機械仕掛けの半神   作:覇王樹

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朝日に包まれて

 フリュネとの戦いでコルは格上を倒したと言うことでランクアップを遂げていた。しかしその戦いはコルの冒険者としての格を上げただけではなく、彼の人間としての格も上げていた。その心に他者を映し出す余裕が出来たこと。前まではどこか辿々しくて慣れていないそうだった話し方も流暢になり、その顔は前のような愛嬌を残しつつ、精悍さと少しの哀愁を感じさせるようになっていた。編み込まれた白くて長い髪は程よい短さに切り揃えられていた。そして彼の二振りの刃もその鞘も目に見えて輝きが増していった。格上を倒せば倒すほど磨かれる一対の刃。思えばこの刃、いつから手元にあったのだろう。考えても浮かばないが、いつもどんな時も自分の手元にあって、戦争で殺されそうになった時、護衛をしているときに失敗して殺されそうになった時、変異したミノタウロスを前にした時、フリュネと戦った時、いつもいつもそれは自分の近くにあった。そんなことを考えていると自分の隣がモゾモゾと動いた。そして布団の中から金色の頭を現した。規則正しく寝息を立てるアイズの頭を撫でる。瞬間紅くなるコルの顔。

 

「、、、何をやってるんだ。僕は、、、」

 

一人でそう呟く。あの夜、フリュネを倒してアイズを抱えて帰った夜から二人が一緒に寝るのは習慣になっていた。そして紅い顔のまま布団から出ようとするとアイズがコルの腕を掴んだ。

 

「まだ、ダメ」

 

「どうした?」

 

コルの白い虹彩をアイズの金の虹彩が射抜く。恥ずかしさで目を逸らしたいが首を固定されたように逸らすことが出来ない。コルはアイズに銀の腕を引かれるがままにベットに倒れる。なぜだか、銀の腕はまるで本物の腕になったようにアイズの温もりを心の奥に届け、柔らかくて小さいその輪郭を脳の奥に伝えた。

 

「なにがあったの?」

 

「?」

 

「だって、、。コルはとても強くなった。でもなんでそんな哀しそうなの?」

 

人の感情を読むのが壊滅的なくらいに出来ないアイズにまさか哀しそうだと言われることなどないと思っていたためか驚いてしまった。

 

「フリュネを倒した夜からコルはずっと哀しそう」

 

あの夜、コルは見てしまったのだ。そしてそれを見た瞬間、全てが蘇って繋がった。しかしそれをアイズに言うことは出来ない。今の自分にできることは強くなること。この身体を徹底的に鍛え上げて、時が来たら自分に刻まれた使命を全うすること。

 しかし哀しい顔をしているつもりはなく、いつも通りの仮面を纏っていたつもりだった。それを見抜いた、見抜いてくれたアイズに対してなんとも言い難い感情を覚える。そうだ。実際は自分はもの凄く哀しいのだ。悲しくて哀しいのだ。胸の奥が疼く。僕の失った感覚。僕に存在しなかった感覚。これが痛みなのだろうか。皮膚からは感じることのない初めての感覚に包まれながらアイズを抱き締めたのだった。

 

 

 


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