このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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この最弱な冒険者に男気を!

≪イリヤside≫

「イリヤスフィール。何故君は、まだここにいるのだね?」

 

アーチャーさんが尋ねる。そう、クロを見送ったわたしは、まだ向こうに戻っていない。

わたしはアーチャーさんに向き直ってから口を開く。

 

「せっかくカードの英霊が目の前にいるんだから、今のうちに聞いておこうと思って」

 

わたしは右手を胸に当てる。

 

「アーチャーさん。天使さんから貰った分のクラスカードって、わたし達が集めたものとは何か違うんじゃないの?」

 

それを聞いたアーチャーさんが、興味深げにわたしを見る。

 

「何故そう思ったのか、聞いてもいいかね?」

「うん。ベルディアと戦ったとき思ったんだけど、[キャスター]…、メディアさんのカードを夢幻召喚(インストール)した時に流れ込んだ記憶にはノイズがかかってたけど、アーチャーさんのカードの時にはここの映像で、ほんの一瞬、だけどすごく鮮明だったの。情報は少ないけど、これって明らかに違うと思う。

それじゃあ原因は何だろうってなったら、カードの出所くらいかなって」

 

説明を聞いたアーチャーさんは少しだけ俯き、顎に手を当てる。

 

「君の意見は推測どころか、憶測の域も出ていないな。……だが、その観察力は賞賛に価する」

「それじゃあ…」

「ああ。二種類のカードには明らかな違いがある」

 

アーチャーさんが、鷹のような鋭い眼差しを向けた。わたしは思わず背筋が伸びる。

 

「君は仮初めとはいえ、私のマスターだ。知って然るべきだろう。

君達が集めたカードは、君の友人がいた世界の魔術師、エインズワースが作製した物。君も見ただろう黒い泥を使い、英霊の意思を塗り潰し、ようやく利用できるように仕上げたものだ。

対して神によって創り出された四枚のカードは、フィルターをかけ、[座]から必要以上の力や情報が流れ込まないよう制作されている。神故に、呪いに類するものは使用したくはなかったのだろう。

最もそのために、こちらから無理矢理干渉することも出来る様になったのだが」

「え? それって結構危険なんじゃ…」

 

つまりそれって、やろうと思えばカードの使用者を操ることも出来るってことだよね?

 

「そのとおりだ。だが、こちらから干渉するにはかなり無理をしなければならない。

しかも使用者の体を奪ったとしても、フィルターの影響と絶対的な魔力の不足によって、精々数分維持できればいいところだ。

正直に言って余程の事情でも無い限り、そこまでして我々が干渉する意味は無いのだよ」

 

それを聞いて安心すると共に、疑問も浮かぶ。

 

「あれ? それじゃあ今回のは?」

「理由は先程説明しただろう? それに表側に干渉したのは一瞬だけだからな。

ああ、因みにクロエの方はカードが汚染されているので、君達を繋ぐ呪いを活用させてもらった。アレが無ければ、彼女をここに呼ぶのは難しかっただろうな」

 

結果論だけど、リンさんホントにいい仕事してるよね!?

 

「……さあ、疑問が解消したのなら行きたまえ。時間の概念が無いとはいえ、何時までもここにいる訳には行くまい」

 

そう、だね。そうだけど、戻ったときに私の感情がどうなるのか、そう考えるとなかなか一歩が踏み出せない。

と。アーチャーさんの大きな手が、わたしの頭の上に優しく乗せられる。

 

「心配するな」

 

そう元気づけられて顔を上げると、アーチャーさんがとても優しい笑顔をわたしに向けていた。どこかで見たことのあるその笑顔は、わたしを優しく包んでくれるみたいで…。

 

「さあ、行くんだ」

 

その言葉にわたしは頷いて、アーチャーさんに背を向け一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

意識が現実に戻った瞬間、わたしの中にとてつもない怒りが込み上げてくる。

わたしは、冬将軍を…!

 

やめろおおおおっ!!

 

…………え?

その声を聞いた瞬間、わたしは冷静さを取り戻していく。

声がした方を見れば、顔色が悪いものの確かに生きて、カズマさんがいる。その近くでは、ルビーを構えためぐみんさんが魔力障壁を張ってみんなを守っていた。

そして気がついた。わたしは何を放とうとしてるの?

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

クロが使ってた[偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)]よりも強力な、アーチャーさんが使うものと遜色のない()()()()

ここから冬将軍目がけて放ったら、その後ろにいるみんなも危険なんじゃ…。それじゃああの時と、[アサシン]のカードの英霊と戦ったときにわたしがやった、魔力での殲滅の時と変わらないじゃない! あの時はミユのお陰で事無きを得たけど、今度も無事にすむ保証なんて無い!

でも、もう指が矢を放とうとしてる。今から投影の破棄をしたり、方向を変えたりなんて出来ない。……だったら!

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

矢を放つのと同時に光の盾(ロー・アイアス)を展開する。冬将軍の目の前に張られた、五枚の光の花弁のような盾が偽・螺旋剣を押し止める。けど直ぐに、そのうちの一枚が砕け散る。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

ドグワァァ…ン!

 

一か八か、偽・螺旋剣を爆破させたけど、その爆風がわたしを後ろに吹っ飛ばす。体が痛いのを我慢し体を起こして冬将軍を見ると、辛うじて一枚だけ残った光の盾が冬将軍を、そしてみんなを守っていた。

よかった。わたしは続けて[熾天覆う七つの円環]、そして冬将軍を襲っている[赤原猟犬(フルンディング)]を破棄する。すると冬将軍が、わたしに向かって歩き始めた。まずい! 急いで土下座を…!

そう思った、その時。

 

「待て! まってくれ、冬将軍!」

 

フラフラとした足取りで、それでも冬将軍に近づいていくカズマさん。冬将軍はカズマさんへと向きを変えて、……? 何も、しない?

もしかして、一回殺されたことで罪が償われたから? それに、今のカズマさんは武器を持ってない。だから冬将軍は、カズマさんを攻撃しないの?

 

---冬将軍は寛大よ

 

そっか。アクアさんが言ったとおり、冬将軍は寛大な精霊なんだ。

 

「ええと、イリヤを赦してやっちゃくれないか? イリヤは俺が殺されたことに怒ってただけなんだ」

ちょっとカズマ、いくら冬将軍が寛大だからって何言っちゃってるの? そんなことして、逆鱗に触れたらどうするのよ!

 

アクアさんが小声で言ってるけど、もう少しハッキリ言ったらどうかな? それこそ寛大な冬将軍は、それくらい見逃してくれると思うけど?

 

「冬将軍、アンタならわかるはずだ。アンタだって、雪精が退治されてるのを知って怒ってたんだろ? イリヤもそういう気持ちだったんだよ」

 

カズマさん…。

 

「だから…!」

 

カズマさんが正座をして両手を地面…、雪面? につけた。

 

「このパーティーのリーダーである、俺が代わりに謝る! 済まなかった! だから、イリヤを赦してやってくれっ!!」

 

カズマさんが土下座をする。この、わたしの代わりに。

突然。冬将軍を中心に強烈な風が吹いて雪を巻き上げて。気がつけば、冬将軍の姿はそこにはなかった。

 

 

 

 

 

「っっっっはああぁぁぁ…!」

 

カズマさんが大きく息を吐いた。

 

「すっっっげえ緊張したぁ!」

 

そう言って、ごろんと仰向けに転がる。

 

「プークスクス。カズマってばカッコいいこと言って、最後は土下座って超みっともないんですけど?」

 

なっ!

 

「ちょっ…」

「アクア、さすがにそれは聞き捨てならないぞ!」

 

えっ、ダクネスさん!?

 

「え、ダクネス? 何怒って…」

「カズマはリーダーとして、仲間を庇って頭を下げた。それのどこがみっともないと言うんだ?」

「ちょっと、あなただって騎士がどうのとか言って、土下座しなかったじゃないの」

「ああ、そのとおりだ。だから」

 

ダクネスさんは振り返り、寝転がるカズマさんの隣に跪き。

 

「カズマ、済まなかった。私が意地になったせいで、カズマを死なせる切っ掛けを作ってしまった。本当に、本当に済まなかった」

 

頭を下げて謝るダクネスさん。そして顔を上げると、今度はわたしを見る。

 

「イリヤも済まなかった。私のせいで、イリヤには嫌な思いをさせてしまった」

 

そう言って再び頭を下げた。

 

「ったく、もういいよ。ダクネスには後で、色々と文句を言ってやろうと思ってたんだけどな」

 

カズマさんは本当にしょうがないといった表情で、愚痴混じりに言う。

 

「……うん、わたしもいいよ。わたしも言いたいことはあったけど、ダクネスさんは反省してるみたいだから」

 

ホント言うと、まだ少しもやっとするものはあるけど、文句を言う気が無くなったのも事実だ。

 

「二人とも、ありがとう」

 

……こうしてると、立派な騎士様って感じなんだけどなぁ。

そしてスッと顔の向きを変えるダクネスさん。その先には、アクアさん。

 

「アクア」

「うっ、わ、わかったわよ。えーと、カズマ。からかってゴメンね?」

 

うわぁ、随分と軽いなぁ。でも、ま、一応謝ったんだから、いいかな? 後はカズマさん次第だし。

じゃあ、わたしもカズマさんの元へ…。

 

ぐらり

 

……え?

 

「イリヤ!?」

 

ダクネスさんがわたしの名前を呼ぶのが聞こえたところで、わたしの意識は途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

……ん? あれ?

上下に揺れる感覚の中、わたしは目を覚ます。

 

『あ、イリヤさん! 気がつかれましたか!?』

「え…、ルビー?」

 

わたしの頭の後ろから聞こえた声に、まだ寝ぼけた感じのわたしは応えた。

 

「お、イリヤ。目が覚めたみたいだな」

「あ…、カズマさ…………んん!?」

 

わたしの意識は、一気に覚醒する。わたしは今、カズマさんに背負われて、つまりおんぶされていたのだ!

 

「なななな…、どどどどど!?」

「落ち着けよ、イリヤ。魔力の使いすぎでぶっ倒れたお前を、俺が背負ってるってだけなんだからさ」

「でででも、さっきまでフラフラして…」

 

顔色だって悪かったし、きっと血が足らないんじゃ…?

 

「大丈夫だって。アクアにもう少し増血してもらったから、これくらいは問題ないさ」

「……そうなの?」

『ええ。(まあ、ちょっと見栄を張って無茶してますが、確かに問題ないレベルですよ?)』

 

ルビーは途中から小声になって、わたしの耳許で囁いた。そして更に。

 

『(……イリヤさん。カズマさんとアクアさんのお二人に、イリヤさんの事を話されてはいかがでしょうか?)』

 

え?

 

『(まずはイリヤさんを転生者と知るお二人に話されてから、よく相談をして、めぐみんさんとダクネスさんに当たり障りの無いところを説明してはいかがかと。

……説明は、必要かと思いますよ?)』

 

……そうだよね。あんな闘い見せちゃったんだもんね。

 

「(うん、わかった。)……あの、カズマさん」

「ん? どうした?」

「後でアクアさんと一緒に、わたしの部屋に来て下さい」

 

そう言うと、カズマさんは少し黙ってからわたしに尋ねた。

 

「……さっきのことか?」

「はい」

 

わたしの返事に、また少し黙るカズマさん。

 

「聞いてもいいのか?」

「……はい!」

「……わかった。それじゃあギルドで夕飯食ったら、アクアと一緒に宿まで送るって形にするか」

「はい、それでいいです」

 

わたしは小さく頷いた。

 

 

 

 

≪クロエside≫

わたしの意識は浮上し、目の前には硬く目を閉ざしたイリヤの姿。どうやら現実に戻ってきたみたいね。

 

「お姉さん、何があったんだい?」

 

その声に振り向けば、そこにはしたり顔をしたギルがいた。

 

「……イリヤに会ったわ」

 

わたしのひと言に戸惑うバゼット。今起きたことを掻い摘まんで説明する。

 

「……俄には信じ難いことです」

「でも、本当のことよ?」

 

そう返してからギルを見て。

 

「あなたは気づいてたんじゃないの?」

 

そんな疑問を口にすると、ギルは笑顔で答えた。

 

「まさか。僕が気づいたのは、お姉さんの意識が刹那の瞬間途切れたって事だよ。

……ああ、いや、もうひとつ。彼女の、イリヤさんの体が保存状態にあることにも気づいてたね」

 

は? こいつ、今なんて…?

 

「おかしいとは思わないのかい? 彼女が死んでから、世界を跳び越える間を除いても、数時間は経ってるはずだよ? なのに死後硬直は、兆候すら無いんだ」

 

あ…。

 

「つまり何者か、さっきの話が本当なら天使、もしくは神が、彼女が戻るための体を保護しているって考えられる」

 

ギルの表情が、少し皮肉めいたものになった。まあ、彼の正体がわたしの想像通りなら、彼にも思うところがあるんだろう。

 

「さて、そこで提案なんだけど」

「提案?」

 

ギルの口から予想外の言葉が出た。

 

「彼女の体、僕が預かろうか?」

「どういうことですか?」

 

警戒を高めながらバゼットが尋ねる。

 

「いえ、異世界とはいえ本当に魔王を倒したのなら、彼女は立派な英雄だ。そんな英雄様の体を、より安全な僕の宝物庫で保管してあげよう、ということです」

「……ふぅん。()()は、随分とお優しいのね?」

「いやぁ、評価に見合った褒美を与えるのも、王の務めだからねぇ」

 

皮肉も皮肉にならないでやんの。……でも、まあ、どうやら彼の正体が予想通りみたいなのがわかっただけマシか。

 

「……それで? あんたまだ、何か隠してんじゃないでしょうね?」

「うーん、まあ、隠してるって言うか、ちょっとした配慮かな。どちらかというと、イリヤさんのための、ね」

 

イリヤの?

 

「それってどういう…」

「それはその時のお楽しみって事で」

 

こいつムカつくっ!

 

「それで、どうする?」

「~~~! お願い、するわ。癪だけど、それが一番安全だと思うから」

 

わたしの返答に、満足そうな笑みを浮かべるギル。

……イリヤ。あなたの体は安全な場所に保管するわ。だから、早く戻ってきなさいよ?




うちのカズマ、イリヤに対しては結構男前。
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