このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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冒険者カードの文字化け、開放。


この魔法少女の追憶を!

≪カズマside≫

アクセルの街に帰ってきた俺達は、ギルドの受付でクエストの報告を済ませる。

雪精の討伐数は二十三匹。その内訳は、俺が三匹、めぐみんが九匹、イリヤが十一匹。本当ならイリヤを褒めてやりたいところだが、内半数近くは暴走して冬将軍と闘っていた時の巻き添えらしい。さすがにこれで褒められても心苦しいだろうと思い、俺はただ事実だけを伝えることにした。もちろんダクネスとめぐみんも、あのルビーでさえ、その辺は空気を読んでいたのだ。

……だが! 寄りにもよって借金女神が、イリヤを褒めちぎりやがった。案の定イリヤは微妙な笑顔を浮かべていた。まったく、余計な事しかしねえ。

気を利かせためぐみんが料理を注文してくれなけりゃ、重い空気のまま解散、なんてことになっていただろう。ありがとう、めぐみん。さすが知力の高い紅魔族!

そのあとは和気藹々(あいあい)とした中、食事も終わり解散となる。

ギルドを出たところで俺は口を開いた。

 

「俺、イリヤを送ってくわ」

「ど、どうしたのですか、カズマ!? 一度死んで、人格が変わってしまったのですか!?」

「おいこら、めぐみん。どういう意味だ!?」

「だって、クズマはカズマじゃないですか!」

「それ逆! あと、それ広めたのホントに誰!?」

 

いつの間にか俺には、クズマだのカスマだのゲスマだの…、あとぱんつ脱がせ魔だの、謂われのないあだ名が浸透している。イリヤが誤解したらどうするんだ。

 

「まあ、それを置いておくとしてもだ。カズマは一度死んで、血だって足りていないのだろう? さすがに心配にもなるぞ」

 

さすがに原因の一端を担っているだけに、ダクネスは俺のことを気にしているみたいだ。だがお陰で、話をスムーズに運ぶことが出来る。

 

「それだったら、アクアも一緒に連れてくよ。どうせ帰る場所は同じなんだし」

 

そう。これでアクアも自然な形で…。

 

「ええっ!? 私、早く帰ってさっさと寝たいんですけどー?」

 

テメッ、コイツ! せっかくいい流れで来てるってのに! いや、待て。冷静になれ。要はアクアが断りにくい状況を作ればいいんだ。

 

「ハァ、仕方がないか。所詮は自称女神。本当の女神様なら暗い夜道を子供一人で帰して、平気でいられるはずがないからなー」

「なぁっ、カズマってば何言っちゃってるの! 私は自称じゃなくって、本当に女神よ!」

「ははは、無理することないぞー。アクアだっていつまでも、アクシズ教の御神体を騙るわけにもいかないしなー」

「だから女神だって言ってるでしょ!

……上等じゃない、付いてってあげるわ。この水の女神アクア様が同行するのよ、敬いなさい!」

 

よし! 俺は心の中でガッツポーズを取る。

 

「……カズマはやっぱりカズマでしたね」

「ああ」

 

外野二人、うるさい。

 

 

 

 

 

俺達が宿屋に向かって歩き出すと、今まで黙っていたイリヤが声をかけてきた。

 

「あの、カズマさん。アクアさんに説明はしなかったの?」

「……アクアに説明してみろ。きっと、もっと面倒くさいことになってたぞ?」

「……アー、ソーデスネ」

 

目のハイライトが消え、呟くように言うイリヤ。

 

「ちょっとカズマ。説明って何の事よ?」

 

まあ、ここまで来たら説明しても大丈夫だろう。

 

「イリヤが転生の事を知ってる俺達に、さっきの暴走について説明したいんだってさ」

「……ああ、アレね。確かにあれは異常だったわ。何かの封印が解放されたみたいだったけど」

 

それを聞いて、イリヤが驚いた顔をしている。どうやらアクアの推察は合ってるみたいだ。さすが腐っても女神なだけはある。

 

『まあ、その辺りも引っくるめて、宿の方で説明します』

 

そう言うルビーの口調が至って真面目なことが、結構シリアスな内容だという事を物語っている気がした。

 

 

 

 

 

そして宿に着いた俺達だったが、しばらくは扉の向こう側へ行くことが出来なかった。ルビー曰く。

 

『女の子には、色々とやることがあるんですよー』

 

ということらしい。

 

「お待たせー、入っていいよ?」

 

と、扉を開けてイリヤが言った。それじゃあ遠慮なく、と声をかけて中に入ると、そこはちょっとした小物があるくらいの、殺風景な部屋。まあ、いつまで居られるかもわからないのに、あまり荷物を増やすわけにもいかないんだろう。

……とは言え、このくらいの歳の女の子としては、もっと内装を弄ったりしたいはず。それが出来ないってのも、なんか可哀想な気がする。

もっとも、そういう感情は相手に失礼だって話も聞いたことがあるので、大人なカズマさんは口に出して言ったりはしない。

 

「なんか殺風景ねー?」

 

だから言うなよ!

 

 

 

 

 

俺とアクアは勧められた椅子に座り、イリヤはベッドに腰掛けその隣り、イリヤの顔の右側にルビーが浮かんでいる。

 

『それでは、イリヤさんの秘密を暴露していきましょうかー。イリヤさん、どうぞ!』

「どうぞって、いきなり振られてもっ! えっとぉ、何から話したら…。

うん、とりあえず大前提として、わたしは聖杯戦争の関係者です」

「聖杯戦争?」

 

何だかゲームに出てきそうなワードだな。……ん?

 

「どうしたアクア。顔色が悪いぞ?」

「……聖杯戦争ってまさか」

 

は?

 

「あの、[冬木]の[聖杯戦争]?」

 

何だ? アクアが偉くシリアスなんだが?

 

「アクアさん、聖杯戦争の事知ってるの!?」

「……ええ、知っているわ」

 

なんか、普段の駄女神っぷりを一切感じさせないアクアを見てると、ものすっごく不安になってくるんだが。

 

「おい、聖杯戦争って何だよ?」

「聖杯戦争はね、魔術による儀式よ」

 

魔術の儀式!?

 

「七人のマスターが七騎の英霊をサーヴァントとして呼び出して戦わせ、勝者が降臨した聖杯、あらゆる願いを叶える万能の釜を手にする。

神の領域に手を出そうとした魔術師(にんげん)が創り上げた、醜い儀式よ。神々(わたしたち)の間でも、かなり忌避されているわ」

 

アンデッドや悪魔以外で、こんなに拒絶反応を示すアクアも珍しいな。

 

『アクアさんは随分と[聖杯戦争]を嫌ってるようですねー?』

「まあね。アレは自分のエゴを叶えるための殺し合い。そこには、正義も愛も有りはしないわ。……それに」

「まだ何かあんのか?」

 

何だかこの先は聞かない方がいいような気もするんだが、やっぱり好奇心には敵わない。

 

「聖杯戦争の聖杯は、メインとなる大聖杯とは別に、敗れた英霊の魂を大聖杯にくべるための小聖杯が存在するんだけど、それはその為に調整された人間を使うの。

小聖杯に英霊の魂が納まる毎にその人間の機能は失われ、やがては小聖杯が現れて消滅してしまう。つまりその人は、大聖杯を完成させるために犠牲となるのよ」

 

それは、酷い話だ。その魔術師って連中はろくでなしだな!

ん? 今度はイリヤの顔色が悪いな?

 

「どうした、イリヤ?」

「……ううん、今はいいの。……今はまだ」

「そうか?」

 

今は? 何だかすげえ気になるんだが。

 

「……それに、大聖杯の方にも大きな問題があってね」

「おぉい、もうお腹いっぱいなんですけど!?」

「いいから聞きなさいな。

大聖杯は三回目に行われた聖杯戦争の時に、召喚された悪神[この世全ての悪(アンリ・マユ)]の紛いものが混ざり込んだせいで汚染されているの。だから聖杯を手にした人がどのような願いごとをしても、その願いは歪められ、人類を滅ぼす方向で叶えられてしまうのよ」

「そんな聖杯壊してしまえっ!!」

 

魔術師ってバカなのか!? いや、バカだろ!

 

『いやしかし、よくもまあ、そこまで詳しく知っていましたね?』

 

言われてみれば、確かにルビーの言うとおりだ。アクアの知力は最低ランクだったはずなのに。

 

「これは、本来は並行世界に関与しない神々が、他の世界線で起きた聖杯戦争を注視していたからなの。何しろ、地球の人類存亡に関わる事案だから。実際、こちらでは起きなかった四回目の聖杯戦争では、聖杯からあふれ出した泥のせいで、冬木の大火災と呼ばれる災害も起きたそうよ。

そして私は地球担当の女神。散々これらのレクチャーも受けたし、私自身も危険視してたからね」

 

なるほど。さしもの駄女神様も、自分の担当地域の人類が滅んだりしたら、さすがに困るもんな。……おや、ちょっと待てよ?

 

「なあ、俺達のいた世界線じゃあ四回目の聖杯戦争ってのは無かったんだよな? それじゃあ、何でイリヤは聖杯戦争の関係者何だ?」

「え? あれ? そう言えば…」

 

俺とアクアがイリヤを見ると、イリヤは冴えない笑顔を浮かべて語りだす。

 

「わたしは、聖杯戦争の(かぎ)となるために生まれたの」

 

……え?

 

「わたしには、ある程度の範囲で『望んだことを叶える力』がある。……あった」

 

おい、それってまさか。

 

「ママは[聖杯]の話はしたけど、[小聖杯]の事は言わなかった。でも、アクアさんの今の話でわかった。わたしは聖杯戦争の[小聖杯]で、使い捨てられるために生まれたんだって」

 

さっき顔色が悪かったのはそのせいか! アクアに顔を向けると、自分の発言でイリヤが傷ついたんだと気づきアタフタしている。

するとルビーが。

 

『大丈夫ですよ、イリヤさん。貴女のご両親はそれを阻止するために、聖杯戦争を未然に終わらせたわけですから』

「……うん、そうだね」

 

ふう…、どうやらイリヤは気持ちを持ち直したようだ。

 

「……えっとイリヤ、続きは大丈夫か?」

「うん」

 

思ったよりもしっかりとした返事を返すイリヤ。

 

「それに多分、ミユの方が酷い目に遭ってたと思うから」

「「ミユ?」」

「うん。美遊(ミユ)・エーデルフェルト。わたしの親友だよ」

 

そういやイリヤを勧誘したときに、そんな名前言ってた気がするな。

 

「……そうだね。わたしの事知ってもらうんなら、ルビーと出会って魔法少女になったトコから話した方がいいかな?」

 

何がそうなのかはわからないが、俺は頷いて見せ、アクアも慌てて頷いた。

 

「えっと、あれは…」

 

そう言って語り始めたのは、ルビーに詐欺同然に魔法少女にされ、それが原因で前の持ち主の魔術師から七枚の[クラスカード]…、イリヤが使ってるあのカードを回収するように命じられた顛末。

カードを回収するには劣化した英霊を倒さなくてはいけない。その闘いの中出会ったのが、もう一人の魔法少女ミユ。彼女は魔法少女を楽しむイリヤに反発していた。だけど徐々に心の距離が縮まっていく二人。

しかしあるカード回収の時、イリヤは自分の中の力を暴発させ、ミユ達に怪我をさせてしまう。

自分が普通じゃないと知ったイリヤは、みんなを傷付けてしまったことと、その力に恐怖して魔法少女を辞めようとする。

けれどその晩、母親に背中を押され、最後のカード回収に赴き、ミユのピンチを救い二人でカード回収を成し遂げた。

……だが、事件はそれでは終わらなかった。

それから一月ほどして、地脈の正常化を命じられたイリヤとミユが言われるまま、魔力を地脈に送り込んだら魔力が逆流。何やかんやあって気がついたら、イリヤが分離していた。

 

「って分離!?」

 

さすがに突っ込まずにいられなかった。

 

『はい。その時イリヤさんが夢幻召喚(インストール)した[アーチャー]のカードを核として、おそらくは溢れ出した魔力とイリヤさんの[小聖杯]の力で顕界したんでしょう』

「もうひとりのわたし…、今はクロエ・フォン・アインツベルンって名乗ってるけど、クロはわたしが赤ん坊の時に封印された記憶と人格だから」

 

いや、重い! 重いって! 何で封印なんてされてんの!?

 

「えっと、話、続けるよ?」

 

イリヤは以外と、冷静なのであった。

 

もう一人のイリヤ、クロエがイリヤの命を狙ったり、それを捕まえたり、はたまた学校へ通わせたりと、およそマンガやラノベで在りがちな展開をしていき、ああだこうだのうちに母親登場。イリヤの秘密、……さっきアクアが言ってた[小聖杯]の事を聞かされる。

そしてこの件は落着、したのも束の間、カード回収の前任者が現れて、イリヤ達からカードを奪うために襲いかかってきた。何とか引き分けに持ち込めたものの、もう一枚、八枚目のカードの存在が明らかになる。

夏休みも終わりに近づいた頃、遂にカードの回収が始まった。

その英霊は、とても規格外だったらしい。渾身の一撃はあっさりと防がれ、数多の刀剣類を射出する。そんな英霊が欲していたのは[聖杯]で、手に入れたのはミユだった。

その英霊が言うには、ミユは並行世界からやって来た少女で、その世界の完成された[聖杯]として生まれてきたらしい。

イリヤはミユを助けるために戦い、その英霊を倒すために限界まで魔力を使った。そしてイリヤは英霊を倒し、しかし自分も力の行使に耐えきれずに死んでしまったそうだ。

 

「……そして天使さんに会って、みんながミユの世界に飛ばされて戦ってるって聞いて、わたしはみんなのとこに行くために魔王の討伐を決意したんだ」

 

そうか。イリヤの決意の強さには、そんな理由があったんだな。

 

『さて、ここで本題に戻りますが、イリヤさんは分離したクロさんに聖杯、そして魔力の三分の二を持っていかれてしまいました』

 

それは災難…、ん?

 

「イリヤはそんな状態で冬将軍と戦ったのか?」

「ちょっと待って。イリヤのあの時の魔力量は、めぐみんすら凌いでたわよ?」

 

何だ? 妙に話が噛み合ってないぞ?

 

『やっぱり疑問に思いますよねー? ……ところでイリヤさん。冒険者カードを提示してはもらえませんか?』

「え? い、いいけど」

 

イリヤは冒険者カードを取り出し、俺達にも見えるように差し出した。

 

『……ああ、やっぱり。ここを見てください。文字化けしていた二つのスキルが開放されています』

「ええっ!?」

 

文字化けの事は知らないが、イリヤは大変驚いている。俺とアクアは、ルビーが翼の先で指し示した文字を見て固まる。

 

「[小聖杯EX]に、[魔術回路増設]…」

 

イリヤが呟いたあと、俺達の間にしばらく沈黙が訪れた。

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