ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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変わっている、のではなくて、どうしてそうなっているのか、が今回のみそ。


オレンジ色の光

 

「まあ待て木下。そう荒れるな。鍵は見つけたから」

「……鍵、だあ?」

「おうとも」

 

 胸ぐらを掴む力を緩めた鷹仁に、逢緒は知らなかったろと言わんばかりのドヤ顔を披露する。でこぴんを喰らっていた。容赦ない威力だが、右ストレートじゃないあたり彼も鷹仁のなかでわりと高順位に位置する人間らしかった。

 

「ってぇ……てぇてぇ……」

「んだそりゃ。いいからさっさと言え」

「……ノリわりいってばよ。()()()だ」

「……ふたり……?」

 

 玄斗がそう聞き返すと、逢緒は神妙にこくりとうなずいた。びしっとピースサインを掲げながら、現在時刻十二時半――昼までの調査結果をつらつらと述べていく。

 

「名前も学年もたいがい一致したなかで、ふたりだけ俺の知らない女子がいた。これは由々しき自体だ。どうしてか分かるか?」

「それって……」

「――俺の精神の安定に関わる。あああ、かゆいだろうがあああ……」

「玄斗。しばけ」

「えっと……いまそこちゃうやろがい」

「「ツッコミのセンスゼロかてめえ!」」

「ええ……」

 

 ガタンと立ち上がって叫ぶ生徒会の漫才コンビ。気の持ちようからして違った。ちなみにツッコミ担当が副会長である。きっと一部の女生徒が聞けば「そこは攻めなんだ……」とおかしな笑みを浮かべるだろう。閑話休題。

 

「とにかく! ふたり、知らねえ奴がいるってのは、どう考えてもキーだろ? そのどっちかが……もしくはどっちもがこのおかしな状況の原因だ」

「日付とか、人間関係のあれこれは?」

「それはおまえほら、あれだよ。因果とか、宇宙猫とか、ゴジラVSヤクザVSゲッターロボみたいな。そうか……そうだったのか……世界とは……運命とは……ゲッターとは……」

「鷹仁、こういう場合のツッコミはどうすれば?」

「虚無るな、虚無るな」

「はっ」

 

 気を取り直した逢緒の顔が気持ち濃くなっていた。彼には他のふたりにはない適正があるのだろう。そんな、ちょっとしたウラガワの真実を垣間見た気が玄斗はした。もちろんギャグで。そもそも真面目に考えても仕方のないことだった。

 

「つーか俺の作画よくなってない? めっちゃイケメンだよな」

「作画ってなんだよ」

「絵じゃないのか? まあ、飢郷くん、結構雰囲気が一変してるけど」

「だろ? ……あとなんか財布にゴム入ってんだよなあ……はは……俺、なにしてんだろうなあ……」

「えっ」

「……やることやってんだろ」

 

 鷹仁の一言に少年は崩れ落ちた。気付けば(最悪)童貞をどこの誰とも知らない女子に捧げている。その事実を想像するだけで逢緒は吐きそうになった。そも女性と致すというイメージが無理だった。リアルなのは抜けない。彼の毎晩の悩みはそこにあたる。

 

「嫌だあ……! 俺の、俺の童貞が……っ」

「……ねえもしかしてこれ僕もまずい?」

「そっちは安心しろ。すくなくとも会長に彼女が居たなんてコトはないらしいぜ?」

「そうなんだ……良かったけど、良くなかったような……」

「なんだ、居た方が良いのか?」

「白玖以外なら居なくて良いけど」

 

 惚気てんな……という鷹仁の台詞は、口から出る前に止まった。まだ完全に割り切れてはいないのだろう。ほんのりと寂しさを映した瞳は彼らしくなくとも、十坂玄斗であるものと言える。程度のほどはどうであれ、傷付くコトは傷付くものだ。好き合っていた人がいきなり無関係になってしまう。その悲しみを切り替えるには、もうすこし時間がかかりそうだった。

 

「惚気てんなあ……」

「おい飢郷。飢郷おい。てめえはグラウンド十周してこい」

「なんでだよ。……あ、そっか。ご愁傷さまです」

「――――っ、はあああ………………」

「くそでかため息」

「おまえマジで走って来いよ」

 

 若干キレ気味の鷹仁だった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「む、玄斗」

 

 その日の放課後である。慣れない生徒会長としての仕事をなんとか片付けて、やっと自由になったと思えばもう完全下校時刻の手前。教室に置いたままの鞄を取りに戻る途中、赤い廊下で玄斗は彼女とばったり出会った。

 

「……七美さん?」

「久しぶりだな。こうして話すのは、夏の校舎案内以来だ」

「ああ、うん……そう、だね……」

 

 納得しながら、玄斗は妙な感覚に襲われた。橙野七美。その少女との出会いをたしかに思い出す。夏の暑い日に、たまたま彼が登校したところを居合わせた関係である。それは、なんらおかしなコトでもないもので。

 

「学校では話しづらかったのだ。クラスも、違っているようでな」

「みたいだね。いつでも話してくれて、僕は大丈夫だけど」

「そうか? ……にしても、気分でも変わったのか? 玄斗は」

「? えっと……なにが?」

 

 いきなりの質問に戸惑いながら訊くと、七美はこてんと首をかしげた。心底不思議だ、といった風に。

 

「前までは〝俺〟と言っていただろう? だから、それが普通なのかと思ってた」

「〝俺〟……? 〝僕〟が?」

「? ああ。ほら、はじめて会った時に言っていたじゃないか。俺の名前は十坂玄斗。よろしく、橙野さんって」

「いや――」

 

 そんなことは、ない。

 

「そう、だったっけ……?」

「そうだぞ。私はこれでも忘れっぽい頭はしていないのだが……むう。証明できるものがないというのは、些かこう、ムズムズしてくるな……」

「あはは……」

 

 十坂玄斗の一人称は、いまも昔も(ボク)のままだ。そこからブレたことも変わったこともない。だいたい、相手によって使い分けるならまだしも、そう急に一人称を変えるようなことだってないのだ。それこそ、とんでもなく自分というモノを揺るがす状況に陥らない限りは。

 

「まあ、ちょっとね。いまは僕かな。そのほうが、良いと思うし」

「そうなのか。どうりでいまの玄斗は、こう、前より玄斗していないと思ったんだ」

「……僕、してる……?」

「うむ。こう……玄斗っ、という感じが変なんだ」

 

 分かるか? と訊いてくる転入生。どういう感じがどうなのかさっぱりだった。固有名詞を動詞として扱っていそうなあたり凄まじい情報量の少なさである。曰く、彼女によればらしくないとでも言いたいのだろうか。

 

「僕、っていう感じか……例えば、どんな?」

「どう、と言われると難しいな……とにかく、玄斗みたいな感じだ」

「……俺、って言うだけで変わる?」

「変わらないな……」

「そっか……」

 

 じゃあどうしようもない、と玄斗は息を吐いて諦めた。なにより似せようとする気も無い。ちゃんとここにある以上、自分は自分以外のなんでもない。周りが変わってもそれは揺るぎなかった。きちんと完成された玄斗の心に、いまさらその程度で軋みをあげる脆さもない。あるべきものはある。ならば、このおかしな現実だって受け入れなくてはならない。

 

「ああ、それと。もうひとつあった」

「うん?」

 

 自然な流れで散開しかけて、ふと七美がくるりとふり向いた。斜陽に照らされた廊下で、五メートルほど離れながら見つめ合う。どこか、懐かしいモノを探るように彼女は微笑んで。

 

「飲み物、ありがとう。それをずっと言いたかったんだ」

 

 やっと言えた、と満足感をあらわに七美は今度こそ去っていった。――直後に、繋がった。

 

「(あ――)」

 

 ビリビリと、頭に電流が走ったような感覚。なんだなんだと騒いでいた昼間の内容が、根底から覆されていくような気がした。どうしておかしくなって、なぜおかしいのか。その理由ばかりを彼らは考えていた。けれども違うのだとすれば。これが正常で、これがあるべきものだとするならば。

 

「(『僕』……『俺』……! もしか、して……)」

 

 いつもとは違う反応。違う仲間たち。違う関係性。そして、違う過去。どれも小さい部分は同じで、ともすればまったく変わりないものだってあるのだろう。ゲームの世界に転生なんていうありえないコトを経験していたからこそ、頭は全速力で回った。これは、まっさきに確認するべき必要があると。

 

「(辿ってきた()()()が違う――?)」

 

 狂った思考回路は、真実、答えに指をかけていた。


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