俺達が山道を登っていくと、地図のとおり下り坂になる地点に出た。ゴブリンが目撃されたのはこの辺りらしい。
「カズマ、敵感知に反応はあるか?」
テイラーが聞いてくる。俺は頷き。
「ここを下った先の角を曲がると、いっぱいいるな。初心者殺しの気配は、今のところ無いよ」
「いっぱいいるのならゴブリンだな。ゴブリンは群れるもんだ」
俺の返答に気楽に言うテイラー。だが、それにしても数が多い気がする。
「俺はゴブリンと戦ったことないから知らないが、普通こんなに多いもんなのか? 探知出来てるだけでも、ちょっと数えきれないんだが」
「え…」
「そ、そんなにいるの? ねえ、カズマがこう言ってるんだし、何匹いるのか様子をうかがって…」
俺の発言にイリヤが言葉を失い、リーンが怖じ気づいたのか慎重な意見を述べるが。
「大丈夫大丈夫! カズマにばかり活動されちゃたまんねえからな!」
そう言ったキースが、下り坂の角に飛び出した。そしてテイラーもそれに続いて飛び出し。
「「ちょ、多っ!!」」
叫んだ二人。俺達も角を曲がると、そこには三十を下らない数のゴブリンの群れがあった。
『これは見事に、フラグを回収しましたねー』
「そんなのんきに構えてる場合じゃないよ、ルビー!」
「だから言ったじゃん! あたし、こっそり数を数えた方がいいって言ったじゃん!!」
イリヤとリーンがわめいているが、今となっては後の祭りだ。
「ちくしょう! このまま引き返しても、初心者殺しと挟み撃ちになる可能性が高い! やるぞ!」
気持ちを奮い立たせるように言うテイラー。やけっぱちとも言う。
坂道を駆け上がってくるゴブリン達。さらに。
「痛えっ! ちくしょう、矢を食らったッ!」
どうやら弓を装備したゴブリンもいるらしく、テイラーが腕に矢を受けてしまった。リーンは風の防御魔法を唱えてるらしいが、キース曰く間に合わない。
俺は「ウインドブレス」を唱えようとした。が、それよりも早く。
「[アーチャー]、
イリヤがアサシンを解除せずに、アーチャーをインストールする。
「
冬将軍の時に使っていた、五枚の花弁のような光の盾を展開して、俺達を矢から守ってくれた。……ギルドでのルビーのセリフがあったせいで、ふと思ったけど、あの盾って【天地無用!】の
なんてくだらんこと考えてる場合じゃねえな。でも、まあ、とりあえず。
「よくやった、イリヤ」
そう言ってイリヤの頭に手を置く。
「『ウインドカーテン』!」
その直後、リーンが発動させた魔法の風が、俺達を守るように渦巻いた。
「……なんかあたしの魔法、いらなくない?」
[ロー・アイアス]を見て、リーンが若干いじけてる。
「……ううん、ありがとうリーンさん。これでわたしも戦えるから」
「ちょっと待て、イリヤ。戦えるって、いいのか?」
イリヤがモンスター討伐に躊躇いがあるのは、クリスを通して知ってるし、実際雪精の討伐の時も、始めは躊躇っているのは見て取れた。
「……ありがと、カズマさん。でも、闘う覚悟は出来てるから」
イリヤが力強い眼差しで俺を見る。
「……そうか。なら、兄貴代わりの俺が、イリヤの手助けをしないとな!」
「え?」
疑問を浮かべるイリヤは無視して、俺は呪文を唱え。
「これでどうだ! 『クリエイト・ウォーター』!」
ゴブリン達を防ぐテイラー達の、その前の坂道に水をぶちまける。
「あ、もしかして…」
イリヤが小さく呟く。
「『フリーズ』!」
続けて放った凍結魔法が、坂道を凍りつかせた。
あるゴブリンは、水と一緒に足が凍りついて身動きが取れなくなり、またあるゴブリンは、氷に足を取られ坂道を滑り落ちてゆく。そしてなんとか踏ん張り登ってくるゴブリンもいるが。喜々としたテイラーが、ざん! と切り捨てる。
……なんて言うか、仲間に入ったのが俺ひとりだったら、きっと高揚しながら加勢してたんだろうと思ってる。だがイリヤがいるせいか、妙に冷静な自分がいる。そして、冷静に見て思う。なんか俺達の方が悪者っぽくね? イリヤも若干引いてるし。
とはいえ、せっかくの討伐のチャンスだ。
「やるぞ、イリヤ。気は引けるが、これは討伐クエストなんだ」
「! そうだね」
返事をしたイリヤは一旦目を瞑り、再び開いたその瞳の奥には決意の色が浮かんでいた。
「
投影した数本の矢を、同じく投影した弓に番える。
「フッ!」
短く息を吐くと共に、矢を解き放つ。複数の矢はそれぞれのゴブリンの急所を突き、一撃でその命を刈り取った。
「な!? すげえ! こりゃ俺も負けてられないぜ!」
本家アーチャー職のキースが、イリヤの曲芸レベルの技術に触発されてやる気を出す。
今回は荷物持ちとはいえ、もちろん俺も、パーティーのリーダーとして黙って見てるわけにはいかない。俺は剣を抜き、テイラーと同じように登ってきたゴブリンを斬り伏せていく。
「ちょっと、あたしだっているんだからねっ! 『ブレード・オブ・ウインド』!」
リーンも風の刃を飛ばして、ゴブリン達を倒していった。
それからしばらく経って、ゴブリンを倒したわたし達はアクセルへの帰路についていた。
「くっくっ、あんな魔法の使い方、聞いたこともねえよ!」
「あたし魔法学院じゃ、初級魔法なんて取るだけポイントの無駄だって教わったのに!」
「こんな楽なゴブリン討伐は初めてだぜ!」
なんて、テイラーさん達が異常なテンションで話してる。でも…。
『イリヤさん、どうかしましたか?』
「あ、うん…」
わたしは一瞬躊躇いつつも口を開く。
「モンスターとはいえ、あんなにたくさんの命を奪ったのに、なんでそれを楽しそうに話してるんだろって」
いい人そうなリーンさんまであんなだし。
「冒険者にとって、それが当たり前なんじゃねえか?」
「カズマさん」
「冒険者ってのは、モンスターを倒して生計を立ててる奴らだ。そんな奴らが討伐の度に、イチイチ気に病むと思うか?」
「そう、だけど…」
カズマさんの言うことはわかる。でも、頭ではわかってても、心は納得いってない。……と、カズマさんの手が、わたしの頭の上に乗せられる。
「……え?」
「でも、ま、イリヤはそのままでいいんじゃないか? 白状すると、イリヤがいなけりゃ俺も、アイツらと一緒にはしゃいでたと思うし」
『カズマさんもお調子者ですからねー』
「てめーに言われたくねえよ!」
ルビーに言い返した後、カズマさんがわたしに視線を戻して。
「イリヤには、その優しさを忘れないでいて欲しいからな」
あ…、クロと似たことを…。
「その代わり、辛いことがあったら溜め込まずに言ってくれ。俺は兄貴代わりだからな。愚痴くらいは聞いてやるぞ?」
「カズマさん…、ありがとう」
カズマさんの優しさに、わたしは心から感謝した。
「ちょっとー、ふたりで何話してんのー?」
「お前達は今回の主役なんだからな!」
リーンさんとキースさんがわたし達に言う。というか、わたしも入ってるの?
『そりゃあ、あれだけ活躍すればですねー?』
「だからモノローグに…、いや、もういいや」
さすがに今は、ツッコミ入れるのも面倒くさいし。
「つっ…! いてて…」
あっ、テイラーさん!
顔をしかめたテイラーさんが、刺さったままだった矢を抜いた。
「大丈夫ですか、テイラーさん? わたし、あまり得意じゃないけど、回復魔術が使えるよ?」
「「「え?」」
テイラーさん達が驚きの声を上げる。けど、カズマさんが待ったをかけた。
「いや待て、イリヤ。街に帰ってから手当てした方がいい。随分時間も経ってるし、消毒できないとマズいだろ?
……というかイリヤ、回復魔術なんて覚えてたのか?」
「うん。この間のカズマさんのアレがあってから、スキル習得したんだ」
こっちの「ヒール」の様に素早く回復、とはいかないけど、大ケガした人がアクアさんに回復してもらうまでの、繋ぎみたいなことは出来るかな、と思ったんだ。
「そうか。ありがとな、イリヤ」
カズマさんにお礼を言われて、わたしは少し嬉しくなる。
「ふーん? 機転が利いて、面倒見もいい、か」
「ああ。何故、最弱職のカズマが上級職ばかりのパーティーでリーダーなのか、良くわかったよ」
リーンさんが呟くように言うと、テイラーさんがひとつ頷いてからそう評価した。わたしも同じ意見だけど、カズマさん自身は納得いってないみたい。……まあ、あの人達の相手をするのも大変だもんね?
わたし達が街へ向かうため、草原に足を踏み入れて少し。
「おい、何か向かってきてないか?」
キースさんがそう言った直後、カズマさんもピクリと反応して。
「初心者殺しだ!」
………………っあああああああ! 忘れてたぁ!!
わたしは心の中で絶叫して、みんなと一緒に街へ向かって駆け出した。
全力で逃げるわたし達。だけど、初心者殺しはその後ろをピッタリとついてくる。
『うーん、どうやらわざと追いつかずに、疲れるのを待っているようですねー?』
「「なにそれ、怖っ!」」
わたしとカズマさんが同時に声をあげる。
とは言え、わたし達の逃げ足も徐々に落ちてきて、初心者殺しはすぐ後ろへと少しずつ迫ってきていた。
「リーン! このままじゃ追いつかれる! 俺とキースが足止めをするから、お前はカズマとイリヤを連れて街へ逃げろ!」
え…。
「わ、わかっ…」
「そんなのダメだよ!」
返事を返そうとするリーンさんに被せて、わたしは言う。
「わたしは、仲間を見捨てて、前になんか進めないよ!」
それを聞いたカズマさんは少し困った顔をした後、髪の毛を軽く掻きむしって。
「ああもう、しょうがねえなあっ!」
そう言ったかと思うと、わたしを見て尋ねた。
「イリヤ、少し時間稼ぎ出来るか?」
そう聞いたって事は、きっと何か考えがあるに違いない。それならわたしも、それに応えてみせる!
「任せて、カズマさん!」
わたしは立ち止まると、取り出したカードを前に突き出し。
「クラスカード[バーサーカー]、
[バーサーカー]を夢幻召喚して、みんなの前に一歩踏み出した。
がっ! っとわたしに跳びかかる初心者殺し。前足の鋭い爪が、わたしを襲う。
「「「イリヤ!?」」」
テイラーさん達が悲鳴混じりの声をあげた。だけど。その爪はわたしに、傷ひとつ負わせることが出来なかった。
「今のわたしは、ダクネスさんに負けないくらい頑丈だよっ!」
わたしは両手を広げて、通せんぼの格好をする。その様子を初心者殺しは、距離をとって警戒している。
少しして痺れを切らしたのか、初心者殺しが再びわたしに襲いかかろうと飛び跳ねた。今度はわたしの首に、その牙を突き立てようとしている様だったけど。
「『ウインドブレス』ッ!」
いつの間にかわたしの後ろに立っていたカズマさんが、風の初級魔法を唱えた。
「ギャウン!?」
初心者殺しが悲鳴を上げてうずくまる。……え? 何が起きたの!?
「よし! 今の内にずらかれええええ!!」
「えええええっ!?」
わたしは意味が良くわからないまま駆け出しました。
なんだか逃げている間に意識がモーローとしてきて、ルビーに『急いで
カードを解除してすぐ、わたし達は立ち止まる。初心者殺しは追いかけてこない。
テイラーさん達が、誰とはなく笑い出した。
「なんだよ、お前ら。イリヤが守ってカズマが頭脳戦って、普通逆だろ!?」
「冒険者が魔法使って、メイガス? 魔法使いみたいな職業がいろんなスキルで戦うって、どうなってやがんだよ!」
いや、そうは言われましても。カレイドの魔法少女は、色々複雑なんです。
「大体、『クリエイト・アース』で生み出した土を『ウインドブレス』で目潰しに使うって、どっからその発想が出てくるのよ」
あ、さっきのってそういう事だったんだ。
「ちょっと、ふたりの冒険者カード見せてよー」
うええっ!? わたしは慌てて、カードの[小聖杯EX]の欄に認識阻害の魔術を施してからリーンさんに手渡した。
「……あれ? ふたりとも、知力はそれ程でもないんだね? イリヤはあたしより少し高い程度だし、カズマなんて普通だし」
え? わたし、リーンさんよりも知力高いの!?
『(まあ、さっきの戦略程度でびっくりしてる辺り、お察しですけどねー)』
『(ルビー、それはさすがに失礼だよ?)』
リーンさんにも、戦略立てたカズマさんにも。
「えっ!? イリヤの魔力、紅魔族並みじゃん!」
……そう。わたしは魔術回路増設の恩恵で、魔力量が一気に跳ね上がった。[小聖杯]は別枠なのか、ステータスには反映されてないけど。
「それにふたりの幸運値もかなり…って、カズマの幸運値、異常に高いんだけど!? それに追随するイリヤも、とんでもないしっ!」
リーンさんがあまりにも驚いているので、テイラーさんとキースさんも覗き込んでくる。
「うおっ、なんじゃコリャ!?」
「今回こんなに都合よくいったのは、二人の幸運のお陰じゃないのか? お前ら、拝んどけ!」
「……なんでさ」
あまりにも真剣に言う三人に、わたしは思わず、お兄ちゃんの口癖を呟いてしまった。
わたし達がアクセルに到着したとき、もう既に真夜中になっていた。もしかしたら、0時回ってるかも知れない。
『ルビーちゃん時計だと、0時18分頃ですかねー』
「……」
『突っ込んでくれないと、ルビーちゃん悲しいです』
……疲れてるし眠いんだから、勘弁して。
「そういやイリヤ、さっきは言い忘れてたけど、初心者殺しの時のアレはさすがに肝を冷やしたぞ?」
「初心者殺しの時のって、……あ、アレかぁ。ごめんなさい、カズマさん」
わたしが謝ると、カズマさんはいや、と言って続けた。
「別に謝る必要はねえよ。時間稼ぎを頼んだのは俺だしな」
うーん、でも、心配かけちゃったのは事実なんだよね? だけどこれ以上どうこう言っても、カズマさんを困らせちゃうかも知んないし、ここは素直に言葉に甘えることにしよう。
そんな事考えてるうちに、冒険者ギルドの前までやって来た。リーンさんが。
「着いたああああ! 今日は大冒険した気分だよー!」
なんて大層なことを言う。とはいえ、わたしもそんな気分なんだけど。
ギイ…、とカズマさんが扉を開けると。
「ぐす…。あ…、ガ、ガズマあああ」
泣きじゃくっているアクアさんがカズマさんを見つけたところで、当のカズマさんがそっと扉を閉める。……って!
「ちょっとカズマさん!?」
「おい! 気持ちはよーく分かるが、ドアを閉めないでくれっ!」
「ほら、ダストさんも言ってるし」
「しょうがねえな…」
カズマさんはわたしの時とは違って、本当に嫌そうに言うと扉を開けた。
ダストさんの説明はこうだ。
ダストさんが皆にどんなスキルを持ってるかを聞いたら、めぐみんさんが爆裂魔法が使えると言い、それをダストさんが誉めた。するとめぐみんさんが、何も無い草原で爆裂魔法を使い戦力外に。そしてそれに引き寄せられたのか、初心者殺しがやって来て、そこに鎧の無いダクネスさんが突っ込んで行ったそうだ。
「 ── それで、挙げ句の果てに…」
「皆、初心者殺しの報告はコイツがしたみたいだし、まずは飯でも食おうぜ。新しいパーティー結成に乾杯だ!」
「「「おおおおお!」」」
カズマさんは聞く耳を持たずに、テイラーさん達とふざけてそんな冗談を言っている。
「待ってくれ! 俺が悪かった! 謝るから、元のパーティーに返してくれっ!」
本気で謝るダストさんに、カズマさんは優しい眼差しを送り。
「これから、新しいパーティーで頑張ってくれ」
「俺が悪かったからっ! 今朝のことは謝るから、許して下さいっ!!」
……冗談、だよね?
よくこの回の話に対して、「主人公を引き立てるために周りが無能にされる」と言われてるので、自分なりのいい捉え方の解釈を。但しあくまで前述に対しての、なので、自分に思うところが無いわけじゃないと理解してください。
彼らの戦略的能力の低さですが、アクセルはあくまで「駆け出し冒険者の街」だという事。そして能力の高い者はあのサービスに囚われていない限り、王都などへ拠点を移してしまう。
よってアクセルには、一部の高レベル冒険者とアクセル程度で生計を立てるしか無い冒険者、あとは駆け出ししかいない、というアンバランスな構図になっている、……んじゃないかなーと思ってます。
なお、「戦闘員」の方のトップ連中の無能さは、今のところ擁護できませんw。