ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
――不意に、ぎゅっと抱き締められた。
「……なんの、つもり?」
問いかけるような少女の声。腕を回した少年は、ただ静かに目を閉じている。急な出来事だった。放課後の教室で、夕暮れ時に見た光景を背景に……ただひたすら、暖かさが染み渡っていくような感覚。
「……っ」
ズキン、と胸が痛んだ。これ以上は駄目だと、理性が拒んでいる。おそらくは少女の持つ意識と無意識の差だった。そんなことはとうのとっくに自覚してしまっていた。ぐっと腕に力を入れて、その抱擁から逃れようともがく。
「……やめてくれ」
「いやだ」
「お願いだ。……もう、離してくれよ」
「だめだ。離さない」
「……――っ、
「……だめだ」
ぎゅうっと、抱く力が強くなった。より暖かさが増していく。安心感と高揚感。ぽかぽかと熱を持つココロが、どこまでもそれを甘い誘惑に見立てている。けれど、考えれば考えるほど、感じれば感じるほどに、理性は冷えきっていく。ああ、あんまりだ。こんなコトは、決して許されないのに――
「……頼むよ……ボクを、困らせないでくれ……」
「なにが困るんだよ」
「困るさ……ボクだって、女の子……なんだぞ……?」
「それのなにが、困るって言ってる」
さらに抱く力を強めながら、少年――壱ノ瀬白玖は腕の中の少女に問いかけた。濡れ羽色の綺麗な黒髪。雰囲気のわりに合わないヘアピンと、若干だが着崩された緩い制服。その顔は、位置の関係でよく見えない。
「ち、ちがう、だろう……? 冗談なら、よしてくれよ……ボクだって、からかわれて怒らないほどじゃ、ないんだぞ……」
「からかってない。俺は……本気だぞ。
「なにが……っ」
腰に回された手を、いまいちど強く締められた。自然と体が密着する。どくどくと絶え間なく鳴っているのは心臓の音だ。いやにうるさいのがひとつと、仄かに感じる速い温もりがひとつ。一方は彼女のものだった。じゃあ、もう一方は一体誰のもので。
「聞こえるか? ……すごい、心臓バクバク言ってる」
「……っ」
「だから、冗談でもないし、からかってもない。本当はおまえだって、分かってるんだろ? 玄梳」
「……わから、ないさ……」
震えながら応えた声は、否定の意味を成していなかった。白玖は思わず笑う。相変わらずなようでいて嬉しいような、悲しいような。どこまでいってもコイツはコイツなんだというのもあって、浮かび上がる感情を一言では表せなかった。それでもあえて言うのなら、きっと嬉しいのだと思う。誰よりも自分が――この少女の救いになれることが。
「なにがわからないんだ?」
「わからないよ……ぜんぶ、白玖がこうしてくる意味も、なにも……わかんない……」
「……泣くなよ」
「泣いてなんて、ない……!」
半泣きだ。声が震えている。もう一押し、あと一押し。長い道のりを終わらせるには、最高すぎる状況で。望んでいたのはこれなのだと、壱ノ瀬白玖は確信した。ずっと、ずっと世話になってきた想い人へ。なにかを返してあげるとすれば、最高のモノでなくては納得いかないと。
「でもさ、仕方ないだろ? 分かっちゃったんだから。俺さ……」
「――だ、だめだっ!」
「……だから、なにが駄目なんだよ」
ぎゅっと白玖の制服を握りながら、少女は必死になにかを堪えようとしている。その姿がまた痛々しくて、本当に、居ても立ってもいられないぐらいだった。抱き締めているのにまだ寒いのかと、冗談のひとつでも飛ばしたくなる。こんな状況でもなければ、だろう。
「だめ、なんだ……」
「……何回同じコト言わせるつもりだよ……」
「だ、だって……ぼ、ボク、だぞ……?」
いや、本気の本気で、それのどこが駄目なのか。怒鳴りつけたい気持ちを必死におさえこんで、白玖は耳を傾ける。
「会長、とか……」
「ただの知り合い」
「っ、蒼唯、先輩……とか……」
「委員会が同じだけ」
「よ、黄泉ちゃんが……」
「たまたま話したことはあるな」
「み、碧さん……だって……!」
「クラス同じだけだろ? まあ普通に喋るけど」
「ま、真墨は……!」
「おまえの妹。……で?」
終わりか? と少年が容赦なく訊いてくる。少女は絶望した表情のまま、ちいさく開けた口をぱくぱくと魚のように動かしていた。油断、隙、ちょっとした悪戯心。すっと流れるように、白玖はその唇へ指を持っていった。されるがままにされるのは、偏に縮まった距離によるものだろう。手を伸ばせば届く位置。そこまでに、彼女の心は迫っている。
「だめ、だ……白玖……」
「なんども言わせるなよ、玄梳。……なにが、駄目なんだ?」
「だって、こんな、の――」
弱々しい声で、これまた弱々しく少女は白玖のワイシャツを掴む。顔はこちらに向いていた。整った容姿が崩れる直前の儚さを携えている。どこか、とろけるようなソレだった。あんがい正直なんだな、とはあえて言わない。そんなくだらない感想よりも、彼女の口から発される言葉のほうが大事だ。
「……だめ、だめだ……! だめなんだ……っ」
「だから、なにが」
「これ以上、されたら――君の、こと、好きになる……っ」
――なんだ、と白玖は息を吐いた。躊躇っていたのが馬鹿みたいだと。答えなんてそれで決まった。これしかないと腹を括る。もとより、壱ノ瀬白玖はどこかで迷って歩みを止めるようなガラでもない。
「じゃあ問題ないな」
「え――」
そうして、不意をついて。
「……ん」
「っ――!!」
ゆっくりと、優しく口付ける。想像の五倍ほど、少女の唇は柔らかかった。こうして近くで触れていればどうしてもそんな部分を意識する。一人称が「ボク」なんて年頃の女子らしからぬもので、いつも落ち着いて静かな雰囲気を漂わせているものだから、真面目さという堅さのイメージが強かった。実際は、どこまで華奢で可愛らしい、女の子だ。
「……ぁ……」
「……なんだよ。口惜しそうな声出して」
「っ、ち、が……! っていうか、なんて、こと……!」
「――いいよ、好きになれ。俺はもう、おまえのこと好きだ」
「…………っ!」
かあっと、少女の顔が赤く染まる。とんでもないクリティカルヒットだったようだ。それもそうだろう。なにせ彼はそれを知っていて、そのとおりに動いたのだから。
「なんで……」
「なんで? おかしなこと聞くな、玄梳は。さっきも言ったが、仕方ないって。おまえのこと、気付いたら好きだったんだから」
「ふ、ふざけるなよ……! そんな、理由で……ボクの……」
「そんな理由で悪いか。好きだから好きだって言った。それのなにがおかしい。分かんないって言うんなら何度でも言うぞ。玄梳。おれはおまえが、好きだ」
「……っ、わ、分かってる! 分かってる、から……!」
「いいや分かってない。どうせおまえは分かってないだろうさ。だから、玄梳」
目が合った。とても近くで、吐息すら重なりそうな間を残して。何度も苦しむ夜の原因になった彼が、少女の目の前で堂々と宣言する。
「俺のものになれ、玄梳。そんでもう二度と、離れるな」
「……ば、ばか、を……言うなよぉ……」
「嫌か?」
「……っ、ずるい……ずるいんだよ白玖は……ボクは、ボクだって、ずっと……っ」
結末なんてその程度。ありえた筈の幾つにも分かれた世界のひとつ。その終わりは、穏やかなまでに純粋で、どこまでも幸せに満ち溢れていた。答えのひとつ、言葉のひとつが違えば世界は変わる。ならば、ほんの些細なコトで、いまの世界が変わらないとも言い切れないように。
「もう二度と、おまえのことは離さない――」
きっといつか、あるべきものは変わり行くのだ。
>十坂玄梳
アトウレイナinトオサカクロト(♀)という超融合を果たした結果。ボクっ娘黒髪ゆるふわクール系全デレこじらせ少女という刺さる人には刺さる要素をつめこんだヒロイン。ちなみに作者には全部刺さる。ヒロイン全スルーして勝ち確ルートまっしぐらです。
すまない発作の「TSさせたい」病が……本当にすまない……