ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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日曜日なのに1話しか更新できなくて本当に申し訳無い。


ガンバリマス

 彼にとっては幸せで、彼女にとってはまあ、なんとなく良いものだとしても。誰もがそうというワケではないように、誰かの幸せは単純に誰かの不幸である。例えば、仲の良いふたりの後ろをついていた六花とか。

 

「あれ? 壱ノ瀬さん。髪、ちょっと染めたの?」

「えッ」

「あ、いや、勘違いならごめん。なんか、毛先がちょっと黒っぽく見えて」

「……ま、まあ、そうですけど……ちょうどそういう感じに軽くしましたけど……! なんでこういうのに気付くのこの人……」

「あ、やっぱりしてたのか」

 

 納得しながら、さも慣れた手つきで玄斗が白玖の髪に触れた。ちょこんと指をあてるぐらいの優しさである。幼馴染みだった頃の名残だ。白玖相手ではパーソナルスペースが極端になる少年の行動も、ここ数週間で徐々に慣れてきたらしい。ちょっとだけ頬を赤くしているのは、それでもやっぱり距離感がおかしいという彼女の乙女心だった。

 

「……似合って、ませんか……?」

「いや、すごく良いよ。僕としては、とってもその髪色をおしていきたい」

「ええ……そこまで……?」

「うん。そこまで」

 

 にっこりと笑う玄斗に、白玖はさらに顔を赤くしながらそっぽを向いた。事実はどうあれ、男慣れなんてそれこそしていないお嬢様学校の生徒会長が、なんの因果か奇妙な出会いを切欠に他校のイケメン生徒会長に迫られている。そんな漫画みたい展開の最中にいる白玖である。とても、平常心というのは難しい。

 

「……まあ。十坂さんがそこまで言うなら……良いん、ですかね……」

「良いよ。なんか、こう。ああ、白玖だなあって思うから」

「なんですかそれ……?」

「なんでもない僕の主観だ」

 

 笑いながら言って、玄斗はうんとちいさくうなずいた。本当に良いと思う。それは正真正銘本心から湧き出た言葉だ。原作どおりとはまた違う。玄斗の心にひっそりと、見えない部分から支える程度に寄りそっていた彼女の髪色。それを垣間見て、心が暖かくなった。これであと百年は戦える。今までのコトが消えたからどうしたと、強気の態度で挑めそうな気分だった。

 

「……ずいぶんと、親密なのですね」

「うん。白玖とはわりと、最近よく会ってるよね」

「そ、そうですけど……! それをはっきり言うのは、あの、その……は、破廉恥ですよ!」

「そうかな?」

「そうです!」

「……本当に仲がよろしいようで」

 

 ため息をつく六花に、白玖は苦笑いで、玄斗は笑顔でうなずきつつ答える。本当に、見事なまでに、綺麗な笑顔。今までの彼とは大違いの、なによりも楽しげな表情。それを引き出したの紛れもなく白玖なのだろう。――そう考えて、胸に杭が打ち付けられた。浮かび上がる疑問をかみ殺しながら、ぐっと拳を握ってこらえる。

 

〝――どうして……!〟

 

 そう思う心を、必死で食い止める。笑う彼。嬉しそうな彼。幸せな彼。それを引き出したのは、自分じゃない。隣に居るのは紫水六花ではない。ぜんぶ、どこから来たのかも分からない人間に奪われて――

 

「……こんな感じです。学校紹介は、一通り終わりました、けど……」

「そっか。ありがとう。大体分かったよ。あとはこっちも戻ってから色々とまとめていく」

「……もう帰るんですか?」

「期限があるからね。早いに越したことはないだろう?」

「そっか……そうですよね……」

「……もしかして、まだ一緒に居たかった……とか?」

「い、いえっ! そんなことは!?」

 

 あたふたと手を振る白玖に、玄斗はむっと考え込んだ。考えていれば分からないコトはとても少ない。いくら鈍いといってもこれだけストレートであれば気付かないワケもなかった。白玖の反応から見ておそらく図星だ。どうするか、と数瞬悩んで、

 

「……帰り」

「別に私はその――……え?」

「帰り、迎えに来るよ。それまで、待っておいてくれると嬉しい」

「……わ、分かり……ました……」

 

 か細い声で呟いた白玖に手を振って、玄斗はそっと踵を返した。帰ろっか、なんて近くにいた六花に声をかける。うしろの少女はぎゅっとスカートを握って、なにやら色々と堪えているようだった。その光景に、またも胸が締め付けられる。

 

「…………っ」

 

 失敗だった、と六花はここにきてようやく理解した。こんなのは生き地獄だ。手を伸ばして届かせても無意味だった星を、たやすく手にかけておさめようとしている他人が居る。我慢なんてしていなければ暴言のひとつやふたつは吐いていた。だって、そうだ。きっとなにもしていなくて、なにもなかった筈だろう誰かがソレを受けて。自分には一切返ってこないなんて、そんな――

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――ふと、帰路の途中で六花が足を止めた。ふたり分の足音がひとつになる。決定的な音のズレに、不審に思った玄斗がふり向く。彼女は、ゆらりと俯いていた。

 

「……紫水さん?」

 

 とりあえずと声をかけてみる。反応は、ない。立っているのだから、意識を失っているのでもない。無視をするような人柄でもないのだから、返事がないというのは余程だ。不審だという感情が一気に不安へ切り替わった。くるりと体ごと反転すれば、なんともよく見える。

 

「……会長は」

「うん」

「……変わりましたね……とても」

「そうだろうね」

 

 なにせ、中身ごと丸々入れ替わっている。いまの彼は明透零無であって十坂玄斗ではあるが、厳密には十坂玄斗ではないという一言では表せないモノだ。原作ヒロインに見向きもせず、白玖と出会うことはなくて、関係性そのものを否定してきた誰かではない。ならば、変わって見えないほうが無理というものだ。

 

「……彼女の、せいですか?」

「そうかもしれない」

「っ……どう、して……」

「どうしてって言われると……うん。どうしてだろう。分からないけど、でも多分彼女だからだ。それは、間違いないと思う」

「――――」

 

 玄斗に悪意はない。彼は真実壱ノ瀬白玖を好いている。なにせ恋人にまでなった相手だ。別に、おかしなコトを言っているワケではない。ただこの場合、言った相手と、立場と、環境と、経歴が問題だった。言ってしまえば彼ではない彼の責任か。なにより当然のごとく、彼は紫水六花という少女を知らなさすぎた。

 

「……どうして、なんですか……」

「……えっと、だから……」

「――どうして、私じゃ駄目なんですか……っ」

「――――、」

 

 顔をあげた彼女の瞳に、涙が浮かんでいる。一瞬、思考が止まりかけた。

 

「紫水さん……?」

「私は……っ、私だって……! 私だって!」

 

 ぎゅっと拳を握り締めながら、六花が叫んだ。その光景にまたもや驚かされる。だって玄斗の記憶はあてにならない。似ているからか、そのものだからか、一緒だと思っていた。真実彼はもとの流れで、紫水六花が取り乱した瞬間を一度も見たコトがない。

 

「私が……っ、どれだけ努力してきたか、知っていますか……!?」

「それ、は……」

「私がどれだけ頑張って、必死になって……してきたか、分かりますか……!?」

「――っ、……」

 

 なにか言おうとして、喉に詰まった。なにも言えるまい。なにせ玄斗はぜんぜん知らない。生きてきた場所が違うのだ。文字通りの意味なら尚更になる。知っているとは、気軽に口に出せたものでもない。

 

「ずっと……ずっとずっと、あなたに並びたくて、あなたに追い付きたくて、頑張ってきたんです! 私にはそれしかないから、そうすればって……! あなたの居るところまで行けばって思って、必死に、必死に頑張ったんです!」

「…………、」

「なのに――ぜんぜん、なにもなってない……!」

 

 震える声と、知らなかった過去。吐き出しているものに彼は一切の覚えがない。なのに、どこか重なる部分があった。誰とも知らない、ずっと自分を無視して生きてきたどこかの誰かに。

 

「……それは」

「追い付いたじゃないですか……私、あなたのところまで、行ったじゃないですか……! それじゃ、駄目だったんですか……!?」

「……僕の、ところ……」

「一番になって、あなたがずっと居たところにまで行ったじゃないですか! そのためにずっと頑張ってきたのに! もうこれ以上なんてないって、思ってたのに……!」

 

 〝――――ああ、そういうことなのか〟

 

 把握して、玄斗はちいさく息を吐いた。一番。それが指し示すところは、すでに十分なぐらい情報が揃っていた。一度だけ取り逃していた首席の座。それが怠慢や偶然によるものでもなく、ただ単に彼女の努力だというのなら仕方ない。だからこそ、悔しいぐらいに玄斗には分かってしまう。

 

「まだ頑張れって……言われて、次も頑張れって……あなたにまで、言われて。違う、のに。私が欲しかったのは、そんな、そんなのじゃ、なかったのに……っ」

「…………、」

 

 〝……そりゃあ、そうだ。それじゃあ駄目だよ。〟

 

 そんな言葉をぐっと飲み込む。言って良いコトと悪いコト。思っても口に出してはいけないことだってある。そんな言葉だった。分かりきってしまったが故のものだ。あんな日記を付けていて、読めば自然と理解する。十坂玄斗は――ここに居たはずの明透零無は、その程度のモノで揺れてくれるほどできた人間じゃない。

 

「どうして……っ、なんで、なんですか……! 私、ずっと、ずっと頑張ってきたのに……! いっぱい、努力だってしてきたのに……! なんで…………!!」

「……紫水さん」

「こんな、なんの意味もなくって――」

 

『…………そっ、……か…………』

 

「――――、」

 

 どう声をかけるかと迷った刹那。ある筈もない、軽いその口調をたしかに玄斗は聞いた。知っている。どうりで重なるワケだと、思わずため息でもつきたい気分だった。なにがどうでもなく答えは初めから知っている。

 

「……そっか」

 

 だから、繰り返す。繋げる。きっと渡されたモノは残っていく。十坂玄斗の実になって、彼を形成した大切な言葉。その答えのひとつだった。ずっと、ずっと、普段の彼女とは比べようもないほどになるぐらい生きてきた少女にかけるのは、たった一言。

 

「――――紫水さん」

 

 そっと、優しく抱き締める。空はいつの間にか茜色に染まっていた。それがまた、いつかの風景を思い出させて。今度はこちら側におまえがなるのかと、内心でぼやいた。本当に、変わり果てているなと笑って。

 

「よく、頑張ったね」

「――――――っ!!」

 

 いつかの言葉を、彼女にかけていた。 






紫メイン章なんですけど、そのあたり章タイトルを読んでもらえると「あっ……次かあ……」って感じかもしれない。

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