ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
イメージカラーは白。容姿はそこそこ普通。髪の色も肌の色も新雪を思わせるような純白で、見た目はどちらかというと痩せている。活発的ではない身体と、気弱そうないつもの態度から、生徒間でのイメージは良くも悪くもありきたりな少年。原作ゲーム、「アマキス☆ホワイトメモリアル」の主人公――壱ノ瀬白玖は、そんなキャラクターだった。
『やっておくよ。ちょうど、手が空いてたから』
『うん。任された。人助けぐらいはしないとね』
『放っておけないだろ。ほら、困ってる人とか』
『いいよな、家族。……玄斗もそういや、妹がいるんだっけ』
混じりけがない。純粋で綺麗なまま。白から想起されるものにそういったものはあれど、壱ノ瀬白玖にいたってはそうでもなかった。
『白玖。あんた、ちょっと不気味よ』
『……まっさらな、キャンバス。……せんぱいは、そんな、感じ……』
『白紙のページ。あなたと会話してると、それを読んでるみたいな気分になるわ』
『うーんとさ……どうして壱ノ瀬は、そんなに辛そうに笑うワケ?』
『あはは……あー、お兄が言ってたとおりだ。センパイ、ちょっとやばいっすねー』
目に見えるものは弄りやすい。実際にあるのなら尚更だ。が、見えないものをどうこうするとなると途端に難しくなる。原作のゲーム開始当初、すなわちどのルートにも入っていない状態での言動、壱ノ瀬白玖は薄味の、個性がすくない普遍的なギャルゲー主人公だった。
『誰もいない。なにもない。残ったものだけ大事にして、ずっと、引き摺りながら歩いてる。――俺なんて結局、そんな醜い人間ってことだよ』
だから、ルート分岐にさしかかった瞬間。はじめて晒された彼の心中に、思いっきり囚われた。幼い頃に母親を亡くし、それから次いで父親も後を追うようにこの世を去った。不思議と家に誰もいない。その理由付け程度の設定だと思っていながら――実際どうか。そんなコト、まだ成人もしていない少年の心が、耐えられるワケがなかったのだ。
『腹が立つのよ。白玖。あんたにとって、私はなに?』
『せんぱい、は……! ひとり、じゃ、ないです……!』
『許さないわ。そんなの。そうやってずっと思い悩むぐらいなら、私があなたを……!』
『……大丈夫だよ、壱ノ瀬。すくなくともあたしは、ここに居るから』
『……ま、当分は一緒にいてあげますよ。センパイのこと気にかけてるのはあたしだけじゃありませんし』
でも、物語には救いがある。自分の幸せを見つけて、失いかけていた心のカタチを取り戻していく。ルートに入ったヒロインと一緒に、自らの歩むべき道を進んでいく。全年齢向け恋愛シミュレーションゲーム「アマキス☆ホワイトメモリアル」の本編内容は、おおまかにまとめるとそんな感じだった。途中まで主人公がヒロインを攻略し、ルートに入ればヒロインが主人公を攻略してくる。言うなれば、壱ノ瀬白玖を救うためのシナリオ。
――そこで重要な役割を担うのが、十坂玄斗だ。
『おはようだな、白玖。ところで、なにか聞きたいことでも?』
各ヒロインの好感度表示、どうすれば良いのかという軽い助言、現在の雲行き……つまりイベント進行度がどうなっているのか。ありきたりで使い古されてはいるが、なぜかヒロインの情報を完璧なまでに管理するお助けキャラ。各所で「こいつの情報収集力は人間超えてんだろ」と言わしめたものである。
『僕はずっと……踏み入れなかったな。白玖、きっと、おまえの心を開いてくれるのは、僕じゃない誰かだと思ってた。……それに頼ってるんだから、友人失格だ』
『そんなことねえよ、玄斗。……おまえのおかげだ。ありがとう』
『……なら、いいんだ』
そんな立ち回りを、ある日、突然、衝撃も冷めやらぬままに求められた。
「おれの名前は
「(え――――)」
十坂玄斗。二度目の名前は偶然だとぼんやり考えていた。なのに、目の前に現れた少年によって、ここがどういう世界なのかも理解してしまった。
『本当、泣かないなあ、白玖は』
『いや、泣くぞ? 玄斗。俺だって、涙ぐらい』
『そうかな。僕には君が、泣いているようには見えないけど』
『……? 変なコト言うんだな、玄斗は』
壊れたココロ。歪んだ思想。家族を失った辛さに耐えかねて、ぽっかりと穴が開いたようにふらふらと歩く。まるで死んだように生きている。壱ノ瀬白玖の本質はそこだ。そんなものが少年の未来に待っている。あまつさえ失敗すれば、ずっとそのまま生きていく。――やるかどうかは、すぐに決まった。
「……僕は
「おう! よろしくな、玄斗!」
願わくば、その笑顔がずっと咲き続けることを望んだ。
「きっといつか、白玖を幸せにする」
――それは、彼自身ではないとしても。そうしなければならないと、頭では分かっていた。油断か、慢心か。信頼かも分からない。されど、見方によってはそれは、間違いでしかない。
「赤音さんって、やっぱり優しいですよね」
「……きっと、大丈夫。なんなら僕も協力する」
「先輩、甘いもの好きなんですね。意外です」
「……ご趣味は?」
本当に、欠片も、片隅にすらそれは置いていなかった。あまりもの、こぼれたもの。そんなものですら不要だと思った。すべては彼のために。壱ノ瀬白玖がもう一度笑えるために、辛さをひた隠しに進んできた彼にいまいちど笑顔を取り戻すために。
「(ああ、そうだね。おかしい。でも良いんだ。これぐらいしなきゃ、釣り合わない)」
――君のためなら死ねる。
一度経験してもそう思えたのは、偏に彼の歪さだった。自分のすべてが溶け落ちてなくなっていく感覚を覚えておきながら、いまいちどその経験をできるものか。けれど、生きている以上は嫌でもしなければならない。カタチあるものはいつしか終わる。生きているならばきっと死ぬ。明日か、明後日か、遠い未来か。それまでの全部を、彼は壱ノ瀬白玖のために使い尽くすつもりだった。
なのに。
「えっと、今日から転入してきました。
いざはじまった二学年の一学期、転入してきたのは同姓同名の女子だった。そりゃあ混乱もする。困惑だってする。どういうことなんだと言いたくならなかったワケがない。なにせ彼のなかには「壱ノ瀬白玖=男」という図式が完璧なまでに刷り込まれていたのだ。まさか、女だなんて、そんなまさか、と。
「(……まあ、それはそれで。なにかあったのか、白玖は……違うみたいで、同じだし)」
探ってみたところ、同性愛の気……はないように思う。原作ヒロインとの接触も果たしたが、とくにどうこうといったものもない。それはつまり、いままで彼がやってきたコトすべてが無に帰したというコトでもある。
「(ま、いっか。それは。たかだか数年程度の努力の意味がなくなっただけで、いまさらどうってこともないし。白玖さえ幸せそうなら、それで)」
よって、問題は意味がなくなっても思い出はなくならないということになる。
「(……理由がなくなったら動くあたり。本当、どうかしてる)」
白玖の幸せに関係なくなった瞬間、やり方は頭に浮かんだ。胸を占有する気持ちだってそうだ。そもそも、白玖がどうのこうのという前に答えは決まっていたようなものだろう。だから、なんでもない。――背後から聞こえる、低い声のコトなんて。
『ズルいよね』
ひたひたと。這って、立って、引き摺って。
『そこは僕の場所なのに。僕の立ち位置なのに。勝手に君は、君のコトをよくしようとするのかい? それは、ねえ――』
「……うん。分かってる」
「『違うだろう』」
本当に、なんてことはない。死ぬコトに比べれば甘いものだ。幸せに手をかけた瞬間、無性に死にたくてたまらなくなる。そんな彼の感情のコトなんて、二の次だ。一番はずっと、そう。何度も言うように。
壱ノ瀬白玖を、幸せにしなくては。
名前:十坂玄斗
性別:男
年齢:16
趣味:とくになし
特技:(特技と言うほどでもないけど)勉強
イメージカラー:黒
備考:前世の記憶がある転生オリ主系男子。白玖のためなら死ねるを地で行く精神性は歪みきってるので矯正不可能。なお白玖以外の人に対してもそれができるのでわりとヒロインのピンチで死にやすい。世渡り、会話、人との付き合い方が絶望的に下手。作中の約9割はこいつのせい。自分に幸せだと思うことが訪れようとしたときとか幸せを感じた瞬間に無性に死にたくなる。白玖の幸せは別腹。
正直晴れ間が見えないぐらい曇らせようとしたらちょっと甘さを出してしまったので後悔してる。