ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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メンタルクソザコだった一章と比べてみると本当誰だこいつ……


鋼鉄の心を持って

「――おっはよう鷹仁っ!」

「うおッ!?」

 

 がらーん! と勢いよく生徒会室の扉を開けたのは玄斗だった。意味不明な現実の変化から翌日。まだまだ難航する現状打破に頭を悩ませていたはずの生徒会長は、とんでもない笑顔でとんでもないハイテンションだった。

 

「く、玄斗……?」

「いやあいい天気だね。思わず心も躍っちゃうよ」

「……お、おまえまでおかしくなったのか……? 嘘だろ……もうあのクソザコナメクジしか仲間がいねえのか……」

「だーれがクソザコナメクジだこのすっとこどっこい」

 

 と、後ろから陰口を聞きつけた逢緒が入ってくる。そんな彼にも笑顔で「おはよう!」なんてキラキラ輝く貌の玄斗。陰キャ代表である彼は当然ながらそれをスルーした。陽キャ死すべし慈悲はない。テンション高いやつは全員事故ってあの世に行ってろと無関係の人間まで恨みそうになるレベルである。

 

「通学路がとんでもねえわ……知ってるかい木下少佐」

「いや知らねえけど……どうなってんだ?」

「黄色い悲鳴がドッカンドッカン。もう十坂がこの調子だからひでえもんよ」

「ああ……、」

 

 どうりで外がうるさいワケだと、鷹仁は息をつきながらうなずいた。朝からこの調子で見る人見る人に笑顔を向けていれば、それはもう騒ぎにもなるだろう。おもに、現在の彼の人気度的に。

 

「……で、原因はなんだ。玄斗、ぶっ壊れたか」

「いや……どうにも、そこが分かんなくてな……」

「? どうしたんだいふたりとも」

「「…………、」」

 

 ニコニコと。ずっと笑いながら玄斗は鼻唄なんて歌い始める。ご機嫌にもすぎるぐらいだった。これは由々しき事態である。思わず鷹仁なんてあまりの差に「クスリでもきめたか?」と一瞬疑うぐらいだった。普段からローアンドクールな玄斗にはあまりにも不似合いな言動なので仕方ない。

 

「……なにがあった、玄斗」

「うん? ああ、いや……分かる?」

「分かりやすすぎて気味が悪いんだよ……」

「いやまじで十坂どったの……俺が悪いの……?」

「分かっちゃうか……」

 

 参ったな、なんて恥ずかしそうに玄斗は後頭部をかいた。笑顔で。ニコニコと。緩んだ頬を隠しもせずに。……ふたりはちょっと殴りたくなった。

 

「……で、なんなんだよ。はやく言え」

「幸せなコトなら俺が制裁するゾ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――白玖と、途中まで一緒に登校した……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飢郷、やれ」

「死ねェい承太郎ッ!!」

 

 がたがたどったーんと暴れ回る男子ふたり。副会長は優雅に紅茶を飲みながら「ああ……」なんて甘い吐息をはきだしていた。どうするべきかと悩んでいる合間、この男はさっそく行動に移して想い人と距離を縮めていたらしい。玄斗とは思えない行動力だった。

 

「くそっ! にやけた面しやがって!」

「え? そんなににやけてる……?」

「そんなにだわ! くそっ! くそっ! 幸せ者がッ!」

「……えへへ」

「なに笑ってんだテメェ――!」

 

 後ろから首をぎゅうぎゅうと締め付ける逢緒と、それも気にせずいちだんと頬を緩ませる絶賛二度目の初恋経験中の玄斗。長らく会えていなかった反動と、なにを忘れてなにが変わろうが壱ノ瀬白玖は壱ノ瀬白玖であったという事実が、少年を凄まじい幸福感へと呼びこんでいた。

 

「つか手が早えな……」

「いや、昨日帰りに偶然会ってね。そのとき連絡先交換して、メッセージで駅まで一緒に登校しない? って誘ったらオッケーもらって。で、今日、堪能してきた」

「おまえ本当に玄斗か……?」

「失礼な。ちゃんと僕だぞ」

「……十坂は壱ノ瀬のコトになると人が変わるんだなあ……」

 

 やべーわコイツ、と逢緒が腕をゆるめたときだった。ふと、ないも同然な抵抗を試みた玄斗の腕――その裾から、おかしなものを見る。なんだか、白い、布みたいな。

 

「……十坂? それ、腕の……なんだ?」

 

 そんなもんしてたか? と問いかける逢緒。それに玄斗はなにを思うでもなく「ああ」と答えて、

 

「リストカット。痕が残っててね、包帯だけ巻いてるんだ」

「え」

「……あ?」

 

 空気が固まる。玄斗はいちはやくそれに気付いた。あ、と言いながら口をおさえるがもう遅い。ぜんぶ言い切ったあとでは返らないものである。

 

「ごめんなんでもない」

「いやうっそだろお前!? もうマヂ無理……ガチでやったの!?」

「そうじゃなくて、これは――」

「玄斗。ぜんぶ教えろ。なにがどうなった? 返答次第では俺はおまえをもう一度ぼこる」

「……ああ、うん。分かった。言うから……」

 

 僕は別に悪くないんだけど、とどこか申し訳なさそうに玄斗は言う。逢緒は単純に驚きとして、鷹仁は一友人として耳を傾けないわけにはいかない。なにせ、目の前の男は十坂玄斗だ。平気な顔をしてぶっ壊れているという可能性が、なきにしもあらずなワケで――

 

「こうなるまでの僕がしてたみたい。腕とか、あと胸も爪で無理やりかいたような痕があった。風呂場でやっと気付いて。もう、どうしようってパニックになりかけた」

「ああ……? いや、玄斗。それ、前からおまえがやってたってことじゃ……?」

「違うよ。〝僕〟じゃなくて、〝俺〟がやってたんだ」

「……ねえねえ木下。なんか、俺、こういうのアニメで知ってるわ」

「は? なんていうんだよ」

「二重人格。おまえは誰だ、俺のなかのってやつ。もうさ、読モレベルのシャウトするしかねえよこれ。でも、俺は最後まで生きるよ……!」

「は?」

「それか異世界モノっていうんだけどな。トラック転生して無双するんだよ。トラック波動砲とか。Re:普通免許から始める運送生活とか」

「とんでもねえな……おまえの脳みそ」

 

 本当にとんでもなかった。

 

「まあそれは冗談として、これはもしや憑依転生というやつでは……?」

「まあそこの馬鹿は置いておいて、玄斗。どういうことだ」

「? あー……うん。そうだね」

 

 一拍おいて、彼は。

 

「――僕もよく分かってない」

「おい」

「チートなし……転生……てぃーえす……うっ、頭が」

 

 約一名、どこかの世界線を観測しそうになっていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おい、飢郷」

「なんすか副会長」

「昨日言ってたふたり、あれ、どうなった」

「え? どうもこうもないっすよー。俺、女子との接触とか苦手ですし」

 

 おすし、と付け足してぶらぶらと手から力を抜く女性恐怖症。ぶちっと鷹仁の何かが切れた。

 

「飛ぶか、死ぬか?」

「ええ……命を絶つ以外の選択肢とか、ご存じでない?」

「選べ」

「ここ択ですね(震え声)」

 

 ガタガタと冗談交じりに震え出す逢緒。玄斗はその様子を緑茶片手にずずっと啜りながら眺めている。たまにはお茶も良いかもしれないと思った瞬間だった。普段ならコーヒーになるのだが、そのあたりも変わってきているのかもしれないと。

 

「てかそのふたりの名前をまだ聞いてねえんだよ。どいつだ」

「二年D組橙野七美。二年C組()()()()

「……あ、飯咎さんってうちの学校……」

「どっちも聞いたコトねえな――」

 

 玄斗の小声に鷹仁が固まった。逢緒は何事かとふたりを見ている。いまの言葉は彼の耳にまで入っていなかったらしい。ので、正真正銘鷹仁のみが聞き取っていた。本日の十坂玄斗にはどこまでも振り回される。

 

「知ってんのか、玄斗」

「知ってるもなにも、会ってる。七美さん……橙野さんは昨日廊下で話した。飯咎さんとは、夏祭りで偶然会って以来かな」

「ねえ十坂。それなんてギャルゲ?」

「アマキス☆ホワイトメモリアル」

「いや知らねえよどこの会社だそれ」

「明有コーポレーション」

「いやそれたしか製薬会社じゃねえか……」

 

 なんて、普遍的なツッコミをしたつもりの逢緒だった。が、ボケた当人であるはずの玄斗がなにやら目を見開いている。驚愕の事実に今更気付いたみたいに。

 

「あるのか、明有コーポレーション。いや……あって当然だとして、製薬会社って……」

「いや知らなくて言ったのかよ……どういうボケだ……聞いたコトあんだろ。明るい未来が有るんです! 明有コーポレーションってイケボで言うやつ」

「知らない……」

「マジか……テレビとか見ない?」

「見てるけど……ええ……? 偶然見逃してた……?」

「……まあ、コマーシャルだからな。そういうことも、あるだろ」

 

 最近の会社だしな、と付け足す逢緒。常識ごとひっくり返る珍事に比べればまだまだだが、それがあるというのはちょっとした驚きだった。でも、考えれば当然のこと。なぜならこの世界には彼女がいて、あの名前が存在するのだから――

 

「失礼いたします――あら、玄斗様?」

「……うん?」

「あん?」

「うっ」

 

 そんな風に考えたものだから、だろうか。からりとお淑やかに扉を開けた少女は、たしかに玄斗だけ見覚えがあった。ひとりは珍しいものを見たように、もうひとりはいきなりすぎる苦手な相手の登場で喉を引き攣らせている。長い黒髪を携えた、儚いまでに透き通る雰囲気。

 

「……零奈?」

「はい。零奈でございますよ」

「……えっと、病院は……」

「二週間前にはもう退院いたしました。本日から通うことになりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」

「あ、これはどうも、ご丁寧に……」

 

 ぺこりと頭を下げながら、またもや玄斗は違和感を覚えた。七美のときとはまた違ったものである。ふらっと行った病室の見舞い以来、何度か彼女とは顔を合わせている。白玖と付き合いだしてからもそうだった。だんだんと調子も良くなってきて、これからというトコロ。それが、彼の覚えている記憶だ。

 

「……僕が誰だか、分かる?」

「玄斗様ではないのですか?」

「……僕は、僕だっけ?」

「? 少々意味が不明ですが……玄斗様は、玄斗様ではなくて?」

 

 おかしいところなんてありませんわよ、と零奈は笑いながら答えた。なんだろう、いま、とてつもなく引っ掛かることを言われたような。

 

「にしても、入院生活はやはり感覚がズレますわね……わたくし、まだ九月だと思っておりましたのに」

「――それ、って……」

「もう肌寒いですわ。玄斗様もこの前まで半袖だったような気がするのですが……」

 

 いいや――間違い、ない。

 

「零奈!」

「きゃっ」

 

 がしっと玄斗が零奈の肩を掴む。傍から見れば恋人かという至近距離である。鷹仁と逢緒はなにがなんだか分からないままちょっと引いた。

 

「良かった! すごく嬉しい! はは、そうだよ。やっぱり君は、アトウレイナだ」

「そ、そうでございますけど……」

「うん、うん! いや、とんでもないぞ、これ! ね、鷹仁!」

「……俺はなにがなんだかさっぱりだよ」

「…………(女子が居るので喋れない)」

 

 まだまだ情報の足りない二日目。道を示していくのは、きっと彼女たちである。これは彼にとって、ただなにかを取り戻していく物語――





ああああこの調子乗ってきてるメンタルボキボキに折ってやりてえ……

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