ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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第八章 黒くなくてもはじめよう
漂白玖されてます?


 

 ちょうど玄斗が家の前に着いたとき、玄関から白玖が出てきていた。彼のほうには一切気付いていないようで、くるりとふり向きながら鍵を閉めている。

 

「――おはよう、白玖」

「うひゃっ!」

 

 声をかけると、あからさまにビクンと肩を跳ねさせた。さぞかし驚いたのだろう。ほんのすこし腰を抜かしながら、今し方施錠したドアを背中に玄斗を困惑した表情で見つめている。――どこか、慣れない視線で。

 

「な、なに……!?」

「驚きすぎだ。挨拶しただけなのに」

「え……? や……えぇ……?」

「……?」

 

 と、そこで玄斗はちょっとした違和感を覚えた。なんだろう、とそれなりに考えてみる。彼女自身の姿はとても見慣れたもので、白い髪の毛にはところどころ――

 

「(――あ)」

 

 まず、そこから違うではないかと気付いた。

 

「髪、染め直したのかい? 真っ白だけど」

「へ……? あ、え、っと……」

「あと、制服はそれ、うちのかな。今年から変わった?」

「…………な、なんなのこの人…………」

 

 ぽつりと呟いた声で、さらに違和感が増していく。なんなんだと玄斗はじっと白玖の顔を見つめた。見慣れた顔、見慣れた色、見慣れた姿形。目の前に居る少女は壱ノ瀬白玖で間違いない。細かな差異もなにもある筈はない同一人物だ。……目で見て、耳で聞こえる部分を除けば。

 

「……白玖?」

「な、なんで私の名前……!?」

「……いや、そういう冗談はいいから。もう、怒るよ?」

「て、ていうか誰ぇこの人ぉ……」

 

 泣きそうに呟く白玖の顔に、決定的な衝撃を受けた。彼女はまったく嘘をついていない。誤魔化している様子も演技をしているのでもない。正真正銘、壱ノ瀬白玖は十坂玄斗に話しかけられて困惑している。そんな、デタラメな真実を垣間見た。

 

「――白玖!」

「ひぃあっ!?」

「冗談ならよしてくれ。僕だ、十坂玄斗だ」

「と、()()()()……?」

「――――、」

 

 玄斗は目の前が真っ暗になった。黒だけに。

 

「やかましいわ」

「えっ!?」

「あ、ごめん。いまのは違う」

「あ、はあ……?」

「…………けど、」

「…………?」

 

 これはどういうことだろう、と玄斗は考える。なんでだとか、どうしてだという前に、言葉にできない喪失感が湧き出ていた。眼前の少女の瞳に、あるはずの既知の色がまったくない。それは真実彼からも、ましてや彼以外からしても信じられないコトで。

 

「……あ、あのっ! 私、学校があるのでっ!」

「あっ……」

 

 ばっ、と隙間をくぐり抜けた少女がそのまま走り去っていく。遠ざかる背中は文字通りどこまでも遠い。近くにいた筈の誰かが、知らぬ間にどこまでも見えない場所まで要っていたような感覚。夏休みの間、それまでよりも濃い思い出を玄斗は彼女と過ごした。だからこそ、未来にさえ希望を抱いたというのに。

 

「(白玖が、僕のことを覚えてない――?)」

 

 いや、それはむしろ、初めから無かったような。

 

「なにが……起きてるんだ……?」

 

 妙な胸騒ぎを覚えて、玄斗は学校に向かって駆け出した。記憶を掘り返せば、白玖の着ていた合服は調色高校のものと違っている。自分の着ている制服はもちろん学校指定のワイシャツだ。そこの差異が決定的で、嫌な予感が脳裏によぎる。ペースを上げる足は、緩めることができなかった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「見て、会長よ!」

「今日も素敵ね……」

「かいちょー! こっち向いてー!」

「あたしに微笑んでー!」

 

 〝――なんだこの地獄(ヘヴン)……!?〟

 

 玄斗は困惑した。突き進む通学路には女子の波、波、波。人の群れである。賑やかなのは嫌いではないが、うるさいのはその類いでもない。静かなほうが好きな人間として、なんとも居心地の悪い状況下にある。

 

「……っ、ご、ごめん! いま、ちょっと急いでる!」

「きゃっ」

「ああ待って会長!」

「私の相談に乗ってもらえませんかあー!」

「(なんだこれ……なんだこれ……!?)」

 

 すわ、酒池肉林とはこのコトか。玄斗は男性ならば誰もが憧れるはずのハーレムを前にして、冷や汗が止まらなかった。冗談じゃない。好意を向けられるのはそれこそ白玖だけで十二分にすぎる。むしろ彼女以外のなにも要らないまであった。付き合って数週間、当然ながらこの男、恋人にゾッコンである。が、そんな肝心の彼女もさっぱり玄斗のコトを忘れている始末だった。

 

「ああもう……! ワケが分からない……!」

 

 ぞろぞろと群がる人ごみをかき分けて、玄斗は校門まで駆けていく。なにか、重大な見落としをしているようで、でもそんなコトすら関係なくおかしい様子が広がっている。そう、おかしい。どこまでも変だ。まるで世界が、まるごと入れ替わったみたいな――

 

「おう、玄斗。今日()早いな?」

「っ、鷹仁か! ごめんいま――」

 

 ……〝は〟? その一文字に気付いた玄斗が踵をこすりながら足を止める。ふり向いた先に、既知である友人の姿はあった。撫で上げられたてかる金髪、整った容姿、親の七光りをその身に受けた堂々とした佇まい。いずれも変わらず木下鷹仁は「よう」と気軽に手をあげた。

 

「……鷹、仁……?」

「おう、()だ。その様子じゃあ――マトモか? セイトカイチョー?」

 

 くい、と制服についた黄色い腕章を引っ張りながら、鷹仁がついと玄斗のソコへ指をやった。つられて彼も視線を向ける。自らの二の腕あたり。朝は急いでいて、それからは衝撃的な現実の連続で視認する暇もなかった。いつの間にか制服と一緒についていた、よく目立つ友人と同じ黄色い腕章。そこには。

 

「……僕が……生徒会長……!?」

「らしいな。く、ふは、ははは……!」

「わ、笑ってる場合じゃないぞ、鷹仁……!」

「いや、これが笑えないで居られるかよ? はは、あはは――!」

 

 高らかに笑う鷹仁と、混乱したまま頭を抱える玄斗。一方は偶然か奇跡か、朝起きれば望んでいた未来が目の前に転がっている現実。一方は望んですらいない意味不明な現実を朝から叩き付けられるという散々なはじまり。とても比べられたものではない。

 

「ちなみにもうひとり居るぜ? 死にかけてるが」

「え、それって……」

「きゃー! 飢郷せんぱぁーい!」

 

 と、そんな黄色い声が耳をつんざいた。見れば、大勢の女子に囲まれてひらひらと手を振る少年の姿があった。……とても、青白い顔をして。

 

「新手のいじめかなにかか……?」

「残念なことにあれで本気でモテてるらしいぞ。まあ、あいつ顔は良いから」

「自称非モテ系陰キャってなんだろう……」

「そりゃ自称だろ。自称。……ほら見ろ、助けを求めてるぞ」

 

 ちらりと確認すれば、かの飢郷某はバチバチとこちらに向けてウインクをしていた。もうマヂ無理助けて野郎どもとでも言いたげな表情だった。若干苦しげなのが必死さを増している。

 

「……どうする、鷹仁」

「いまの俺は副会長らしいぞ。会長の意向に従う」

「……、」

「……、」

「……! ……!!」

 

 考え込む調色高校生徒会長。その隣でじっと選択肢を待っている副会長。そんなふたりにSOS信号を発し続ける書記。そのコトに本人は気付いているのかいないのか、どちらにせよなおも飢郷逢緒を取り囲んでいる女子は散開する様子がない。

 

「……ひとまず撤退で」

「了解」

「(裏切り者ぉー!!)」

 

 貫くような視線の意味は、なんとなくふたりとも理解した。立場はどうあれ、生徒会となれば目指すべき場所もひとつに固まってくる。話し合うならばそこしかない。どうしようもないなかで、仲間がひとりでも増えたのは素直に嬉しいことだった。






というわけで新章です。完全版十坂玄斗くんに頑張って貰います。

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