ホント大変お待たせいたしました。キャロルCカップとかゴジラコラボとかにうつつを抜かしちゃったせいじゃないですかね…
なお、今回はお前これがやりたかっただけだろ展開が複数含まれていますがご了承ください。
ただ書いていて自分でも結構くどいと思ってたのでアドバイスとか頂けるとありがたいです。
感想をもらえると悦びます。
忘れた方向けに前回までの流れを三行で書くと
二課「なんかシュテるんちょっと危ないもの持ってない?」
クリスちゃんがなんかいろいろメチャメチャ頑張ってビッキーお持ち帰り
シュテるん「これより二課にスネーク開始のお時間」
そんなわけですが第6話でございます。
※本作のなのはさんの設定はかなり改変されています。
393誕生日記念の後編は前編と統合しました。
『私はフィーネさんが何を抱えているのか全然知らない…でも、だからってなにもわからないまま戦いたくないんです!』
『フィーネさんは話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ何も変わらないって言うけど…だけど、話さないと、言葉にしないと伝わらないこともきっとあるんです!だから、何もわからないままぶつかり合うのは…私、嫌だッ!』
『今のもしかして…!フィーネさんが助けてくれたんですか!?』
『フィーネさん!背中は任せます!』
『えっと…同じ次元漂流者で同じ地球出身のよしみですし仲良くしたいかなぁ、なんて。ダメ…ですか…?』
『それに、フィーネさんは時々すごく悲しそうな目をするから、放っておけないんです』
『へぇ、ここがフィーネさんの新しい家かぁ…周りの景色もいいし住み心地よさそうですね。あっ、お引越し祝いででお菓子も作ってきたんです、よかったらどうぞ!こう見えても実家は喫茶店やってまして私も小さい頃からちょくちょくお手伝いしてたんですよ?』
『これだけの資料を一晩で全部集めたんですか!?フィーネさんすごい!すごいですよ!?』
『ごめんね…フィーネさん…ちょっとドジっちゃった…。リハビリ頑張るけど、お医者さんが言うにはもしかしたら空飛べなくなるだけじゃなくて、二度と普通に歩けなくなるかもなんだって…』
『私が不注意で怪我したせいでみんなに心配と迷惑いっぱい掛けちゃって…ごめんなさい…』
『にゃはは…私は、次元遭難でここにやってくる前、魔法と出逢う前は何の特技も取り柄もなくて…毎日将来なにをしたいのかとかそういうビジョンがあまり浮かばなくて…』
『だからそういうちゃんとした目標を持ってるフィーネさんのことが少し眩しくて、羨ましかったんだ…』
『なんでも私は次元遭難者の中でも珍しい時間転移型だそうで、ジュエルシードっていうロストロギアの暴走に巻き込まれて気付いたらこんな昔に飛ばされて』
『本当はお父さんやお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんにアリサちゃんとすずかちゃん、みんなにもう一度逢いたいってずっと思ってて…』
『だけどフィーネさんとぶつかって、みんなと出逢ってからは大分辛くなくなって…今はこうして前を向いてまっすぐ生きていこうって思えるようになったんです』
『うーん…フィーネさんの言う施された呪いから人々を解き放つってのがいまいちよくわからないけど…それがフィーネさんにとって本当にやりたいことなら応援したいかな?だけど、もしフィーネさんがどこかで後悔するようなことだったら…』
『────その時は私がフィーネさんのこと絶対に止めに行きます。いつだって、どんなときだって。約束です』
『まあ、その前にリハビリ頑張らないとだけど…にゃはは…』
『そんな…!?分離した闇の書の防衛プログラムが復活して暴走…!?』
『フィーネさんは一度下がって!その傷じゃあしばらくは戦えないよ!』
『……私が行きます。今この中でまともに飛べるのは私だけだから』
『だからフィーネさん、みんなのことお願いします。私はちょっとアレを止めてきますね』
「そしてお前は帰ってこなかったな…
遠い過去の追憶から醒めたフィーネは気だるげに呟いた。
まだ少し眠たげな頭を振りながら、櫻井了子=フィーネは時計を見る。深夜2時半、どうやら作業の途中で寝落ちしてしまったらしい。無理もない。
近頃はデュランダル移送失敗に伴って再度二課での保管に関する手続き、そして為政者どもに対しての二課の設備防衛機構に関するプレゼン資料作成などで碌に睡眠時間を取れていなかった。せっかく子飼いのクリスが
長時間座った姿勢で凝り固まった関節をほぐしながらコーヒーを一杯淹れ、啜ったあとに溜息を吐く。随分長いこと見ていなかった昔の夢、スクライアから取り寄せた調査報告書なんかを見たせいだろう。置き去りにしてきた過去がいまさらのようにフィーネの前に現れる。
海鳴市遺跡調査事故。
26年前の海鳴市の遺跡で調査中だった発掘隊を襲った謎の火災事故。遺跡内部に潜っていたグランツ高町以下十数名は全員死亡、司法解剖で判明した死因は閉鎖空間内での爆発による酸欠、窒息死。だが事故後に何度調査しても遺跡内部に火災や爆発の可能性があった物質は見当たらず、一般には事件は迷宮入りとなり。調査隊の壊滅という手痛い被害を出しながらも、最終的に遺跡内に保管されていたある物品をスクライアが回収したことで事件は一応収束する。けど、その物品こそが問題だった。
名は闇の欠片──マテリアル。600年前の闇の書暴走の際に切り離された闇の書の一部ともいえる存在。闇の書に元々搭載されていた守護騎士と同様に人格を持ち、魔法生命体としての肉体を持つ。しかし正規のシステムである守護騎士や管制人格とは違い、マテリアルは暴走した闇の書の防衛機構が独自に作り上げたバックアップユニット。そのため、過去に闇の書が蒐集した人物をベースに構築される。
そう、マテリアルの中には闇の書の暴走を止めた小娘、高町なのはをベースにしたものも含まれていたのだ。
見知った顔が聞き慣れた声でさえずる中身のない言葉は聞くに堪えず、フィーネは生まれては暴走するマテリアルを見つけては塵一つ残さず殲滅した。
そしてここまではフィーネの記憶にあることであり、その先に何があったのかは知らない。
スクライアの報告書によれば海鳴市遺跡にて発見されたマテリアルは討ち漏らした個体だったという。しかし600年という年月は魔法生命体にとっても永く、
だが報告書はそこで終わっている。なぜマテリアル断片が今の闇の書の主である
「関係ない…」
どのみち過去は所詮過去。どれほど立ち塞がろうがフィーネの歩んできた歴史の1ページにしか過ぎない。かつて自分を止めて見せるなどと豪言した小娘ももうこの世に居らず、約束とやらも結局は果たせず終いだ。
それでも、過去とはフィーネにとっては原動力。時間の積み重ねこそがフィーネを突き動かす。
ゆえにフィーネにはもはや止まることは許されない。何があろうとも必ず事を成し遂げて見せると決めた。闇の書も、バラルの呪詛も、すべて終わらせて見せる。
そうすることでしかフィーネは贖罪することができないのだから────
◇
《現在標高マイナス400m、なおも降下中》
「…ッ!?なんなんですかこれは…」
エレベーターのガラス越しに見える光景にシュテルはただひたすら圧倒される。眼前に広がる巨大なシャフト空間、下を見下ろすがなおも見えない底の底。リディアン音楽院の地下深くにこのような大それた施設が建設されているとは予想だにしていなかった。
一体全体どうしてこうなったのか、それはすこし遡らなければならない。
デュランダル護送を巡る戦いにて、
実のところシュテルは今の今までずっと間風鳴翼というのは芸名だと思っていた。実際、有名人が本名ではなく芸名を使う割合は半々を越えているというし、翼本人がまだ学生なのでプライバシー保護の観点からもその方が可能性が高いからだろうと。だから政府のホームページにも載っているような要職である内閣情報官や対外政策管理官などに風鳴という苗字を多数見かけたときも何も思わなかった。
だがその
彼女の属する芸能事務所「小滝興産」。その代表を務めているはずの那須英嗣なる人物は実在せず、あまつさえ小滝興産という会社自体が活動実績が存在しないダミーカンパニー。リディアン音楽院とてそうだ。現校長であるはずの有間悠穂もまた架空の存在でしかなく、そのくせしてリディアン自体に
黒黒真っ黒、言い逃れなんてできやしない。そうとわかれば侵入して調べるまで。もっとも、地上にある学園内からは当然物理的にネットワーク回線が繋がっておらず、どうにか見つけたエレベーターの回線からもろくな情報を吸えなかったからこうして本丸に忍び込むハメになっているわけだ。
地下がこうなっているのはさすがに予想外だったが…
「……まったくとんでもですよここは」
きっと初めて都会で高層ビルを見た田舎者もこんな気分なのだろうとシュテルはどこか場違いな感想を抱く。
聖遺物は人知の及ばないものが多いが、目の前のものだってそれに微塵たりとも負けていない。いや、もしかしたらこの建造物自体がなにか特殊な役割を持っているのではないかとすら思う。現に視界一杯に広がるシャフト空間の壁にはまるで宗教の壁画のような模様が刻まれており、ここがどこかの古代遺跡の中だと言われても信じてしまえそうではある。
「非常識には非常識を、ということですか」
《どうしますか?撤退しますか?》
「いえ、ここまで来たのですからもう少し情報を集めましょう」
二課という組織への評価を大幅に上方修正せざるを得ない状態に陥ったのは確かだが、だからといって手ぶらで帰るわけにもいかない。虎穴に入らずんば虎子を得ず、今後のことを考えるとせめて内部構造図とデュランダルの保管位置ぐらいは掴んでおきたいところ。
そうやって腹を括ったのとほぼ同じタイミングでエレベーターも減速を始める。いよいよだ。
《現在標高マイナス600m、まもなく最下層に到着します》
「いざ、参りましょう…」
開かれた扉の向こうにシュテルは脚を踏みいれた。
◇
狙って深夜に潜入したとはいえ、施設内の人員は少なすぎるように思える。少なくとも先ほどまでエレベーターの中から見せつけられた光景と見かけた警備員の数はあまり釣り合っていない気がする。自動化による省人化が進んだのか、はたまた何かしらの任務で出払っているだけなのか。
まあどちらにしろ侵入する側からすればこの上なくありがたいことではあるのだが…
おそらく非常時にはシェルターとして機能するように作られているであろう広い通路をシュテルは慎重ながらも堂々と歩く。防犯カメラにとらえられている様子はない。
それもそのはず、今のシュテルは光学迷彩魔法・ミラージュハイド*1によって姿を消しているのだから。術者の身体表面に展開した光学魔法結界のおかげで激しく動いたりさえしなければ完全な透明人間と化す。
魔導師の持つ汎用性というのはこういう場面でこそ光るものだ。
とはいえ、なにも目的なしに観光しているわけではない。二課に忍び込んだのは外部と物理的隔離されたネットワーク回線を内部から覗き見るためであり、内部回線にさえ侵入できてしまえばあとはルシフェリオンの演算性能でゴリ押しするだけ。つまりその侵入の糸口となるコネクターを見つければいい。
(あれなんていい感じですね)
見つけたのは自販機とソファーが置かれた休憩スペース。その足元にあるコンセントコネクターはまさにハッキングには打ってつけの入り口である。一応周囲を確認した後にシュテルは膝立ちでコンセントにケーブルを差してルシフェリオンと接続、ハッキングを開始した。
やはりこれほど大掛かりな組織なだけにセキュリティも今までのものとは比べ物にならないほど固いようだが、そこはデバイスの演算能力の暴力によってどうにかこじ開ける。時間はかかっているものの、施設構造をはじめとしていくつかの情報がゆっくりと手元に蓄積されていく。
しかしそれとは裏腹にルシフェリオンによって表示されたコードの羅列はシュテルの眉を徐々にハの字へと変えた。否定したくも嫌な予感が止まらない。知っているのだ、そのプログラム言語を。
(これ…管理局規格とあまりにも似すぎている…)
時空管理局。すでに消滅した、財団内部の人間しか知らないはずの組織。そこで使われていた代物が今シュテルの目の前に現れていた。
かつて管理局が統べていた世界には二つの体系の魔法文明*2が存在していた。ミッドチルダ文明とベルカ文明*3、管理局で使われていたモノの規格は丁度その二つの文明が混ざり合って共存していたころのもの。異なる文化圏のシステムを円環に運用できるような作りとなっているだけに、普通に運用していれば余計になる非効率的な部分も存在する。つまり偶然この言語を産み出してしまった可能性は皆無。
そしてシュテルの知る限り今現在管理局規格のコードを使い続けている組織はただ一つ、管理局を母体とし、管理局の遺産を受け継いだスクライア財団しかない。だが財団の方針では管理局の遺産は外部に持ち出さないことになっている。外の正常な技術ツリーの発展に深刻な汚染を与えてしまう問題もあるし、何より自分の持つアドバンテージをみすみす捨てたいとも思わないだろう。
少なくとも財団のトップだったグレアムよりそのことを聞かされていた。
ならば今目の前にあるものは一体なんだ…?
よく見れば財団が現用しているものとは少し異なっているし、演算機器の性能に合わせて若干ダウングレードが為されているのも見て取れる。だがこのソースコードは明らかに使い慣れた人物が書いたモノ。
二課に侵入開始してからすべてがうまく順調に進んでいるはずなのに冷や汗が止まらない。気づけば喉がカラカラに渇いていた。見えないところでなにかが蠢いて絡みつくような感覚に襲われる。意識のすべてが目の前の文字列にくぎ付けになってやまない。
それがよくなかったのだろう。だからこそ、
「少し話をお聞かせ頂けませんか?」
「──ッ!?」
いつの間にか背後に居た優男より突然言葉を掛けられたことに心臓が止まりそうになった。
一瞬停止したものの、シュテルはすぐさま思考は張り巡らす。周囲には目の前の黒いスーツを着た褐色の髪の男以外の存在はなし、そして先ほどの作業でデュランダルのおおよその保管場所についてのデータも取得がギリギリ間に合っている。
となれば行動は即座。
「カットリッジロード」
カートリッジから解放された魔力を感じ取ったのか臨戦態勢となった男に、シュテルは躊躇なく魔法をぶつけた。
《アイゼンゲホイル*4》
炸裂、そして閃光と共に爆音が響く。攻撃力は皆無だが元々目くらまし用の魔法、これでしばらくは相手も目と耳が使えまい。すかさずシュテルは次の一手を打つ。通路に蔓延する爆煙から飛び出る人影、振り返らず一目散に逃げる。
幻術魔法フェイク・シルエット*5、幻術魔法オプティックハイド*6。
先ほどの人影は魔法で作り上げた幻影、それと同時に光学迷彩を再度展開してシュテルは幻影とは反対側に走りだす。少なくとも大抵の相手であればこのコンボで捲けるはずだ。あとは先ほど調べ上げた施設内のMAPに従って別ルートでデュランダルの保管場所へと向かえばいい。
背後から銃声、だが振り返らない。この煙幕の中で当てずっぽうで撃たれたところで当たる可能性は皆無であるし、よしんば当たったところでバリアジャケットに阻まれるので意味はない。
そうやって男から離れようとして、
「なっ…!?」
しかし全身が動かなかった。
【影縫い】
「いきなりのことで少々びっくりしましたが、これで少しは話ができそうですね──高町シュテルさん?」
男は煙の中から何事もなかったかのように微笑みながらゆっくりと出てきた。
「…」
名前を呼ばれても驚きはあまりない。デュランダル争奪戦の時に気絶して顔を晒す羽目になったのだからいずれこうなるのはわかっていた。思うことがないわけではないが、今戦場に立っている以上感傷は余計なものでしかない。
そうやって表情一つ変えずに見つめるシュテルに、目の前の男は少し困ったように笑う。
「そういえばまだ名乗っていませんでした。僕は「緒川慎次、風鳴翼のプロデューサーの方。であっていますか?」…よくご存じですね」
「インタビューやラジオで翼は何度かあなたのことを話題にしていたので…」
「それは、ちょっと気恥ずかしいです」
若干照れ臭そうにする緒川だが、そこに果たして本音が何パーセント含まれているのかシュテルにはわからない。
先ほどのことを思い返す。シュテルは呼び止められるまでは潜伏魔法を一切途切らせていなかった。なのに彼はシュテルの魔法を見破った。曲がりなりにも財団の開発したセンサーすら誤魔化せる魔法だというのに。
見たところ魔導師でもなければ、錬金術師特有の魔力の残滓も感じないが、それが逆に得体が知れない。聖遺物を管理する組織、ならばそこにいる人員もそれに見合った化け物揃いだったということか。
「それで、話とは?」
「ああ、そうでした。もちろんお分かりだと思いますが闇の書についてです」
予想は半分当たって半分外れ。闇の書について聞かれるのは予期できていたが、闇の書の名前を知っているとなると裏で財団が情報を回したことになる。これはかなり想定外、先ほどのシュテルが抱いた懸念と若干結びつく。
「シュテルさんは闇の書がどういうものかというのはご存知ですよね?」
「ええ、おそらくあなた方よりは多く知っているつもりです」
「響さんはあなたは破壊や力を求めるようなことは絶対にしないと僕たちに啖呵を切っていました。僕個人としてもその言葉を信じたいと思っています。ですがモノがモノなので見過ごすこともできません」
「つまり大人しく捕まれと?」
「そうではなく、もしシュテルさんがそれの完成を目指すのが肉体が闇の書に侵食されているからだというなら、僕たちはできる限りのことを尽くしてシュテルさんのことを助けます」
その目に汚れた大人特有の欲望は一片も見られない。きっと彼は本気でそう思い、自分の信念に沿って動ける本当の意味で大人というべき存在だろう。だが今のシュテルはそれを信じきれない。緒川に決して落ち度があったわけではなく、完全にシュテル側の問題だ。
わずかに後ろめたさを感じながらシュテルは視線を落とす。
「…私がこれからやろうとすることを響が知ればきっと怒るでしょう。許してくれないだろうし絶対悲しむ。ですが私はあなた方の手を取れません」
「闇の書が危険なものだとわかっていての答えですか?」
「だからこそです…」
拒絶と同時にそれはシュテルの決意。
「危険だからこそ私がやらなければならないんです」
闇の書の暴走は主の死によって先送りにできる、財団ですらずっとそう思ってきた。でも違った。
グレアムの元で判明した新たな事実。
主が死んで闇の書が次の主を求めて転生するために、666ページの魔力すべてを消費しつくすのが本来のシステムだ。だというのにシュテルの手元にやってきた闇の書は初めからページがまっさらな状態にもかかわらず、すでに膨大な魔力を内包していた*7。精密解析の結果、闇の書内部には蒐集活動を行わなくても歴代主から搾取し続けてきた蓄積魔力が別枠で存在している*8ことが発覚する。さらにそれが上限に達した時、ページが白紙であっても完成と見なされてしまう可能性があるという。このままだとあと数回転生を行えば飽和してしまうだろう。
現在財団で魔導師と言える存在はシュテルただ一人、事実上最後の魔導師になってしまった。
もし今シュテルが先送りを決めれば未来で闇の書が暴走に至ったとき、完全に手の打ち様がなくなる。シュテル居なくなったあとの響と未来が生きる世界は理不尽によって奪われてしまう。絶対に認めない。
だから、これはシュテルがやらなければならないことだ。グレアムと、母さんと
「どうしても、という言葉は野暮のようですね」
「すみません」
意思を変えそうにないシュテルに緒川は少し困ったように苦笑する。彼から見ればシュテルは駄々っ子のように見えるかもしれない。だがすぐさま真剣な表情に戻した。
「シュテルさんのことは少しだけわかりました。ですが」
「ですが?」
拘束より抜け出そうと時間稼ぎにシュテルは聞き返す。原理は不明だが拘束のトリガーになっているのはシュテルの足元より伸びる影に撃ち込まれた銃弾だ。もう少しだけ時間を稼げればこの拘束から抜け出せるはず。
「その選択は本当にシュテルさん自身が望んで選んだものですか?ほかの誰かに対する負い目から来るものではなく?例えばシュテルさんのお母様や高町
「────────ッ」
しかし、思考が次につながるよりも先に施設に爆発のような衝撃が襲った。
「今のは一体…?」
「──ッ!!バリアジャッケット!パージブラストッ!!!*9」
二課の施設を襲ったこの現象はどうやら両者にとって共に想定外の事態だったらしい。だが同時にシュテルにとっては千載一遇のチャンス。
魔力の塊ともいえるバリアジャケットがバージされ、それに伴ってジャケットを構成していた高密度圧縮魔力が周囲へと爆発のように解き放たれる。すかさず足元へと射撃魔法を叩きこんで弾丸を破壊。
「生憎ですが今日のところはこれにてお暇させていただきますッ!響にはごめんなさいとでも伝えておいてくださいッ!」
「ま、待ってください!響さんは…ッ!」
《フラッシュムーブ》
緒川が何かを言っていたようだが、その前に高速移動魔法を発動して背後にあるエレベーターゲートを頭から突き破る。一応の目標は達成している以上ここが引き際だ。
シュテルの知らない響のことを知っていたであろう男の姿はすでに声も届かないほど遠くに消えた。
「先ほどシュテルさんと遭遇したんですが取り逃がしました。申し訳ありません」
『ッ、響くんの捜索で手薄になったところを狙われたということか…』
「いえ、おそらくですがシュテルさんは響さんについてはなにも関与していません。ただの偶然だと思います」
吹き飛ばされたエレベーターゲートの向こう側を見つめながら緒川は弦十郎にそう報告する。つい今しがた退散したあの少女はたぶんあまり腹芸に向いてないだろう。響の言う通り、根がまっすぐすぎるのだ。なにもかもを一人で抱え込もうとして、そして抱え過ぎた想いに押しつぶされそうになっている。まるで奏を喪ったあとの翼のように。
本来そんな彼女たちを助けてあげるべきなのが大人の責務だというのに、今の自分たちにはそこまでの力がない。
(ままなりませんね…)
とはいえ悩んでいる場合でもない。響の捜索活動や誘拐に協力したと思われる内通者のあぶり出しなど、目下処理になくてはならない案件がまだ山ほどある。あの少女の目的とするものがこの二課にあるというのならいずれまたどこかで道は交差するだろう。
『いずれにせよ彼女の追跡も響くんの捜索ついでに行なおう。それと、さっきの爆発の件だが…』
弦十郎の言葉に緒川の思考は即座に切り替わる。
『どうにも防衛機構の不具合によるものらしい』
「らしい、というのは…」
『わからん。今了子君が直接出向いて修復作業に入っているから詳細は事後報告になるだろうな』
防衛機構と聞いて緒川はわずかに眉を顰める。この施設の建設時に大がかりな防衛機構の導入も織り込まれており、そしてそれは了子肝いりだ。シンフォギアや櫻井理論を産み出した彼女が天才なのは疑いようもないことだが、だからこそ少し不可解。しかし緒川自身は専門家ではない以上、餅は餅屋、米は米屋。
「わかりました。それでは僕はこれから調査報告書を司令に渡したあとに響さん捜索に加わります」
『ああ、頼む』
それっきり通信は終わり、緒川もキビ返して次の職務へを向かう。
懸念事項は無数にあるが、まずは目の前のことを片づけることこそが最短の近道なのだから。
◇
《あと150mで地上です》
ルシフェリオンの報告を耳にしながらシュテルは例の巨大なシャフト空間を上昇していた。追手のようなものはいないが、できれば早めにこの施設から抜け出したい。先ほど出逢った緒川級の人間がゴロゴロいるとは思いたくないが、調子に乗ってしっぺ返しを食らうのは御免だ。
(こんなことなら転移系や結界系の魔法はもっときちっと練習するべきでしたね…)
シュテル自身に適正があまりなかったということとはいえ、それらを覚えていればもっと楽に動けただろうにと今更のように愚痴りたくなる。闇の書の魔力を使って転移することもできるが消費があまりにも激しく、また地道に蒐集しなおさなきゃいけないからコスパは極悪。この間の転送なんかでは翼から蒐集した分がほぼ丸々消し飛んでしまった。これだけ主に対して面倒ごとを掛けているのだからせめて何かご利益がほしいものだ。
「まあ、それもここから出たあとに考えるとしましょう」
すでに空間の天井までもう少しのところまで来ている。あとはこのシャフト空間からまたエレベーターの昇降路を伝って地表に戻ればいいだけ。ここまでくれば問題なく脱出できるだろう。
潜入開始してから一時間程度のはずだというのにもっと長い時間が経ったような気がする。新たな情報を知るたびにまた増える謎。拠点に戻ったあとも当分は頭を悩ませるだろうなと考えながらシュテルはエレベーターの昇降路へと近づいた。
「チッ!やはりすんなりとは返してくれませんか!」
なんの前触れもなく流れるシステムアナウンスにシュテルは思わず舌打ちする。わかってはいたが二課の人間とエンカウントした時点で向こうが自分を見逃す道理はない。
だが負ける気は皆無。緒川と対峙したときとは違い、狭い通路ではなく開けた空間だ。空中戦こそがシュテルの本領であり、飛行魔法を扱える者とそうでない相手とでは天と地の差がある。よしんば相手が人間ではなく機械だとしても、魂のない人形相手に負けるほどぬるい訓練を叩きこまれた覚えはない。
シュテルが昇降路に辿り着いて外に出るのが先か、相手が自分を捉えるのが先か。
杖を握りしめ、吶喊しようとして、
「えっ…?」
飛行魔法がかき消された。
落下しながらシュテルの脳は急速に回転し、今自分の身に起きたことに対して即座に分析を行う。闇の書による魔力過剰搾取はなし、肉体の状態は正常。つまりシュテルの不調ではなく何かしらの攻撃を受けたことになる。
「ディバインシューターッ!」
念のために身の周辺に魔力誘導弾を展開して備えようとする。しかし、いくら術式を構築しても反応はなく、魔法は発動しない。一方でバリアジャケットは強度こそ若干下がったものの展開は維持されているし、シュテルが常時発動している肉体強化は問題なく機能している。
(魔法が妨害された?いや、違う。身体強化系は問題なく発動してる…つまり外部に出力が出来てないだけ。つまり体外での魔力結合が阻害される…?でもこれって…)
過去の経験を動員し、やがてそこから認めがたい答えが導き出されようとしている。
《マスター!》
ルシフェリオンの声に反応して見上げれば、上空にこの元凶と思わしき円筒状の機械たちが浮遊しているのが目に入った。その胴体中心にある黄色いカメラアイはまるでシュテルを見下ろしているかのようで。
「どうして…」
シュテルはソレを知っていた。自分がソレの開発計画に仮想敵役として協力していたからだ。形状こそ若干の変化があるものの間違いない。だからこそこんなところにあるはずがない、あってはならないもの。
「どうしてガジェットドローンがここにあるんですか…ッ!?」
疑念は一分の解釈のズレも許さず一致してしまった。
ガジェットドローン、財団が錬金術師やアルカノイズに対抗して開発した自律型無人兵器。厳密には財団内部に遺された管理局時代のデータからリバースエンジニアリングしたシロモノ。そして先ほどシュテルから魔法を奪ったのは
であるならば。
《AMFの範囲外に出ました》
「アクセルフィン…」
フィールドの効果を受けない高度まで落下したシュテルは再度飛行魔法を発動させた。上空からガジェットどもが旋回しながらゆっくり降下してくる。まるで獲物の前で示威するかのように。
あれの開発計画にかかわったことがあるからわかるが、生半可な攻撃ではかき消されるであろう。ましてや今のシュテルは闇の書に常時魔力を搾取されて最大魔力が減少している状態。普通に戦っても数に押されてひどく時間を浪費されてしまう。
俯きながら杖を握りしめる。呪われた魔剣を抜くしかない。元はただの近接用集束魔法*11でしかなかったのに、ダインスレイブの欠片によって変質してしまったそれを。
「抜剣────」
その言の葉と共にシュテルの身体に黒い破壊衝動が駆け巡り、同時に魔剣の呪いに呼応してシュテルの体内にあるマテリアルの断片が励起されて黒紫色の炎が噴き荒れた。
頭に割れそうな痛みが走る。気持ち悪い。だというのに、肉体はこの上なく歓喜していた。まるでこれこそが正しき姿であるかのように。いや、違う。まるでではない、むしろこの状態こそが正しいのだ。この状態になって初めてシュテルは自分の本来の機能を取り戻したと言える。
炎熱変換資質*12。
体内にあるマテリアルが元々持っていた魔力をほぼ無自覚に炎へと変えてしまう能力。対人戦においては基本的に純粋な魔力を使うためにあまり使い道がないものだが、なにかを壊すということであればこの上なく有用。
「…」
その黒紫色の炎をシュテルは忌々し気ににらみつけた。父さんと
────お前に誰かを救えるものか
シュテルを呪ったとある錬金術師の少女の幻聴がこだまする。
やがてシュテルは視線を上空のガジェットどもに向けた。魔導殺しのAMFがあったとしても、物理的な性質を付与した魔法であれば存分にその破壊力を具現させられよう。
シュテルがなにをしようと気づいたのか今更のようにガジェットたちは慌てて突撃してくる。だがもう遅い。構えた杖の先には十分すぎるほどの魔力が集っていた。トリガーに掛ける指に力話入れ、
「ブラストファイアー…ッ!!*13」
機械仕掛けの人形たちは全て炎に飲まれた。
シュテルが去った後に一人の白衣を着た女性が現れ、遺されたわずかなガジェットの残骸を満足気に眺める。聖遺物同士の反発現象に関する理想的なデータを集めるができた。トラブルと称して
そしてスクライアが自分に隠れて陰でこそこそとなにをやろうとしていたこともわかった。
マテリアルとは元をたどれば守護騎士や管制人格のバックアップ。つまりスクライアはマテリアルに暴走する闇の書を制御するため管制人格の代用品として期待したわけだ。制御された闇の書を手にすること、それはある意味現在のスクライアにとっても悲願。
そして素体として選ばれたのが二課を騒がすあの魔導師の小娘、ある研究の実験個体にマテリアルの残骸を埋め込んだのだろう。フィーネの知る
残骸に寄り掛かりながらフィーネは記録データを表示している端末をスクロールする。目に付いたのはシュテルが手にしていたデバイス。
わずかに思案した後、フィーネは顔を上げた。ポケットの中にある石ころを指でなぞる。
これから種を捲きに行かなくてはならない。
願わくば実りがあらんことを。
◇
時計を見る、午前4時。ろくに眠れないままもうこんな時間。いつもと同じベッドで同じ布団使っているのに無性に寒い。
とりあえず身を起こして制服に着替えて朝食の支度をする。今はなにかをやって気を紛らわしていないと耐えられそうにない。
「…」
時計のカチカチという音だけがやけに響く。部屋はいつもよりも暗く冷たく感じるのはきっと時間帯だけのせいじゃない。ずっとそばにいてくれた温もりが今はいないせいだ。
「…ッ、もう行かなきゃ…」
こんな部屋に居てももういない太陽のことばかり思い出して切なくなるだけ。今日は早めに学校に行こう…
未来は虚ろな目で家をを出た。
◇
満天の星空の下で、シュテルはビルの屋上で座り込んでいた。直接拠点に戻れば後を辿られることもあるが、それ以上に帰りたい気分じゃない。
二課への潜入、収穫はたくさんあった。いや、あり過ぎた。
彼らが闇の書のことを知っていたことや管理局規格のプログラミング言語、そしてガジェットドローン。財団は初めから二課とグルだったわけだ。
闇の書を手にする事は財団にとって悲願の一つ。どれほど呪われていようと魔導技術の辞典としての機能はきちっと残っている以上、失われつつある魔法技術を再度その手に取り戻すためになくてはならないピース。ガジェットにしても欧州大陸に蔓延る錬金術師たちに対抗しうる貴重な戦力として期待を掛けた代物。どれも財団の将来を担うかもしれないものたちばかりで、海を隔てた極東の島国にあるどこぞと知れない組織にホイホイ渡すようなものではない。
きっとあるのだ、財団にそうさせたなにかがあの組織には。
頭を悩ませる問題がまた増えた。財団とグルだったならシュテルの持つ手札はすべて丸裸になったも同然。これから先の行動はもっと厳しくなるだろう。せっかくそこまで来たデュランダルがさらに遠くなる。
「はぁ…」
思わず溜息が漏れた。世の中ままならないことばかりだ。せめてグレアムが生きていれば闇の書の処理も安心して彼に任せられた。
彼の死後、財団内部はほぼ闇の書活用派一色に染まった。派閥争いは相変わらずあれど、どれも消極的か積極的かぐらいの違いしかない。闇の書の危険性は理解できるが技術によって解決できると盲目に信じている人たちばかり。本当に闇の書を制御できるならシュテルは今頃こんな風に闇の書に侵されていないというにもかかわらず。
彼らの気持ち自体は理解できる。魔導師と呼べるほどの資質を持った存在がどんどん減っていく一方で、欧州大陸では闊歩する錬金術師どもによって無辜の民が理不尽な目に遭う。それを止めたいのに力がない現実に、無力感に日々苛まれているのだ。ゆえに力を渇望する。
だが力を求めようとするあまりにいつしかいろんなものが見えなくなっていく。なんともまあ皮肉なことか。正義を志し、誰かを護りたいとという想いは今でも本物というはずだろうに…
(いえ、私も彼らのことを笑えませんね…)
自嘲気味になりながらシュテルは膝を抱える。シュテル視線から財団は盲目的存在に見えるかもしれないが、一方で財団からシュテルを見ればまだ試していないのに諦めてしまった敗北者として映るだろう。
緒川の言ったことは図星だ。彼の言う通りシュテルの選択には他人に対する負い目が少なからず含まれている。心情的なもの、つまるはエゴそのもの。
時によぎることはある。もし自分に誰か似たする負い目がなく、自分を信じきれたなら、未来はもっと明るい物になれただろうか…
まあ、無意味な仮定だろう。シュテルは今の道を選んだ。闇の書を永久封印する考えは今も変わらない。それが今のシュテルには最善と思える道なのだから。
「そろそろ戻りましょう」
東の空がすでに明るくなりつつある。多少休息は取ったとはいえ石田先生のところに行ってからまだ一睡もしていない。いろんなことがあり過ぎて疲れたのも相まって身体は無性に睡眠を欲している。
そうやってシュテルはおもむろに立ち上がって、
「ッ!?」
《マスター!》
街の中心の方角に天を衝くほどの青白い光の奔流を見た。
────貴様も高町であるなら、そのデバイスに認められたのならば、素質はあるのだろ?闇の書を終わらせたくば目覚めることだ
神代の巫女によって災厄の種は捲かれた。
◇
あまりにもただならぬ出来事にシュテルは震源地にやってきた。現場はヒドイ有り様だ。付近のビルのガラスは衝撃波で割れ、道路にはヒビが入り、制御できていないエネルギーの嵐が荒れ狂う。シュテルも防御魔法を全力で展開しながら踏ん張らなければ吹き飛ばされてしまいかねないほど。
「ルシフェリオン!これは一体!?」
《次元震*14の前兆現象です!おそらくロストロギアかそれに類するものが暴走しているせいかと!》
ルシフェリオンの報告にシュテルは顔を強張らせる。今はまだこの程度で済んでいるが、放置すればどうなるか。最悪、
ならば、魔導師たるシュテルのなすべきことはただ一つ。
「ルシフェリオン!あれを止めますよ!」
《モードシフト、シーリングモード*15》
シンフォギア装者が奏でるフォニックゲインが聖遺物を起動させることに特化しているならば、魔導師の特質はその逆。暴走した聖遺物を封印すること。杖の尾部と柄の根本の機構が展開され、光の翼が現れたルシフェリオンを根源に向けて構え、シュテルは息を吸い込んだ。
精神統一、そして呪文を詠唱する。
────妙なる響き、光となれ。赦されざる者を、封印の輪に
「リリカル、マジカル、災厄の根源を封印せよッ!」
《シーリング》
放たれた封印魔法は光の奔流の根本を飲み込まんとする。
(あと少し…あと少しで…ッ!)
全力全開、出し惜しみはなしだ。シュテルは持てる魔力のほとんどを杖に叩き込む。
やがてロストロギアの放つ輝きが揺らぎ、次第に弱くなっていき、
「よし、これで……ッ!?ぐああッ!?」
一体何がいけなかったんだろうか、連戦で消耗し過ぎたのがいけなかったのか、シュテルの封印魔法をソレはぶち破り、先ほどよりもさらに衝撃波をまき散らす。
「封印に失敗した…?」
シュテルはそう呟くしかなかった。手を抜いた覚えはない、しかし災厄は止まらない。
《マス...、あれの照合が出来...した。あれは──ジュエルシードです》
ジュエルシード*16、高町なのはにとってのすべての始まり。彼女が魔法に出逢ったきっかけ。そして財団最深部し保管されてあったはずの
「一体私になにをさせようとしているんですか…ッ」
シュテルはこの惨事を引き起こした相手に毒づく。相手は敢えてこれをシュテルの前にばら撒いたのだ、シュテルがジュエルシードを封印しようとするのをわかった上で。
いろいろと文句を言いたくなるが状況が許してくれない。今はこれを止めるのが先決だ。杖を構えて再度封印魔法を行使しようとして、そして気づく。
「ルシフェリオンッ!?まさかさっきので!?」
おそらくジュエルシードの衝撃波をすべて肩代わりしたのだろう、己の相棒に無数のヒビが入って破損していた。
《申し訳...ませ...》
「いえ、無理をさせた私の責任です。待機モードに戻ってください」
《…All right。ご武運を、マスター》
杖から宝珠に戻ったルシフェリオンを仕舞う。もはや自分一人しか居なくなった。心もとないが、泣き言も言ってられない。静かに腰を低くしてクラウチィングスタートの姿勢を取り、タイミングを見計らう。
「…………ッ!フラッシュムーブッ!」
光の奔流がわずかに途切れた瞬間を逃さずシュテルは吶喊し手を伸ばす。
「捕まえた!…ぐッ!?」
しかしジュエルシードに触れた瞬間にそれは抵抗しようとさらに強くエネルギーを放出させた。だがシュテルは負けじと力を振り絞って宝石を両手で包み込んで魔力を流し込む。
「とまれ……とまれ……とまれ…とまれッ」
振り回されて手を離しそうになるが耐える。すでにグローブはちぎれ、両手から血が流れていた。それでもシュテルは手を離さない。
思考から余計なものが消え、目を瞑ってより強く念じる。
「とまれ…とまれ…とまれ…とまれ、とまれ、とまれ、とまれ、とまれ、とまれ、とまれ、とまれ、とまれ────ッ!」
遠くで
◇
もう太陽が顔を出したころだろう。正直に言ってシュテルにはもうそれを確かめるだけの力が残っていない。さっきの震源地から少しでも離れようと歩く。今更になって消防車などのサイレンが聞こえてくる。
頭はぼんやりして足取りがおぼつかない。自分がどこを歩いているのかも正直あいまいだ。
「離れなきゃ…」
闇の書は絶対に封印する。そのためにも今二課に捕まるわけにはいかない。
けどそんなシュテルの想いとは裏腹に体力すでに尽きかけている。
「わっ!?」
「あっ…」
曲がり角で人とぶつかったのか、シュテルは脚をもつれさせてバランスを崩す。
地面が目の前にせまってこようとしてすんでのところで抱きかかえられた。
「えっ…嘘…」
相手が息を呑む気配がする。その声にどこか懐かしさを感じるけど気力は限界を超えた。
(暖かい…)
最後にそんなことを想いつつ、シュテルは陽だまりに沈んだ。
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