このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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今回も長めです。


この聖杯少女に悪知恵を!

≪イリヤside≫

判明した、正体不明のスキル、[小聖杯EX]と[魔術回路増設]…。わたしは沈黙を破り、ルビーに確認をとった。

 

「えっと、[魔術回路増設]ってのは多分、クロに奪われた魔力の源、つまりわたしからクロに移った魔術回路を復活させたって事だよね?」

『まあ、おそらくは』

「すまない。魔術回路って何だ?」

 

そうだった。カズマさんにはその説明はしてなかった。……とは言っても、わたしも詳しいことは、こっち来てからルビーに教わったんだけど。

 

『そうですねー、魔力の生成と発動に必要な器官とでも思ってもらえればいいかと』

 

本来この世界では、魔術、というか魔法を使うのに魔術回路は必要ないらしい。だけど多分、[メイガス]という元の世界の魔術師を表す職業が、向こうの世界での魔術のシステムを再現しているんだろう。……ってのがルビーの意見だった。

 

『ちなみに魔術回路は、生まれつき本数が決まってるものなんですが…。冒険者スキルってチートですよー?』

 

確かにポチッとするだけでガンド覚えられたし、実は[宝石魔術]なんて項目もあったけど、さすがにリンさんやルヴィアさんに悪い気がしたので取ってない。

 

「話戻すけど、ルビー、[小聖杯EX]の[EX]ってなんで付いてると思う?」

『それはもちろん、バージョンアップ版だからじゃないんですかー?』

「バージョンアップ…、してるの?」

 

うーん、今イチ実感がわかないなぁ。

 

『……先程、気を失っていたイリヤさんに魔力供給していたときに気づいたんですが、私が供給する魔力が、イリヤさん自身の他に別枠があって、そこへも流れ込んでいるのが確認されました。これは、クロさんと分離する前には感じられなかった事です』

「つまり[小聖杯]に、魔力供給によるチャージ機能が追加されたって事か?」

『ああ、カズマさんのその表現がわかりやすいですねー。

おそらく以前は自然界にある魔力、いわゆるマナを少しずつ貯め込んでいく仕様だったんでしょう』

 

それって、ミユの中の聖杯も同じ仕組みだったのかな。

 

『それと…。イリヤさん、夢幻召喚(インストール)せずに投影魔術を使ってみてもらえませんか?』

「ええっ!? そんなの無理だよ!」

『お願いします』

 

ルビーがあまりにも真剣だから、わたしは頷いて投影を試してみる。とりあえずわたしは、アーチャーさんがよく使ってる…気がする、陰陽の剣の片割れ、干将をイメージして魔力を操り。

 

投影開始(トレースオン)!」

 

クロと同じセリフを言う。……と!?

 

「え…、成功、した?」

 

わたしの右手には、黒い中華剣が握られていた。だけど。

 

「あら、消えちゃった」

 

アクアさんが言うとおり、わたしの創っ(投影し)た剣はすぐに消えてなくなってしまった。

 

『いえいえ、充分ですよ。投影魔術なんて本来そういうもの、世界からの修正で消えてしまうような不安定なものですから。これで確認したかったことは、むしろ別にあります』

「どういうことだ?」

 

カズマさんが尋ねると、ルビーは恭しく頷いて話を続ける。

 

『イリヤさんが、修得してもいない投影魔術を使えたことと、普通では投影するのも難しい[宝具]クラスの武器を投影したことです』

「あ、そういうことか」

「ちょっと、どういうことよ」

 

カズマさんはすぐに気づいたけど、アクアさんにはわからなかったみたいだ。

 

「つまり、わたしが覚えてない投影魔術で、普通じゃ投影出来ないような武器を投影出来たのは、わたしが[小聖杯]の力を使ってたからって事だよね?」

『そのとおりです!』

 

わたしの説明にルビーが、我が意を得たりといった勢いで同意する。

 

『かつては危機的状況や感情が振り切れた時に発動していた[小聖杯]の力ですが、今のは明らかにイリヤさんの意思による発動です。つまり現在の[聖杯]は、イリヤさん自身が制御しているとみて間違いないでしょう』

「え、ちょっと。それってつまり、イリヤが望めば私の願いも叶うって事よね? それだったら、私を天界に帰してよっ!」

 

真剣な表情でわたしに迫るアクアさん。鬼気迫っていて、ハッキリ言って怖い。でも。

 

ごいん!

 

「いったあぁ…!」

 

カズマさんのゲンコツがアクアさんに飛ぶ。

 

「やめんか! イリヤが怖がってるだろ! そもそもお前、[聖杯戦争]をあんなに否定してたじゃねぇか!」

「だって、だってぇ…」

 

アクアさんを叱るカズマさん。でも、わたしもみんなの所に戻りたいので、アクアさんの気持ちはわかる。わかるけど。

 

「えっと、言いにくいんだけど、その願いは多分叶わないんじゃないかな? ……というか、アクアさんがそう願ったときに叶えられる気がしなかったから」

『それじゃあおそらく無理でしょうねー。聖杯に魔力が貯まっていないのを差っ引いても、その願いに反応しないのならそれは、聖杯が叶えられる範囲を逸脱しているという事でしょうから』

 

そう。ママが言ってたのは、「ある程度の範囲で願いを叶える力」だ。[EX]が付いてるし、もしかしたら能力が上がってるかもしんないけど、それでもスキルの表記は[小聖杯]で、[聖杯]や[大聖杯]じゃない。叶えられる願いの限界も[大聖杯]…、ううん、完成された[聖杯]のミユよりも低いんだと思う。

 

「そもそも? それで何でも願いが叶うんだったら、神様なんていらねーじゃん。イリヤだって聖杯に魔力を貯めて、元の世界…、いや、ミユの世界か? そこへ行くように願えばいいんだしさ」

「そ、そうだけどぉ」

 

うん、ホントそうだけど、それ言っちゃったら身も蓋もないよ?

 

『カズマさんは、聖杯に懸ける願いはないんですか?』

「あるに決まってんだろ!」

 

うわっ、アクアさんを諭そうとしたセリフが台無しだぁ!?

 

「俺だって人の子ですし? 人並みにいろんな欲望だってありますよ? 今はこの駄女神が作った借金だって返したいし、贅沢は言わねえからもっとまともな場所で暮らしたいです、はい」

 

うう、それは、同じパーティーとして身につまされる願いだね…。

 

「……だが、それはやっちゃいけないことだろ? そりゃ、普通にチートアイテムで[聖杯]なんて物がありゃあ願いを叶えまくってただろうけど、[聖杯戦争]の事やイリヤに起きた事を聞いておいて、イリヤの能力(ちから)で自分の欲望を叶えようだなんて恥ずかしい事、出来るわけないじゃねえか」

 

カズマさんが頭のうしろをボリボリと掻いて、跋の悪い顔をしてる。

 

「ちょっと、どうしちゃったの? めぐみんじゃないけど、いつものカズマらしくないわよ?」

「うるさいわい。そんなの俺だってわかってるわ!

……ただ、なんて言うか、イリヤの事は守ってやらなきゃって気がすんだよ」

「……ロリコン?」

「違うわっ! イリヤは妹みたいなもんだ! あとクリスからも、よろしく頼まれてるからな」

 

妹と言われた瞬間、わたしは何だか嬉しい気分になって、そして気がついた。わたし、カズマさんとお兄ちゃんを重ねてたんだって。

 

『イリヤさん?』

「あ、何でもないの! ただ、妹って言われて、お兄ちゃんの事を思い出しちゃっただけ」

 

わたしが言うと、カズマさんとアクアさんが少しだけ驚いた顔をした。

 

「イリヤって、お兄さんがいるの?」

『そーなんですよー!』

 

それに反応したのは、やっぱりルビー。

 

『イリヤさんには「衛宮士郎」さんっていう、義理のお兄さんがいるんです!』

「そこんとこ詳しく」

 

カズマさん!?

 

『士郎さんはイリヤさんのお父さん、切嗣さんが孤児だった彼を引き取って養子にしたんですよ。因みにイリヤさんと苗字(ファミリーネーム)が違うのは、切嗣さんとイリヤさんのお母さん、アイリスフィールさんが籍を入れてないからですねー』

「意外と複雑な家庭!?」

 

いや、そんなに深く考えないでッッ!

 

『士郎さんはいろんな女性とフラグを立てまくってます。まず、私の前の持ち主である凛さん。私の妹サファイアちゃんの前の持ち主ルヴィアさん。そして我らがイリヤさんにクロさん、お友達の美遊さん。さらに士郎さんの学校の知り合いの女子数名に、アインツベルンのメイド、セラさん…』

「ちょっと待ってルビー! セラ!? セラってお兄ちゃんの事、好きなの!? わたし初耳なんだけど!?」

『嫌ですねー、イリヤさん。あれってどう見てもツンデレ対応じゃないですかー』

 

た、確かに、そう見えなくもないけどッ!

 

「何だそのハーレム状態は! まるでエロゲの主人公じゃねえかッ!」

 

ちょ、カズマさん!? エロゲって…!

 

『イヤー、鋭いですねー。プリヤは魔法少女ものですけど、原典はエロゲでしたからー』

「ルビー!? プリヤって何? 原典てなんのコトーッ!?」

 

ルビーがワケのわかんないことを言うのはいつものことだけど、今日のは一段とわけわかんないよーっ!?

 

『さて、メタ発言はここまでにして、話を元に戻しましょうか』

「「放置プレイ(かよっ)!?」」

 

わたしとカズマさんのツッコミがキレイにハモりました。

 

 

 

 

 

『改めまして、イリヤさんの秘密暴露は済みましたので』

「ルビー、もう少し言い方ってない?」

『ここからはダクネスさんとめぐみんさんに、どの内容をどこまで伝えるか、ですね』

「無視したッ!?」

 

ルビーってばヒドい。一応わたしが主人公なのに。……主人公? わたし何言ってんだろ?

 

「ねー、面倒だから二人にも全部ぶっちゃけちゃえば?」

 

アクアさんも無視っ!? それに他人事(ひとごと)だからって、面倒は無いんじゃないかな。

 

「さすがに全部は不味いんじゃないか? 別にアイツらが信用できないってワケじゃないけど、もし情報が漏れたらイリヤの身に危険が迫る可能性だってあるし、それなら正確な情報を知ってる人は、出来るだけ少ない方がいいだろ?」

 

カズマさん…。

 

『そうなると、イリヤさんに累が及ばないような情報操作が必要になりますねー』

「それじゃあ、わたしが[小聖杯]って事は伏せといた方がいいよね?」

 

この世界に聖杯の伝承があるかはわかんないけど、転生者は知ってる人もいるだろうし、そこから知識を得てる人もいるかも、だからね。

 

「聖杯戦争の事はどうするの? それも伏せといた方がいいのかしら?」

『そうですねー。やはり聖杯に関わることは、極力避けた方が無難だと思いますよー?』

 

やっぱりそうなるよね。でも、ダクネスさんとめぐみんさんに隠し事ばかりなのも、ちょっとやだなぁ。

 

「……なあ、別に隠す必要はないんじゃないか?」

「はあ? 何言ってるのよカズマ? 情報が漏れたら困るって言ったのはあんたよ?」

「確かにそう言ったさ。でも要は、[小聖杯]の能力を誤魔化せりゃいいんだろ?」

 

能力を、誤魔化す?

 

 

 

 

 

そして翌日の冒険者ギルド。わたしはダクネスさんとめぐみんさんに事情を説明した。

 

「……なるほど。話をまとめると、イリヤは勝利者の願いを叶えるという[大聖杯]の(かぎ)としてその身に魔力が貯め込まれていて、危機的状況や感情が爆発するとその魔力が開放される。昨日の暴走は、まさにそれだったという訳ですか。

しかも現在は、それをコントロール出来るようになったと」

「そしてその聖杯をめぐる争い、聖杯戦争も危険視したイリヤの御両親が未然に止め、二度と起きないように手を打ち、イリヤをその運命から解放した、か…」

「うん」

 

わたしが話した内容を確認するふたりに、こくりと頷いて肯定する。

わたしは、わたしの中にある[小聖杯]の能力、[ある程度の範囲で願いを叶える力]というのを隠してふたりに説明をした。すると、何ということでしょう。[小聖杯]の能力が、[大聖杯]を起動するための魔力タンクのように聞こえるではありませんか。

そう。これがカズマさんの作戦だった。

確かに元の世界なら、高い魔力だけでも利用価値があって狙われるかも知れない。だけどこっちなら、紅魔族みたいに高い魔力を持つ種族だっているし、アクアさんはそれを越える魔力を持ってるけど、悪用しようと考える人は今のところいないらしい。

カズマさんがこの作戦を口にしたときに言ったのは、

 

「嘘はつかなくても真実全てを語る必要なんてないし、わざと誤解するように誘導してやればいい」

 

って事だった。ルビーなんて「素晴らしい!」って褒め称えてたくらいだ。

 

「ありがとうございます、イリヤ。私達に貴女の秘密を打ち明けてくれて」

 

う、それでも隠し事がある分、心がチクチクと痛い。

 

「しかし、この様な年端もいかない子供を巻き込むとは、その聖杯戦争という儀式もかなり罪深いもののようだな」

 

ダクネスさんが憤慨してる。

 

「おそらく敗れた者は捕虜となり、抵抗虚しく蹂躙され、恥辱の限りを尽くされるのだろう…! くはぁ、たまらん! 聖杯戦争、私も参加したかったぞっ!!」

『ダクネスさんはブレませんねー』

ハイ。ダクネスサン ハ、ヘイジョウウンテン デシタ。

 

「……さて、話も聞き終えましたし、そろそろ行きましょうか」

「う、うむ。そうだったな」

「……ん? どこか行くの?」

 

わたしが尋ねると。

 

「爆裂散歩ですよ」

 

と、めぐみんさんが答えた。

 

「カズマが安静にしていなければならないので、しばらくは冒険に出られません」

「だから私が、カズマの代わりについて行くことになったんだ」

 

なるほど。…………。

 

「えっと、わたしも暇だし、ついてってもいいかな?」

 

そう聞くと、ふたりは優しい笑顔をわたしに向け、そして。

 

「いいでしょう! イリヤに我が爆裂魔法の神髄をご覧頂きましょう!!」

 

めぐみんさんが声高らかに宣言した。そして再び、わたしに向けてニッコリと笑う。

 

『(めぐみんさん、気を使ってくれたみたいですねー)』

 

うん。どうやらカズマさんが殺されたときのことを引きずってるのに、気がついてたみたい。

 

「さあ、行こう。帰りが遅くなっても困るだろう?」

「うん」

「そうですね」

 

ダクネスさんに促されたわたし達は、冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

「……ところでイリヤ。またルビーを借りることは出来ませんか? 魔力供給さえ受け続ければ、爆裂魔法を撃ち放題…!」

「んー、ルビーが構わないならいいけど、それってルビーのロリ認定受け入れるって事だよ?」

「な、それは、……うぅん」

 

めぐみんさんは爆裂ポイントに着くまで悩み続けてました。




「嘘はつかなくても…」の(くだり)は、Web版のカズマが読んでいただろう小説の、ある登場人物がよく使うやり口です。それは誰かといえば、今はまだ、秘密です!
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