ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
歩くのも、学ぶのも、生きていく理由さえ他人にはすがれない。
それは真実、とっても恐ろしくて――とっても楽しそうなコトだと思った。
だから、私は。
はじまりはゆるやかに
今日、はじめて朝日を見た。窓ガラスを隔てて街を眺める。時刻はまだまだ早い時間。ビルの隙間から顔を覗かせた太陽が、輝かしいばかりの光を放っていた。遠く、山の向こうから登ってくる陽。
「――――――」
彼女はそれをただぼうっと見詰めている。昨夜にかけた目覚ましが鳴るまであと三十分を切ったことも。最近気になりだしてきたうっとうしい髪の長さもすっかり忘れて。ただ呆然と息を呑みながら、目の前の光景に心奪われている。
「(……綺麗だ)」
こんな時間に目を覚ましたのは、たんなる気まぐれだった。どうにも二度寝する気にもなれなくて、寝惚け眼をこすっていたのが数分前のこと。早起きは三文の得というが、彼女には眼前の風景がたった三文には思えなかった。
「…………、」
価値にはならない絶景。見るものを魅了する自然の輝き。そんなものがお金を払わずに見られる現実。変な話、彼女はそれをとんでもない贅沢だと思った。……いや、厳密に言うならば。きっと、いま目にできるすべてのことが、彼女にとっては躊躇ってしまうぐらい贅沢なモノだったのだ。
◇◆◇
珍しいことに、玄斗はその日の休み時間、偶然すれ違った飯咎広那に声をかけられた。
「ね、ねえ、トオサカ……くん」
「? どうしたんだい」
くるりとふり向けば、件の少女はどこか居心地悪そうに彼を見ていた。一体なんだろう、と首をかしげる。五加原碧が彼の知る彼女になってから数日。日常はとても平穏で、合同文化祭の準備もつつがなく進行しながら白玖といちゃつき、役三名の猛烈なアタックをくぐり抜けている玄斗である。そんな心の油断か、隙間か。
「あの――トオサカくんって、五加原さんと……付き合ってる、の……?」
「え?」
ちょうどそこに、ずぶっと手を差し込まれた。
「……いや、違う……けど……」
「ち、違うの……?」
「うん。……なんで?」
「え、いや、だってこの前――――あ」
「…………、」
ぱっと急いで口をふさいだ広那だが、言いたいことは丸分かりだった。玄斗は気が遠くなる感覚を覚えながら、そっとため息をついた。おそらくはあの場面を見られたのだろう。彼からした方か、彼女からされた方か。前者ならまだ額という逃げ道が残されている。後者なら……まあ、勘違いするなという方がおかしな話で。
「……見ちゃったのか、あれ」
「あ、あはは。あははー……ごめんっ」
「まあ良いんだけど。とにかく違うんだ。誤解。僕と五加原さんは付き合ってなくて――」
「――婚約してるだけだから。ねー?
「ッ!?」
「……碧ちゃん……」
がっくりと肩を落としながら、玄斗は背後から抱きついてきた碧にジト目を向ける。焦っている、というよりはチャンスが巡ってきてはしゃいでいる、といった方が正しい。色々とアレコレ説明した結果、真墨と同じく「結局誰かさんがフリーなのでは?」という思考に行き着いたのは流石と言わざるを得なかった。女子高生は強い。
「ごめん飯咎さん、これも冗談だから」
「あ、そ、そうなんだ……」
「っていう
「そ、そうなの……!?」
「碧ちゃん……」
「んー? なになに?」
ニヤニヤと笑いながら碧は肩越しに話しかけている。背後から飛びかかってそのままおぶられている状態だった。このふたり、事実を否定するにしてはとんでもなく距離が近い。
「というか腰が限界きそうだから突然のアタックはやめて……」
「え? うそ、大丈夫? けっこうそっと来たよ?」
「…………、」
「あ、嘘ついたの? もしかして
「いや……」
「あー! 悪い子じゃん! なにー、本気で心配したのにー!」
「ご、ごめんごめ……ちょっ、髪、髪の毛、くすぐったいからっ」
ぐりぐりと首筋から頬にかけてのダメージに悶えつつ、やいのやいのとはしゃぐふたり。ちなみに依然玄斗が碧を背負っている。異常に距離が近い。勘違いするなという方が無理な話である。
「あはは……えっと、やっぱり、そうなの……?」
「ち、違う、から! いや本当に!」
「むー……なんなの。
「碧ちゃんのことは好きだけどそういう関係になるのは困る……!」
「いやいや、困らせないって。ぜったい幸せにするよ、あたしは」
「逃げ道をひとつずつ潰さないでくれ……!」
繰り返すが、異常に距離が近い。さらっと好きとか言っているあたり確信犯と取られてもおかしくない。そも玄斗が拒絶していない時点でわりとアウトだった。それでも彼の心は白玖一筋である。ちなみに今現在想い人との関係は「協力を持ちかけた仲の良い他校の生徒会長」とのところ。狙われるのはやむなしというべきか、なんというか。
「とにかくそういうことで……碧ちゃんそろそろ降りて……」
「あとちょっと」
「…………、」
「…………えっと、私、トオサカくんと五加原さんのこと誰にも言わないから、隠さなくても……」
「ごめん。飯咎さん、誤解なんだ。お願い、信じて……」
――どうしてこんなに必死にならなければいけないのだろう。理由なんて単純だ。因果応報である。そも十坂玄斗が彼でなくて、五加原碧が彼女じゃなければこの光景は成立しない。というかやっぱり距離が近い。本当に距離が近い。
「よしっ、充電完了」
「充電ってなに……?」
「うーん、なんだろ? 分かんないからもう一回やる?」
「いや、いいよ。遠慮しておく。ほら、碧ちゃんも色々あるだろうし」
「えー、いいよ。そんな遠慮しなくて。ほら」
「……まずい。これは致命的に言葉選びを間違えてる……っ」
遠慮という単語を使ったのが失敗だった。まだ数日、されど数日だ。毎晩のようにベッドへ潜り込んであわよくばをしてきた真墨と比べれば、五加原碧はまあ大人しいと言えた。比較対象については深く考えないことにする玄斗である。妹の積極性が怖い。
「ええっと、じゃ、じゃあ私はこのへんで……その、末永く……ね……?」
「待って。いや待って飯咎さん」
「っ」
咄嗟に腕を掴むと、広那の肩が跳ねた。同時に、玄斗もわずかばかり瞠目する。普段から肌が隠れるほどに着込む、それこそ夏でも構わず長袖だった少女だ。見た目からは殆ど分からなかった身体の細さ。ぎゅっと掴めば折れてしまいそうなモノに、自然と力が緩んだ。
「な……なに?」
「……飯咎さん、ちゃんと食べてる?」
「え……?」
「腕、すごい細いからびっくりした。ご飯は三食きちんと摂らないと、体に悪いよ」
「あ、う、うん! 食べてる、よ……?」
「そっか」
なら良かった、と笑いながら玄斗が手を離す。そも線の細さで言えば彼も他人のコトを言えないのだが、ご飯だけはしっかり食べる男である。体調が悪くても食欲は衰えないというのは、今回の彼特有の持ち味なのかもしれない。十坂玄斗は別に大食感というコトもなく、明透零無でしかなければ多く食べられもしないが故だ。
「一先ず、僕と碧ちゃんはそういうのじゃないんだ。ただ、ちょっと、あれは……特殊な事情があって」
「と、特殊な事情……?」
「うん。……いや本当特殊な……ていうかあのときの僕はわりと思考回路がやばかったぞ……」
「
「いやごめん、ちょっと、いやすごく言い方が悪かった。ごめんなさい。だから、あの、拗ねないで……」
「……やっぱりそういう関係なんじゃ……?」
首をかしげる広那をよそに、ふいっとそっぽを向く碧に謝る玄斗。傍から見れば言い逃れのできない構図である。ちなみにそうやって徐々に外堀から埋められている事実を玄斗はまだ知らない。家では妹に、学校では碧に、生徒会では六花に狙われる少年の明日はどっちだ。
「む、玄斗」
「あ、七美さん……」
「どうかしたのか? ……ああ、なるほど」
ふらっと通りすがった橙野七美が、ふんふむとうなずきながらにこりと笑う。
「五加原さんと懇意にしているというのは本当だったのか。いや、めでたいな?」
「違っ……ていうか懇意にしてるってなに……!?」
「知らないのか? クラスでは有名なのだが……最近、五加原さんと生徒会長の距離が異様に近いという話で……」
「あははー。……やっぱこれ結構効果あるんだね……」
「……碧ちゃん、そんなこと狙ってたの……」
「
「気にしないワケがないだろう……」
なんて、そんな噂も流れはじめた十月の終わり。着々と進んでいく時間は、なにも変わらないなんてコトもないのだ。……それが良いものであるのか悪いものであるのかは、当人たちによるところだろう。
◇◆◇
「――はっ!?」
「? ……どうしました、壱ノ瀬会長」
「いや……なんか、こう……ムズムズする感覚が……」
「……お手洗いですか?」
「違う……うーん……なんだろうコレ……なんか直感的な……うーん……」
「……変な会長……」
壱ノ瀬白玖。その立ち位置的にとんでもなく美味しいポジションを逃している少女である。
ということで十章。全体的に優しい雰囲気になります。オアシスだよ。
>アタッカーグリーン
実質ライバルが皆無なので独走状態な碧色パイセン。(学年的に)後輩な妹と(ナンバリング的に)後輩な紫ちゃんを歯牙にもかけない大人げのなさである。彼女を止めるには赤か蒼か白もってくるしかない。
おかしい……メインはこの子じゃないのに……