ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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雨宿りのち、晴れて黄金色

 

 橙野邸を出るころには、天気はすっかり悪くなっていた。使い道がないから、と渡されたビニール傘を片手に玄斗は帰路を急ぐ。さすがに出歩くには遅すぎる時間帯。車の通りも疎らになってきて、歩道には人っ子ひとり見当たらない。

 

「(……にしても)」

 

 ふと、玄関まで見送ってくれた七美を思い出す。彼女が最後に放った一言。それはやっぱり、玄斗としてはワケの分からないもので。

 

『……ああ、玄斗。やっぱり玄斗は、僕だったな。うむ。それを思い出した。――いや、良いな。なんか。ふふ。これが……そうなのかもしれないな?』

 

 結果だけを見れば、そういうことになる。橙野七美は橙野七美に戻った。切欠がよく分からないにしても、良かったといえばそういうことだ。問題は、後半になる部分で。いくら考えても玄斗にはてんでさっぱりな、彼女の憶測だった。

 

「(真墨に、碧ちゃんに、紫水さん……どういう理屈なんだろう。いや、理屈で考えちゃいけなのは、分かってるんだけど……)」

 

 ざあざあと傘を叩く雨音をよそに、考えにふける。昼間は見事に晴れていたというのに、予想もできない本降りだ。この様子だと傘を忘れた誰かが居てもおかしくない。そんな風に、一瞬考えが逸れたときだった。ふと、シャッターの閉まった店先にひとり佇む人影を見つける。

 

「……あれ?」

「……!」

 

 声に反応するようこちらを向いて、カッと目を見開いたのは金髪の少女だった。どこか見覚えがある……なんてほどでもない。どこからどう見ても、その姿は玄斗の脳裏に焼き付いているものだった。いつしか笑顔を「だめ」だと言い切った恩人のひとり。

 

「っ……!」

「あ、ちょっと」

 

 しまったとばかりに駆け出した彼女の腕を、咄嗟に掴んだ。綺麗な髪が雨に濡れる。いや、もとより濡れていたのだろう。なにせ彼女はとことん運がない。だからこそ、ちょっとの不運ぐらいは背負ってみせるなんてとんでもない啖呵を切れる。そういうところが、後輩のくせにちょっと頼りがいがあってなんとも。まあ、そんな少女はすっかり違ってしまっているのだが。

 

「離してください……!」

「いや、そのままだとずぶ濡れになるよ」

「だから、なんですか……?」

「風邪を引くだろう。送るよ。夜道だし、危ない」

「あなたが一番危ないんじゃないんですか?」

 

 色の無い瞳で見られた。恐ろしい。思わず手が緩むぐらいの感覚に、なるほどこういう顔もできたのかと新たな一面を知る。もっとも、変わってからの彼女は大体こんな感じ。そろそろ慣れるべきかと、若干ダメージの入っている玄斗だった。

 

「僕をなんだと思ってるの……」

「得体のしれないニンゲン」

「あ、いちおう人なんだね……」

「……ケダモノ」

「わざわざ下げなくていいから」

「とにかく汚らしいです。とても、不気味」

 

 じりっ、と少女が濡れるのも構わず後じさる。これが無関係の誰かであったら「まあ悪いかな」と思いつつ引き下がれそうなものだが、こと玄斗としては気にしてならない女子のひとりである。ぎゅっと振りほどかれそうな手に力を込めて、そのままぐいっと引き寄せた。

 

「っ、なにを……!」

「行くよ。意地を張って悪い方向に転んだんじゃ意味がない。だいたい、女の子がこんな時間までなにしてるんだ。君、まだ一年生だろう」

「……どうでもいいじゃないですか。なんですか、あなた」

「よくないよ、三奈本さん。ほら、もっと寄って」

「…………やだ」

「ワガママ言うな」

 

 若干キレ気味の玄斗である。よもや無念とか傷心とかを通り越して、一周回って身勝手にも怒っていた。〝俺〟は絶対に許さない。というか僕との違いが露骨すぎておまえは本当に僕かと怒鳴りたい気分だった。そのぐらいには、黄色い後輩が大切ではあるのだ。

 

「なっ、なん、なんですか……!? いきなりこんな真似!」

「じゃあずっとあそこで雨が止むまで待っているつもりだったのかい?」

「迎えを……!」

「携帯、持ってるの?」

「…………、」

「ほら」

「……っ、…………っ!!」

 

 ぎりぎりと歯噛みする黄泉に、玄斗はため息をついた。こちらでも十分彼女は不運の塊らしい。そのくせそれで折れるほどでもないのが逞しさだ。ともすれば彼の関わってきた少女たちのなかでいちばん心は強いかもしれない、と無理やり引っ張る後輩を見る。

 

「……なんですか」

「僕、君になにかした?」

「いえ、とくには。ただ個人的に無理なので」

「……とんでもないな」

「それはこういうことをするあなたでは?」

 

 本当に容赦ない後輩に、玄斗はいま一度ため息をついた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ぶつぶつと文句を言っていたのは最初の数分で、あとは黙って黄泉はついてきた。玄斗が離さないように手を握っている、というのもある。どうにか外そうともぞもぞ動くのだが、するりと抜けようとする度に玄斗がまた掴み直す。離してください、やだ、というやり取りは何度も繰り返した。よもや彼女が根負けしている。

 

「…………、」

「…………、」

 

 雨のなか、ひとつの傘を分け合って歩く。いつしかのときも同じことをした。玄斗にとっては懐かしい、今の黄泉とはない思い出。笑っていないと言われ、笑えるようにと背中を押してもらった大事な思い出。おかしな自分を、見ていて気持ち悪い誰かを好きになった変わり者の少女だ。

 

「(――ああ、そう言えば)」

 

 と、彼は天啓的にふと思ってしまった。分けるとするのなら、彼の心の支えになった少女たちである。十坂真墨と、五加原碧。そのどちらも、()()()()をすることで記憶が戻ったコトになるのだ。

 

「(いや、流石にそれはハードルが……というか、本気か? 試す価値は……ある、けど……)」

「……なんですか。さっきから」

「! いや……」

 

 見ていたのが気付かれたのか、不機嫌そうに黄泉がこちらを見上げる。なにもしてこない時間が過ぎていったせいだろう。いまの彼女は警戒もなにも消えた、いかにも私は機嫌が悪いですといったオーラを撒き散らすものでしかない。

 

 〝――ああ、もう、一か八かだ。〟

 

 やつあたり気味にそう思って、彼は行動に移した。

 

「ごめん、三奈本さん」

「は……」

 

 続く言葉を打ち消すように、黄泉の額へ強引に口付ける。胸中で白玖と目の前の少女への謝罪を繰り返した。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。でもおでこなので許してください。許されるわけがなかった。脳内で彼のよく知る白玖が「ふざけてるの?」と笑っている。至極当然の怒りだった。

 

「――あ、あぁぁあぁあぁああッ!?」

「ふぐっ」

 

 ごつっ。と、鈍い音が響いた。顎を打ち上げるような鋭い頭突きである。身長差が仇になった。玄斗は傘も放り投げて倒れながら、「うう……」とうめき声を漏らす。これまた受けて当然の報いだった。

 

「な、なな、なに!? なに、を……!? ふ、ふぇ、ふぇえええ……!?」

「……み、みな、三奈本……さん!?」

「せ、せせ、先輩ッ!? あっ、あああ! あぁああぁあ! ふぇえええええ! わ、わたっ、わたわた! わたわたわたわた!」

「ごめ、落ち着い……いやごめん。僕が悪かっ……顎が痛い……」

「すみまっ……あ、あああ! ああああああ! わわ、わわわわわ、ふ、ふぇ……」

 

 事態が深刻化した。会話にすらなっていない。というか状況がどちらにも掴めない。玄斗は顎に受けた衝撃に悶えている。黄泉は記憶に受けた衝撃に悶えている。どちらも同じなのにどちらもパニックでどちらも言語崩壊を起こしている。

 

「三奈本さん……じゃなくて、黄泉ちゃん……?」

「せ、せんぱいッ!?」

「ああ、うん。黄泉ちゃんだ…………いや、成功……するのか…………」

 

 まじか、と玄斗は呟く。ということは、だ。

 

「き、きききき! きす! あの、きす! えぇ!? わ、わたし、あのわたし、わたしですけど!? だ、だだだだいじょうぶですかっ!?」

「大丈夫じゃない……」

「ッ!? ふぇ、あの、せんぱ、ふぇ、ふぇええ……! わ、わた、せん、あのあの、き、はふぅ……」

「ごめん君のほうが大丈夫か……?」

 

 ぼんっ、と顔を真っ赤にした黄泉がへたり込む。でもなぜだか玄斗は安心してしまった。二度のキスはよもやトラウマを抉ってくる勢いである。お返しのディープとかいらない。なんというか、本当に心のよりどころな後輩だった。真墨と碧には見習ってほしい。

 

「……正直すごい申し訳ない。本当ごめん。ちょっと、今になって鬱が……」

「そ、そんなことはっ! あの、えとえと、そのぅ……と、とても! とても、優しかった……ので……えっ……と…………ちょ、ちょっとうれしいな、とか……

「――黄泉ちゃん」

「っ、は、はい……?」

「ごめん。すごい好きだ」

「ッ!!??」

 

 いや本当、ふたりに見習ってほしい純真さだった。





>トリガー
気付いちゃった主人公。通用するのは残り三人です。いちばんリターンが可愛らしそうな赤色といちばんリターンがやばそうな蒼色といちばんリターンが本妻しそうな白色だよ。アマキス☆ホワイトメモリアルしていけ(真顔)


>キレ気味玄斗くん
これだけ気にかけてもらえるのは黄色後輩の特権。珍しくアタック・オブ・玄斗です。前ふたりが攻めすぎて受けにしか回れない? せやな……(諦観)

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