夜明けの明星   作:高杉ワロタ

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凄い遅れて申し訳ないですが投下。
いろいろと書いてて表現とか納得しなくて己の文才の無さが憎い…
書き方とかいろいろと試してますが、これ悪くない、アレダメとかアドバイスを頂けると幸いです

財団周りは完全に独自設定ですはい

ちなみにYouTubeのなのは公式チャンネルでなのはA'sの無料配信が始まったようです(ダイマ


Episode04 望んでなかった成就

「宿題…今やらなきゃだめ…?」

「駄目です。響のことですから確実にギリギリまで放置するのでしょ?」

 

 精一杯の上目遣いの懇願。しかしそれはハスキーボイスの親友に無慈悲に一蹴りされる。連休初日から目いっぱい遊ぶという響の壮大なる野望は、朝から自宅前へとやってきた親友らによってその第一歩から躓いてしまった。抗議の目線を受けても親友は何処吹く風。

 

「またいつもみたいに期日ギリギリに未来に泣きつくことにことにならないように、今から毎日少しずつ消化しますよ。大体昨日に一緒に宿題をやるって約束したじゃないですか」

「休みだってことで頭がいっぱいだったかなぁ…なんてあはは…」

「ほら響、せっかくなんだし今一緒にやっちゃおう?私も手伝うから」

 

 頼みの綱であった未来までもがシュテル主導の追い込み漁に参加してもはや逃げ場なし。リビングに入って勉強の準備している二人の横で一人で遊ぶ気分になれなくて、響はしぶしぶランドセルから宿題を取り出してテーブルに着く。

 だが果敢無き哉、授業中に先生の解説をちゃんと聞いていなかった響にとって目の前の宿題は断崖絶壁にしか感じられない。

 

「もうだめだぁ…おしまいだぁ…やっぱり私には無理だよぉ…」

「そんな弱音吐く暇あったら手を動かしてください。そこの部分は響でも問題なく解けるはずですよ」

「だって…シュテルは勉強すごいできるし未来だって私よりもよっぽど頭いいけど、私にはなんも取り柄がないし…」

 

 勉強に対するいつもの軽口、そう思っていたところに予想外の悩みを吐き出される。サクサク処理していくシュテル、平均よりも多少速めの速度で片づけていく未来、その二人の存在は響にとっては少しばかり思うとことがあった。だけどそうやってへこむ響の両手を二人は掴む。

 

「そんなことないよ。私もシュテルも響のいいところたくさん知ってるんだから」

「ええ、人並みにはできるようになってほしいですが勉強できない程度で響の魅力は変わりません」

「未来…シュテるん…」

 

 子ども特有の将来への不安、でもそれもこの二人となら吹き飛んでしまう。手を握られ続けるのが少しこっぱずかしくなったのか、響ははにかみながら頬を搔いた。

 

「それに、もし将来響がダメダメでも私が二人を養うつもりなので何一つ問題ありません」

「二人ってもしかして私も入ってるの!?」

「なにを言ってるんですか未来。この間キッチンを盛大に焦がしておばさんから出入り禁止って言い渡されたばかりじゃないですか。安心できないので当然未来も一緒です」

 

 得意気な顔して語るシュテルに抗議の音を上げる未来。未来は一見しっかり者のように見えて案外やらかすのだ。のだが、3人の中で一番ちゃんとしているように見えてシュテルもかなり抜けてるのを響は忘れない。

 以前、シュテルが未来のお母さんに作ってもらったニンジンの彫刻に感動して、教えを乞うたことがあった。その手の器用さもあってか、ついに習得したシュテルは響と未来にお披露目しようとして気合を入れて作品を作り上げる。長い時間をかけて作り上げられたそれはシュテルの職人気質もあってか芸術品のよう。

 ただし、使った素材はよりにもよってお餅。焼き網に乗せられた餅のヴィーナスは熱で膨れ上がって腰のところで真っ二つ。お餅が変形することをすっかり失念していたシュテルはその光景に呆然となって、二人でいじけた彼女を半日かけて慰めたのはつい先週。シュテるんにはやっぱり私と未来がついていなきゃ駄目だよねと響が胸に刻んだ一件だ。

 

「だいたいシュテルだってほっておくとすぐ夜更かしして寝ないし人のこと言えないでしょ?今だって目のとこに隈が出来てるじゃない」

「ッ…よく気づきましたね」

「当たり前でしょ。ずっと見てきてるんだから」

 

 駄目駄目ポイント指摘大会の最中、未来の一言にシュテルは思わずどもる。言われて響もシュテルのこと見ればどうにもいつもより少し顔色が悪い。最近母親と関係があまりうまくいっていないのはすでに相談を受けていた。ことが事なだけに心配そうな表情をする響にシュテルは安心させるように言う。

 

「大丈夫ですよ。実は最近新しいことを覚えて今その練習をしているんです」

「新しいこと?」

「秘密です」

「イジワル…」

 

 興味をひかせておいて勿体ぶるという悪魔的な所業に響は不満げだ。それに対して少し申し訳なさそうにシュテルは苦笑する。

 

 

「ちゃんと練習して、いつかうまくできるようになったら二人に見せたいと思っているんです。だから、それまで少しだけ待っててください」

 

 

 

 その一か月後シュテるんのお母さんが亡くなって、病院に搬送されたシュテるんが姿を消した。見せたいといったものは結局見ることが叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『朝です。起きてください。二度寝はダメですよ、起きてください』

「ん…」

 

 午前5時、まだ空が暗いけど耳元で鳴るアラームに私は目が覚めた。隣で眠る未来を起こさないようにそっと布団から這い出つつ、修行に向かう準備する。

 翼さんが倒れたあの日から、私は心から強くなりたいと願った。そして今は弦十郎さん、改め師匠の元で毎日特訓している。

 そんな私に無理して変わるんじゃなくて私のまま強くなってほしいと背中を押してくれた未来。まだなにも告げられなくて心苦しいけど、危険に未来を巻き込みたくないと決めたから。

 

 そうやって静かに朝食を取りつつふと今朝の夢を思い出す。流れ星の夜以来、なんでか妙にシュテるんの夢を見る。

 

 私の親友シュテル。普段は割と甘やかしてくれるけど、勉強のことになるといろいろと厳しかった。でも私のことを想ってくれているからだっていうのもわかる。

 

(ほんと、不器用だよね)

 

 手先は器用なのに立ち回りは本当に不器用な私の親友は、私に何かあるとすぐに自分から嫌われ役を買って出る。そばにいてくれる未来に対してシュテるんは私の知らないところで守ろうとする。それでいつも傷だらけな手を隠して帰ってくるけど、そのたびに未来に見破られてしまう。手を握ってあげればすぐ抵抗にならない抵抗で顔真っ赤にしてそっぽを向いて、でもそんなのお構いなしにしばらく握り続けるとやがて諦めて素直になる。

 

 そんな親友はもう何年も会っていない。一番隣に居てほしかった時に居てくれなかったというのは今でも少なからず思ってる。でももしあの時私の傍に居たらシュテるんはきっと私の知らないところで私のせいでもっと傷ついてたかもしれない。

 それに────

 

 首にぶら下げた赤いビー玉に目を落す。

 シュテるんが姿を消した後の私と未来の誕生日、その時に贈られてきたプレゼント。私にはこのビー玉で、未来には青色の小さな宝珠がはめ込まれた灰色のカード。こんな見た目をしていながら実はいろいろ機能が詰まってる高性能目覚まし。中には普段恥ずかしがって歌ってくれないシュテるんの歌も添えていて、2年前に大けがしてリハビリ生活の時も、そのあとも励ましてくれた。

 シュテるんの残したものはずっと私を支えてくれている。

 だから、もう一度逢いたい。逢って、いろいろお話を聞きたいんだ。

 

「あれ?」

 

 違和感に気づいてビー玉を光にかざす。シュテるんから贈られてきた時は、ビー玉の内部に大きなヒビが入っていた。それが今。

 

「ヒビが小さくなってる…?」

 

 自分じゃあ解決できそうにない疑問に少しの間頭を悩ませて、それから家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼から魔力を蒐集、成功。響の意思の確認、完了。敵の戦力規模のおおよその割り出し、完了。

 戦果はおおよそにしてS勝利、とは到底思えなかった。

 

 いつものようにベッドに寝そべって天井を見上げる。空間に投影されたのは先日の戦闘記録。そこに居たのはネフシュタンの鎧を纏った白い少女。彼女は明確に響と自分が目的であると宣言した。デュランダル、響、それに続いて響を付け狙う新たな勢力。

 

「はぁ…」

 

 溜息と共にシュテルは寝返りを打つ。日本に戻ってきた時はデュランダルを回収できればそれでよかった。なにも難しいことを悩むことなくただそれだけを考えていい、今思えばそれはなんと幸福なことだったか…

 目の前の問題を解決しきる前にどんどん降り積もる新たな課題。今まであえて触れないでいた“その先”のことについても考えなくてはならなくなる。それがどこまでも憂鬱でしかない。

 

 デュランダルを奪い去った後でも響への脅威はなくならない。できることなら響に仇を為すすべてを焼き捨てたい。

 

 でもどうやって?

 

 直接戦闘であれば抜剣のほかにもリスクはあれど切り札はいくつかある。父さんが遺した魔法とは異なる力もそうであるし、闇の書に蒐集された魔法や魔力を還元して使うことだって手の一つ。せっかく蒐集したページがもったいなくはあるがまた集め直せばいい。

 だけど相手は複数の完全聖遺物を調達できる勢力。なおかつ選んで響を狙うあたり持っている情報量も自分より格段に多いだろう。その尻尾を掴むのが先か寿命が尽きるのが先か。

 

 響のバックには国家権力がついている。なら彼らに任せれば安心か?それもない。

 響のシンフォギア、それに組み込まれた聖遺物が発する固有の波形はマリアのガングニールとまったく同一のもの、というのは戦闘記録を精査した結果判明した。日米が同じ技術系統の力を運用して、あまつさえそこに完全に同一の聖遺物の欠片が使われている?それも両国が今まさに聖遺物を巡って対立している最中に?一体何の冗談だ。

 

 シュテルの知る米国は欧州大陸に蔓延る錬金術師とも接触を試みる勤勉さと、欧州の聖遺物をすべてわが物とするために経済戦争を仕掛ける貪欲さ、その両方を併せ持つ国だ。自分が手に入れた果実を笑顔で分かち合うマネなど絶対しない。

 つまり、対立する両国がどちらもシンフォギアを配備運用しているという状況自体がすでにおかしい。

 

 シンフォギアがどちらの国が開発したのかは不明だが、一方的な水漏れが発生しているのは確実だ。そんな組織が響を護り切れるかと言われれば疑わしいというほかがない。

 

「はぁ…」

 

 本日何度目かもわからない溜息。空間モニターから目を離して手を見つめる。

 四年ぶりに触れた響の両手。その温もりは誠に暖かで、愛おしく、だからこそ未練が募って覚悟が鈍る。

 

 

「ずっとこのまま時間が止まってしまえばいいのに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翼が目を覚ましたそうだ」

「ほんとですか!?」

 

 二課の発令所にて、弦十郎のその言葉に響は歓喜する。絶唱の負荷で入院してから一週間、ずっと意識を取り戻さなかったのでその喜びは当然と言えよう。そんな響の喜び様に当てられたのか、弦十郎を含め二課の面々が少し笑顔になる。

 

「とはいえ依然と病人、当分の間響君に頼りっぱなしになることになるだろうがやれるか?」

「問題ありません!」

「ん~いい返事ね!」

 

 威勢のいい返事にご満悦な了子。とはいえ今日の本題はそこではない。モニターに映し出されたのは渦中の少女二人。翼が倒れる原因となった存在だ。

 

「あれから一週間、ノイズの出現頻度は随分と下がった。おそらくはネフシュタンの少女が負傷したことが原因だと思われる」

 

 ノイズを自在に操る完全聖遺物、それを持った少女は逃げ延びることこそできたものの、翼の絶唱の直撃を受けていた。いくら完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を纏っていようとも、そのダメージは相当なものだろう。

 

「だが減ったとはいえ相変わらずノイズは出現していた」

「でもそのたびにこの…えっと…殲滅者(デストラクター)ちゃん?が倒してたんですよね」

 

 そこまでは響もよく知っている。ノイズ出現の知らせを受けて現場に駆け付けるたびに目にするのは大気に漂う焔の残滓。周辺一帯のノイズ反応をまとめて彼女が焼却した証。

 はっきりと響が狙いだと言っていたネフシュタンの少女とは違い、翼を襲撃したかと思えばノイズを代わりに殲滅したりと矛盾めいた行動、それゆえにその目的に検討を付けることができなかった。

 

「少しでも彼女の狙いを絞ろうと思ってデータをいろいろ解析したの。結果がこれ」

 

 了子が手持ちの資料をモニターに映す。翼が倒れた日に観測されたアウフヴァッヘン波形の記録。響のガングニールと翼の天羽々斬、ネフシュタンの鎧。そしてさらに未知の波形が3つ。

 

「一つは言うまでもなくネフシュタンの子が持ってたノイズを操れる完全聖遺物だとして、次はこっちの紫の子の方ね。翼ちゃんが倒される直前とその直後にそれぞれ別々の波形が発現してたの。彼女も同じ様に聖遺物を持っていたって訳」

「ということはすでに?」

「ええ。念のためスクライア財団に波形照合を頼んでおいたわ。解析結果が届いたのがついさっき」

 

 どんどん進んでいく会話に置いてけぼりになる響。知らないワードに頭の中がはてなマークだらけになったのでおずおずと手を挙げる。

 

「あの…そのスクライア財団っていうのはなんです?」

「あー、響ちゃんは知らなかったんだったわね」

 

 しまったという顔をした了子が視線で藤尭と友里に説明を促す。

 

「スクライア財団ってのは世界中の遺跡を調査するエキスパートで聖遺物発掘の専門家集団のことだよ」

「そこが発掘した聖遺物を本格的に研究するために私たちのような研究機関に引き渡してるの。当然、発掘時にある程度起動時のアウフヴァッヘン波形の推定もするから、聖遺物の照合をするならまず財団のデータバンクに頼ることになるわ」

「私たちは聖遺物の研究をしてるけど発掘までは専門じゃないからね~。ほら、餅は餅屋って言うじゃない?」

「へー、そんなのがあるんですか」

 

 なんとなくだが茫然と響は理解した。どうやら世の中いろんな人たちの手によって回されているんだと実感する。そんな響の様子を見て弦十郎は途切れた話を進める。

 

「それで了子君、照合の結果はなんだったんだ?」

「そうね…。まずネフシュタンの子が持っていたのはソロモンの杖ね。発掘は今より何十年も昔で、当時はその詳細機能は不明。研究のために米国に譲渡されていたものらしいわ」

「ということはやっぱり米国がこの件の裏で糸を引いていたってことですか!?」

「いや待て、そう決めつけるのはまだ早い。我々もこうして現にネフシュタンの鎧を奪われているのだからな」

 

 早合点する藤尭を弦十郎が抑える。公安時代に培ってきた臭覚がこの一件が一筋縄ではないことを告げている。実際にネフシュタンの鎧に限らず、10年前にも第二号聖遺物であるイチイバルを奪われているのだ。米国が蠢いてるのは確かだが、まだその先があるはず。

 そして了子はさらに続ける。

 

「紫の子なんだけど…翼ちゃんを倒したときのものはドヴェルグ=ダインの遺産、魔剣・ダインスレイフ。スクライアが発掘したものではないけどその波形パターンは記録してたみたい。伝承ではひとたび抜剣すると、犠牲者の血を啜るまでは鞘に収まらないとも記される曰くつきの一振り。あの爆発的な出力もこれが絡んでいる思われるわね」

 

 さすがは天才考古学者というべきだろうか、字引のように聖遺物に関する情報をすらすら語り出す。

 

「だけど翼ちゃんが倒れたあとのものの解析にはもう2、3日かかるみたい。観測時間が短すぎるってのもあるけど、あえて同時に別の聖遺物のアウフヴァッヘン波形を被せて偽装してるんじゃないかってのが彼らの見解ね」

「でもそれって結局なにが目的かわかってないってことなんじゃじゃないですか…?」

 

 散々もったいぶったわりには相手の方針につながりそうなものが見えてこなくてさすがの響も文句の一つは言いたくなる。正直言ってここまでの話で理解できたのはなんか了子さんってやっぱりすごい頭いいんだなーぐらいしかない。ブーたれるそんな響を見て弦十郎が少し笑ってから続ける。

 

「まあそう落ち込むこともないさ。相手がわざわざ偽装するということはそれだけ見られたくないってことなんだろう。財団の解析結果次第では一気に相手の正体に近づけるのやもしれん」

「もう一度使ってくれれば手っ取り早く一気に調べられるけど、そのために響ちゃんを危険にさらすのもねぇ?だから響ちゃんの仕事は安心していつも通りちゃんと英気を養っておくことよ」

 

 なんだか今一つ納得できないけど、とりあえず響はちゃんと返事することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ちゃんには言わなくてよかったの?その…紫の子が響ちゃんの知り合いかもしれないってこと」

「ああ…」

 

 響が立ち去った後の指令室で了子は弦十郎に問いかける。先ほどのミーティングで弦十郎があえて触れてないことには気づいてた。

 

「まだ確かな情報がない今、うかつに響君を惑わせるのは得策ではない。今調査している緒川が確証を取れるまではこの話はなしだ」

「相変わらず甘い男ね…」

 

 もう冷めてしまったコーヒーを口にしつつ、了子は手元のモニターに視線を据えたまま。

 これまでの戦いでも、この少女は響にあまりにも執着し過ぎているのが誰の目から見てもわかる。一見むちゃくちゃに見えるその行動も、親しい仲であったなら筋が通ってしまう。当然そのことに響が勘付かないはずがない。

 頭自体はあまりいい方ではないが、勘に関しては響はむしろいい部類に入る。その彼女が気づいてないとは思えないが、さっきの様子だと腹芸を演じてるわけでもなかった。となれば響が本当に件の少女と面識がないか、もしくは本人が無意識に目をそらし続けているかのどちらかしかない。弦十郎としては無論前者であることを願ってるが、最悪について備えるのが司令である以前に大人としての責務だ。

 

「彼女がノイズを使役している痕跡はない。なら俺か緒川が当たることもできる。友達かもしれない相手と響君を戦わせたくはない」

「あなたの相手をしなきゃいけないのはさすがにご愁傷様ね」

 

 生物学的に言えば間違いなく人間のはずなのだが、どう見てもその能力が人外の閾値すらはるかに飛び越えているような弦十郎の力を知るだけに、了子は皮肉ではなく心底モニターの少女に同情の念を送った。

 

「でもそうね。響ちゃんに言わないならこれを見せないで正解だったのかもね」

「なんだそれは?」

 

 意味深にしゃべる了子に弦十郎もそのモニターを覗き込む。

 

「ダインスレイフ、いわゆる魔剣の代表格の一つ。伝承通りなら敵対するものも、持ち主も共に滅ぼす呪いの逸品。そんな大層な逸話があるけど完全聖遺物ならともかく、欠片サイズならシンフォギアのように別の何かを媒体で増幅してあげなければ大した力なんて出せないわ。ただね」

 

 一度区切ってから了子は別のファイルを表示する。それを見た弦十郎は目を見開く。

 

「あの子の持つ聖遺物のアウフヴァッヘン波は彼女の体内より検出されているの」

「まさか…ッ!」

 

 弦十郎の反応に満足したかのように了子は頷く。

 

 

 

「おそらく彼女もまた響ちゃんと同じく聖遺物と融合状態、融合症例第二号と言ったところかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《周辺ノイズ反応完全に消失。お疲れ様です、マスター》

「…」

 

 相棒から送られる労いの言葉だが、自分で作り出した眼前の光景にシュテルは素直に喜べなかった。

 シンフォギアとは違う魔法という力。かつて存在した魔法文明の残滓であるそれは、対人戦にこそ絶大なアドバンテージを持つが、ノイズ相手では力任せのごり押しをするしかない。必然としてシュテルがノイズと戦えば周りに大きな被害が出るし、殲滅効率は翼の足元すら遥か遠くの彼方。

 

 それでもここ数日間シュテルがノイズを殲滅しているのは響を狙う存在の尻尾を掴むため(無駄な努力)というのと、本来の防人たる翼を汚したことへのケジメ(自己満足)だ。

 響から離れなければならないというのにいつまでもズルズル引きずっている。響を取り巻く現状も、この街を離れないでいられる都合のいい言い訳として使っているのかもしれない。

 

「ルシフェリオンは…反対しないのですか?」

《反対するとは?》

「その…私の今やっていることにです」

 

 夕焼けに照らされる中、建物の屋上という二人だけの空間でシュテルは己のデバイスに問いかける。

 

「ひどく非合理的なことをしている自覚はあります。リミットを考えるならこんなことやっている場合ではないです」

 

 淡々と自分の口から吐出される心中。理想の自分とは、物事すべて理に従って動ける人間だと思っていた。だが実際はいつも持て余す感情に振り回されてばかり。それでよかった時もあればそうでなかったこともたくさんあった。

 

《いいんじゃないでしょうか》

「叱っては…くれないのですね」

《必要なときはそうしますが、今はそうではないので》

 

 帰ってくる言葉は半ば予期していたもの。けどシュテルはダメなものはダメだと言ってほしかった。こういう風に悩むとき、自分の師匠ら二人はどうしたのだろう。姉の方がなにかを言う前に妹がうじうじ悩む自分を蹴っ飛ばしてきて説教してくれただろうか。

 

 風に吹かれてただ遠くを眺める。闇の書のもたらす刻限さえなければこの時間は永遠に続くのに…

 

「……?」

 

 ふと遠くに黒煙が上がるのが見えた。ノイズ反応は検知されていない。一体なにが起きたんだろうか?

 しかしルシフェリオンがの反応は違う。

 

《マスター!防衛大臣が!広木防衛大臣が暗殺されました!》

「────ッ!?」

 

 それは事態が急変することの狼煙。

 

 

 

 

 永遠なんてどこにもない。必ずいつか終わりが来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(了子さんは普段通りって言ってたけどやっぱり気になるんだよなぁ…あの子)

 

 ミーティングが終わっての久しぶりの登校。だけど響の頭の中は紫の子でいっぱいだった。

 戦いの最中に触れたあの両手、なんというかこう、拒絶したくて、でも離したくもないような手の動き。思えばどこか覚えがあった気がする。ヒントはたくさん転がっているような気がするがどうもあと一歩届かない。

 

(よく知ってる気がするんだけど…)

「……き、……びき……ひびき……もう響ったら!聞いてるの?」

「う、うわぁあああ!?」

 

 心非ずだった響は急に現実に引き戻され、びっくりする。見れば声の主である未来はずっと呼び掛けていたらしい。

 

「本当に大丈夫…?今日ずっと上の空だったよ?」

「大丈夫、大丈夫…」

「もう…」

 

 ふくれっ面の未来に響は慌てて弁明する。精一杯の笑顔をするが若干引き攣っているのを本人だけが知らない。

 

「ビッキーがごはんの時にボケーっとするのって結構珍しいんじゃない?」

「そういえばそうですね。いつもならごはんを食べるのにも全力!みたいな感じですのに」

「そ、そ、そうだったかなぁ…?あははは…」

「アンタってアニメみたいな誤魔化しするよねー」

 

 ともに学校帰りに寄り道したお好み焼き屋で一緒のテーブルについてた友達である安藤創世、寺島詩織、板場弓美による追撃が止まらない。事態をまずく見た響は慌てて話を戻す。

 

「それで、なんの話だっけ…?」

「やっぱり聞いてないじゃない…この間の流れ星の話」

「あぁ!そうだったそうだった」

 

 正直完全に聞き流していたが、無理に波風立てる必要もないので誤魔化しておく。一瞬ジト目になる未来だが、すぐに自分の持ってるスマホを取り出す。

 

「へー、ヒナたち見に行ったんだ?」

「うん。それで動画撮ったんだよ、ほら」

「ホント!?ありがとう!」

 

 とてもとても楽しみにしていたのに約束を反故してしまった流れ星の一件で、未来には謝っても謝っても謝り切れない借りがあった。それでも動画を撮ってきてくれた未来の仏が如き寛大さに、響は歓喜の涙を流す。

 

「ってあれ?暗くてなにもないよ…?」

「光量不足だったみたいで、私もあんまり見えなかったんだよね」

「駄目じゃん!?」

 

 まさかの結果であった。そんな響の顔に未来が思わず笑い、それにつられて響も顔を綻ばせる。最近重いことばかりだったから少し心が軽くなった気がした。

 

「アンタらって相変わらずアニメみたいなやり取りをするよね」

「まあまあ、そこが立花さんたちのいいところですし」

 

 そんなやり取りを間近で見せつけられる弓美たちだったが、ふと思い出したかのように弓美が自分の端末を取り出す。

 

「そうそう、アニメで思い出したんだけど、この間すごいもの撮れちゃったんだよね。人間流れ星?」

「なにそれ?」

「夜にビルの屋上の間をすごい速度で飛んでるのを見ちゃったのよ!アニメみたいだったなー」

 

 興味を引くその言葉に全員で弓美の端末を覗き込む。

 

「どう?どう!?」

「なにこれ人間…?」

「すごいですねぇ…」

「────」

「……」

 

 弓美ら3人は思わず盛り上がる。しかしそれに対して響と未来の反応は対照的だ。彼女たちを今まさに悩ませているものがそこに映っていた。あまりにも意識が深く潜っているせいで二人はお互いの様子に気づかない。

 

『~♪~♪』

「あれ?立花さんの電話なってますよ?」

「ホントだ!」

 

 指摘されて慌てて端末を取り出せば表示されたのは二課からの緊急通信。

 

「はい、響です」

『響君、広木防衛大臣が何者かに暗殺された!』

「本当ですか!?」

『とにかく至急二課の本部まで来てくれ!』

「わかりました!」

 

 端末を仕舞い、慌てて立ち上がる響。その様子に未来は思わず表情を曇らせる。

 

「ごめん!ちょっと急用が入ったからもう行かなきゃ!」

「私たちは大丈夫だけど…」

「本当にごめん…!」

 

 事が事だけに急がねばならず、響は両手を合わせて腰を曲げて謝る。

 

「ま、待って、響!」

「どうしたの未来?」

 

 今まさに走り出そうとした響を未来が呼び止めた。疑問に思う響に未来が顔を俯かせる。

 

「あ、あのね、私今響に隠し事してるの…」

「それは…」

 

 私も同じ……口から出そうとしても掠れてしまうその言葉。しかし未来は続ける。

 

「だから、今度響が戻ってきたらちゃんと全部話すから!」

「…ッ!」

「気を付けて行ってきてね」

「うん!」

 

 新たな約束を胸に、今度こそ響は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「防衛大臣暗殺に主要幹線道路の一時封鎖。一気に動きますね」

 

 テレビで繰り返し報道される大臣暗殺事件、とある貧乏なテレビ局を除けばほぼどこも緊急特番一色だ。革命グループによる犯行声明が出されているそうだが、そんなものはただの偽装であるとシュテルは知っている。

 

《早朝に封鎖予定の道路は複数ありますが、そのうちいくつかは永田町へとつながっています》

「やはりデュランダルを移送するのでしょうね」

 

 デバイスメンテナンス作業を続けながらシュテルは確認のために推測を口に出す。永田町と言えば日本に来る前に調べた特別電算室、通称〝記憶の遺跡″がある場所だ。政府が経済活動に支障が出ること覚悟で複数の幹線道路を同時に閉鎖すると決めたが、永田町へのルートも含まれている時点でほかはダミーと考えてもいいだろう。

 千載一遇のチャンス。これを逃すのは論外。

 

 デバイスの整備が終われば今度はカートリッジの充填に取り掛かる。地味に骨な作業であるが、この間の戦闘で一気に2マガジン計12発も使ってしまったのだ。あまり贅沢を言ってられる状況ではなかったとはいえ、スクライア財団による支援を受けられなくなった以上、自力でチャージするしかない。そもそも今の財団でカートリッジの充填ができる人間はもういないが。

 かつてスクライア財団のトップであり、闇の書の搾取のせいでカートリッジを手放せないシュテルに安定して供給してくれた人物、グレアム氏もすでに亡くなっている。彼の死の原因の一端をシュテルは担ってしまった。

 グレアム家初代、ギル・グレアムの遺産であり、シュテルの師匠でもあった猫の使い魔・リーゼ姉妹も天に還った。争いの火種をまき散らし続ける一部の錬金術師たちと敵対関係にあった財団、その全戦力ともいえるグレアムらの喪失は、そのまま欧州大陸における異端技術の勢力図書き換えを意味した。

 錬金術師たちの胎動は時間の問題、しかしはその引き金を引く羽目になったのはシュテル。今更逃げることなど自分自身が許さない。

 

 雑念。手がブレる。考えたくないのに考えなくてはならないことが多すぎる。託されたもの、願われたもの、どれもこれもが見えない糸のように絡みつく。

 

『シュテル、あんたは余計なことゴチャゴチャ考えすぎなんだよ。ちゃんと考えながら戦わなきゃなんないけど、考えすぎは毒』

 

 あの日、響に伝えたことは紛れもなくシュテル自身が師匠より教わったこと。でも今の自分はそれを少しも守れてない。こんな不甲斐ない自分を叱ってほしいのに、その二人はもうこの世にいない。

 

「思えば私はずっと、誰かに甘えてばかりでしたね…」

 

 しばし作業の手を止めて、背もたれに寄り掛かる。どうするかはずっと前からすでにまとまっていた。ただ感情を持て余していただけ。けど、それももう終わり。

 懐から取り出したのはひび割れた白銀のカード状のデバイス。破損して、待機状態のままずっと応えてくれないそれこそ希望の鍵。

 

「デュランダルを手に入れたのちにこの街を離れます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2043/05/23 AM 5:00

 

 

 

《ワイドエリアサーチ》

 

 太陽も顔を見せぬ寅の刻、まだ少し肌寒い空気の中でシュテルはすでに魔法を発動せてていた。

 広域探知魔法。以前であれば逆探知を恐れて使っていなかった代物だが、今回に限って言えば襲撃が行われるのは双方にとってもはや予定調和。隠し立てする意味などどこにもない。

 

 魔力で構築した無数の光球状小型端末・サーチャーが護送車両を補足するべく周囲に広がっていく。複数の道路を封鎖している以上、どのルートをいつ頃通過するのか不明。さらにダミー護送車の存在念頭に入れなければならない。

 

 目を閉じて、サーチャーよりもたらされる各種情報に神経を尖らせる。上空にてヘリを数十機確認。どうやら相手は今日このために随分と大盤振る舞いらしい。遅れて数十秒、道路を疾走する複数の車両群を発見。さらに追加の捜索をしつつ、既知の対象について精査する。

 聖遺物を巡るこの戦い。ノイズを操る少女もまたこの争奪レースに加わることを考えれば、現状唯一と言っていいシンフォギア装者である響がデュランダルと離れて配置されるとは思えない。

 

「ッ」

 

 遠くに爆音とともにノイズ反応、遅れて破壊されるサーチャー。どうやらネフシュタン側もすでに盤上に上がったようだ。うかうかしてられない。

 

 さらに爆発。今度はサーチャーだけではなく護送側にも被害が発生。早朝の市街のあちこちで戦場のような音が広がる。デュランダルもそうだが、ネフシュタンの少女もまだ姿を見せていない。わかりやすく交戦してもらえれば助かるのだが。

 すでにサーチャーは市街全域をカバーしている。刻々と時間が過ぎ去っていくが焦ってはならない。

 

《A集団の一部、化学工場に向けて進路変更》

 

 ルシフェリオンの報告にシュテル脳内の情報を洗い直す。確か化学工場周辺の道路は封鎖対象外であったはずだ。ブラフ?それとも本命?

 確認するためにより多くのサーチャーをそちらに振り分ける。

 

《アウフヴァッヘン波形を観測!ガングニールです!》

「アクセルフィン」

 

 報告を待つまでもなく高速飛行魔法を発動。先ほどまさに化学工場へと突き進んだ車両の屋根に響の存在を確認した。続いて彼女らをあとを追う大量のノイズ。どうやらネフシュタン側はシュテルよりも先に居場所を突き止めたらしい。

 だが化学工場の中に入り込まれるのはこちらとしては痛い。化学薬品への誘爆を防ぐために手持ちの砲撃魔法を根こそぎ封じられたようなものだ。起動前のデュランダルが破壊されてしまってはたまったものじゃないし、響が巻き込まれては元も子もない。ある意味自分自身を人質にするような指揮官の判断に舌を巻く。

 

「響ッ!?」

 

 爆発。響を乗せた車が破壊され、ノイズに囲まれるのがサーチャー越しに見えた。こちらが到達するまであと数分、手が出せる距離ではない。絶体絶命のピンチ。だが現実はシュテルの予想とは違った。

 記憶の中にある弱弱しい姿とは打って変わり、あれだけの数のノイズをちぎっては投げ、ちぎっては投げの大暴れ。数百体居たノイズが瞬く間に殲滅される。とても先日とは同じ人間とは思えない。

 

(こんな短期間にこれ程強くなったのですか!)

 

 その事実に思わず胸が高鳴る。まだ荒削りながらも、響は着々と力を付けている。響の爆発力は昔から知っていたが、現状はやや想定外。相当いい師匠に巡り会えたのだろう。

 手駒が消えたことを受けてネフシュタンの少女が満を持して姿を現す。押され気味ながらも響は食らいつき、十二分過ぎるほど健闘している。これならきっと今後自分に降りかかる火の粉を振り払えるに違いない。シュテルにとっての最後の憂いも消えていく。

 

 そうこうしているうちにシュテルもまた工場へとたどり着く。三組の中で一番遅い現地入りとなったが、そもそもシュテルの目的はデュランダルだけだ。白熱していく2人をよそにデュランダルの確保を目指す。シュテルの存在に二人も気づいたが間に合わない。目標物の入っていると思われるケースまであと距離わずか。

 だが、

 

 

 

 ネフシュタンの少女との戦いによって高めに高められた響のフォニックゲインに呼応して目覚めたソレは、新たな主を求めて枷を突き破る。

 

 

 

「ッ!?」

 

 ケースまであと一歩の距離だったにも関わらず、目の前でデュランダルが突然ケースを突き破ってシュテルの手がむなしく空を切る。その隙を逃さず迫り来るネフシュタンの鞭にシュテルは一旦飛び退いて躱す。

 されど、それが致命的な遅れとなる。

 3人の中でもっともデュランダルに近かったのは他でもない響だった。宙に留まるソレの柄を響が握って────

 

 

 

 黒い衝動が奔った。

 

 

 天を衝く膨大なエネルギー。ただそこに在るだけでもその余波が打ち付ける。しかしそれを手にした響の様子がどうにもおかしい。明らかにいつもの響ではない。

 

「一体何が…?」

 

 想定外の自体に呆然となるシュテル。その声反応したのか少女が顔を上げ、目線が合う。瞬間、シュテルに戦慄が走る。

 

 

 

 

 みんな全部消えてしまえ──!

 

 

 身を焼く黒き破壊衝動、少女の理性は呑み込まれ、目した全てを消し去るために、手にした力を振り下ろす。

 

 

 

 迫り来る破壊の光。左右は倉庫に挟まれ背後にはネフシュタンの少女と危険物マークのついた貯蔵タワー。あのまま振り下ろされれば全員を巻き込んでの大惨事は免れない。即座にありったけの魔力を砲撃魔法に叩き込む。

 ほんの僅か一瞬の拮抗、ブレイカークラスの魔法をはるかに超える力の奔流に、シュテルは呑み込まれ意識が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子飼いに移送に関する全情報を教え、敢えて強奪させるプランは失敗した。しかしその代わりにデュランダルの起動成功という望外な成果を得た。完全聖遺物ともなればその起動には膨大なフォニックゲインを必要とする。あのソロモンの杖ですら起動に半年はかかったのだ。どうやら融合症例、立花響の力は自分の予想よりも遥かに大きいものだったらしい。計画の大幅な短縮にフィーネは思わず口が綻ぶ。

 

 そういえばあの魔導師の小娘も居たことを思い出し、そちらに視線を向ける。振り下ろされたデュランダルの軌道をわずかに逸らし、何とか直撃だけは免れたようだが、意識なく、ぐったり倒れている。身を護るバリアジャケットは解け、目を覆っていたバイザーも砕かれて、少女はその素顔を曝け出していた。その顔にフィーネは強烈な既視感を覚える。

 だが、答えを得る前に虚空より禍々しい波動と共に一冊の本が現出した。それを見たフィーネは瞠目する。

 

『転移』

 

 魔導書の光によって少女の姿はどこかに消える。しかしその魔導書がどういう存在なのかを少なくとも今はフィーネだけが知っている。

 

「闇の書だと…ッ!」

 

 憎悪と共に吐き出される言葉。決して忘れてなるものか。それによって引き裂かれた願いを。ほんのひと時でも理想を夢見れた時間を。

 永遠の狭間を生きた巫女の怒りを知る者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの後、意識を取り戻した響。あたりはぐちゃぐちゃとなった瓦礫の山。だけどそんなものだどうでもいい。

 

「わ、私は…どうして…」

 

 破壊衝動に飲まれた最中でも、響はしっかり見ていた。見てしまった。自分が消し去りたいをいう想いをぶつけた紫の少女。倒れていた彼女の素顔を。

 膝から崩れ落ちる。

 

『もし将来響がダメダメでも私が二人を養うつもりなので何一つ問題ありません』

 

 未来と一緒に将来を歩みたいと無邪気に思えた大切な存在。

 両目から涙が止まらない。

 

『あなたのこの手は壊すためじゃなく伝えるためのものなのでしょ?』

 

 そう言ってくれたその手で私は親友に向けて力を振るった。

 両腕が震える。

 

『いつかうまくできるようになったら二人に見せたいと思っているんです。だから、それまで少しだけ待っててください』

 

 もう何年も会っていなくて、いつかもう一度逢いたいと何度も願っていたこの想い。

 胸が締め付けられる。

 

『私は────高町星光、星の光と書いて』

 

 

 

「シュテるん……」

 

 響は震える声でその名前を呼んだ。

 

 

 

 

 願いは確かに成就した。誰も望んでなかった形で────

 

 

 

 

 




原作主人公を曇らせるのは控えめに言っても一般性癖

独自設定は

  • 別に多くても大丈夫
  • これぐらいなら許容範囲内
  • ちょっとついていけてない
  • もう無理。勘弁
  • ちくわ大明神

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