アルバイト、教師兼おともだち   作:ガンマン八号

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 書き終わったら、実際に書きたかったものとは全く違うものになっちゃったって方います?

 まさにそれ!


初対面での挨拶はきつい

 

「やぁ、お話は伺っていると思うけど、一応自己紹介させてもらうね。僕は多田野 正義。今日から君の家庭教師を務める者だ。よろしくね」

 

「……………」

 

「うん、出だしはまずますってところだな」

 

「お前網膜腐り切って機能しとらんやろ。見てみ、あのアシュリーのお前を見る目。負の感情しかこもってへんで」

 

「初対面なんてイケメンでもない限りは最初はそんなものさ。まずはどんな感情でもこちらに興味を持ってもらうことからだ」

 

「それは経験談か?」

 

「俺の経験は為になるよ。普通の人たちよりはちょっと濃い自身あるから。真っ黒だけど」

 

 はい、文字通りブラックジョーク終わり。バカなこと言ってないで生徒と向き合っていこうか。

 アシュリーは相変わらず本の向こうからこちらを睨みつけている。初対面、それも年上の男性ということを考えたらこの反応はおかしくない。

 むしろ当然の反応だろう。イケメン死ね(本音)

 

(さてと……いやこれまじでどうやって打ち解けようか)

 

 家庭教師歴2ヶ月、これで2件目の新米家庭教師はこの場合に取るべき最適な行動というものを全く知らない。

 うん、意気込んで来たけどどうしようもないね!

 よく考えたら俺女の子とろくに会話できないしね!役立たずもいいところだね!

 

 そうだ、好きなものの話題で場を盛り上げる作戦でいこう!好きなものの会話は自然と弾むものだしね!

 あの子達も忍者系の作品を見せてあげたら大喜びしてたし、これで一気に仲良くなれたし、よしイケるぞ!

 

 

 ……魔女の好きなものって何?

 

 トカゲの尻尾?(偏見)

 

「おい、あの子の好きなものってなんだ?」

 

「うん?なんやねん急に小声でしゃべって。そんなもん本人に聞けばすむことやん」

 

「それができるならやってる。これに関しては俺もそうだけど、あの子は多分、親しくない人間から話しかけられるのを面倒だと思うタイプだ。なんだこいつ、仲良くもないのに馴れ馴れしくしてきやがって……みたいにさ」

 

「なんやお前、なんでそないなことわかんねん。それも聞いとったん?」

 

「いや、でも似たようなものを感じた。それで、あの子の好きなものは?面倒な会話をしてもらうんだ。せめてあの子の好きな話題で少しでもこちらに歩み寄ってもらわないといけないんだ」

 

 見ろよ、もうどうでもよくなったのか読書再開し始めたよあの子。

 読んでる本のタイトルから、話を広げようとも考えたけど、その肝心のタイトルが『見習いから始める黒魔術』ではどう広げたらいいのかわかるわけがない。

 

 これでも結構な文学作品を読み漁っているので、ちらりと周りを見渡して知っているタイトルを探してみるが、『マンドラゴラの栽培法』や『世界の黒魔術100選』などから話を広げられる家庭教師がこの世に存在するならぜひご教示いただきたいものだ。

 

「せや、好きなものやなくてアシュリーの嫌いなものやけど、お菓子と可愛いドレスが嫌いやから、この2つで機嫌取りしようとしたら逆効果やで。よう覚えとき」

 

 あの子が今着ているドレスは可愛くないんすかね?

 などと決して口には出さない。面倒なことになるからな。俺は空気を読める子。

 

 しかし、ドレスはともかくお菓子が嫌いなのは痛手だ。生徒のご褒美などでお菓子は定番だが確実性があり有力候補だったのだが、それが封じられるとなるとますます接し辛い。

 

(……なるほど、それで俺に頼んだわけか)

 

 この状況にいるこの子……アシュリー相手に俺を指名してくるということは、そういうことなのだろう。

 まったく、実に参ってしまう。俺はプロでもなければカウンセラーでもなんでもない、なんの実績もないただのアルバイトだというのに。

 自分のことだけでも手いっぱいだというのに。

 

 でも、もしそうなら……いやそうだから、やるしかないんだ。

 

「悪いな、使い魔くんと無駄な茶番を繰り広げて職務放棄するところだった。君の名前は?」

 

 アシュリーの目の前まで近寄り、膝を曲げ彼女と同じ目線になるようにして声をかける。しかしアシュリーは俺などいないかのように読書を続ける。

 

「こっちを見なさい」

 

「………」

 

 ピクッと彼女の肩が反応を示し、ゆっくりと本を下ろしこちらを睨みつけてくるアシュリー。

 後ろから「ちょ、お前……!」とレッドの焦る声が聞こえたが、手で制する。気持ちは有難いが、今はダメだ。

 

 実にわかりやすい。おそらく、身内以外から怒られた経験などろくにないのだろう。少し口調を強めて放った俺の言葉に過剰に反応する。

 

「……名前、知ってるでしょ」

 

 初めて聞いたアシュリーの声。会話、いや言葉1つを発するのも面倒だと言いたげな小さな、しかし威圧的な声だ。容姿に似合った可愛らしい声だというのに、少しもったいなくも思えてしまう。

 そんな辛辣な反応に対し、俺はニヤリと笑ってみせる。

 

「あぁ、知ってるさ。君のご両親からそれは嬉しそうに名前がポンポンと出てきたからな。羨ましいね、あんな素晴らしいご両親を持てて。自分の子供をあんなに自慢そうに語ってくれる親なんてそうはいないからな。しかしこれは自己紹介。いわば社交辞令というやつさ。今君がすることはその本を閉じて、腰をあげて俺に自分の名前を言うことだ。まっ、できないならそれでもいいけどね。しかし困ったな〜。いくら家庭教師とはいえそこから教えなきゃならないなんて、これは随分と大変な仕事だな〜」

 

 ブチっと何かがキレた音が聞こえた気がする。

 

 自分でも大げさだと思えるくらいの身振り手振りをしながら、相手を煽るような陽気な雰囲気で喋りかける。まるで三流芝居だ。ちょっと楽しくなりつつもある。

 

 そんな俺とは真反対に、アシュリーの顔はさらにきついものになる。睨みつけ具合がさらにすごい。明らかに苛立っているのが誰が見てもすぐにわかる。

 さらに、真っ黒だった髪の毛は白色へと変化を遂げ、なにやらアシュリーの周りから紫の瘴気みたいなのが溢れ出ている。

 

 なるほど、魔女はキレると白髪になるのか。なんて気の抜けたことを考えている間にレッドがこちらに向かって何か叫んでる。相当焦っているのか早口でわかりにくいが、要約すると「アホかお前は!?はよう謝れ!死にたいんか!?」と伝えてるようだ。

 

 

 謝る?

 はっ、アホはそっちだ。

 

 たしかに謝れば許されるかはわからないが、死ぬことはないだろう。正直言って、この子の怒り方は常識を覆している。怒りで髪の色が変わるなんて戦闘民族ではないか。

 

 余裕のある態度を維持しようと心がけてはいるものの、元々チキンメンタルの俺が耐えられる訳がない。

 鼓動は早くなり、息が荒くなる。気持ち悪い、嫌な汗があちこちから流れ出ている。足も震えているのではないだろうか。

 

 だが、それでも譲らない。ここで挫けるわけにはいかないのだ。それが彼女のためというのも、もちろんそうなのだが。

 

「頑固なのは自分だけだと思っているのか?俺だって昔からの頑固者の負けず嫌いだ。そのまま続けても無駄だぞ」

 

 そんな目的なんかより、維持の方が勝ってしまう。そんな人間なんだよ、俺は。

 

「……いらない」

 

 彼女は続けた。ように、なんて例えられるような生易しいものなんかではない。その表情も、その目つきも、その言葉も。全てに己を乗せて放った。

 

「あなたなんて、いらない」

 

 それは、明確な拒絶だった。彼女は俺を求めていない。俺なんかいらないと。

 

「家庭教師なんていらない。そんなもの、私にはいらない」

 

「いや、必要だね。君には教えてあげる誰かが必要だ」

 

 体の、震えが止んできた。

 そうだ、何故俺が彼女に怯えなくてはならない。

 こちとら、生徒と先生だぜ?彼女自身にビビってどうする。俺がビビらなきゃいけないのは防犯ブザーを鳴らされて、ありもしないことを周りに吹き込まれ、社会的に殺されることだけに怯えてればいいのだ。

 

「たしかに、成績面から見れば君は実に優秀だ。周りの同年代の子たちと比べてもズバ抜けて賢い。俺が面倒見る必要はない」

 

「……だったら、早く消え」

 

「慌ててそう結論を早く出すなよ。あと消えろはやめろ普通に傷つく。せめて帰れと言いなさい」

 

 「ツッコミどころ間違っとるやろ!てかこの空気はよやんとかせぇ!!」とうるさい小悪魔もいることだし、さっさと伝えるか。俺が何をしに来たのか。この子に、何を教えに来たのか。

 

「君のご両親は本当にすごいな。人を見る目がある。きっと、俺と君が似た者同士だと気づいたから、俺を選んだんだろう」

 

「私とあなたが?……全然違う。私はチキンじゃない」

 

「そこを突かれるとぐうの音も出なくなるが、まぁ似てるんだよ。お互い、頑固者で負けず嫌い。人から指図されるなんて以ての外だ!ストレス以外の何物でもない。趣味にけちつけられたら黙っちゃいられない。俺の趣味だぞ!指図するなってな!」

 

「………」

 

「はしゃぎまくって、ジタバタと暴れまくるアホ集団なんて殺意が湧く。他人から話しかけられるのは面倒くさい。どうでもいい話を長々と語るやつの声帯を何度取り出してやりたいと思ったことか」

 

「……さっきから一体何を」

 

「そう!誰かと関わったりせず、ゆっくりと1人の時間を楽しみたいと、誰にも邪魔されたくないと心から思っているのに……それなのに、誰かと仲良くなりたいとも思っている」

 

「……!」

 

 

「ほんと、面倒くさいよな。自分のこの性格すら面倒くさいものだと感じてる。基本は一人でいい。時には親しい人から話しかけられることも煩わしくなる。なのに、誰よりも寂しがりやで、誰よりも人と関わりたいと思っている」

 

 

 アシュリーから瘴気が消える。髪の毛もいつのまにか黒色に戻っていた。俺も、もう無理に下手な芝居をする必要はなくなった。

 

「矛盾してるよな?誰とも関わりたくない自分。誰かと関わりたい自分。どっちも自分の奥底に住みついてやがる。いっそ、どちらか捨てられたら楽になれるってのに、俺たちは捨てられずにいる。そして、君はそれに苦しんでる」

 

 

 この子の心を開かせようとしてたのに、なんだこれは。ただ自分の胸の内を明かしているだけになっているではないか。

 面倒くさいと思うか?あぁ、面倒くさいんだよ。

 

「そんな俺でも、一応友達はいる。性格含め、日常生活でも不器用さが出ているからな。見た目と相まって取っ付きやすかったんだろう。趣味が合えばすごく盛り上がるからな。俺と君の違うところは、きっとそこら辺なんだろうな」

 

 

 俺はとても不器用だ。勉強が得意でもない。運動は少し苦手。見た目だけは優しそうだと言われるので、よくいじられる。でも、そんな取っ付きやすさのおかげで、こんな俺でも友達はできた。

 

 しかし、アシュリーはこの厄介な性格なのに対し、ハイスペック過ぎるのだ。

 至って簡単。ちょっと想像してほしい。

 

 普段から無口で、休み時間は常に読書。話しかけるなオーラ全開。声をかけたり、ちょっと体がぶつかるもんならすごい形相で睨みつけられる。

 それでも必要事項で声をかけるが、返事はボソボソと小さい声。聞き取れず「もう一回」と言えばゴミを見る目。

 それで成績優秀でテストは常に学年1位。テストで100点が返却されても澄ました顔で「当たり前」のように振る舞う。

 

 

 ほらな?これで誰が仲良くしようだなんて思うんだ。俺でも嫌だわこんなやつ。

 おそらく本人もそこら辺りは気づいているのだろう。多分そこも似ている。人からの評価に敏感な所。悟ってしまったから、こうやって家に居座り続けてる。

 

「いいか、俺は君に勉強を教えに来たわけじゃない。そんなことしなくても一人でできるだろうしな。だから俺は、君に人との関わり方を教える」

 

「……なにそれ。そんな家庭教師聞いたことない」

 

「何事も初めてはつきものさ。ナマコを食べた人間はえらいってね。それに、これは正式な仕事さ。君のご両親からもそう頼まれてる」

 

 ご両親と対談をしていた時、この事だけを重点的にお願いされた。『どうか、娘と仲良くしてあげてください』と。

 

「もう一度言うけど、素晴らしいご両親だな。子どもの悩みに気づき、向き合い、そしてなんとかしてあげようと模索する。きづいてあげられるだけでもすごいってのにな」

 

「……」

 

「おっと、お節介で片付けるなよ。ちゃんと君のためにやってくれてるんだから。どうでもいいお節介を受けるよりはマシだろ?」

 

 アシュリーにさらに歩み寄る。目を合わせる。相変わらず俺を睨みつけてはいるものの、敵意は感じない。不信感はすごいけど。

 

「こんな俺だから、友達になってくれる人は貴重だし、大切にしたい。でもそんな人に出会うには場ときっかけが必要だ。ここに閉じこもっているままじゃ、なにも変わらない。だから、俺が手伝う」

 

 腰を下ろし、目線を合わせる。俺の友人達は、どうして俺と仲良くしてくれるのか疑問がつきなかったのだが、今なら少しわかるかもしれない。

 俺は、アシュリーと仲良くなりたいのだ。彼女の話を聞いてから、興味と関心を隠せなかった。

 

「これからよろしく、アシュリー。俺と仲良くしてくれ」

 

 手を差し出す。握手を求めているのだ。

 アシュリーは差し出された俺の手を少しじっと眺めた後。

 

「………チッ」

 

 舌打ちをし、俺から離れていくように書簡の奥に行ってしまった。

 

「前言撤回、評価改め。あれは俺以上にこじらせてるな」

 

「そこやないやろボケェ!!」

 

「フゴッ!?」

 

 後ろからレッドに持っていたフォークみたいなやつで後頭部を殴打された。

普通にいたい。

 

「なんやお前!人の気もしらんとアシュリー挑発しよってからに!たまたま上手くいったかもしれへんねどな、失敗したらお前も俺もただでは済まへんのやぞ!!」

 

「いや、俺はともかくなんでお前まで」

 

「そんなもん、八つ当たりに決まっとるやないか!!」

 

「完全なとばっちりで草」

 

 キレる小悪魔を無視し、次回からの授業構成を考える。教えるとえらそうに言ったものの、全くのノープランだ。

 

「あー、その場テンションでやった後は後悔しかないのに、なんで繰り返しちゃうかね」

 

「おいっ!お前俺の話、ちゃんと聞いとったんか?」

 

「とりあえず時間だから、今日は帰るわ。これ時間割表だからアシュリーに渡しといて」

 

「完全に無視!?聞いてなかったな!お前絶対に聞いてなかったやろ!?」

 

 などと、ギャーギャー騒ぐ小悪魔を引き連れ、玄関まで送ってもらう。なんだこの悪魔めちゃめちゃ良いやつではないか。

 

「それじゃ、アシュリーによろしく頼む」

 

「ほんま、あんな啖呵切ったからにはよろしく頼むで。俺からもお願いするわ」

 

「もちろんだ。カッコつけた分の仕事はさせてもらう」

 

 車に乗り込み、自分の家へと向かう。これからのアシュリーの授業について考えなくてはならない。

 

「あっ、明日はあの子達の家に行かなきゃならないんだった。考える時間もないな」

 

 車内で一人ため息をつく。

 双子の忍者と魔女との正しい接し方を知っている家庭教師がいるのなら、ぜひご教示していただきたいのだが。

 

「俺が筆頭かよクソったれ」

 

 この経験で自費出版したら、ちょっと儲からないかな。

 ……とりあえずT○UTAYAで○リケンジャーの続きレンタルしてこよ。

 





 次回、フードファイターの忍者の巻。

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