ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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地雷を踏むのには定評があります

 

『十坂玄斗。同じ学年……だっけ』

『……はい』

『そっか。じゃあ、タメでも良いのかな。よろしく、紫水さん』

『よろしくお願いします。十坂くん』

 

 初対面の印象はそんなもの。ありふれた誰かのひとりで、気にもとめないモノだった。どれだけ周りが騒いでも、彼女にとっては同じコト。どんな魔法を使ったのか瞬く間に学校中の女子から人気を博した彼も、大して変わりはなかった。

 

〝なんて、馬鹿らしい――〟

 

 そうやって見下していたのを覚えている。心の奥底で、なにをそんなと鼻で笑っていた。顔が良い、気遣いが上手い、他人のことを大事にしている。それがどうしたと、きゃーきゃー騒ぐ女子を冷めた目で見ていた。けれど、衝撃的な事実を突きつけられたのはその直後。新入生テストの順位発表にて、一番上に載っていた名前は自分――ではなく。

 

「すごい! 十坂くん一位!」

「うわっ、しかも点数高ぇ! なにやってたんだおまえ!?」

「ほぇー……頭も良いんだ……」

「……名前が出るって、妙に複雑だな。これ」

「なに言ってんだよ学年首席が!」

 

 どん、とチャラい男子に突かれている少年を見る。ふざけているのでも、頭が空っぽなわけでもない。近寄ってくる女子がすこし多いだけで、本人は至って真面目なのだろう。でなければあんな――二位の彼女を大幅に引き離した点数をたたき出せるワケがないと。

 

「なんかコツとかあんのか? 勉強の」

「別にないけど。強いて言うなら内緒」

「えー! なんだよー! けちくせえなあ!」

「内緒だ。こればっかりは言えないし」

 

 頭ひとつ抜きん出て一位。その下は、五や多くても十程度しか違わない大接戦の有り様だった。手を伸ばしても届かない星、というのはああいう感覚を言うのだろう。彼女はたしかに、その星の輝きを垣間見た。つまるところ。紫水六花にとって十坂玄斗という少年は、まったくもって届きそうもない星だったのだ。

 

「――って、おい。もう良いのかよ十坂」

「良いも何も、誘ったのは逢緒くんで、俺は最初から興味ないって言ったし。無理に連れてきたのはそっちだろうに」

「それもそうか。でも一位で嬉しいだろ? 実は」

「……いや、とくに」

「またまたぁ~、にやけてるぞー十坂」

「……、」

「いやいきなり真顔になんなよ……」

 

 だから。その背中を追いかけて。掴めそうなほど近くまで来て。そこへ手を伸ばしたというのに。――なのに、なにも、ない。

 

『どうしてできないの?』

 

 できたのだ。やったのだ。紫水六花は事実そうした。嫌になるぐらい努力を重ねて、ずっとずっと頑張ってきて、耐えてきて、ついぞ届かせたのに。そこがどれほど無意味な場所で、それまでの努力がどれほど無駄だったのかが分かった瞬間。きっと、心は折れかけた。

 

『……そう。よくやったわね、六花。次はもっと頑張りなさい』

 

 折れかけたのに、そんな声をかけられる。もうこれ以上なんてないのに、これ以上と望まれる。まるで悪夢だ。でなければ、覚めない夢を見続けている。本当に欲しかったものがなんなのかも、望んでいた答えがなんだったのかも分からないまま。意味さえ失ってしまえばなにもない。

 

「ああ、紫水さん。今回は一位だったね。おめでとう。次も頑張ろうね」

『俺だってそんなときはあるよ。それより――』

 

 その空虚さを知ってしまったあとでは、そんな言葉すらなにも響かない。

 

 〝――ああ、どうして――〟

 

 ずっと、追い続けていたのに。その背中を眺め続けていたのに。それに追い付きたいと、いつかは並びたいとさえ思っていたのに。そんな夢はもう、二度と見られない。だって、もう辿り着いてしまったから。一度、その場に立ってしまったから。それで手に入らなかった。ならばどうすれば良いのだろう。分からない、分からない。だって、だって、だって――

 

 

 ◇◆◇

 

 

 文化祭が一か月後にまで迫っていた。出し物や演目すら決めていない状態に危機感を覚えた玄斗は、そろそろ本腰をという形で生徒会を主軸に動きをはじめさせた。まずは実行委員会の結成、および各クラスからのメンバー募集である。生徒会三大巨頭の人気もあいまって、立候補者は非常に多いらしかった。なお、その生徒をざっと見てふるいにかけるのが我が校の誇る親の七光りである。

 

「任せろ玄斗。こういうのは得意だ。昔から陰険な争いは好物でな。仕事もしねえようなゴミどもは全員排水溝にぶち込んでやるよ……!」

「ハァイ、ジョージィ。生徒会はいいぞぉ……」

「そんなこと言って僕を会長に据える気だろう。騙されんぞ」

「おまえらはもっと真面目にやれ?」

 

 なんてやり取りをしたのが二日前。本日は快晴につき校外活動である。早速といった形で玄斗が取ったのは、隣町の有名な学校――私立筆が丘女学院へのアポイントメントである。狙いは諸々の事情を知っていれば丸分かりだった。

 

「いい天気だね」

「そうですね」

「…………、」

「…………、」

 

 そんな道すがら、投げかけて会話をばっさりと切り捨てられながら「なんだかなあ」と玄斗は空を見上げる。ひとりではアレだからと同行を申し込めば、生徒会男子勢は軒並み忙しさで絶望的。他の男子は色んな意味で危ないので却下。女子に頼もうにしても、彼が精神的気軽に誘える相手からの答えは――

 

「え? あ、ご、ごめん会長! ちょっと今日は、あたし、急用があるかなーって……」

「先輩と他校に? どうして私が行かないといけないんですか?」

「あんたと行くなら蒼唯と行くわ。ほらほら、さっさと散った。あと蒼唯に手を出したらぶっ飛ばすから」

「なぜあなたとふたりで行かないといけないの? それなら赤音と一緒に居た方が……ああ。ちなみに、彼女に変なことをしたら、一生後悔させてあげるから」

「うーん……じゃあ、一緒に寝てくれたらいいよ。あ、もちろん変なことはしないからね? 絶対しないから! いや本当しないっすよ疑り深いなあお兄は……まあ私からはしないってコトだけど

 

 最後はともかく四人揃って撃沈である。この世界の十坂玄斗はよっぽど原作ヒロインの琴線に引っ掛からない生き方をしていたらしい。ベースは同じ人間なのだからそう変わらないのだろうが、一体どのあたりが違いとなっているのか。そこら辺を現実逃避気味に考えてみたが、玄斗にはさっぱり分からなかった。

 

「…………、」

「……紫水さん」

「なんですか」

「もしかして、機嫌悪い?」

「いえ」

 

 そんなこんなで、筆が丘女学院への交渉パートナーは彼女――紫水六花である。背中まで届く長い三つ編みに、紫色の髪と瞳が特徴的な生徒会会計担当。普段は眼鏡をかけているあたり、肉眼での視力はそこまでないらしい。時折外しているときに声をかけて睨まれるのはそのせいだと思いたい玄斗である。実際かけている間は睨まれたことがないので、そのとおりではあるのだが。

 

「……行事ごとが、あまり好きではないので」

「へえ、意外だ」

「学生の本分は勉強です。すくなくとも、私はそう思います」

「……だから、勉強さえしていればいい……とか?」

「それは極論でしょう。けれど、たまに思います」

 

 否定しないどころか肯定する勢いに、なかなかの勉強マニアだと玄斗は苦笑した。勉強ができても得するコトはひとつふたつあるかないか程度だ。それがすべてというワケでもない。玄斗に関しては本当に勉強ができる()()というのがその謙虚さに拍車をかけている。

 

「……勉強もいいけど、もったいないよ。それだけだと」

「それ以外を知りませんから」

「……なら尚更だよ。たまには、息を抜いてみるのも良いんじゃない?」

「…………、」

 

 ぴたり、と六花が足を止める。優等生、という言葉がよく似合う少女だ。それこそ玄斗以上に真面目でしっかりしている。イメージというべきか、印象は元の彼女ともそんなに変わらない。ともすれば蒼唯以上のクールさ。とても知的で、取り乱した様子を見たことがない少女。

 

「――あなたには分からないでしょう。私の気持ちなんて」

「……紫水さん?」

「……それだけです。無駄話でした。はやく行きましょう」

「……、」

 

 ふり向きながら言われた一言に、玄斗は目を細くしながらスイッチをいれた。ぐるぐると足りない頭を回していく。考えていられるのは生きている証拠だ。生きている以上、考えないという選択肢はない。分からないといったその意味を、そのままで流していいはずがない。

 

「(いや……なにをしてるんだ、〝俺〟って人間は――)」

 

 残念なことに、いまの十坂玄斗はそれを無視できるような鈍感さは持っていなかった。





僕玄斗→幸せを掴んだまっとうな正当進化系。心の強度はオリハルコンを超えてる。

俺玄斗→壊れた心が歪に歪んで衝撃に曲がった結果の分岐進化。心の強度は壊れても気にならないという意味でボロボロの粘土。それに針金ぶっさしてギリギリ人型保ってるよって感じ。


ちなみに基本俺玄斗くんの考えって「正直彼女以外はどうでもいい」なので他ルートはよそ見もしていなかったりします。

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