このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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今回は【プリズマ☆イリヤ3rei ifルート】の話です。


幕間・この弓兵の少女に出会いを!

≪クロエside≫

冬木市にそびえる円蔵山の中腹、深いけもの道を進んでいった先。本来ならそこに洞窟の入り口があって、その最奥にある大空洞という広い場所には大聖杯があったという。

……もっともこれは、わたしが本来いた世界の話。こちらの世界でその役目を担っていたのは、生きた聖杯である美遊だったに違いない。

もちろん憶測でしかないけど、聖杯戦争っていう共通項のみを見て結論付ければ、きっとそういうことなんだろう。

現在そこに洞窟は無く、数十メートル四方のクレーターがあるだけだ。

その原因はわたしたちが元いた世界で、二枚目のアーチャーの英霊が色々やらかした挙げ句、イリヤと英霊の渾身の一撃がぶつかり合ったため。

元々こちらの世界と空間ごと入れ替わってたらしくて、時空の揺り戻しと共にわたしたちは、こちらの世界に跳ばされた、ということらしい。

 

 

 

 

 

「……やっぱり、変化は無し、か」

 

クレーターの淵に立ったわたしは、ポツリと呟いた。

この世界に跳ばされてから数日。わたしは毎日ここへやってきた。目的は、イリヤ。

倒れたイリヤに駆けつけたリンが首を横に振ってたけど、わたしが直接確認したわけじゃない。だから、ちゃんと確認が取れるまで、わたしはそれを信じないことにしたのだ。

この世界にやってくるタイミングはズレがあるみたいで、実際合流できたバゼットとは、半日ほど出現のタイミングが違っていた。

だから。毎日ここへ確認に来てるのだけど、いつも空振りに終わっている。

……今日も無駄足だったみたいね。

そう思って踵を返そうとした、その時。目前の景色が歪む!

やがて、倒れた人影を確認したわたしは、慌ててそこへ向かって駆けだした。

 

「イリヤッ!」

 

顔の判別なんて関係ない。あの服装は、わたし達が家を抜け出したときにイリヤが着ていたものだから。わたしは大声で叫んだけれど、イリヤはピクリとも反応しない。

駆け寄ったわたしは、イリヤを見下ろす。イリヤはまるで眠っているようだ。その口元まで手を伸ばして。

……!!

 

「息、してない…」

 

慌ててイリヤの頬に触れる。

 

「冷たい…」

 

それじゃ、やっぱりイリヤは…。

わたしはその場でペタリと座り込む。わき上がる想いが抑えられない。ああ、わたしはいつの間に、こんなに弱くなってしまったんだろうか。

わたしは、イリヤに縋りつきながら、唯々泣くしかなかった。

 

 

 

 

 

あー、恥ずかしい。我ながら、なかなかに女々しかったと思うわ。誰かに見られなくてホントによかった。

 

「さて、と」

 

わたしは四苦八苦しながらイリヤを背負う。

 

投影開始(トレースオン)!」

 

投影した拘束帯を使って、イリヤがずり落ちないように巻きつけた。

イリヤをこんなところに放ってはおけない。全てに片をつけて元の世界に帰ってから葬ってあげないと、ママたちの心の整理もつかないだろう。

イリヤを背負ったわたしは、山を下っていった。

街中を歩いていて、ふと気がつく。わたしの今の拠点、穂群原小学校とは別の道を歩いていることに。そして、ある場所まで来て立ち止まる。

そこには有刺鉄線で囲まれた、倒壊し(つぶれ)た家。元の世界で、わたしたちが暮らしていた場所だ。

こちらに跳ばされた日以来、足を運んだことはなかったんだけど、どうやら思った以上にショックが大きかったらしい。無意識に足が向いたようだ。

……あーもう、何ウジウジしてんのよっ。イリヤじゃあるまいしっ! こういうときは!!

 

「……っざけんな、コノヤロー!!」

 

わたしは大きな声で叫んだ。ふう…、これで少しはスッキリと…。

 

「はややっ」

 

なに!?

突然の声に振り返ると、[田中]という文字が目の前に迫っていた。わたしは慌てて避け。

 

ズッシャアアアアア!

ごいぃん!

 

()()は激しくすっ転び、盛大に滑っていき、突き当たりの家の塀にぶつかってようやく止まった。

 

「ふいー、急にでっかい声出すからコケちゃったですよ。

発声練習ですか?」

 

立ち上がったそれは、()()()()()()()この地に、体操服にブルマという出で立ちのお姉さん(ヘンジン)だった。

 

 

 

 

 

「まーた会ったなァ!」

 

全く、こっちはこのタイミングで会いたくはなかったわよ!

目の前に立つゴスロリ女に、わたしは内心で毒づいた。

さっき出会った人、「田中」は、どうやら記憶喪失らしい。仕方がないので、取りあえず保護して一緒に拠点に向かっていたところで、こいつに出会ってしまった。

名前は知らない。わかってるのは、ミユを連れ去った二人組の片割れだって事と、使っているクラスカードが、おそらく[雷神トール]だっていう事だ。

 

「……あーん? 背中に背負(しょ)ってるのは、あんたの妹かァ?」

「……だったら、何だって言うのよ」

 

ゴスロリ女の問いに苛立ちを覚えながら、わたしは聞き返す。

 

「べーつにー? ただ、死人なんか背負って、バッカらしーって思っただけよン♡」

 

コイツッ!!!

 

投影開始(トレースオン)ッ!!」

「!! チッ! 限定展開(インクルード)!」

 

わたしが投影して落下させた複数の刀剣類を、彼女は限定展開した右手を振って弾き飛ばす。

 

「おいおい、この程度であたしはァ、……って逃げた!?」

 

当然! 三十六計逃げるにしかず、ってね。もちろん、普段ならもう少しやり合うところだけど、イリヤを背負ったままそんなことするわけにもいかない。

オマケに田中もいるんだ。今のわたしには、逃げるしか…。

 

ドガシャアアア!

 

そんなわたし達の前に自動車が降ってきて、その進路に立ち塞がった。そんなことをしたのは、もちろんあのゴスロリ女。

 

「せっかく会えたってのに、簡単に逃がすと思ってんのかァ?」

 

チィッ! こうなったら不本意だけど、一戦交えるしか…、え?

 

「田中…?」

 

わたしの前に出て、ゴスロリ女に対峙する田中。一体…?

 

「あの…、わたしは誰ですかー!?」

「知るかァーッ!!」

「アホかァーッ!!」

 

ゴスロリ女とわたしは思いっきり突っ込む。

 

「それじゃあ、あなたは誰ですか?」

「……まァいいわ。聞かれたからにはメイドギフトってやつ?

あたしはベアトリス・フラワーチャイルド!! エインズワースの超絶美少女ドールズよ!!」

 

エインズワース…、それがミユをさらった奴らの名前!

 

 

 

 

 

田中…。この子は一体何なの?

ベアトリスが振るった電柱の一撃を受け、それでも擦り傷程度で立ち上がった彼女。魔術で強化したのかとも一瞬思ったりもしたが、記憶喪失という事実を差っ引いても、魔術師らしいところは全くと言っていいほど無い。

その後ベアトリスは、夢幻召喚しようとしたものの誰かとの会話…、おそらく念話をしたのかと思うと、その場から去っていった。

そして田中は言った。

 

「エインズワース家を滅ぼす。それが田中の役目です」

 

って。

 

 

 

 

 

「食い逃げとは、舐められたものだ」

 

ちょっと! この人、ただのラーメン屋じゃないの!? 何だかとんでもない殺気なんですけど!?

いや、ただのラーメン屋にしては筋骨隆々で、変な威圧感は放ってたけどッ!

……わたしが拠点に帰りもせず、ラーメン屋(こんなとこ)にいるワケ。それは、田中のせいである。

気がつけば田中は空腹のあまり、まさしく行き倒れた。そこに通りかかったその男に連れられて、わたし達はその男が経営するラーメン屋「麻[まー]」に来た。

……そして、思い出したくもない、僅かな麺の上に超激辛麻婆の餡かけが大量に乗った殺人料理を、有無を言わさず食べさせられたのだ。リンが[あかいあくま]なら、こっちは[あかいあくむ]と言ったところか。

そしてすべてを食べ終わった後、きっちりと料金を請求された。麻婆ラーメン二杯で三千二百円為り。

そしてお金の持ち合わせがないとわかった店主は、先程のセリフを吐いたわけである。

 

「心臓よりも、肝臓や腎臓の方が高く売れると知っているか?」

 

知るかァーッ!!

内心で、さっきのベアトリスと同じツッコミを入れるわたし。

マズい。このままじゃわたしと田中、それにイリヤの身体が、本当の意味での対価にされてしまう。……わたしの体は使い物になるのかとか、田中に刃物が通るのか、なんていうのはこの際問題じゃない。

いざとなったら徹底抗戦するしかないか。そう思っていると。

 

「おじさん、やってるー?」

 

入り口の戸を開けて入ってきたのは、八枚目のカードの少年だった。

 

 

 

 

 

「せっかく立て替えてあげたのに、なんだってのさ」

 

お店を出たわたしに言うそいつ。

 

「随分とおかしな顔で睨んでくるね?」

「人の顔をおかしいとか言うな!

……ついこの間まで命のやり取りしてた相手に、お金を立て替えられたのよ? 警戒するべきか、感謝するべきか、悩むのが普通でしょうが!」

「それは、難儀だね」

 

まるで些細なことだ、とでも言うように軽く流す。なんかむかつくわね。

 

「まあそこは、君が背負っている彼女が僕に勝利したって事でお終い、でいいんじゃないかな?

僕は黒い方の僕の意思を尊重しただけだし、君と敵対する気はないよ」

 

そいつがイリヤに視線を移したとき、一瞬敬意の隠った表情を浮かべた。全面的に信用するわけにはいかないけど、どうやら嘘はついてないみたい、ね。

 

「……わかった。今の所は信用してあげるわ」

「ははは、手厳しいなぁ。

……ところで、そちらのお姉さんは?」

 

話の矛先が、田中に向けられる。

 

「田中です! あなたは誰ですか? 何する人ですか?」

 

ホントにこの子は、記憶喪失って言うより、小さな子供ね。まったく。

 

「そうだなぁ、僕のことは『ギル』って呼んでください。とりあえず今は、現世の生を謳歌しているところです」

 

ギル、か。もしかしてコイツの真名って…。

 

「召喚時に、この時代やエインズワース家まわりの知識は入ってきたけど、田中さんのことはわからないなぁ」

「なっ、ちょっと! エインズワース家の事、知ってるの!?」

「知ってるも何も、僕はそいつらが作ったカードから呼び出されたんだもの。

エインズワース家がこの世界で[聖杯戦争]を起こしたんだ。美遊という聖杯を据えてね」

 

!? それじゃあまるで、エインズワースはアインツベルンの…。

 

「それで? それを知って君はどうす…」

「滅ぼします。

田中はエインズワース家を滅ぼすためにいます」

 

わたしに言ったのと同じことを言う田中。謎は多いけど、その想いは本当らしい。

 

「なるほど、ね。……で? 君はどうなんだい?」

 

ギルは試すような眼差しでこちらを見る。わたしは深く息を吐いてから、ギルを見返し口を開いた。

 

「わたしはエインズワースからミユを取り戻す。例えそれが困難だとしても!

……でも」

「でも?」

「でも、まずは拠点に戻らないと。イリヤを背負ったまま、エインズワースの拠点に攻め込むわけにもいかないからね」

 

わたしが背負ったイリヤを見ると、ギルが覗き込んできて。

 

「ふぅん。なかなか面白いことになってるみたいだね」

 

面白いことと言われて一瞬カチンときたけど、どうやら興味深いって意味で言ったみたいだから、とりあえず言葉は飲み込んだ。とはいえ腹の虫が治まったワケじゃない。後で困らせてやる。

 

 

 

 

 

拠点に戻ると、田中を見てバゼットが戸惑い、ギルを見て困惑した。とりあえずはベッドのある保健室へと向かいながら、報告を兼ねて帰ってくるまでのことを説明する。

保健室に着いたわたしは拘束帯を解いて、イリヤをベッドに降ろし、眠るような体勢へと整えてあげる。

 

「イリヤスフィール…。やはり亡くなっていたのですね…」

 

どうやらバゼットも、イリヤが死んだことを俄には信じられなかったらしい。

 

「バゼット。執行者の貴女が、随分とイリヤを評価してるみたいね?」

 

皮肉を込めて言うとバゼットは、横に小さく首を振ってから口を開いた。

 

「いえ…、ただ、手加減していたとはいえ、わたしと引き分けた貴女達です。少しは贔屓したくもなります」

 

封印指定執行者としては随分と甘い理由ね。でも、そこがイリヤのすごいトコなんだろう。イリヤの、誰とでも仲良くなる能力(ちから)の。

わたしはイリヤに向き直ると、そっと頬に手を当てる。

 

「イリヤ…」

 

そっとつぶやく。もちろん、イリヤからの返事はない。それが、無性に悲しくなる。

 

---……ヤ……

 

……何? 今、何か聞こえたような?

 

---……ヤスフィ…

 

ううん、確かに聞こえた! そして。

 

---イリヤスフィール!

 

ハッキリと、わたしの本当の名前を呼ばれる声が聞こえた瞬間、わたしの意識は昏い空間へと引きずり込まれた。




前々回のあとがきで書いた、カズマ達が一切出ない話です。当初は前回投稿するつもりでしたが、エリス(クリス)が忙しかった理由を書くならこのタイミングだと思い、差し替えた次第です。

プリヤ読者の為の補足
クロエは美遊が囚われてる場所に目星をつけていたため、美遊云々を口にせず、田中の「美遊はエインズワースに……」という発言も無くなったため、クロエの中で田中は、謎の知識を持つ不思議ちゃんポジでは(今の所)ありません。
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