このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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ようやくここまで来た。


このパーティーに借金を!

≪アクアside≫

「流れる水だぁっ!!」

 

カズマが叫ぶと同時に、みんながデュラハンに向かって水の初級魔法を放ち始めた。一体何遊んでるのかしら、なんて思ってたら、なんとあのデュラハンの弱点が水らしい。イリヤやダクネス、イタい人が攻撃してるのも、水を躱せないようにするためだって。でも、成果は上がってないわよね?

 

「お前、仮にも水の女神なんだろうが! それともやっぱり、お前はなんちゃって女神なの? 水のひとつも出せないのかよ!?」

 

ムカッ

 

「あんた、そろそろ罰の一つも当てるわよ! 私、正真正銘の水の女神ですから!

あんたの出す貧弱なものじゃなく、洪水クラスの水だって出せますから!」

 

いくら私が弱体化してるって言っても、私は本当に女神だし、自分の権能をバカにするのは許さないんだから!

 

「出せるんならさっさと出せよ、この駄女神が!」

「わああああーっ! 今、駄女神って言った!

見てなさいよ! 女神の本気を見せてやるから!」

 

私はこの世界に在る眷属達へと語りかけた。魔力を対価に眷属達の力が集約する!

見てなさい、カズマ! これが女神(わたし)の本気よっ!

 

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 

私が生み出した水が、辺り一帯を押し流…、って私まで!?

一瞬、私を非難するようなカズマの顔が見えた。ち、違うわよ! 私は悪くなんてないわっ! これも全て、水を出せって言ったカズマが悪いんだからねっ!!

 

 

 

 

≪イリヤside≫

うぇえ、酷い目にあったよぅ。まさかアクアさまが、洪水クラスの水を召喚するなんて思ってもいなかった。オマケにわたしはアーチャーを夢幻召喚してたせいで、空へ逃げることも出来なかったし。

 

『こういうのも、神罰って言うんですかねー?』

 

ううん、違うと思う。

 

ガチャリ

 

そんな音がして。

 

「な、なにを考えているのだ、貴様…。バカなのか? 大バカなのか、貴様は!?」

 

ベルディアが、文句を言いながら立ち上がった。いけない! 早く何か手を打たないと!

 

「今がチャンスよ! 私のすごい活躍で弱ってる、この絶好な機会に何とかなさい、カズマ!」

 

ってアクアさま!? せっかくの不意討ちのチャンスを!?

カズマさんは苦い顔をしながら、ベルディアに向かって右手を突き出し。

 

「今度こそお前の武器を奪ってやるよ!」

「やってみろ! 弱体化したとは言え、駆け出し冒険者ごときのスティールで、俺の武器を盗らせはせぬわ!」

 

……場違いなのはわかってるけど、一瞬、カッコいいと思ってしまった。虚勢を張ってるのはわかる。だって、カズマさんの足は震えてるから。でも、それだからこそ。

強い相手にも、いざとなったら立ち向かう勇気を出せる、そんなカズマさんがカッコよく見えたんだ。

 

「『スティール』ッッッ!」

 

カズマさんが叫ぶ。そしてベルディアの手から剣が、……消えることはなかった。

冒険者さん達に広がる、絶望。……だけど。

 

「……あ、あの。…………首、返してもらえませんかね?」

 

カズマさんが両手で持っていたモノ。それは、ベルディアの頭だった。……カズマさんが、悪い顔で(わら)ってる。

 

「お前ら、サッカーしようぜ! サッカーってのはなぁ、手を使わず足だけでボールを扱う遊びだよぉぉ!」

 

そう言って、冒険者さん達の前にボー…、ベルディアの頭を蹴り出すカズマさん。うわぁ、鬼畜だなぁ。こんなこと、普通は考えつかな…、いや、クロならやるかも。

それにしても、冒険者さん達もノリノリだ。みんな楽しそうにボー…、ベルディアの頭を蹴ってる。それだけ鬱憤もたまってたのかな。

カズマさんは、ベルディア(身体の方)が落とした剣を拾ってダクネスさんに渡す。

 

「ダクネス、一太刀食らわせたいんだろ?」

「……ああ。だが…」

 

ダクネスさんがわたしを見た。

 

「その役目はイリヤに託したい」

「ええっ、わたし!?」

 

な、なんで!?

 

「イリヤは幼いながらも、彼らの死を真っ直ぐに受け止めてくれた。だからこそ、ベルディアへ一太刀与えるのは、イリヤが相応しいと思ったんだ」

 

そんな風に、思ってくれたんだ…。

 

「……うん、わかった」

 

わたしは頷いてから、体をベルディアの方へ向けた。

 

投影開始(トレースオン)

 

わたしはベルディアに近づきながら、一振りの剣を投影する。

 

「え…、グラム!?」

 

キョウヤさんが驚きの声をあげる。そう、わたしが投影したのは、キョウヤさんが持つ魔剣グラム。ただ、伝承にあるものとは違って神様が与えた、いわば準神造兵器。かなり性能を落として無理矢理投影したけど、それでも充分攻撃は通るはず。

わたしはベルディアの本体へ、グラムを振り下ろす!

 

「ぐはあっ!」

 

冒険者さん達に蹴られているベルディアの頭が、呻き声を上げた。

ベルディアは言ってた。特別な加護を受けた鎧って。その鎧が打ち砕かれた今なら…!

 

「アクア、頼む!」

「任されたわ!」

 

アクアさまがカズマさんに応えて。

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

 

ベルディアに強力な浄化魔法が炸裂する。

 

「ぎゃあああああー!」

 

本体にダメージを受けたベルディアの頭が絶叫を上げて、そして本体もろとも消滅していった。

 

 

 

 

 

「ダクネス、何をしているのですか?」

 

ベルディアが消滅した所の前で片膝をつき、祈りを捧げているダクネスさんに、めぐみんさんが尋ねた。

 

「……デュラハンは、不条理な処刑で首を落とされた騎士が、恨みでアンデッド化したモンスターだ。だからせめて祈りぐらいはな…」

 

ダクネスさん…。

 

「腕相撲で私に負けた腹いせに、鎧の中はガチムキの筋肉だと大嘘を流したセドル。

暑いからその剣で扇いでくれ。なんなら当ててもいいぞ、当たるんならな、とバカ笑いしてからかったヘインズ。

そして、一日だけパーティーに入れて貰ったときに、なんでモンスターの群れに突っ込んでいくんだ、と泣き叫んでいたガリル。

皆、ベルディアに斬られた連中だ。今思えば、私は彼らを嫌ってはいなかったらしい」

『今まで当たり前だったものが失われて、ようやく大事だったものに気づく…、よくある話です』

 

確かにルビーの言うとおりだ。わたしだってこういう状況になって、あっちの世界での生活が如何にかけがえの無いものだったかが、ようやくわかった気がするから。

 

「一度くらい、一緒に酒でも飲みたかったな…」

「「「お、おう…」」」

 

……………………ゑ?

声のした方を向くと、そこには斬り殺されたはずの、三人の冒険者さん達が…?

冒険者さん達は口々にダクネスさんに謝っていって、そんな状況が恥ずかしくなったのか、ダクネスさんは顔を赤くして震えてる。……って、なんで? どうして!?

 

「私ぐらいになれば、死にたてホヤホヤの死体なんてちょちょいと蘇生よ! 良かったわね。これで一緒にお酒が飲めるじゃない!」

 

えっ、アクアさま!? 死者の蘇生なんて出来るの!?

……あ、考えてみたら、地球出身の転生者を送ってたのってアクアさまなんだっけ。それなら蘇生が出来てもおかしくない、のかな?

……って、それよりも!

 

「ルビー、気づいてたでしょ!?」

『いえ、せっかくのダクネスさんの想い、(面白そうなので)黙っていてあげた方がよろしいかと思いまして』

 

いや、本音が漏れてますよー!?

 

「こ、これは、私の好きな羞恥責めとは違うから…ッ!」

 

ルビーの発言に、両手で顔を覆いイヤイヤしながら言うダクネスさん。うん、なんか最後はぐだぐだになったけど。

でも。冒険者さん達が助かって、ホントによかった。わたしは心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

翌日。わたしは報奨金を受け取るために冒険者ギルドへやって来た。扉を開けると、中では宴会で盛り上がってる。

パーティーのメンバーは…、カズマさん以外はもう揃ってた。

 

「来ましたね、イリヤ」

「あとはカズマだけね」

「おや? 新しい服だな、イリヤ」

 

三人がわたしに声をかけてくれる。というか、わたしが服を新調したことに気づいたの、ダクネスさんだけ?

 

『下着も新調したのに、反応薄いですよねー、みんな』

「それ、わざわざここで言う事じゃないから! あと、モノローグを読むの、いい加減やめてよね!?」

 

全くもう、ルビーってば…。

えっと、ベルディアとの闘いが終わったあと、ルナさんに預けていた衣類の入った袋を受け取ってから大衆浴場へ行って、体を綺麗にして新しい服に着替えた。着てた衣類は、街中で出会ったシスターさんから貰った、飲めるっていう洗剤で洗って、宿屋の部屋の中に干してある。

……って、わたしの衣類のことはいいから!

 

「えっと、みんなはもう、報奨金は貰ったの?」

「私はもう貰ったけど、めぐみんとダクネスはまだよ?」

 

それを聞いてわたしは、ふたりを見る。

 

「どうせならカズマと一緒に貰おうと、ダクネスと話したんですよ」

 

めぐみんさんの言葉に、ダクネスさんも黙って頷いた。でもそうか。確かにカズマさんと一緒の方がいいよね。

 

「それじゃあ、わたしも一緒に待つことにするよ」

 

そう言って、ふたりと一緒にカズマさんを待つことにした。

 

 

 

 

 

それから30分ほどして、ようやくカズマさんがやって来た。ダクネスさんがまず声をかける。次いで声をかけためぐみんさんが、ダクネスさんにお酒を止められたと愚痴ってたりするけど、地球、というか日本育ちのわたしとしては、ダクネスさんの意見に賛成だ。

そしてわたしは。

 

「カズマさん、行こ?」

「……ああ、そうだな」

 

そう言うと、カズマさんは軽く頷いてくれた。

わたしち達はルナさんの前に並ぶ。

 

「その…、サトウカズマさん、ですね? お待ちしておりました」

 

……あれ? なんだか、ルナさんの様子がおかしい気がするんだけど。

 

「あの、まずはそちらのお三方に報酬です」

 

そう言って、わたしとダクネスさん、めぐみんさんに小さな袋を渡すルナさん。……カズマさんの分は?

 

「あの、ですね。実は、カズマさんのパーティーには、特別報酬が出ています」

 

特別報酬!? そうか、だからリーダーのカズマさんは後回しにしたんだ。

 

『(……うーん。なんか特別報酬って言ってる割には、随分と冴えない表情をしてますねー?)』

 

ルビーが囁いた。うん、言われてみれば、確かにそうだよね?

 

「サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事に討ち倒した功績を称えて、ここに、金三億エリスを与えます」

「「「「「さっ!?」」」」」

 

なんか、トンデモナイ数字が出たんですけどッ!?

………でも、だからこそ余計に、ルビーが言った事が気になってくる。

ギルドにいる冒険者さん達は盛り上がってるし、カズマさんは「冒険の回数を減らす」なんて言ってるけど、こういう時にストンと落とされるのは、ある意味お約束だ。

ルナさんがカズマさんに、一枚の紙を渡す。酔っ払ったアクアさまと一緒に覗き見ると、紙にはゼロがたくさん書かれていた。小切手? ……じゃないよね。なんか不穏なものを感じるし。

 

「その、アクアさんが召喚した大量の水により、街の入り口付近の家々に洪水被害が出ておりまして…。魔王軍幹部を倒した功績もあるので全てとは言いませんが、一部だけでも払ってくれ…と……」

 

これ、請求書だッ!!

めぐみんさんが逃げようとして、わたしを見て思い止まる。そして、本気で逃げようとするアクアさまの襟首を掴み、逃がさないようにするカズマさん。

そんなカズマさんは、わたしを見て口を開いた。

 

「イリヤ。パーティー脱けたいなら、脱けたって構わないぞ。お前はまだ子供なんだし、昨日入ったばかりなんだ。わざわざ借金背負う必要はねぇよ。なんなら、ミツルギのパーティーに入れてもらえば…」

 

カズマさん…。

 

「……うん、そう言ってくれるのはうれしいよ? でも、わたしはもう決めたんだ。

カズマさん。一度関わったことは無かったことには出来ないんだよ。わたしは、関わった人や仲間を見捨てて、前になんか進めない!」

 

これは、かつてわたしが誓った言葉。それは今も変わらない。

 

「……ありがとう。すまないな、イリヤ」

 

そう言ってカズマさんは、わたしの頭を優しく撫でてくれた。

 

 

 

 

≪カズマside≫

全く、我ながら自分らしくないのはわかってる。わざわざイリヤに、パーティーを脱けるように勧めるなんてな。

めぐみんやダクネスとは違う。アイツらは色々と問題があるから、こういうときじゃなきゃ、脱けてもらっても一向に構わない。だがイリヤは、冗談抜きで戦力になる。パーティー脱けるって言われても引き止めたい。

だけど、まだ子供のイリヤに、こんな厄介事を背負わせてしまっても良いのだろうか? そんなことが頭をよぎってしまった。

若干Sっ気があるものの、基本的に素直で良い子なイリヤ。だからこそ、柄にも無いことを言ってしまったのだろう。そんな自覚がある。

……言っとくが、決してロリコンなんかじゃねーからな?

まあ、そんなわけで、イリヤが残ってくれるとわかった時、心から感謝の言葉が出てしまったんだが。

 

「それじゃあ改めて。カズマさん、これからもよろしくお願いします」

 

イリヤは俺に向かってお辞儀をし、引き続き。

 

「それからダクネスさん、めぐみんさん、アクアさんもお願いします」

 

そう言って再びお辞儀を、……ん? なんか今、違和感を感じたんだが?

すると、襟首を掴まれジタバタしていたアクアの動きがピタリと止まり、ゆっくりと振り返る。

 

「え、えっと、イリヤ…? 今、私に、なんて言ったのかしら…?」

 

するとイリヤはニッコリと微笑み。

 

「お願いしますって言ったんだよ、アクアさん!」

「え…、あの、さっきまで『アクアさま』って…」

「え? なんですか、アクアさん!」

「………………いえ、何でもないです……」

 

イリヤ、怖え。……そっかぁ、イリヤも結構怒ってたんだな。うん、よし。イリヤは極力怒らせないことにしよう。俺はそう、硬く心に誓った。




ようやく原作一巻分が終わった。ベルディア一回目よりあとから始まってるのに、10話までで結構時間がかかってしまいました。まあ、連載作品増やしすぎて自分の首を絞めてるだけなんですが。

補足ですが、グラムは伝承によって出自が違います。北欧神話だとレギン(ファフニールの弟、ドワーフ)によって作られましたが、ヴォルスンガ・サガではオーディンから与えられたそうです(Wiki調べ)。一応北欧神話のものを基準にして、神が特典として与えたという事実によって準神造兵器となった、としました。ちょっと型月っぽい言い訳ですが。

次回は短編を入れるか、原作の話に進むか、まだ考えてません。多分、短編の方に行くとは思うんですが、そうするとカズマ達が出ないんですよねー。一応大事な話なんですが。

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