ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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お休みがとれたのでいっぱい書いていこう


イメージカラーはやっぱり

 たとえば、廊下を渡るときの綺麗な姿勢だとか。何気ない動作のひとつだったりとか。そういうのが良くも悪くも印象的な人間はわりと多い。二之宮赤音は前者にあたって、その行動のひとつひとつがぴっしりと決まっているようで見ていて気持ちがよかった。

 

「ちょっと」

 

 そんな彼女にすれ違いざま呼び止められたのが、入学式の翌日だった。肩を跳ねさせた玄斗と対照的に、隣を歩いていた白玖が不思議そうにふり向く。見間違いや聞き間違いではもちろんない。彼女の左腕につけた腕章が、しっかりとそうであることを証明していた。

 

「そっちのあんたよ、十坂玄斗」

「……赤音さん」

「こっち向きなさい。ほら」

 

 早く、と急かす彼女の言われるがままに、玄斗は気をつけのまま百八十度回転した。語調が荒いのは公の場ではないからで、すこし不機嫌そうな理由は、まあ、玄斗の記憶にも覚えがある。詳しく説明すると、ちょうど昨日のあたりに。

 

「……すいません。先日は」

「そうね、人の挨拶を聞かずに女の子と喋ってるなんて、良いご身分よね。あの場じゃなかったらぶん殴ってるわよ」

「…………本当に申し訳ないです」

「ま、過ぎたコトだし済んだコトだし一先ず置いておいてあげるけど……。ちょっと、姿勢緩めるな」

「はい」

 

 ピン、と赤音の言葉にいまいちど背筋を伸ばしながら、玄斗は気を引き締めた。隣で同じように立ち止まった白玖は、いったいなんだろうと変わらず不思議そうに首をかしげている。

 

「――ネクタイが曲がってる。まったく、そんなんじゃ腕章ごとゴミ箱に捨てるわよ」

 

 きゅっと掴んだネクタイを直しながら、耳元に顔を近付けた赤音がぼそりと呟く。急接近にしてもすぎる(・・・)距離。色んな意味で心臓が飛び跳ねる想いは、どちらかというと緊張のほうが高くあった。その言葉に、玄斗的に無視できない部分が多々あったりはしたのだが。

 

「……前、その話は辞退したはずですけど」

「席と腕章はとってあげた。いつでも来なさい、トオサカくん? ……そろそろ観念して、降参することをおすすめするわ」

「…………、」

 

 観念するかどうかはともかく、やっぱりその腕章は絶対に受け取れないと思う玄斗だった。

 

「それと、あなた」

「あ……私、ですか?」

「壱ノ瀬さんよね。たしか、今年に転入してきた」

「は、はい。そうです。玄斗と同じクラスで――」

「言っておくけど、期首考査で下手な点数とったら承知しないから。ましてや、その男に色々と(・・・)世話を焼かれているようだし」

 

 と、聞いていて玄斗はすこしだけ驚いた。不思議なもので、その台詞は転入当初に原作の主人公が言われたモノとほんのちょっぴりだけ似ている。もちろん、前半部分のみで、後半のいっさいを切り落とした場合に。

 

「え、えっと……」

「言いたかったのはそれぐらいかしら。うん、それじゃあね。壱ノ瀬さん。玄斗(・・)、あんたは首洗って待ってなさい」

 

 ニコリと綺麗すぎる笑顔で別れを告げて、赤音はスタスタと廊下を歩いていった。嵐の過ぎ去ったような跡地には、そこそこの見物人と、なにがなんだかといったふうに首をかしげる少女と、どこか申し訳なさそうに立ち尽くす少年のみ。

 

「……あれが、生徒会長?」

「……うん。いつもはもっと、こう、笑った顔が似合う人なんだけど」

「ていうか期首考査あるんだね。当たり前か。いつ?」

「来週」

「来週かー……来週?」

「? うん」

 

 そうだけど、となんでもないように口にする玄斗。とくに心配もなにもしていない表情だが、白玖にとってその情報は人類滅亡よりも重くのしかかった。

 

「知らないよそんなの……!? え、うそ。まずい? このままじゃ私あの生徒会長になんかされちゃう!?」

「なにもされないと思うけど……点数が悪かったら、目は付けられるんじゃないか?」

「玄斗教えて!」

「もとからそのつもり」

 

 勉強ぐらいは、という思いもある。波乱からはじまった一年が平穏に進むべくもなく。これから先もきっとそうなのだろうと、なんとはなしに玄斗は直感した。波瀾万丈、商売繁盛、諸行無常。なにはともあれ、人生とはことさらうまくいかないものである。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ガチリとカギを開けて、真っ白なドアが開かれた。

 

「さ、入って入って」

「……お邪魔します」

 

 古馴染みの幼馴染みとはいえ、玄斗がこうして白玖の家に来るのは今日を含め数えるぐらいだった。幼い頃に数回程度である。中はこれといって古びた様子もなく、かといって散らかっている様子もない。手入れが行き届いているあたり、本当に苦労しているんだろうな、と思わず白玖のほうを見てしまった。

 

「? なに、どしたの」

「……今度から、たまに顔を出そうか? 家事なら僕でもすこしは」

「無理しなくていいって。まあ、玄斗が来たいって言うんなら良いけどー?」

「じゃあそうするよ。頭が回ってなかった。さすがに君ひとりじゃ、荷が重すぎるだろうし」

「……心配性だなあ、玄斗は」

 

 やれやれと苦笑しながら言う白玖に続いて、玄斗も玄関で靴を脱ぐ。上がり框を踏んで、そこから一メートルもいかないところで左側に扉が見えた。すこしだけ神妙な顔つきになった白玖が、ドアノブに手をかけて「ここだよ」と笑う。玄斗は手に提げたレジ袋から買ってきたものを取り出して、ゆっくりと家主に続くかたちで部屋に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。お父さん、お母さん。覚えてるかな、これが、昔一緒に遊んでた玄斗」

「……君のお母さんとは一度会ったぐらいだったから、たぶん、覚えてないと思う」

「そんなことないって。あの頃のお母さん、お見舞いに行ったらいつも前の子とはどうしたーとかどうだーって、うるさかったんだもん」

「……そっか。じゃあ、覚えられてはいたってことだ」

「うん。お父さんなんて、玄斗のことすごい構ってたしねー。ちょっと、嫉妬しちゃった」

「それは、ごめん。……ちなみに、いつ?」

「一年前。私が中学にあがった頃には、もう元気をなくしてたからね。いつかは、って思ってたけど。……やっぱり、実際そうなるとくるよ、結構」

 

 線香を供えて手を合わせながら、熱心に、熱心に拝む。もとより身体が弱かった白玖の母親は、ちょうど玄斗が彼女と出会った十年ほど前に亡くなっている。それから父親も他界したというのは、()から知っていた話だ。せめてどちらか一方でも不運が絡んでくれればと思わないでもない。例えるなら本当に、事故であってくれたなら。自分の身を犠牲にしてでも、辛うじて残すぐらいはできただろうに。――原因は、病だ。

 

「……お墓は、こっち?」

「そう。お母さんと一緒に。だから無理いってこっちまで戻ってきた。お墓参りもそうだし、なにより……この家には、三人で暮らしてた思い出がいっぱいあるから」

「……うん」

「早すぎるんだよね、本当に。三十だよ? まだ。だっていうのに……あーもう、あれだ。お父さんはお母さんが好きすぎるんだよ」

 

 何年経ってもバカップル、なんて白玖はからかうように言った。辛さと、悲しさと、それ以外のなにかを合わせたような複雑な顔をして、ちょっとだけ、口角をつり上げた。

 

「……今度、一緒にお墓参りに行ってもいいかな」

「もちろん。お父さん玄斗のこと気に入ってたし、きっと喜ぶよ」

「だといいんだけどね。……一言、伝えたかったんだ。ずっと」

 

 ――ごめんなさい、と。なにもしなかったワケでもないが、なにもできなかったコトは後悔していた。おそらくすべてぶちまけて話して、なおかつ「馬鹿げたコト」だと切って捨てられなければ、眼前の少女――壱ノ瀬白玖にどんなコトを言われても仕方ない。命の重さは人一倍、玄斗自身分かっているつもりだった。だって彼は、一度――

 

「前ね、言ったじゃん。そういう格好してたって」

「……ああ、昔の、男の子っぽい……」

「うん。あれね、お父さんが居たからなんだよね。その頃から弱っていく母さんを見てるのが辛かったみたいでさ。お父さん、私が女の子らしい格好してたら「小さい頃の母さんに似てきたね」なんてもうすっごい苦しそうな笑顔でさ……子供ながらに、あれはないって思ったよ。お父さん愛想笑い下手すぎ」

「……そっか。そういうことだったのか」

 

 だから一人称も変えたのだろうか。昔は「おれ」と言っていた彼女も、いまや立派に「私」となっている。あまりにも格好と違和感がないものだから、どちらも自然に受け入れていた。男だった立場の人間が、女になっただけ。そう考えるのは、どうにも難しいだろう。

 

「……そんな顔しないで。まあ、たしかに? 辛い時期はあったし、もう泣きそうになるぐらい悲しんだこともあったけど……でも、いいんだよ。私は」

「……なにが、いいんだ……?」

「ん? そりゃもちろん、辛いことがあった分、悲しいことがあった分、お釣りが来るぐらい幸せなことがあったからでしょ」

「――――、」

 

 そう言って、壱ノ瀬白玖はゆるく笑った。幼い頃を思い出させるような、純真無垢な笑みを浮かべて。

 

「……そう、なのか」

「うん。もうね、本当良かった。こっちに戻ってきて」

「……ああ、なら、僕もちょっと、安心した。ちなみに、その幸せなことって?」

「教えなーい」

 

 乙女の秘密だよ、とウインクをして白玖は立ち上がった。一先ず挨拶はここまでらしい。部屋から出ていく彼女の後ろをついて、玄斗も廊下に出た。やっぱり、女子ひとりで住むにはこの一軒家は広すぎる。

 

「……白玖」

「はいはい、なあに、玄斗」

「その幸せが、ずっと続くと良いな。これから先も、ずっと」

「……うん。そうだね。そのためには、玄斗に頑張ってもらわなきゃ」

「――僕に?」

 

 そ、と短く答えて白玖はドアを閉めた。その顔が、ちょうど髪に隠れて見えなくなる。

 

「……分かった。なら僕も、頑張るよ。君の幸せは、貴重そうだからね」

「なーにそれ。私の幸せなんて、案外そこらに埋まってるかもよ?」

 

 灯台もと暗し。得てして、身近なコトほど気付かないものである。玄斗は自分の手を見つめながら、ひとつ覚悟を決めた。――いいや、それは、もとより。

 

「さ、ご飯でも食べよ。今日は私の手作りです」

「手伝うよ。なにもしないっていうのもあれだし」

「どれか分からないけど、じゃあ玄斗を我が家のキッチンに案内しようか。エプロンはお父さんが使ってたやつを洗ってあるから、それでね」

「……さては初めから手伝ってもらうつもりだった?」

「さあ、どうでしょう」

 

 口元をおさえてくすりと笑う白玖は、制服姿のままリビングまでとててーっと走っていった。その背中が、やっぱり幼い頃に追いかけていた少年の像と結び付く。

 

「(……本当、取り乱すまでもなかった。白玖はやっぱり、白玖だ)」

 

 だからこそ、自分のやることも変わらない。壱ノ瀬白玖がそうであるのなら、十坂玄斗でさえもそうであるべきだ。名前も忘れた、記憶だけの、居ないはずの誰かなんて、一切合切関係ない。その意識が残っていたところで、なにがどうなるわけでもない。いまの彼は十坂玄斗で、もとの()には足りないものが沢山あって、ならば、どうするかも決まっていた。

 

「(人生ひとつ。命のひとつ。重さはきっと平等じゃない。だからいちばん軽いのが誰のものなのかも分かる。――要はそんなもの、使い切ってしまえばいいんだから)」

 

 

 

 

 

 この身も、心も、すべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――彼は壱ノ瀬白玖という個人を救うために、使い潰すと決めていたのだ。 






これにて一章本編は終了です。あと二話、幕間の物語があるよ、という感じ。


一先ずタグの因果応報くんに仕事をさせましょうね!
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