のお兄キモくない……?」

「……キモくないし」

 

 もぐもぐとふてくされながらパンを咀嚼すると、真墨がとんでもないモノでも見たかのように椅子から飛び跳ねる。

 

「――い、いやいやいや……!? ちょっ、まじで誰だ……!? む、無理でしょこれ……! あ、あたし先行ってるから!!」

「あ、うん。行ってらっしゃい……?」

 

 ドタドタドタ、と鞄を引っ掴みながら真墨は家を飛び出していった。ぽつんとリビングには玄斗だけが取り残される。なんだか分からないが、妹の機嫌を損ねてしまったのは明白だった。帰ってきたら一先ず謝ろう、なんて思いながらコーヒーを口に含む。

 

「(……あ、いつもと違う)」

 

 ちょっとした発見だ。おそらく粉でも変えたのだろう。なんとなく新学期初日にはよく似合うような気がして、やっぱり良い気持ちだった。手早く食器を片して、戸締まりを確認したあとに玄関まで向かう。

 

「(うわ、靴も綺麗だ。……なんか、良いな。うん。今日からはなんとも変わる気がする)」

 

 そんな直感に導かれて、ようやく家を出た。――今日からまた、楽しい学校生活がはじまる――

 

「……っと、その前に、白玖の家まで寄っていかなきゃ」

 

 約束を思い出して、彼女の家のほうに歩みを向けた。何気ない幸せに包まれている。そのことに、心底笑顔を浮かべながら。その腕に、黄色い腕章をつけて。 




そんなわけで一部完結。ご愛読ありがとうございました! 4kibou先生の次回作にご期待ください!


ってやりたかったのになあ……主人公死亡エンド選ばれてたら喜んでしたのになあ……とか。でも選ばれたのは一番甘い世界なので続行します。散々言われてますけど私のフラストレーションしか溜まらない世界なので安心してね! まあ理由なんて完成しきってるどこかの誰かさんのせいなんですが。


ということですので幕間二話のあとに八章やっていきます。

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