ゼロの使い魔 Pirates Bullet Feast 作:狩掘真那
怒号が飛び、銃声が鳴る。
ロアナプラでは日常茶飯事のことである。この悪徳の街では誰も問題として捕らえはしない。むしろカネの源泉として嬉々として迎え入れられる。
そして爆発が一つの顛末を告げる。
水平線に太陽が沈む。天に広がる緋色が闇に蝕まれていく。
歓楽街にはネオンが煌々と輝き始め、ロアナプラの人々の心を浮き立たせる。イエローフラッグでは悪人どもが一日の仕事の是非を肴に酒を呷る。
修道士の恰好をした女も一人カウンタ―で呑みながら店主と語っている。
「ロイの奴ったら爆笑もんだったのよ。あの野郎バラライカに睨まれちまって、鮫に喰われて死んだほうがましなんじゃねえかって顔してやがった」
「それでお前さんはロイがバラライカに花火にされたからそんなにハッピーなのか?」
「ハッピーなもんかよ、バラライカはクソ野郎の依頼主だったあたしも強請ってきたんだ。あたしだってロイを磔にしてRPGで地獄まで吹っ飛ばしたいのにさ」
ケタケタ笑っているが、イラつきは治まっておらず酒が注がれる度に一気で中身が無くなり、グラスの氷がまるまる残っている。
「お前さんがバラライカに貸しってことでケリは付いたんだろ」
嫌気が差したバオは眉間に皺をよせ、悪態をつく。バオの言葉でしすたーは今まで口角を吊り上げていた顔を頬を引きつらす表情に変化させた。
「貸しなもんかよ。輸送ルートは他に漏れる訳がないさ。そもそもバスケットに入れて持っていけるような荷物じゃあない。分かるだろ?誰かが教会とあたしをハメたんだ。下手するとバラライカに踊らされてるだけな可能性もあるんだよ。クソったれ…」
シスターは苦い顔をしながら突っ伏した。作った拳でカウンタ―を叩いているがバオに酒を注がれると呑み干し、また突っ伏した。
ウエスタン扉が開き、タンクトップとホットパンツを身に着けた東アジア系の容貌をした女がずかずかと店に入る。
カウンタ―に近づき、項垂れたエダを横目に口角を吊り上げ隣に着いた。
「聞いたぜエダ、姉御のケツに火つけたんだってな!いよいよもってホテル・モスクワに喧嘩売るとは、感激したぜ」
頭を垂れるエダは一瞥をくれるが、また下を向きため息をついた。
「なんだよレヴィ…、あんたもあたしをいじめる気なのかい…」
エダは鈍重に沈み、声に先ほどまで見せていた少しばかりの楽しさの欠片もなくなっている。酒のせいなのかエダは感情がころころ変わっている。
「こいつはすげえ嘆きっぷりだ」
レヴィは見たことのないエダの様子に感嘆した。
「姐御は爆笑しながらただの神の使いにはできない催しだって喜んでたぜ?」
バラライカがレヴィに愉快そうに語っている場面が想像できる。エダをいじるのにいいネタが降ってきて今のレヴィも小気味よさそうにしている。
「愉快になりすぎて、銃を持つ手がつい滑るかもとは言ってたが」
容易にそのシチュエーションが想像できてしまい、エダは突っ伏しながらビクッとした。
その様子を見てレヴィは心躍らせた。
「あっはっはっは!ブルってんじゃねえよ。姐御を相手に勝算があったからカマしたんだろ?」
「あたしだってイーグルクローみたいなヘマはしたくねえ。それくらいの分別はあるってーの。分かんねえんだよ、少し目を離した隙にドロンと消えやがったのさ」
ギリギリと歯を食いしばりエダは受けた屈辱を顔に見せる。
「そりゃあ、トラックか船でパクられたんだろ」
「たった2分で音もなく20ftコンテナを?そんなマネ出来ねえだろ」
大きく重量のある荷物を運ぶには効率を考えたら機械を使うだろう。だがエダ達にはモーターやエンジンの音は聞こえなかった。持ち出されたとは考えにくかった。
「そんな訳ねえんだったらどこ行ったんだよ、デビット・カッパーフィールドが指鳴らして消して行ったってか?」
「そんなんあたしが知りてえよ。どこの田舎もんか知らねえが舐めたことしやがって、あたしらの教会に喧嘩売ったら肉の一片も残んねえことを分からせてやる、こん畜生…!」
カウンタ―を殴り今日一番の大きな音が鳴った。バオは多少額を引きつらせるが、防弾仕様の為カウンタ―はビクともしない。
「とりあえず、姐御は頭が真っ赤っかに染まってねえみたいだからよかったじゃねえか」
「くそエテ公、お前のお気楽な頭じゃ分かんねえだろうがな。バラライカに借り作っちまったら、以後どんな注文つけてくるか想像に難くないだろうがよ…」
「くっくっく…。ボランティアはシスター冥利に尽きるだろ、よかったじゃねえか。なあバオ、楽しくなってきたな。バカルディをくれ」
「あいよ」
レヴィに言い返すのも面倒になったのかグラスを呷る。エダは今後のことで憂鬱になりかけ、それを忘れるようにさらに呷る。
「今日は一日付き合えよレヴィ…、な?」
レヴィに懇願の目を向ける。
そこには、よく分からないその場には不適切なおかしなものが顕在していた。
エダの目はレヴィを一瞬捕らえた。
だが、ピントは彼女の後ろに合い、愕然とする景色を目にした。
「…一体どういうことなのよ」
レヴィがカウンターに付いたときは確かに無かった。全身鏡くらいのサイズで緑色の背景がレヴィに掛かっている。
緑色は明暗が一定ではなく、靄のように動きがありグラデーションが掛かっている。
「…なあ、レヴィ。あんた
エダは尋ねるが、レヴィの顔には疑問しか浮かばなかった。
「何の話をしてるんだ?あたしがバックパッカーに見えるなら、いよいよもって病院でそのピーナッツが詰まった頭を見てもらいな」
エダはレヴィの背後に手を伸ばす。
「いやいや、あんたが持ってきたそいつは何なのか教えろって…」
緑の背景に触れる。手首をまわして指でかき混ぜるが感触が何もない。
一度手を引き戻そうとするが、抜けない。
「あっ?なんでよ」
抜けないどころか靄に手が、体が引っ張られる。エダの体が動かされ、レヴィに当たる。
「どういう訳でぶち当たってくるんだよ、あぁ?」
レヴィは悪酔いした酔っ払いに絡まれたように苛ついた。
「いやいや訳分かんないのはあたしだよ、どういう理屈…」
手首まで靄に飲み込まれた瞬間、エダに掛かる力が一気に強くなった。体が当たったままのレヴィと一緒に引っ張られる。
「何だってのさ、こい…」
「いてえっての、このクソビッ…」
何が起きているのか分からないままエダは靄に引っ張られ、レヴィは向かってくるエダに体を押し流される。
そして体の全てを靄が飲み込んだ。靄自身もイエローフラッグから2人と共に消失した。
「おう、レヴィ待たせたな」
バオがカウンターにグラスを差し出す。
「…あん?あのアマ共どこ行った?」
飲む筈だったバカルディを残し、レヴィはこの世界のどこにもいなくなってしまった。