ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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妹といっしょ

 

 〝スポットライトのあたる存在じゃない――〟

 

 十坂玄斗である以前に、明透零無であればその意味は自ずと理解する。つまり、日記をつけた玄斗の感化された少女は、()()()()意外の誰かということになる。

 

「つまり、真墨、碧ちゃん、黄泉ちゃん、赤音さん、蒼唯さん、白玖はなしだ」

「おいなんであたしを省いた」

「真墨が人一倍可愛いから」

「ならいいや」

 

 いいのかそれで、と思わなくもない玄斗だった。ちょろすぎる妹の将来が心配である。もちろんそんなコトを言ったところでさきの二の舞になるのは目に見えていた。十坂玄斗、十七にして自分の貞操の守り方を知る。いままで意識すらしていなかったことだった。

 

「で、なにがなしなの?」

「それ以外で、とても困ってる女の子がいるってことだろう。なら、その子をどうにかすればいいんだ」

「そう簡単にいきますかね……」

「僕を誰だと思ってるんだい?」

「童貞インポ野郎」

「ありもしない事実は飢郷くんが困るからやめようね?」

「誰だよ」

 

 俺は現実の女じゃ勃たねえ、と自信満々に言ってのけた友人の姿を思い出す。たんなる女性恐怖症を拗らせてあそこまで行くものかと玄斗は首をかしげたが、あの筋金入りは演技でもなんでもないので仕方ない。人間、得意不得意はあるものである。

 

「まあ、軽く見てるわけでもない。すくなくとも僕が諦めるぐらいには酷いってことになる。要するに、壱ノ瀬白玖よりずっとなわけだ」

「壱ノ瀬先輩ってそんな暗い過去ある?」

「どうして白玖がこっちの家でひとり暮らししてるか、考えたことない?」

「……あー、いや、いい。なんとなくそれで分かった。ごめん」

 

 やはり十坂真墨は頭の回転が早い。それだけのヒントで理解できるのは真実よく考えている証拠だろう。むかしどこかで、女子高生だから女子高生やってる奴は頭悪いけど女子高生だから女子高生演じてるやつはめちゃくちゃ頭が良いのでは、という話を聞いたことがあった。おもに高校一年の頃、とある女子全般が苦手な男子から。

 

「……白玖もさ、辛いこと、いっぱいあったんだ。でも前を向いてる。僕だって、ちょっとは向けるようになった。なら、どうにもならないなんてコトもないだろう?」

「……あたし、そういうお兄の昔と変わったところ、好きだよ」

「僕もそういう真墨の素直なところは、好きかな」

「そっか……」

「うん。……だから無言でズボンのジッパーを下ろすのはやめようね?」

「ちっ」

 

 まったくもって油断も隙もない。真墨の手をべしっと叩きながらチャックを元に戻す。彼女の腕ならそれこそ気付かれずにできそうなものだが、あえてしないのは暗い雰囲気をそのままにしないためだろう。できた妹である。できすぎて、若干玄斗からして怖くもあるのが欠点だった。

 

「……正直さ、そんなにしたいの?」

「いやいや、あたしがそんな性欲だけに塗れた女子に見える?」

「そうだよね、真墨だって節度は――」

「めちゃくちゃしたいに決まってんじゃん」

「――――…………そっかあ……」

 

 玄斗の目が遠くなった。こう見えて初恋の初彼女である白玖とはエッチはおろかキスすらまだの純情少年である。ちなみにファーストキスは蒼唯に奪われて、初ベッドイン(未遂)は碧に奪われた。もはやそういう運命なのかと世界を呪いかける始末である。

 

「いや、まあ、普段はこう、自分で歯止めがきくんだけどさ」

「あ、効くんだ……」

「当たり前でしょ。なんだけど、うん……さっき、その、したじゃん?」

「…………ああ」

 

 風呂場での事件を思い出して玄斗はさらに視線を遠くへやった。意識すらぶっ飛びそうな勢いである。なんとなく、原因を察してしまって申し訳ない。すべてはタイミングの問題であったのだと、このとき彼は初めて知った。

 

「そっからやばい。お兄見てるともうやばいの。発散しないとやばいの。ぱないの」

「言わなくていいから……明言はしなくていいから……」

「もう下の方が」

「言わなくていいって言ってる!!!!」

「言わなきゃわかんないじゃん!!!!」

「分かるから!」

「なにが!?」

「言わせないで!?」

「じゃあ言うよ!」

「やめて!」

 

 下手をすると年齢制限に引っ掛かる可能性が無きにしも非ずだった。うちの妹は闇が深い。本日何度目かになる再認識である。ちなみに性欲に関しては実際十坂玄斗もとい明透零無も人のコトは言えたようなものでもなかったりする。絶倫黒髪男。いまの彼はそういう立ち位置にいると言っても良い。

 

「……じゃあ、満足したら良いの?」

「え、満足させてくれるの?」

「……目、瞑って」

「…………うん」

 

 そっと、ちいさく頷きながら真墨は瞳を閉じた。こうして見ると、家族とは思えないぐらいの可愛さがある。素材は最上級だ。それこそ、口を開かなければいまの玄斗なら見惚れてしまいそうな美しさがある。中身というのは人間を構成するうえで重要なんだな、と彼は心底実感した。

 

「――――ん」

「っ……」

 

 そっと、前髪をかきあげながら額に口付けた。マウストゥーマウスは精神衛生上の関係からできない。鳴らす気もなかったリップ音が響くと、真墨はちいさく肩を震わせながらゆるゆると瞼を持ち上げていた。おでこに当てていた手をそのまま頭の頂点まで持っていって、優しく撫でる。

 

「……ありがとう、真墨。言っておくけど、これは、真墨だから特別に、だからね」

「――――――、」

 

 そして、照れながらそんなコトを言う。玄斗からしてみれば、戻ってきてくれて、目の前でそうであると証明してくれて、なにより頼りになってくれた素敵な妹へのプレゼント。対して、彼女の視点から見てみるとどうか。呆然と玄斗の瞳を見つめながら、真墨は――躊躇なく彼の体を押し倒した。

 

「え?」

「――ごめん、お兄。それ、逆効果」

「え、え? ちょっ、まっ……」

「むしろ、燃えてきたっていうか……我慢、できなくなった。だって、さ……お兄が、悪いんだよ……」

「ま、真墨? あの、ま、待って。ごめん。謝るから、だから、その――」

「好きだよ、お兄」

 

 およそ九十ヒットは喰らった。なんとか逃げ切れたのはそのあたり。妹との二度目のディープキスは、技術の進歩に脳を溶かされそうだったと後に彼は語る。おそらく白玖には一生話せない内容だった。発情した妹を部屋から追い出して、玄斗は涙で枕を濡らすのだった。……ちなみに真墨は違うもので枕を濡らしていたのだが、それはまた別の話。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 思い出がなくとも、想い人と過ごす時間は有限で、大事で、大切で、なにより幸せだ。そんな思わず頬が緩むぐらいの登校時間。残念なことに隣町まで電車で通う白玖とは駅で別れ、絶賛学校まで徒歩で向かっている最中である彼の横には――当然のような様子で真墨がいた。

 

「~♪ ~♪」

「…………真墨」

「なになにー? どしたのお兄」

「みんな、見てるけど」

「そだねー」

 

 いつぞやのカーリング女子を彷彿とさせる台詞も音符が乗りそうな勢いだった。るんるんと幸福オーラを撒き散らしながら、真墨はぎゅっと玄斗の右腕に掴まっている。その様子を眺めるのは大勢の女子、女子、女子。おそらく飢郷某なら魂が消し飛んでいる。そんな地獄の最中だった。

 

「ねえ、なにあの子」

「か、会長の腕に抱きつくなんて……!」

「妹ちゃんじゃないの?」

「たぶん……」

「でも、あのふたりそんなに仲良かったっけ……?」

 

 十坂兄妹不仲説はどうやら校内でも周知の事実だったらしい。不審な様子で観察されるというのは妙に居心地が悪かった。なにぶん変わる前から学校での接触は最低限にまでしていた妹である。今になってなにを、というのが玄斗の本音だった。

 

「……いいの? あれだけ、学校では避けてたのに」

「いいのっ。いまは、理由が違うから」

「理由……?」

「前までは、お兄と距離を置いてお兄に引っ付こうとする虫を追い払ってた。めんどいから。いまは、お兄をあたしのものって主張してる。そっちのほうが、都合が良いし」

「どういう風に……?」

「まずあたしがお兄と引っ付ける。最高」

 

 むぎゅっとより強く腕を抱く真墨に、玄斗はため息をつきながら苦笑した。

 

「……当たってるよ」

「あててんの♡」

「85」

「ッ!?」

 

 言った瞬間、しゅばっと真墨が飛び退いた。玄斗が取れる最終手段である。前世知識のこれ以上ない有効活用とも言えた。

 

「て、てめえお兄! セクハラ! えっち! 結婚しろぉ!」

「往来だよ、真墨」

「いや待て! まじで待て!? なんで分かった!? 言え!」

 

 真墨の問いかけを無視して、昇降口まで向かう。今日も天気はとても晴れ晴れとしていた。




  
>85

ちなみに白玖は79、先輩が88、零奈が83。

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