このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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この雪原で絶望を!

≪イリヤside≫

「金が欲しい!」

 

冒険者ギルドの酒場で、カズマさんが言った。うん、そうだね。お金欲しいよね。

でも、そんなカズマさんがお金を欲しがる理由を、全く理解してない人がひとり。

 

「そんなの、誰だって欲しいに決まってるじゃないの」

 

誰あろう、水の女神さま事アクアさん。

因みに今のわたしは、アクアさんの事を様付けで呼ぼうとは思ってない。どんなに格の高い神さまでも、敬うことが出来ない相手を様付けでなんて呼べやしない。

 

『(イリヤさんにそこまで低評価を受けるアクアさんも、大概ですねー)』

 

相変わらずモノローグを読んでくるルビーは、とりあえず無視!

 

「女神であるこの私を、毎日毎日馬小屋なんかに泊めて、恥ずかしいと思わないの? 分かったら、もっと私を贅沢させて。もっと私を甘やかして!」

「お前は、俺がどうして金を欲しがっているのかが…」

「……アクアさん。子供のわたしでもわかることが、わからないの?」

「「ハッ!?」」

 

カズマさんとアクアさんが、引きつった顔でこっちを見る。あれ、おかしいな。わたし、笑顔で言ったつもりなのに。

 

『今のイリヤさん、Sっ気ダダ漏れですよー?』

 

Sっ気って、失礼な。そう思ったけど、ふたりが勢いよく首を縦に振っている。何だか納得がいかない。

 

『これほどイリヤさんの怒りを買うアクアさんって、ある意味凄いですよねー』

「ちょっと、何で私が怒りを買わなきゃならないのよ!」

「ほぅ? 何で俺達が借金を背負う羽目になったのか、お前とはトコトン話し合う必要がありそうだな。ああ?」

 

カズマさんのセリフに、アクアさんの顔色が変わる。でも、アクアさんもただ黙ってはいない。

 

「しょうがないじゃない。あの時の私の超凄い活躍がなかったら、この街は滅ぼされてたかも知れないのよ? 感謝こそされ、借金を背負わされる謂われは…、えっと、イリヤ? そんな冷めた眼差しで、私を見ないでほしいんだけど。……あのー、イリヤ、さん?」

「……ねえ、カズマさん。いっそのこと、全部アクアさんの手柄って事でいいんじゃないかな?」

「そうだな。良かったな、アクア。これで報酬も借金も、全てお前のもんだ。頑張って借金を返すんだぞ!」

「わああああ! 調子に乗ったのは謝るから、二人とも見捨てないでぇ!」

 

アクアさんが、わたしとカズマさんの足に縋りつく。この虚しさはなんだろう。

 

「ところでイリヤは、寝泊まりはどうしてるんだ?」

「ちょっとカズマ!?」

 

カズマさんが話を変えて、わたしに振ってきた。

 

「わたしは、クリスさんに紹介された宿屋に泊まってるよ。ルナさんの助言で、一月分のお金を前払いしてあるから、しばらくは大丈夫だけど」

「イリヤまで!?」

 

でも、今の状態だと契約の更新は難しいと思う。因みに一撃熊の討伐報酬は、カズマさんのパーティーに入る前のものだったから、借金の対象にならずに済んだ。とは言っても、宿代とか衣装代とか、そのほか諸々の出費で、結構心許なくなってきてるんだけど。

 

「全く、朝から何騒いでいるのだ」

「三人とも、早いですね。何かいい仕事は見つかりましたか?」

 

ダクネスさんとめぐみんさんが、声をかけながらこっちへやって来た。

 

「仕事はまだ探してないよ。というか、この状況じゃ急いで捜さなくても大丈夫だと思ってさ」

 

うん、そう。他の冒険者さん達は、ベルディア討伐の参加報酬でクエストを受ける必要がなくなった。それに冬の間は、初心者向きの弱いモンスターはなりを潜め、危険なモンスターばかりになってしまう。

わたしは、一撃熊くらいまでなら倒すことは出来るけど、パーティーで上手く立ち回れる自信はない。

わたしはカレイドの魔法少女として、ミユやクロと一緒に戦えるけど、冒険者のパーティーとしては初心者だ。

 

「おい、イリヤ。クエストの確認にいくぞ」

 

だからカズマさんにそう言われても。

 

「それはみんなで決めて。わたしはそれについて行くから」

 

今はまだ、みんなに合わせたクエストの方がいい。

……この時はそう思ってた。だけど、もし。みんなと一緒にクエストを選んでいたら。もしかしたらあんな思いをしなかったのかも知れない。

 

 

 

 

 

わたし達がやって来たのは、街から離れた、雪が積もる平原。まだ冬になったばかりなのに、もうこんなに積もってる。

わたし達はみんな防寒着を着ているけど、約一名、ダクネスさんは黒いシャツに同色のタイトスカートっていう普段着姿。理由は、知りたくないなぁ…。

……ええっと、気を取り直して。カズマさん達が受けたクエストの内容は、雪精の討伐。雪精は一匹倒すごとに、春が来るのが半日早くなるらしい。そんな雪精討伐は一匹につき十万エリスの報酬が出る。

つまり、多くの雪精を倒せば冬を乗り切るのが楽になる上に、それだけ借金の返済に充てられるんだ。ここは頑張らないと!

 

『う~ん…』

「ん? どうしたの、ルビー?」

 

そう言えば、ギルドでクエストの内容を聞いてから、なんか様子がおかしかったような。

 

『いえ、雪精は初心者でも簡単に倒せるモンスターなんですよね? それが一匹十万って、割が良すぎるとは思いませんか?』

「……そう言えば」

『私達は受けていませんが、カズマさん達が受けた[ジャイアントトード五匹の討伐]は報酬十万エリス、一匹あたりの引き取り額が5,000エリスだったそうですよ?』

 

つまり、五匹全部引き取ってもらったとしても、一匹あたり二万五千エリスだ。そう考えると、このクエストがいかに破格か、よくわかる。何だか、ちょっと不安になってきたよ。

 

 

 

 

 

それでもすでに、雪精の発生場所まで来ていたわたし達は、討伐クエストを開始した。

雪精は白いお饅頭のような姿に、つぶらな目が着いた精霊だ。お饅頭…、どっちかって言うと雪●だいふくかな? 雪だし。

 

「よくわからんけど、今イリヤから、オヤジっぽい電波が飛んできた気が…」

『おや、カズマさん。中々勘が鋭いですねー』

「わたしのことはいいからッ!!」

 

うう~、余計なこと考えてないで、さっさと討伐始めよっ!

わたしは右手の人差し指を立てて、その指先を雪精に向ける。……ゴメンねっ!

 

「ガンドッ!!」

 

指先から黒い魔力の塊が飛び出し、狙っていた雪精に直撃。雪精は霧散して消えた。

 

「スゲッ! まるで浦飯幽助の『霊丸(レイガン)』じゃないか!」

『えー? 空気ピストル使ってるのび太君じゃないんですかー?』

 

ルビー、のび太君って…。い、いいもん。のび太君は銃の腕前は天才的なんだから!

 

「こりゃ、うかうかしてらんねえな!」

 

そう言ってカズマさんは、手に持った剣を振り回し始めた。

ここで周りの状況を見てみると。

止まっている相手にも当たらないダクネスさんの剣は、素早く回避する雪精を捉えることは出来なかった。……お願いだから、両手剣スキルを取って。

めぐみんさんは杖を振り回し、たった今一匹目を仕留めることに成功した。……ダクネスさん、アークウィザードに負けてますよ?

アクアさんは持ってきた網を使って、雪精を捕獲している。もっともアクアさんは、モノを冷やす目的で雪精を捕まえてるので、討伐数には含まれないけど。

そうこうしてるうちにも、わたしもガンドで次々と雪精を討伐していく。カズマさんも数匹ほど倒した頃。

 

「カズマ、爆裂魔法で辺り一面ぶっ飛ばしてもいいですか?」

 

めぐみんさんの意見にO.K.を出すカズマさん。めぐみんさんは喜々として。

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!」

 

爆裂魔法を解き放つ。うん、いつ見ても凄いなぁ。その代わり、魔力を使い切っためぐみんさんは雪にうつ伏せに倒れてたけど。

 

「八匹、八匹やりましたよ! レベルも一つ上がりました!」

 

それを聞いたわたしは、自分はどうなのか気になって冒険者カードを取り出して見る。そこには、先日まで3だったレベルが5に上がっているという事実が。これは、結構テンション上がるかも!?

……あれ? あの文字化けしてる所、少し変化してる?

小■■EXに、■術■■増設? 文字が少し開放されてるけど、まだ意味がわかんないなぁ。

そんな考えに耽っていた、その時。

 

「……出たな!」

 

それは、突然現れた。

ダクネスさんはそれに向けて剣を構え、めぐみんさんはあのまま死んだふりをしている。わたしとカズマさんはワケがわからない。そしてアクアさんは。

 

「カズマ、イリヤ。何故冬になると、冒険者達がクエストを受けなくなるか。その理由を教えてあげるわ」

 

そんなわたし達に説明を始めた。

 

「あなた達も日本に住んでたんだし、天気予報やニュースで名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

 

天気予報…。その言葉を聞いて、あれの姿を重ね合わせたとき、あれの正体に思い至った。

 

「雪精達の主にして、冬の風物詩とも言われている、……そう。冬将軍の到来よっ」

「バカッ! この世界の連中は、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大バカだっ!!」

 

カズマさんの、心からの叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

冬将軍は、剣を構えたダクネスさんに斬りかかった。ダクネスさんは、慌てて剣でその斬擊を防ごうとする。だけど。

 

キイィン!

 

「ああっ! 私の剣が!」

 

ダクネスさんの剣は、あっさりとたたき折られてしまう。

 

「冬将軍。国から高額賞金をかけられている、特別指定モンスターよ。

精霊は元々、決まった実体を持たないわ。出会った人達の想い描く思念を受け、その姿へと実体化するの。でも、危険なモンスターが蔓延る冬は冒険者達ですら出歩かないから、冬の精霊に出会うこと自体稀だったのよ。日本から来た、チート持ち以外はね」

 

アクアさんが説明する中、わたしは転身してカズマさんと共に、ダクネスさんの元へ駆け寄ってフォローに入る。

 

「つまりこいつは、日本から来たどっかのアホが、冬と言えば冬将軍みたいな乗りで連想したから生まれたのか?」

「うう、せめて春ちゃんも連想して生まれてくれれば、もう少し大人しかったかも知れないのに」

『イリヤさん。どこぞの、よく国営と間違われる放送局のお天気キャラを言われても、ちょっと違う気がしますよー?』

 

うん、わかってるんだけどね。単なる愚痴だから。

 

「おいルビー、何でハッキリ言わないんだ?」

『嫌ですねー、カズマさん。いわゆるTPOと言うやつですよー』

 

ルビーから、TPOなんて言葉が出るとは思わなかったな。

 

「なにくだらないこと言ってるのよ。いいから聞きなさい!

冬将軍は寛大よ! きちんと礼を尽くして謝れば見逃してくれるわ!」

 

ビンの中の雪精を解き放ったアクアさんは、雪の上なのも関係なくひれ伏す。

 

「DOGEZAよ! ほら、みんなも武器を捨てて謝って! カズマとイリヤも、早く謝って!」

 

すごい! 日本人もビックリの、綺麗な土下座だ!

そして冬将軍は、確かにアクアさんには目もくれなくなった。

わたしは転身を解いてルビーを手放し、急いで土下座をする。カズマさんも当然、と思ってチラリと見たら、未だに立っていたダクネスさんを無理矢理雪に押しつけてるとこだった。

ダクネスさんはこんな時でも、カズマさんの仕打ちに頬を染めハアハア言ってる。ハッキリ言って、めちゃくちゃ引いてます。

でも、これでひとまず安心…。

 

「カズマ、武器武器! 早く手に持っている剣を捨てて!」

 

え、あ…。カズマさんの右手には、まだ剣が握られたままだった。気づいたカズマさんは慌てて剣を手放し、だけどその時、頭を上げてしまって。

冬将軍が刀に手をかけたと思った、一瞬ののち。凶刃が目にも止まらぬ速さで、カズマさんの胴と頸とを両断した。

わたしの目の前が赤に染まり、かつてない絶望に触れた時。

かちり、と---。

わたしの中で何かが外れる音がした。

何が起きたのか、よくわからなかった。

ただ、怖くて、悲しくて、どうしようもなくて、何が起きようとしているのかもわからなかった。

---それは、()()()と同じ感覚。だけど、()()()と違うのは。

それがわたしの意思だということ---。




伏線の回収、始まります。
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