ゼロの使い魔 Pirates Bullet Feast   作:狩掘真那

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 一面の草原がさざなみ揺れている。

 使い魔の召喚を成功させた少年少女達の気持ちをさらに心地よくするように、人々の間を爽やかな春風が吹き抜ける。

 

 その中から取り残されたかの様に少女が顔に焦眉を表し、杖を握りなおした。

 

「ミス・ヴァリエール、さあ君の番だ」

 

「ふぅっ、ふぅ…。はい!」

 

「何回やっても簡単な魔法も成功しないんだから今回も無駄なのが分からないのか、ゼロのルイズ!」

「爆発しかできないのだから、使い魔も爆発するのではなくて?ゼロのルイズ」

 何人ものに貶され、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは心を折られそうになる。

 

 だが、諦めるわけにはいかない。諦めてしまったら学院を去らなければいけない、家族にも顔向け出来ない。

 

 一回だけ、この一回だけ成功すれば私に魔法を使える証明が出来る。これまで何百・何千回も失敗してきたが、今回だけ成功させれば報われる。

 だから、お願い。

 

 ルイズは人生で一番の願いを込め、理想を叶える呪文を唱える。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

五つの力を司るペンタゴン。私は祈り希う…。己を導き、共に歩み、共に生きる”使い魔”を召喚せよ!」

 

 ルイズが杖を振りかざした何もない空間が淡く光り、爆発した。

 

 周りにいた生徒は爆発の勢いに煽られ、膝を着く。

「やっぱりこうなったか、ゼロめ…!」

 いつもと同じ光景に呆れ、咳き込みながら文句を垂れる。爆風によって巻き上がった土煙が晴れてくると、草原がえぐれて土が見えている。土煙がなくなると、口を開いていた生徒たちが呆然とした。

 

 2つの人影が折り重なり倒れている。ルイズは倒れている2人におもむろに近づき、声を掛けた。

 

「あんた達、誰?」

 

 

 

 

 

 緑の靄に飲み込まれた瞬間、景色が一変した。

 夕闇に暮れなずみ、照明が周囲を照していた筈のバーから景色が一変し、太陽がじりじりに照っている草原がエダの視界に入ってくる。

「…やべえって、なにいぃぃ!?」

「…このクソビッチ!ぶっこグエっ…!」

 

 引き込まれ、折り重なったままの二人。エダがレヴィを下にして地面に激突した。

 

「何が起きたってのさ…。今日はあたしの終わりの日か、こん畜生…!」

 土煙が視界を埋め尽くし廻りが見えない中、エダは下敷きにいるレヴィに気づく。

 

「レヴィ、起きろよ、おーい。おいってば」

 レヴィは完全に伸びていた。頬をぺちぺち叩いてみるが微動だにしない。

 

「一体何がどーなってんのさ…」

 現況に対してエダは全く理解が及ばない。

 

 先ほどまでイエローフラッグで飲んでいたのは間違いない。それがTVの場面転換みたいに時間帯が変わった。

 それとも酒が回りすぎたのだろうか。緑色にみえた靄は記憶をなくす前兆でいつの間にかどことも知らない場所で地面に落っこちる瞬間に目が覚めた、そんな酔い方をしたのかと勘ぐる。

 

 エダが思考に囚われている間に土煙が晴れていく。

 

 先には女の子が立っていることに気づいた。その女の子も二人に気づき、少々浮ついた面持ちで声をかける。

 

「あんた達、誰?」

 

 エダは辺りを見渡す。自分がレヴィを座布団にして座っている場所がどこであるのか思考する。

 ここがどこなのか全くわからない。カウンタ―もテーブルもましてや屋根もなく、確実に外にいる。遠くにはレンガ造りの城のような建物がみえる。そして、何十人もの十代後半であろうガキどもがこちらを見てる。

 

 こちらを気にしていない様に廻りを見回している修道服の女に対し、ルイズは使い魔に無視されたと思い少し語気を強める。

「あなた達はだれかって聞いてるの!」

 顔を少し紅潮させ怒りを見せる。

「ちょっと!こっち見なさいよ!」

 

 エダは立ち上がり修道服に付いた土埃を払い落とす。

「うるさいよ、お嬢ちゃん」

 

「挨拶もなしに怒鳴るのはいけないね。異邦人にも挨拶をしろと神は言ってるだろ?マナーを守れない人間はこの街ではズドンといかれるよ。そうでなくてもお嬢ちゃんは攫われて剥かれちまうかもしれないけどね」

 エダはロアナプラがどんな場所であるか、その少女に伝える。この街には似つかわしくない観光客である。

 

「この街って…、貴方まだ自分の立場が分かってないの?」

「立場?あたしら二人はあんたらに命を握られてるとでも言うのかい、ガール?」

 

「そうじゃないわよ!何、今になっても理解してないの!?」

 召喚したのになぜ理解をしてないのかルイズにとっては疑問だったが、人間が使い魔になるということは通常とは違うのかとも思った。

 

「ミス・ヴァリエール。おめでとう、成功したではないか。では使い魔の契約、コントラクト・サーヴァントをしたまえ」

 

「…もう一度やらせてください!人間の使い魔なんて聞いたことがありません!」

 

「それはできない。春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。その使い魔によって、魔法使いの属性を固定する。君にはその使い魔と契約する義務がある。さあ、契約したまえ」

 

「わかりました…」

 

 なるほど、この少女は頭のおかしい連中に洗脳された悲しき少女なのだ。このとんちきな儀式をわざわざロアナプラにまで来てする必要があるのだろうか。

「ヘイヘイ、ピンクガール。あんたらがこのシチュエーションをこしらえたってのかい?」

 

「そうよ。貴方たちは私に召喚されたの。私に生涯仕える使い魔として」

 

「なんでちびっこに生涯を捧げる話になるんだよ。バトラーが欲しければ紹介してやるよ!」

 金さえ払えばなんだって手に入るだろう。銃だろうがヤクだろうが人だってそうだ、このロアナプラなら。

 

「いらないわよ!」

 

 問答にしびれを切らしたのか、少年少女の集団でただひとりの大人である人物がルイズとエダの間に入ってくる。

「失礼、シスター…」

 

「エダさ」

 

「シスター・エダ。こちらとしても、人間が召喚されるとは夢にも思わなかったのです。ですが、使い魔召喚の儀は貴族にとっては避けては通れぬ道。どうか契約を受け入れてはくれないだろうか」

 

「あんたは何だい?」

 

「私はコルベール。トリステイン魔法学院の教師を勤めています」

 コルベールが恭しく、エダに礼をする。

 ロットンのお仲間連中がロアナプラで徒党を組んでるとは驚きだ。事件の前触れなのだろうか?

 

「このミス・ヴァリエールが貴女方お二人を召喚いたしました。本来であれば、2つの生命が召喚されることも前例がありませんが、起こってしまったことは仕様がありません。どうか契約をお願いしたいのですが」

「あたしはごめんだね。なにが悲しくてヒステリックガールに仕えなきゃいけないんだい」

 

コルベールは落胆した顔見せるがレヴィを指し示す。

「そうですか…。では下の方にお願いします」

 

「…こいつに?ぜっったいに無理だ。そんな契約にサインする訳がないね」

仮に拇印を取っても、このガキの額に銃弾のサインが残ることになるだろう。

 

「この儀式に契約書は必要ありません。さあミス・ヴァリエール、呪文を」

 

「はい。シスター退いてちょうだい。契約するわ」

 

「急かすなよピンクガール。それになレヴィに危害を加えたらここはシディムの谷になるよ。それだけは覚えておきな」

 頭のおかしい教師と生徒どもの遊びに付き合うのはあたしは勘弁だ。レヴィ、あんたが犠牲になってくれ。

 

「あなたが何をいっているのかさっぱり分からないわ」

 

「そうかい、気が合うな。あたしも同じことを思ってるよ」

 エダは倒れたレヴィの傍から草の生えているところまで重い足取りで移動した。

 

 ルイズは緊張した面持ちで、レヴィの腕の横に膝を着き呪文を唱え始める。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔と成せ」

 

 呪文を唱え終えたルイズは躊躇いを残し一拍置くが、勢いで顔を近づけレヴィに唇を重ねた。

 

「こいつの王子様はロックだと思ってたが、こんなガキがトゥーハンドに目覚めのキスをするとはね」

 

 キスをし終えたルイズが、顔を赤くしながら喚く。

「私だってしたくてやってるわけじゃないのよ!ファーストキスだったのに…」

 

 ルイズは立ち上がり、コルベールに向き直る。

「終わりました」

 

「コントラクト・サーヴァントも成功したようだね、これで彼女は君の使い魔だ」

 

 終わりなのか?あのキス一発でレヴィをこのガキの使い魔にするって?本当に頭のおめでたい連中だ。

 

「相手が平民だから契約できたのよ!平民なんて使い様がないじゃない!」

 今度は金髪巻き髪の少女がルイズを詰るが、ルイズ自身も目をキッと吊り上げて詰り返す。

「先生!『洪水』のモンモランシーが私を侮辱しました!」

 

「私は『香水』よ!『洪水』なんて付けるはずないじゃないの!」

 

「毎朝ベットが洪水しているんでしょ。洗わされるメイドが可哀想だわ」

 

「そんな事ある訳ないでしょ!馬鹿言わないで!」

 

「君たち。貴族は相手を敬うものだ。汚い言葉で罵ってはいけないよ」

 コルベールがルイズとモンモランシーの小競り合いを諫め始めた。すると倒れたままだったレヴィに異変が起こった。

 

 レヴィの右手からジリジリと焼けつくような音が聞こえる。

「うっ…、いっ…て、いってぇ、痛ええええ!」

 痛みで覚醒したのか、右手を抑えながらのたうち回る。

 

 転がりまわっている中ルイズがレヴィに痛みの正体を告げる。

「安心しなさい。使い魔のルーンが刻まれているだけよ」

 

「ルーンが…どうしたって?」

 己の耳を疑ったエダはルイズに聞き返すが、ルイズはレヴィを見やったままだ。

 

 痛みが収まったのかレヴィの動きが止まり、コルベールが近づいて右手を見る。

「なかなか、珍しいルーンだな。ちょっとスケッチさせて下さい」

 

 スケッチが終わり、コルベールが生徒たちに告げる。

「では、春の使い魔召喚の儀はこれにて修了とする。各々次の授業の準備をするように」

 

 コルベールの言葉が終わると同時に、生徒たちとその使い魔たちが宙に浮かび城のほうへと飛んでいく。

 

「…はぁ?」

 

 なんだあれ。全員ワイヤロープで吊ってんのか?フロリダ風の新しいアトラクションがロアナプラにできたのか?

 

「Damn it!あたしの頭がおかしくなったのか?何なんなのさこれは」

 

「私だって分からないわよ!なんで平民が私の使い魔なのよ。使い魔は神聖なものな筈なのに…」

 

「おい、起きてんだろレヴィ!てめえもこのガキが何言ってんのか考えな!」

 

「いてえぇ、誰だこのレヴィ様に焼き入れやがったバカ野郎は…。ぶっ殺してやらあ!」

 完全に覚醒して鬼の形相で起き上がったレヴィはただただ広大な草原を目の当たりにする。

 

「…どこだここ」

 

「知らないねえ。こいつが教えてくれるってよ」

 

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