ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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これにて九章完結。十章はまるまる箸休めです。僕玄斗くんをへし折りたい気持ちと格闘する毎日でしたが実際「白玖が死ねば曇るか?」という想像をしても折れる姿が見えなかったのでお察し。てかそうすると男なのに未亡人感マシマシで真墨ちゃんが死ぬ。


惹かれ合っている

 心当たりがないのかと言われると、そうではない。あの日、打ち上がる花火をよそに彼は言ったのだ。

 

『どうして!』

 

 泣きそうで、崩れそうで、壊れそうで。私の手を握る力はどこまでも強いのに、目に見えている彼はどこまでも脆い。それさえきっと、手を伸ばすべきなのだと思った。他の誰かになにを言われても、自分で決めたことなのだからと。

 

『そんな……考えに、なるんだ……!』

 

 彼は知っている。私のすべてを知っている。私のなにかを知っている。だから、そう思うのだろう。だから、止めようとするのだろう。なんてことないよ、と私は笑った。笑顔をつくるのは得意だ。昔から、そういうモノはずっと。

 

『だって、そのほうが良いよ。目の前で困ってる誰かを放っておくなんて、あんまりじゃない?』

『そのためだけに、生きていくっていうのか……?』

『……さあ、どうだろ』

『そんな、見えない誰かのために……っ、ずっと、君が……無理してでも手を伸ばすっていうのか……!?』

『いやあ……まあ……うん。どうだろ』

 

 決して、誤魔化しはしても否定はしなかった。その気持ちすら、彼は察していた。当然だ。残った欠片なんて傍目に見ても分かりやすい。私が思っているのはその部分で、結局、そこに大した理由もなかったのだ。

 

『でもさ、間違いじゃないよ。誰かに優しくするっていうのは、とっても素敵なことだと思わない?』

『……その過程で君が傷付いちゃ、駄目だろう……!』

『かもしれない。でも――いいんだ。私はね、クロト。そうやって救われて、ここにいるから。それが、はじめて見た綺麗なものだったんだよ』

 

 〝――大丈夫。もう君は、無理に笑わなくていいんだ。〟

 

 そう言ってもらったコトを覚えている。壊れてしまいそうな毎日のなかで、壊れないことを強いられた。そんな地獄から救い上げれらた瞬間を覚えている。それがとても綺麗で、素敵だと思った。はじめてそうあれたらと仄かな希望を抱いた。私のなかの原初の思い。

 

『だから、ごめんね。クロト。私はあなたの気持ちに答えられない。たしかに、そっちのほうが楽しいと思うよ? でもね、それはちょっと、違うんじゃないかなあって。やっぱり、思っちゃうんだよね。……うん。だから、クロトは悪くない。悪いのは、私』

『……っ、それでも……それでも! ()()は――!!』

 

 それが、隠れていた本物だったのだろうか。とても分厚くて、暗い、闇のような壁の向こう。そこに潜んでいる誰かを、私はたしかに垣間見た。俺と言っていた彼が、はじめて口にした別のモノ。

 

『……君が、傷付くなんて、間違ってるって……!』

『……そっか。でも、いいんだよ。何度も言っちゃうけど……』

『……っ』

『私にできるのは、それぐらいだから。それぐらいで、ちょうど良いんだ』

 

 なにもなかった心を埋めたのが、その優しさであるのだから。せめてそれぐらいしなくては、生きている意味がない。自分が自分として立っている理由がない。空っぽだった器に注がれたカタチ。それが、例え汚れに塗れたなんでもない感情だとしても。

 

『ごめんね、クロト。そうやって過ごすのは、きっと楽しいよ。いまよりずっと、幸せだと思う。でもね、それはきっと、私じゃなくても良いから』

 

 そうして、途切れた。学校で顔を合わせることも、たまに目が合うこともあった。けれど、それ以上は干渉してこない。それが彼なりの割り切り方だと思って、気にもしていなかった。まったく、意識の片隅にも。

 

「またね……トオサカ、くん」

 

 ならばと、考えてみた。あれは、なんなのだろう。そうなると納得したように呟いて、漏れ出た息はなんなのだろう。

 

『おでこじゃ足りないよ、十坂』

「――――っ」

 

 あのとき、罪悪感と一緒に溢れてきた。オカシな感情は、一体なんなのだろう――?

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――暗い、暗い、海の底。星の彼方。漂うような浮遊感と、まるで溶けていくような自分の無さ。息苦しさは不思議とない。音も景色もはっきり見える。そんな場所で、ただ眺めている。見せられている。

 

 〝どうして――〟

 

 確信もなく、予想もせず、けれど理想は叶った。事実、時間もチャンスも失った自分に、奇跡は起きた。あとはこのまま消えていけばいい筈を、どうしてか残されている。ココロの奥底。眠るように深い場所まで潜り込んで、ただじっと見るしかないまま。

 

 〝どうして……そうなるんだ。〟

 

 見れば、思うことは山ほどあった。違っている。なにもかもが違いにすぎる。震えるモノがアレと俺は同じだと言っていた。心の在処。はじめに抱いていた形状はまったく同じ。なのに、あれは誰なのだろう。

 

 〝おまえは「俺」じゃ、ないのか……?〟

 

 自分のコトは自分がよく知っている。見ようとしなくても見えてくるものがある。違うワケがない。揺らいでいるワケがない。なにせ、辿ってきた運命は一切変わらない。それは間違いない。たしかにこの心は震えている。同じなのだと言っている。

 

〝おまえは……明透零無じゃ、なかったのか……?〟

 

 酷い景色だった。無い筈の瞼を閉じたくなるほどに、眩しさが目を焼いた。世界が輝いている。くっきりと色付いている。明るすぎてもはや別物だ。どうしてそんな風に見ていられる。目を開けていられる。きっと明透零無なら、そんな風に見ることさえ叶わないはずなのに。

 

 〝どうしてそんな、綺麗に笑ってるんだ……?〟

 

 おかしいだろう、と息を吐く。そんなのは間違いだと。なにがどうすればそんな結果に辿り着く。幻想ではないのだろうか。夢を見ているに等しい。きっと幸せな一瞬の夢。それに浸るぐらいなら、いっそ死んでしまえと――

 

『よく、頑張ったね』

 

 〝…………は?〟

 

 ワケが、分からなかった。ありえない。心を打たれる。だって、そうだ。どうしてと、そんな言葉が無限にわいてくる。同じだ。間違いなく、そこに居るのは明透零無だ。なのに、なぜそんなにも。

 

 〝なんで……だ……?〟

 

 生き方が違っている。

 

 〝ボクじゃ、なかったのか……!〟

 

 いいや、まったく同じ。何度も言うように、明透零無は明透零無でしかない。はじまりに連なった結末はどう足掻いても同じはずだ。それから辿ってきたモノだって、多少の差異はあれど変わらない。ならばどうして、そんな言葉を吐けるのだろう。どうして誰かのために切り捨てる考えを、簡単に否定するのだろう。どうして、どうして、どうして。

 

 〝どうしておまえは――自分のために動いている……!〟

 

 ああ、違う、違う。それは違う。自分なんてものに価値はなくて、意味もなくて、理由もなくて、空っぽでなにより優先順位なんてモノはないはずだ。ありえない、ありえない、ありえない。他の誰かよりも〝明透零無〟の気持ちを優先するなんて、そんな自分はありえない――!

 

 〝なにも無い、ひとつだってありはしない。そう、ずっと……言われてきたじゃないか。それでもおまえは、自分を選ぶのか……?〟

 

 自分に価値なんてない。生きる理由も意味もない。それが明透零無に込められた願いだった。だから、揺らぐことも、変わるコトも、あるはずないのに。

 

〝……おかしいよ。こんな、生きていたって、どうしようもない世界で――〟

 

 それでも、彼は笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ああ、そうだね」

 

 

「僕は君だ。でも、その考えには同意できない」

 

 

「だって、そうだろう?」

 

 

「生きたいから生きていくんだ。掴みたいものがあるから前に進むんだよ」

 

 

「それすら分からない奴に、誰かなんて……救えるはずがないのにね」

 

 

「駄目だよ、俺。その考えは駄目だ」

 

 

「どうしようもないなんて言う前に、君は向き合っていないじゃないか」

 

 

「そんなのは、駄目だ。生きている以上は、しっかり考えないといけない」

 

 

「――それが、僕にできることなんだから」

 

 だから、ついでに教えてあげよう。あんがい世界は、とんでもなく素敵なんだってことを。


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