神様(作者)も知らないヒカリ(プロット)で歴史(本文)を作られていくんですけお…3回書き直したけど相変わらずガバガバすぎる…
別にYouTubeのリリカルなのは公式チャンネルで期間限定本編無料配信見てたせいとかじゃないです(ダイマ
アドバイスとか頂けるとすごい助かります
初めてその少女を見たときからその姿が忘れられなかった。
ノイズに家族を殺され、復讐のためだけに力を求めて二課に忍び込んだ彼女の目はまるで鬼のようで。驚くことにいつもなら文句の一つ二つは零す鎌倉のお爺様も彼女を見るや何一つ咎めることなく認める。
しかしシンフォギアはノイズ相手には絶大な力を誇るが、誰もが手にできるものではない。適合者でなければ容赦なくその身を焼く諸刃の剣。
生まれながらにして聖遺物を起動させる力を持った私とは違ってその少女は適合係数が極めて低かった。リンカーを打ち、血を吐き、薬害に苦しみ、それでもなお立ち上がるその姿は、なにもなかった私の心を射抜く。
やがて少女は力を手にして戦場を駆け巡る。来る日もまた来る日も、戦場で血を流しながら、歌を歌い、音を奏で。
一体どれほどの想い、どれほどの覚悟でそこに立つのか私には想像もつかない。
そうしていつか、彼女は憑き物が取れたような顔をするようになった。ノイズを滅ぼしながらも、誰かを助ける日々。それは少女の歌を復讐の歌から誰かを護るための歌へと変えていく。
なにがあったの?と聞いても、翼もそのうちきっとわかるさと言って頭を撫でられるばかり。不満だったけど、彼女と一緒に飛べばきっと私でもいつかその答えがわかるかもしれない。
だけど、私の片翼は消え、その答え合わせは終ぞすることができなかった。
それでも、少女の、天羽奏の生き様はずっとその背中を追いかけたこの胸に刻まれている。
そうだ。戦場とは、覚悟と力を持った者だけが踏み込んでいい場所。人が弱いから護らねばならない。そのための防人。
だというのに…。
私はそのどちらも持っていない立花に戦場で助けられた。
人が人を護るのはなぜなのか。見つけたと思った答えが急に見えなくなる。
わからない…わからないんだ…
「教えてよ…奏……」
◇
《マスターまだ拗ねてるんですか?》
「拗ねてません」
《拗ねてるじゃないですか》
「私を拗ねさせられたら大したものですよ、ええ」
《…》
重症だ。
シュテルが倒れてから一夜。デバイスにデフォルトで搭載されている生命維持機能によってどうにか危険状態を脱して以来、自分の主はずっと膝を抱えてベッドに座り込んだままだ。主の親友に対する想いはこの4年間事あるごとに聞かされてきたが、だからっていつまでもこのまま不貞腐れても何も変わらない。
《ではどうしますか?このまま自首して洗いざらいすべて吐いて協力を仰ぎますか?》
「わかってて言っていますよね?」
今は否定されてしまった俗説だが、猫は死期を悟ると姿を見られたくないために行方をくらますという。シュテルの行動原理はまさにそれに等しい。
闇の書という特大な爆弾を抱えているため、その処理を巡って迂闊に組織の力を頼るわけにはいかない。だがそれ以上に彼女は自身にとってもっとも大切な人たちに命尽きるところを見られたくない、知られたくない。そうして頑張ってきたのに目の前で道が交じり合ってしまった。唐突に姿を消してしまったことの罪悪感も上乗せするが、追い討ちは止まらない。
「響がシンフォギア装者になってるだなんてどういう冗談ですか…。大体シンフォギアってF.I.Sが運用してる物のはず。日本と米国が異端技術研究で連携してるって聞きませんしなぜそんなシロモノが日本に…。米国が開発したものだったはずでは!?」
護られるべき存在。そう思っていた相手が戦場に出ていた。それも人間にとっての災厄であるノイズと戦うための力を纏って。いくらシンフォギアが対ノイズに特化したシロモノであってもなにごとにも絶対はない。敗北の先にあるのは確かな死。人を殴れないような優しさの塊の子がそんな場所にいる、周りからすればノータイムで卒倒ものであろう。
いったい何コンボ食らったかもわからないような現実にシュテルは混乱状態に陥っていた。
とはいえ危険だと思っているなら少しは鏡見てほしいと思うがさすがに口に出さない。機械だから口はないけど。
普段は迷うことなく突き進むくせに内心なんでもかんでも抱え込む。どれほど傷つきながらも、託された想いは絶対に繋ごうとする。とてもまっすぐなそれは、しかし病的であり、遠い昔の先代主と重なる。未だに主に自分のすべてを伝えていないが、先代と同じくらい彼女のことが大切だ。
そんな今の主に必要なのはため込んだ想いを吐き出す時間だろう。手を繋ぎ、受け止めてくれる人がそばに居ない以上、時間だけが癒しとなる。
ただ、その時間も十分に残されていないことだけが残念でならなかった。
《別にこのままデュランダルに執着せずにこの街を離れてもよろしいのでは?》
「……論外です」
相変わらずベッドの上で体育座りしつつ、ルシフェリオンからの提案を却下する。
理論上ではあるが闇の書の封印手段は別にデュランダルを使うしか方法がないわけではない。歴代闇の書の主の中にもこの呪いを祓おうとした人たちも多くいる。ある者は完全聖遺物を求め、ある者は哲学兵装に縋り、果てには迷信に従って町一つ生贄にした人まで存在したらしい。極めて極めて可能性が低いのだが、今から新たに方法を模索して見つかるというのも決してゼロではないだろう。
それでも、今闇の書がシュテルの手元にあるということはその尽くが失敗に終わったということ。結局のところ、一番現実的で確実な手段としてデュランダルを使うしかない。それはわかり切っている。
シンフォギアと戦うのはもはや確定事項。
闇の書起動には他者から魔力を蒐集して書のページへと変えていかなければならない。666ページあるその書はすでに500ページ台後半に差し掛かっているがまだページがかなり残っている。魔力とは誰にでもあるものではない。一般人から蒐集したところで1ページどころか一行の一文字にすら満たないだろう。
その点、原因は不明だがなぜかシンフォギア装者からは蒐集が可能だ。それも、装者が歌でフォニックゲインを高めれば高めるほど蒐集できる量が増えるありがたい仕様。経験上、魔力とフォニックゲインには多くの共通点が見受けられる。原理解明は学者さんに任せるとして。
蒐集は一人につき一回しかできないことも考えれば、これを逃す手などあり得ない。
その計画は今も変わらない。
ならばシュテルを悩ませる問題は闇の書関連ではなく響についてだ。
響に合わせる顔がない、響と戦いたくない。それは自分の問題。
響を戦わせたくない、安全なところで暮らしてほしい。それは響の問題。
自分の問題は自分の心を抑え込めば済む話。これまでも偽装魔法で顔と声を変えてるし、そもそも響たちには魔法を見せたことすらない。使えるようになったのは闇の書の主になる直前だ。
だが響の問題はそうはいかない。
《彼女が誰かに脅されて戦わされている可能性はどうでしょう?》
「あり得ません!響の性格なら間違いなく自分から首を突っ込んでるはずです」
人助けをするのが好きなあの子のことだ。始まりはどうであれ、ノイズに苦しめられる人たちを助けたいという思いがあるなら十中八九自分からあの場に居るに違いない。その在り方に救われた身としてはうれしいと思う一方で、見てる方としては危なっかしくてしょうがない。自覚はしているがシュテルも響に対して相当過保護だ。人助けでやらかしそうになったときに後でフォローしたのはもはや数え切れるほどではない。少しは見せつけられる未来のことも労わってあげてほしい。
「あっ…」
心を整理しながら気づく。
ようはシュテルが響の人助けの在り方を肯定するか否定するか、ということだろう。
《マスターはどうしたいですか?》
相棒は静かにシュテルの言葉を待つ。
「私は…響の人助けを肯定したい。でも響に戦ってほしくありません…」
飽きるほど見直した昨日の戦闘記録。
風鳴翼は強かった。彼女の最後の一撃、それは確かにシュテルに届いていた。服をめくればバリアジャケット越しに腹部に刻まれた真新しい横一文字の痣が見えるだろう。対する響は目の前に敵が居て、大きな隙が出来ているにもかかわらず放置したり、増援の通信を相手に悟られたりと素人同然で、どう考えても場慣れしていない。
そこまではわかる。でもその先どうすればいいのかわからない。すでにシンフォギア装者となってしまった響を日常に戻すとは極めて難しいのをわかってしまっている。
《マスター》
手にする宝石が惑う主に語り掛ける。
《マスターにとって大切なのはなんですか?自分の理想の中にしか存在しない彼女ですか?それとも今生きている彼女ですか?》
「ッ!」
シュテルの歩んだ4年間と同じく、響にも響だけの4年間がある。思い出の中の響ばかり見て、必死になって今から目を背けてた。シンフォギアとの出会いとて、きっと彼女にとってはとても大きなターニングポイントなのかもしれない。
そんな単純なことすら気づけなかったなんて…
しばし目を瞑り、背中をお通ししてくれた相棒に感謝する。
「ルシフェリオン、ありがとうございます」
《いえ、当然のことです》
響の身を案じたい。響が生半可で自分の身を一切案じてないなら骨の一本二本へし折ってでも戦うのを止めさせる。
でももし響に意思の強さがあるなら、その想いを応援したい。
それがいずれ自分の障害となって立ちふさがることになるとしても。
「私は…もう一度会って確かめたい。響の想いを」
親友と戦わなければならないという本質的な部分には蓋はされつつも、それでも主は立ち直りつつある。
折れてもあきらめない
◇
「翼のメディカルチェックの結果はどうだ?」
「一切問題なし、まったくの健康体ね。羨んじゃうくらい」
「そうか。それはよかった」
特異災害対策機動部二課の本部にて弦十郎と了子は翼の診断結果を見ていた。昨日の戦闘、痛めつけられた翼だが外傷はほとんどなかった。念のため精密検査も行ったが、了子が問題ないというのであれば一先ずは安心だ。
「ただ翼ちゃん結構沈んでたわね」
肉体は傷一つなくても心はそうはいかない。
奏が亡くなって以来、たった一人でずっと戦ってきたのだ。その思い詰め度合いは相当だろう。念のためケアに彼女のマネージャーである緒川慎次を付けているが、肝心な立ち直りは結局翼自分次第だ。
力になってあげられない自分が憎い。
「ほら、自分を責めないの。弦十郎くんったらそんな顔しちゃ駄目よ?」
「ハハッ、そんなにわかりやすかったか?」
どうやらこっちの心情はお見通しらしい。つくづく叶わないなと頭を搔く。
「それで、昨日の少女について分かったことは?」
気を取り直して果たすべき責務に戻る。
脅威は現在進行形でやってきている。大人である自分たちまでもがクヨクヨしているようでは翼や響に申し訳が立たない。彼女たちが安心して戦えるようにサポートすることこそ自分たちの戦いだ。
「ん~、そうねぇ…」
弦十郎の問いかけに了子は椅子の背もたれに寄り掛かりながら少し思案する。普段は軽い口調で話すが、専門である聖遺物の話となれば途端に雰囲気が変わる。
「まずこの子が先日のフォニックゲインの持ち主で間違いないわ。ただ、アウフヴァッヘン波形は観測されなかったのよ」
歌の力、フォニックゲインにて聖遺物を起動させれば必ずその聖遺物固有の波形が観測される。それがアウフヴァッヘン波形だ。それが観測されない。
「つまり彼女は聖遺物に由来する力を使ってない?」
「そういうこと」
「我々とは違う異端技術ということか…」
その事実に弦十郎が唸る。ノイズの出現以降、世界的に加速する聖遺物研究の中でトップを独走状態にあるのは日本だ。この分野では天才、櫻井了子の提唱する櫻井理論を基軸に2課の優位性は確固なものとなっている。だが米は米屋、餅は餅屋。シンフォギアが本領を発揮するのはノイズとの戦い。対人戦も可能ではあるが、もしも最初からそれに特化した技術系統の者が敵となると…。
「シンフォギアは聖遺物の欠片を励起させることで力得るけど、彼女の場合はフォニックゲイン自体を肉体かこの杖を通して変換、その後物質化、もしくは半エネルギー化して撃ち出すってわけ」
まるで魔法みたいねと了子がつぶやく。
「ただ、聖遺物を介在させない以上、調律機構もないからこの運用法ではノイズ相手には効率が悪いことこの上ないのよねぇ…」
「そうなのか?」
「そそ。シンフォギア開発始める前にこの方式も一応試したのよ。結果は散々」
ふと弦十郎に疑問が浮かぶ。
「この力を彼女が自分で導き出してたどり着いた可能性はあるのか?」
極論を言ってしまえばシンフォギアや聖遺物はちゃんとした知識などなくとも資質さえあれば使える。実際に聖遺物のせの文字も知らなかった響がガングニールのシンフォギアを纏っていることがそれを証明する。
「それは無理ね。ここ見なさい」
画像に映された少女の足元に光る円形の魔法陣を指さす。
「攻撃の種類によって出現する魔法陣の模様も変わっているの。おそらくはこれを図式、もしくは数式に見立ててエネルギーを固着、出力してるの。変換は極めてロジカライズに体系化されているわね。この杖の力って線もあるけど、そもそも最初に現れた時点では杖を起動させてないし、間違いなく自分で理解して使ってる。でも、よほど天才だとしてもここに辿り着くまでに間違いなく一人じゃあ絶対無理よ」
「と言うことはこの技術を教えた何かしらの背後組織の存在も疑わなきゃならないか…」
「それが弦十郎くんの仕事でしょ~?」
解説が終わったのか、シリアス状態から普段の雰囲気に了子が戻る。
「やることはきっちりやるさ。未知の脅威が二つもあるんだからな」
また仕事が増えるというぼやきに対して書類をまとめてちょうど席を立とうとした了子は訝しむ。
「二つってどういうことかしら?」
「ん?ああ。まだ確信があるわけじゃないんだが」
前置きしつつ。
「先日のノイズはこの少女が殲滅した。なら彼女のほかにまだノイズ大量発生の元凶となってる連中が居るはずだ」
「弦十郎くんは本当にこのノイズは操られてると思ってるの?」
「ああ。俺のカンがそう言ってる」
「そう…」
了子は納得したのか今度こそ立ち上がる。
「じゃあ私はこのあともデータ整理しなきゃいけないから一度部屋に戻らせてもらうわね~。弦十郎くんもあんまり詰め込み過ぎないでね?」
「おう」
「相変わらず食えない男だ。こちらの手の内を一度も見せてないというのに」
自室にて積み上げられた大量の資料に囲まれつつ天才考古学者・櫻井了子、否、永遠の狭間を生きる神代の巫女・フィーネは天井を見上げた。
ノイズを操れる完全聖遺物・ソロモンの杖はフィーネの子飼いが持っており、この街の異常なまでのノイズ出現率は彼女によるものだ。新たに表れた脅威は想定外だったとはいえ、少しは目をそらせるかと思ったがそうは簡単には行かせてもらえないらしい。計画遂行に致命的な事象は発生していないが多少のスケジュール繰り上げが必要になるだろう。
まあいい。鍵たる完全聖遺物、聖剣・デュランダルは地下深くのアビスに眠る。そして、生体と聖遺物の融合症例の貴重なサンプルである立花響もここにいる。
神の遺した不条理を打ち砕くため、そしてその先の未来を手にするまであともう少し。
そこでフィーネはモニターに目を落す。
「魔導師…まさかまだ生き残りがいたとはな」
映るは先ほど見たあの紫天の少女。思い起こされるは遠き過去。
「救われない哀れな連中だ……」
その想いを知る人は居ない。
◇
「私呪われてるかも…」
「ほらぼやかないの。せっかく期限伸ばしたのにこのままじゃあ終わらないよ?」
「だってだって…!」
迫りくる恐怖。悪夢。絶望。世界はいつだってこんなはずじゃないことばかり。どうしてこんなにも無慈悲なのか。
シュクダイが、終わらない…。
「ああああもう絶対無理だよぉおお!!!」
日常へ帰った響を待ち受けるのは宿題という更なる地獄だった。装者としての激務、それによって普段の勉学に致命的な影響が出てる…というわけでもなく単純に普段から宿題から逃げているだけである。リディアン音楽院自体が二課の隠れ蓑として設立されたダミーカンパニーであるため、そこの教職員たちは響が装者として活動を知っている。ゆえに期限延長などそれなりの配慮もしている。その上で宿題が終わっていないのだから完全に自業自得というほかない。
(了子さんは人がわかり合えないのは呪いだって言ってたけど私にとっては宿題が呪いだよぉ…)
しかしいくら嘆いても宿題は減ってはくれない。半べそかきながら進めるしかないのだ。
「ほら、響も頑張って。あと少しなんだから」
「未来も手伝ってよぉ…」
「だーめ。ちゃんと自分でやらないと力にならないよ」
「うぅ……」
親友の言葉にむせび泣く。
「今夜の流れ星までにはちゃんと終わらせてよね?」
「一生懸命頑張ります…」
ずっと前から楽しみにしていた一緒に流れ星を見るという約束。それを宿題が終わらないのが原因で破っちゃうのは絶対に嫌だ。うーうー唸りながらちょっとずつ処理する。
「流れ星…流れ星…星…星光…シュテル…」
「えっ!?」
宿題をやる辛さをやわらげようと、なんとなくの連想ゲームでつぶやいた単語に未来が少し大げさにびっくりしたように思える。
「いやー、シュテるんは今のところどこに居るのかなぁーなんて」
「あ、あのね…」
「どうしたの?」
「う、ううん。なんでも」
少し歯切れの悪い様子の未来だったが宿題と死闘を繰り広げていた響は気づけなかった。
「いつかシュテるんとも一緒に流れ星見たいなー」
「その前にまず宿題を終わらせてからね?」
「いきなり現実を突きつけないでよ…」
◇
『ノイズの出現を確認した!翼、いけるな!?』
「今向かっています!」
昨日の今日でまたノイズ。こちらの事情お構いなし。
次のライブの打ち合わせを終えた直後の翼を出迎えたのはそのような連絡だった。
『響くんも現場に向かわせているが…』
「その前にケリを付けます」
なにゆえ人を護るのか。それを見つめ直す時間すらもらえない。
(だが、この残酷は私にとって心地いい!)
ただひたすら剣を振り、敵を裂く。戦っているさなかだけは何も考えずに済む。防人としての責務を果たすまで。
「ッ!」
あらかたノイズを殲滅した直後に襲ってきた昨日の少女。予想はしていたので驚きはない。
だが苛立ちは募る。胸のむしゃくしゃした衝動が収まらない。
聖遺物研究を付け狙う諸外国、シンフォギアを狙うこの少女、なんの力も覚悟もない立花響。
護るべき民衆とそれを脅かすノイズ、そして民衆を護る防人。戦場はそんなシンプルな構図だけでよかったのに、世界はこうもままならないッ!
《モードシフト ルシフェリオンクロー*1》
「くっ!?」
杖を籠手へと変化させるその隙に、翼の一閃を見舞う。
それを少女は身を沈めることで潜り抜け、手の届く距離まで踏み込まれ、しかし足のブレードを展開させつつバク転の要領で斬りかかる。それを少女は左右に躱し切っては握った拳の一撃を叩きこめる隙を付け狙う。心が乱れているせいか、自分でも嫌になるほどの無様な太刀筋。だがそれ以上に、
(近接もこれほどできるのか!?)
近接にこそ活路あり、とにかく相手に距離を離させず格闘戦に持ち込むも、想定以上で思わず舌を巻く。こちらの動きをしっかり目で捉えてる。肉体動作ははっきりとわかるほどワンテンポ遅れているが、それを十全に補えるほどの先読み力。才能ではない、実戦での経験によって練磨されてきた動きだ。周囲を飛び回る光球に縛り付けて来ようとする光の輪。絡め手と合わさって戦いにくさが増していく。
それでも、近接での削り合いは翼に分があがった。どれほどの先を読んでも肉体のパワーの差は埋めがたい。胸元で交差した両腕のガードを回し蹴りで突き崩し、空いた腹部に翼のもう片脚の膝蹴りが吸い込まれる。
「相変わらず強い…ッ!それでも、私の魔導で押し通すッ!」
「ッ!」
強烈に嫌な予感が走り、翼は距離を取る。
「申し訳ありません。今日の本当の目的はあなたではないんです」
「何を言って…」
《カートリッジ、ロード*2》
その掛け声とともに少女の籠手から薬莢のようなものが2発排出され、爆発的にエネルギーが増すのを感じる。
「イグナイト・スパーク*3」
【蒼ノ一閃】
向けられた雷光を一閃にて斬りはらう。しかしそれによって翼はわずかな間、少女から目を離してしまう。
《カートリッジ、ロード》
今度は先ほどよりも多く、4発の薬莢が排出される。そして。
「
少女が黒紫の炎に包まれる。吹き荒れる膨大な圧力に天ノ逆鱗で迎え撃とうとして。
「ダインスレイフ」
翼の意識は途絶えた。
◇
《蒐集完了》
「翼さん!?」
「随分遅かったですね」
弦十郎に君の手に負える相手じゃないと止められた。だけど翼が倒されたと聞かされて居てもたっても居られなかった。
一生懸命頑張って終わらせた宿題。あんなに楽しみにしていた未来と一緒に流れ星を見るという約束。それを振り切ってやってきた響に見せられたのは地面に転がる翼とその元凶。
「どうして…こんな…」
約束を果たせなかった悲しみと、人と人が争い合うというやるせなさ。いろんな感情がごちゃまぜになって涙として零れ落ちた。
「これが戦場の摂理です。ひとたび踏み込めばそこにあるのは想いのぶつかり合い。あなたの意思はなんですか?」
すでに登った月に照らされて、少女が問いかけた。見えない視線に射抜かれる。
「私は…戦いたくない…。だって私たちは言葉が通じる同じ人間なんだよ!?話し合えばきっと…!」
紛れもない響の本心だ。しかし少女はそれを否定する。
「わかりあえると?無理ですね。言葉だけでは何も伝わりません。騙し、偽ることなど造作もない。ですが、行動は雄弁。あなたが本当にそう思うのであれば、その手で私に示してください。でなければ────」
空高く掲げる少女の手の周りに星のような光がいくつも産まれる。思わず足が引ける。
「この
光が流れ星のように響を襲い、碌に抵抗できず吹き飛ばされる。
(戦うなんて…!?私にはアームドギアがまだ…ッ!)
逃げ回る響は心中で叫ぶ。シンフォギアは身に纏う装束に加えて、装者の心を映した武器であるアームドギアがそろって初めて完成する。覚悟のカタチ。
なのに装者になって一ヵ月たった今でも響はアームドギアを生成できていない。翼に比べていつまでも半人前。早くその背中に追いつきたいと思ってこんなにも頑張ってるのに。
「どうしましたか?戦わないのですか?戦えないのですか?それとも────」
そう言われても複数の光球に足元を狙われてそれどころじゃない。けど、このまま時間稼ぎして弦十郎がやってくるのを待った方がいいかもしれなという考えがよぎる。
「私程度では戦う価値すらないというわけでしょうか?」
「ッ!?」
声の主は先ほどから一歩も動いていない。つまり、その足元に倒れている翼の生死与奪の権限はあの子の手の中に…。
「ようやく気付きましたか。ここでは戦わなければなにも護れない。その躊躇が翼を危険に晒す」
「うぅ…」
冷酷な笑みと共に少女は翼の背中に脚を乗せ、地に伏す翼がわずかにうめく。
「う、うわぁあああああああ────!」
その挑発ではなく翼の姿に響は絶叫しながら突撃してパンチを繰り出す。しかし所詮は素人の一撃、簡単に躱され返す刀で脇腹に裏拳を叩きこまれる。
「助けたいという想いは上々。しかしそんな腰の引けた一撃では私には届きません」
「カハッ」
痛みに喘いでるうちに背負い投げの要領で投げ飛ばされる。背中から地面に叩きつけられて肺の中の空気が吐き出された。
「こんなものですか?あなたはその程度の力と覚悟でここに立っているのですか?」
「覚悟なんて…!?」
(私だって…アームドギアさえ、アームドギアさえあれば…!)
涙目になって立ち上がりながらも必死になって念じる。この戦局を覆したければアームドギアを手にする以外ない。
なのにこの胸のガングニールは一向に応えてくれやしない。
「なんで…!?」
アームドギアさえあれば翼さんやあの日の奏さんのように戦えるかもしれないのに…!
だがそこは戦場、相手がそれを見逃すにべもなく、顔を上げれば目の前に現れる黒いバイザー。鳩尾に撃ちこまれた一撃によって響は吹き飛ばされた。
「なんの覚悟も持たずにノコノコと戦場に出てきたのですか?」
ゆっくり近づきながら少女は再び問いかける。
「ち、違う!私にだって護りたいものがあって…!」
一ヶ月前に翼にも言われた言葉、覚悟とか言われても分からないけど響なりに出した答え。
「その想いを為せるだけの力がないというのに?」
「それは……ッ!」
純然たる事実、だからなにも言い返せない。いくら胸の中でそう思っても現実は現実。以前に比べれば筋肉がついて来たり動体視力が鍛えられてきたけど実戦ではまだぜんぜん。あまりの悔しさに唇を噛む。
「そんな様では死にますよ」
死ぬ?死んでしまう?目をそらしてきた恐怖がいまさらになってフラッシュバックする。
だけど、翼さんとまだ一緒に戦えてない!シュテるんと再会だってまだしてないッ!未来とまだ流れ星を見てない…ッ!
「わ、私は…!生きるのを諦めたくない…!」
叫ぶは心からの本音。あの日、奏から託されたのはこの胸のガングニールだけじゃない。生きるのを諦めないその想いは今でも胸のうちに秘めている。
「そうですか…。ならばこれが最後の問いです」
響の叫びに少し納得したのか、立ち止まって少し思案した後、顔を上げる。
「あなたに、敵を倒す覚悟はありますか?」
「えっ…」
突然少女の両手にあった籠手と装束が光の粒子となって消え、代わりにどこにでもあるような普段着が現れた。ほかに武器を持っているのを見当たらない。つまりは完全なる武装解除。
「今のあなたに力がないのはわかりました。ならばチャンスをあげます。せめて私を倒し、全てをつかみ取る覚悟を示してください」
無手となった少女がゆっくり、だけど確実に一歩ずつ近づいてくる。
今なら、今ならばアームドギアがない自分の攻撃でもなんとかなるかもしれない。そう考えて拳を握って。
(そんなのできないよ…!)
腕を下した。
「どうしましたか?目の前に敵が居るのですよ」
「…」
落胆したのか僅かにトーンが下がった少女はなおも近づいて、それに対して響は俯いて動けない。
二人の距離はもはや息が吹きかかるほどしかない。少女の最後に問う。
「それでも動けないのですか?」
「それでも…私は誰かを傷つけたくないよ…」
胸の想いが雫となって零れ落ちる。何も言わずに再び紫色の装束を少女は纏う。
(ごめんなさい翼さん…ごめん…未来、シュテるん…)
数秒後に自分を待ち受ける暗い将来を予感して目を瞑った。
…
……
………
「えっ…」
頬に両手を添えられ、涙が拭われる。
「あなたは優しすぎます」
その手の主はつい先ほどまで戦った少女。
「はっきり言えば未熟です。翼を置いて逃げ出さなかった勇気はありますが、誰かを助けたいという願いと力にならなければならないという強迫観念が喧嘩して足を引っ張っています」
突然向けられる予想外の言葉に困惑する響。その間にも少女は続ける。
「いろいろゴチャゴチャ考えすぎです。小難しい理屈なんて要りません。もっとシンプルに、胸に湧いたこれだと思える衝動に素直になってください。それ以外は余計です」
なぜ急にこんなこと言われるのかわからないけど、その言葉の一つ一つが胸に染みわたっていく。
「言葉だけではどうにもならないことがたくさんあります。それでも想いを伝えたければその意思を固めることです。覚悟が決まれば嫌でも自分から力をつける努力しようとしますから」
「想いを伝える…覚悟」
心の中でそのフレーズが繰り返される。その反応に満足したのか、頬から手を離して響の腕に触れる。
「本当はあなたのような優しい人に戦場に出てきてほしくはありません。ですが避けて通れないなら強くなることです。覚えておいてください、力を付ければ戦うことも戦わせないことも選べるようになります。その気になれば相手を傷つけずに無力化させることだって可能です」
響の両手をとって少女は指を絡ませ握りしめる。
「あなたのこの手は壊すためじゃなく伝えるためのものなのでしょ?」
「うん…」
胸に掛かった靄が透き通る気がした。
気に入らない。気に食わない。
赤紫色のヤツがあの甘ちゃんのガングニールの装者モドキに対してどうするのか興味があって見てみたが、蓋を開ければ下らない茶番。
想いを伝える力?ふざけるな。力は破壊にしか使えねぇ。それをずっと見てきた。杖を握り締める手の力が強くなる。課せられた仕事は分かってる。あの赤紫色の魔導師って呼ばれるらしいヤツと装者モドキをかっさらえばいい。そのための力もこの手にある。
お望み通りこの胸の衝動を叩きつけてやるよ──ッ!
『新たなノイズ反応!それにこれは…!?』
「ネフシュタンの鎧だとッ!?」
既に現場に急行している途中だった弦十郎はその報告に驚愕する。予測通りノイズを操る存在が現れたことに対する衝撃も大きかったが、それ以上に新しく現れた少女の身に纏うそれを知っていた。
2年前に奪われた第4号聖遺物・ネフシュタンの鎧。惨劇の引き金。完全聖遺物。なによりもそれは、奏を散らせてしまった自分たちの罪の証。
響のギアから転送される映像から見える戦局は芳しくない。翼を下し、やたら響に執着していたあの少女もネフシュタンの鎧相手には押されている。光球は光る鞭を回転させてすべて叩き落とされ、拘束する光の輪はこともなく引きちぎられ、距離を取れずに一方的に嬲られる。響に至っては翼を守ろうとしてノイズに囲まれて身動き取れない。
すでに全速力で駆けつけてる途中だが到着まではまだ時間が必要だ。このまま奪われるのを指をくわえて見ていることしかできないのか。
握りしめた拳から血の雫が垂れた。
『いろいろゴチャゴチャ考えすぎです。小難しい理屈なんて要りません。もっとシンプルに、胸に湧いたこれだと思える衝動に素直になってください。それ以外は余計です』
自分に向けられたわけではないその言葉、しかし不思議とすんなり胸に入ってくる。深く沈んだ意識の海に漂ったまま考える。
(私の胸に湧いた衝動…)
奏と一緒に飛びたいと思ってた。彼女と一緒ならどこまでも飛べる双翼のツヴァイウィング。でも奏はもう居ない。だから歌女としての翼ではなく防人である風鳴として戦った。
そして奏の遺したガングニールが再び現れてからずっと心をかき乱されてばかり。この身は感情のない剣であると定めたというのに────。
遠くに思える通信機から、奪われたネフシュタンの鎧が現れたことと狙いは立花であるという情報が伝わってくる。
(私はまた奪われるの…?)
鈍った思考では二課とか風鳴の責務とかそういったことまで頭が回らない。ただ、奪われたくないという純粋な想いだけが浮かんでくる。
(私のしたいことは────)
◇
はっきり言えばピンチ。
翼との戦闘でダメージもあるが、それ以上に目の前の少女が純粋に強い。響がいうには完全聖遺物・ネフシュタンの鎧らしいがこの強さの根源はどう考えてもそこではない。バトルセンスがずば抜けている。
切り札たる抜剣はすでに一度使ってしまった。もう一度使うとなれば今のコンディションでは十中八九体内にある欠片の破壊衝動に飲まれるだろう。元はただの魔法、だが呪われた今は自身を焼く諸刃の剣。使いすぎれば欠片の意思に塗りつぶされて自分ではなくなってしまう。そもそも翼との戦いで使った負荷すら一切抜けていない。
接近戦に引きずり込まれた時点でジリ貧。せめて自由空戦に持ち込めれば互角に戦えるが、それは響と翼を見捨てることと同義。街を焦土にする遠距離砲撃戦などもってのほか。
(ッ!)
僅かに思考が逸れた隙に躊躇なく胸部に刺さる足蹴り、その痛み耐えつつ砲撃を見舞うも躱され鞭でシールドを砕かれる。加えて肉弾戦の一辺倒かと思えばもう一つの完全聖遺物でノイズを操ってみせる悪辣さ。
「どうしたんだぁ?さっきまでの威勢はよぉ。もっと見せてくれよな」
「──」
挑発は無視して、呼吸を整えつつマルチタスク*4で魔法演算をしつつも響たちの状況を確認。翼を護ろうと押し寄せるノイズに立ち向かうも数が多すぎる。
「アタシ以外に現を抜かすとかいい度胸じゃねぇか!」
「いいえ、ちゃんと見ていますよ!」
構えた杖の先端に桃色の光が集束させ、不足分の魔力はカートリッジで無理やり補う。
「そうかい。だったらアタシはッ!」
《ディバインバスター》
「ちょっせぇッ!」
【NIRVANA GEDON】
ネフシュタンの鎧から生成した巨大なエネルギー球と砲撃魔法が拮抗する。しかし相手はその上を行く。
「持ってけダブルだ!」
拮抗してるところにもう一発のエネルギー球を叩きこみ、爆発。エネルギーが四散するもシュテル側を襲う量のが多い。
「これでわかったか?力の差ってやつだ。お前のそのちゃちな力でなんでもできると思うんじゃねぇ!」
投げつけられるその言葉はシュテルがずっと痛感していたもの。だが、それでも自分の手の届く範囲のものは諦めたくない。
精神を統一する。一か八かの賭け。二度目の抜剣。今抜かずしていつ抜くというのか。
「バッ…
Gatrandis babel ziggurat edenal────
「まさか!?」
鳴り響くその旋律にもっとも反応したのはネフシュタンの少女だった。彼女は知っている。これが何を意味するのかを。
Emustolronzen fine el baral zizzl────
絶大な力を得ると同時に装者の身を焼く、天羽奏の命を燃やし尽くした滅びの歌・絶唱。
それを歌うのは、倒れていたはずの風鳴翼。
Gatrandis babel ziggurat edenal────
すぐさま離脱しようと身をひるがえすも、
《クリスタルケージ》
「くっ!?ここから…出せッ!!」
半透明のピラミッド状の檻に閉じ込められて動けない。
Emustolronzen fine el zizzl────……
そして、絶唱の詠唱が完成する。
迫りくる破壊のエネルギーにシュテルは離脱し、しかし取り残されたネフシュタンの少女はノイズと共にそのまま飲み込まれた。
◇
絶唱を終え、ネフシュタンの少女ももう一人も皆撤退していった。
後に残るは地面に座り込んで呆然とする響と立ったままの翼。
「つばささ…翼さん!?」
絶唱の負荷で血涙を流し、吐血する翼の姿に響は取り乱す。すぐさまその身体を支えるも流れる血が止まらない。
「翼大丈夫か!?」
「翼ちゃん!?」
ようやく現場に辿り着いて駆け寄ってくる弦十郎と了子の言葉に応える気力もない。
ネフシュタンの鎧ともう一人の少女を取り逃がした雪辱は果たせていない。それでも、奏が助けた少女は護ることができた。
薄れゆく意識の中で最後に思うのは。
(心と身体、全部からっぽにして、思いっきり歌う歌はこんなにもお腹が減るものだったんだね、奏────)
ルシフェリオン(このマスター繋がれないって言っておきながらボディタッチ多くない…?)
独自設定は
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別に多くても大丈夫
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これぐらいなら許容範囲内
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ちょっとついていけてない
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もう無理。勘弁
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ちくわ大明神