このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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もしくは[がんばれ! エリス様!!]


この幸運(なハズ)の女神に安らぎを!

≪エリス/クリス side≫

ある日のことでした。いつものごとく、私の担当する世界の死者を導く仕事をしていたときです。

 

「エリス様ぁ!」

 

私の名前を叫びながら、一人の天使が飛び込んできました。

 

「ええと、あの、どうしたのですか?」

 

取り乱し気味の彼女に、出来るだけ優しく尋ねます。

 

「実は私、アクア様の代わりに日本の死者を導く仕事をしていたのですが…」

「ちょっと待ってください。アクア先輩の代わりにって、先輩はいらっしゃらないのですか?」

「は、はい。アクア様は、その、重要な用事が出来まして…」

 

何か、歯切れが悪いですね。……まあ、先輩の事です。きっと何かを仕出かしたのでしょう。

 

「わかりました。話の腰を折ってすみませんでしたね。

……それで、仕事をしていて何かあったのですか?」

「あ…、あの。先程、一人の少女をエリス様が担当する世界へ転生させたのですが」

「転生…、勇者候補の方ですね」

 

……私が担当する世界は今、魔王の脅威によって、生まれ変わりを拒否する者が増えています。そこで他の世界から、若くして亡くなった者に特典をひとつ与え、記憶と生前の肉体をそのままに、こちらの世界へ転生させて、出来たら魔王討伐もお願いしているのです。

 

「私、その少女に、転生者の死亡原因や死亡率等の説明をするのを忘れていたんです!」

「……はあ」

「今まではきちんと説明を行っていたのに、今回説明を怠ったことで、その少女の選択肢を奪ってしまったんです!」

「……」

 

どうやら彼女は、とても生真面目な性格をしているようですね。こちらにやって来る人の死を悼む気持ちは大事なことですが、もう少し気持ちを楽にしていた方が良いように思います。さすがに、先輩のような振る舞いはどうかと思いますが。

とはいえ、こんなに思い詰めている彼女を、このままにするわけにもいきませんね。

 

「落ち着いてください。わかりました、私がその少女の様子を伺ってきます。今から選択のやり直しは出来ませんが、せめて彼女の進む道を指し示す役くらいはしましょう。

貴女はその少女にひとつだけ、少しばかりの手助けになることをしてください。但し、貴女のミスを補う程度に留めてくださいね」

「は、はい!」

 

彼女はこくりと頷き、すがるような眼差しを私に向けた。

 

 

 

 

 

アタシが地上に降りて直ぐに、目的の少女は見つかった。見た目は黒っぽい髪や瞳じゃないけど、ニホンからの転生者が着ている服がこちらのものとは違うから、直ぐにわかる。

と、突然その少女は顔を真っ赤にして、その場から逃げ出した。アタシは慌ててそのあとを追う。……って、めちゃくちゃ速い!?

その少女はしばらく走ったあと、細い路地へと入っていく。アタシもその路地へ入ると。

 

「……だ、誰も、追いかけて、来ない、よね?」

 

息を切らせながら、少女は言った。それに応えるように、アタシはこう返した。

 

「うん。アタシ以外はね」

 

って。

 

 

 

 

 

『---即ち、この方は神様、ということです』

 

ええっ! いきなりバレた!? アタシは少女と、「冒険者について」を少しばかり話しただけなのに…。何なのさ、この魔道具は!?

い、いや、落ち着け、クリス。とにかく今は、誤魔化すしかない!

アタシは彼女達に向かって、色々と言い訳をした。だけど。

 

「そう言えば天使さんが、死んだ人を導く女神が今はいないって言ってたよね。もしかしてその女神が…」

「いや、それはアクア先輩の事だから!

……あ」

 

さっきあの子から聞いたばかりなので、つい口から出た言葉。結局はそれが決定打となって、アタシは自分の正体を明かすことになってしまった。

 

 

 

 

 

それからアタシは彼女達、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、愛称イリヤとその魔道具、本人が言うには最高位の魔術礼装、マジカルルビーを連れて冒険者ギルドへとやって来た。

イリヤが冒険者カードを作ると、見慣れない職業名が挙がった。[メイガス]というそれは、おそらくあの天使が用意したものだろう。アタシが言ったことを早速実行したみたいだ。

イリヤは[メイガス]を選び、スキルポイントを振り分けたあと、アタシと一緒に初クエストを受ける。

 

[一撃熊の討伐]

 

本来、レベル1の冒険者が受けるべきではないこのクエストを、イリヤは見事に達成する。だけど同時に、この子の優しさと脆さ、そして強さと危うさを目の当たりにした。

 

 

 

 

 

アクセルの街に戻ったアタシは、一撃熊を殺したショックを隠してるイリヤにお金を渡して、街を見学するように言って別れた。

アタシは冒険者ギルドに行くと、イリヤから預かった冒険者カードをギルドの職員に提示して、クエスト終了の確認を取る。報酬を受け取ったアタシは併設された酒場のテーブルに着き、イリヤを待つことにした。

それから約一時間後。イリヤは何故か、カズマくんと一緒にやって来た。勇者候補の一人、御剣響夜も一緒だ。

三人がお店の奥で何か話し合ったあと、イリヤが掻い摘まんで説明してくれた。曰く。

 

・カズマくんとミツルギくんが、アクア先輩の事で勝負する羽目になった。

・カズマくんは、不意討ちと[窃盗スキル]でミツルギくんに勝利。

・ミツルギくんのパーティーメンバーからの苦情に、イリヤが割って入り、カズマくんを擁護。

・ルビーのせいで、イリヤとミツルギくんが戦う羽目に。

・勝利したイリヤが、カズマくんとミツルギくんとの話し合いを提示。

 

で、現在に至る、と。いやいや、転生者で高レベルのソードマスターに勝つ、魔法使い系職業のメイガス、しかもレベル3って何なのさ!?

それに、なんで先輩が(いさか)いの元になったんだろう。……そういえば、カズマくんと一緒にいるアークプリースト、先輩にそっくりで、名前もアクアって。いやいやいや、まさか、いくら何でもそれはない! ない、よね?

内心でのそんな葛藤を知るよしもないイリヤは、ルナさんのところへ宿のことを聞きに行き、帰り際にアタシに挨拶をして去っていった。

アタシは酒場に残っていたカズマくんを捕まえ、イリヤの今後をを託す事にした。イリヤと同郷で、案外面倒見の良さそうな彼ならきっと、イリヤの心の支えになってくれると思ったからだ。……まあ、性格に悪影響が出ないか、ちょっと心配だけど。

 

 

 

 

 

私が天界に戻ると、そこにはあの天使がいた。

彼女は私を見ると目を潤ませて、猛烈な勢いで抱きついてくる。

 

「ああっ、私のせいであの少女は、受けなくてもいい心の傷を受けてしまいましたっ!」

 

……ええっとぉ。

 

「べ、別に貴女のせいではありませんよ。イリヤさんならおそらく、貴女から適切な説明を受けていても、きっとあの世界への転生を望んでいたはずですから」

 

これは慰めでも何でもなく、イリヤさんと一緒に行動した私の、率直な感想です。彼女の望みは、転生後のリスクをも上回るものだと感じたから。

 

「で、ですが…!」

 

……何だか、面倒くさい方ですね。どうも彼女、自分のミスを許せずに、連鎖的に起こった事象まで自分の責任にしてしまうようです。

これは、彼女のケアには時間がかかりそうですね。

仕方がない、乗りかかった船です。しばらくは彼女に、トコトン付き合うこととしましょう。

 

 

 

 

 

翌日のアクセル。ギルドで軽い食事を取っていると、イリヤがやって来た。アタシはイリヤに、今後の身の振り方をカズマくんに聞くように言って立ち上がる。

 

「それじゃ、アタシはこれで。ホント、用事の合間を縫ってきたから」

 

実は、あの子のカウンセリングを一旦切り上げて、イリヤにこの事を伝えに来たのだ。

 

「あの、昨日はいろいろと、ありがとうございました」

「アハハ、別に構わないよ。アタシが好きでやったことだからね」

 

アタシのこの言葉に嘘はない。確かに最初は、あの天使のためにイリヤの様子を伺いに来ただけだったけど、今はただ、イリヤを放っておけなくなっている。

ホント、こういう子こそ幸せになってほしいと、心から思う。

 

『そんなクリスさんの隠された本性を知るのは、もっと、ずっと後のことだったのです』

 

ちょっとルビー! アタシの隠された本性って何なのさ!?

 

 

 

 

 

天界に戻ると、私は再びカウンセリングを始めた。その甲斐あってか、彼女は徐々に落ち着きを取り戻してきました。この分なら、直ぐにでも仕事に復帰できるでしょう。

……そう思った矢先。例の廃城から、魔王軍幹部のデュラハンがアクセルの街に向かって出撃しました。おそらく、ダクネスが呪いを受けてから一週間経っても誰もやって来なかったことにたいして、憤慨したのでしょう。アンデッドの癖に律儀なことです。

それはともかく、駆け出し冒険者の街に魔王軍の幹部は、さすがにまずいですね。仕方がありません。私は応援を呼ぶために地上へ降り立ちました。

 

 

 

 

 

アタシは、彼らが向かってくる数百メートル手前に降り立ち、走り出す。そして彼らの姿が見えると。

 

「ミ、ミツルギくん、だよね…!」

 

息を切らす演技をして、彼、ミツルギくんに声をかけた。

 

「キミは、昨日ギルドで見かけた…」

「アタシのことはいいよ! それよりも今、魔王軍の幹部がアクセルに向かってるんだ!」

「何だって!?」

 

驚愕の声をあげるミツルギくん。

 

「ミツルギくん、アクセルのみんなを助けてあげて!」

「もちろんだよ!

フィオ、クレメア、そう言うわけで、僕は先にアクセルの街に向かうことにする」

「キョウヤ…」

「気をつけてね、キョウヤ」

 

心配するふたりの少女に軽く頷いてから、彼はアクセルに向けて走り出していった。

 

「キョウヤ、大丈夫かな」

「大丈夫に決まってるじゃない! キョウヤは強いんだから!」

 

そう言う彼女も、そう言い聞かせてるんだろう。不安そうな表情は隠し切れてない。

 

「……あれ、あの盗賊の子は?」

 

槍使いの少女が、アタシがいないことに気づいて、キョロキョロと辺りを見回す。

 

「どこかに行っちゃったのかなぁ?」

 

盗賊の少女が呟く。ううん、アタシはここにいるよ?

アタシは潜伏スキルを使って、木の蔭に隠れて覗き見てるのだ。本来、ここでアタシが潜伏スキルを使う必要など無いので、盗賊の少女も想像すらしなかったんだろうね。アタシはスキルを発動させたまま、静かにふたりから離れていく。

……うん。ここまで来れば大丈夫でしょ。

辺りを確認したアタシは、天界へと戻っていった。

 

 

 

 

 

私が戻った途端。

 

「ああああああ! 私のせいで! 私のせいでええ!!」

 

な、何だか、悪化してませんか? ハッ!? カウンセリングの途中で再び精神負荷が与えられて、逆に悪化してしまったのでは?

 

「デュラハンがぁ、魔王の幹部があぁ!」

「い、いえ、貴女のせいではありませんから…」

 

そう宥め賺しますが、全く聞く耳を持ってくれません。

更に追い撃ちをかけるように、三名の冒険者の方がデュラハンに殺されてしまい、その対応をしなくてはならなくなりました。

 

「ようこそ、死後の世界へ。私は女神エリス。セドルさん、ヘインズさん、ガリルさん。誠に残念ですが、貴方方は先程、お亡くなりになりました」

 

そう対応をしたところ、三人は私を見てぽけーっとしています。おそらくまだ、状況を理解していないのでしょう。こちらに来る、特に男性の方には、よく見られる光景ですから。

しばらくその対応をしていたところ、三人の体が輝きだした。

 

「どうやら貴方方には、『リザレクション』がかけられたようですね。

お三方とも、あの世界への蘇生を許可します。但し、蘇生の恩恵は一度きり。二度目はないので、気をつけてくださいね?」

「「「はいっ!」」」

 

三人は爽やかな笑顔で返事をした。そこまであの世界を好きでいてくれる彼らに、私はとても嬉しくなって笑顔を返しました。

 

 

 

 

 

そして。

 

「私のせいでえぇぇぇ! 死者までえぇぇぇぇぇぇ!!」

「ええっ!? い、いえ、彼らが亡くなったのは本当に関係ありませんから!」

 

むしろ大元の原因は、めぐみんさんですから。……って、全く聞いてません。すでに人格崩壊してますし、これは骨が折れそうですね。

……あれ、私って何の女神でしたっけ? どうしてこんなに、厄介事が舞い込んでくるのでしょうか?

いえ、今さえ乗り切ればきっと、いつもの日常が戻ってくるはずです。それまで頑張ることとしましょう!

私は気合いを入れ直して、目の前の事に取り組むことにしました。

……まさか近いうちに、更に厄介なことに巻き込まれるとも知らずに。




天使が説明し忘れたのは、イリヤが物分かりが良すぎたことに加え、イレギュラーでルビーが介入したドタバタのせい。
それがエリス様に飛び火したわけですが、元はと言えば、アクアがやらかして特典に任命されたことが遠因。
つまりエリス様の不運はアクアが原因。

カズマ「やっぱりお前かあぁぁぁっ!」
アクア「なんでよおぉぉぉ!?」
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