テイラー達とのクエストの翌日。昼近くに起きた俺は、空腹を満たすため、宿を出てギルドへと向かっていた。
「あれ、カズマさん?」
後ろから声をかけられ、俺は振り返る。
「よう、イリヤ」
右手を軽く挙げ、銀髪赤眼の少女に挨拶をした。
「カズマさん、これからギルド?」
「ああ。昨日は遅かったからな。そう言うイリヤは…」
『実はイリヤさんもこれからなんですよー。起きたのだって、ついさっき…』
「ルビー、余計なこと言わないでッ!!」
なんだ、イリヤも同じか。
「まあまあ、そんなに恥ずかしがることないって。昨日はクエスト完了まで時間がかかったし、その後打ち上げで、お開きになったのは深夜を回ってたからな。疲れも溜まってただろうし、仕方がないさ」
「そ、そうだよね!?」
縋るように言うイリヤ。女の子としては、昼近くまで惰眠をむさぼってたのが余程恥ずかしかったらしい。うん。どこぞの駄女神にも見習ってほしいものだ。
『まあ、いいですけどー。イリヤさんはこれがクセにならないように、気をつけてくださいよー?』
「あう!? うん、気をつける…」
なんか、俺の耳にも痛いんだが。
「じ、じゃあギルド行って、ブランチといくか?」
「あ、うん、そうだね」
話を逸らす俺に、乗っかるイリヤ。跋の悪い話はこれくらいにした方が、お互いのためだ。
気持ちを切り換えた俺が歩き出そうとしたとき、視界の隅に、何か違和感のある物が映り込む。そちらに視線を向けた俺は、思わず体が固まってしまった。
「……ん? どうしたの、カズマさん?」
「……あれ、なんだと思う?」
俺が指差した方を見たイリヤが、やっぱり固まる。
「あれ、ケット・シーか?」
「猫の獣人さん?」
そう。そこにいたのは、身長60センチくらいで2~2.5頭身程の、ネコ耳と尻尾を生やした謎生物だった。
『あれはまさか…』
「えっ、なに? ルビーはなにか知ってるの!?」
『いけません! このままアレを放置していたら、世界観が崩壊してしまいますっ!』
なんだって!?
「おい、ルビー! 世界観が崩壊するって、……え、
「世界じゃなくて?」
『世界観です。我々からすればあまりにもおかしい、この世界の常識すら覆してしまうでしょう!』
おいおい、冗談じゃねえぞ。サンマ畑や空飛ぶキャベツ以上のおかしな世界になるってのか?
「そんなの、黙って見過ごせ…」
「なんだニャ。あちしのはにゃしですかい、お兄さん方」
「「『!?』」」
いつの間にか、俺達のすぐ傍にまで来ていた
「おや。よく見たら、そこな銀髪幼女はロリブルマじゃにゃいですかい」
「ロリブルマッ!? なに? その謂われの無い誹謗中傷!?」
ううむ、イリヤの体操服姿は似合うと思うが、さすがにロリブルマは如何なものだろう?
「おや、お嬢さん。とぼけるのも大概にするニャ。タイガー道場や『こっちが本当! 次回予告!』でタイガーとわちゃわちゃしてたのを、忘れたとは言わせにゃいニャ?」
「忘れたも何も、そんな事は!?
…………タイガーってもしかして、藤村先生の事?」
ん? イリヤには心当たりがあるのか?
「そーだニャ! アンタはタイガーの弟子一号、ロリブルマニャ! その証拠にアンタは、藤村大河の事を知っていたニャ! ……うーん、見事に
いや、それ穴だらけだろ? ……おや、イリヤ?
「弟子、一号…。言われてみれば、そんな気も…?」
『イリヤさん! なに言いくるめられそうになってるんですか! あなたは【
「前も聞いたけど、プリヤって何!? ステナイってなんなのよっ!?」
ルビーがまた、ワケのわからないことを曰って、イリヤがツッコミを入れている。まあ、お陰でイリヤも、正気を取り戻したみたいだが。
「ニャニャ? よく見たら、割烹着の悪魔的人工天然精霊のステッキじゃにゃいかい!?」
『そうです! この私は、直接お目にかかったのは初めてですが、貴女のことはよぉく存じ上げてますよ! 型月世界の謎
何だ、このシュールな絵面は。と言うか、型月世界って何だよ?
「ねえ、ルビー。ネコアルクってなんなの?」
『詳細は私にもわかりません。知っているのは、[グレートキャッツビレッジ]と言う空間が出身で、周りの状況をしっちゃかめっちゃかにしてしまう、ということです!』
……ん?
「それって、ルビーと一緒って事じゃないか?」
「あ、ホントだ」
『カハァ!? まさか、身内から攻撃を受けるとはッ!!』
いや、だからそういうトコだって。
「にゃはは。仲間割れとは片腹痛いニャ!」
「いや、割れちゃあいない」
「ツッコミ入れただけだし」
俺とイリヤはそれ、……ネコアルクだっけか? そいつにもツッコミを入れた。
『コホン。えーと、それはひとまず置いておきましょう』
コイツ、逃げやがったな?
『カズマさん、うるさいです』
コイツ、ついに俺のモノローグまで読みやがった!?
『単刀直入に伺います。貴女はどうやって、なんのためにこの世界へとやって来たのですか?』
この世界。そうだ。話が噛み合わないとはいえ、イリヤとルビーを知ってるネコアルク。そしてルビーは、そのネコアルクを知っていた。つまりこの生物…、いや、ナマモノは、元の世界かその並行世界に関係してるって事だ。
「にゃふふふ、そりはモチロン、この世界を第二の[グレートキャッツビレッジ]にするためだニャ!!」
「「ええっ!?」」
まさかの世界征服だと!? いや、しかし。
「世界征服が目的としても、どうやってこの世界に来たんだ? 世界なんて、そう簡単に移動できるもんじゃないだろ?」
そう。イリヤの[小聖杯EX]だって、異世界転移どころかアクアを天界に帰すことも出来なかったんだ。
「知りたいかニャ? ……そう。それはあちしが、盗んだパソコンで走り出した時のこと」
なんか回想が始まった!? と言うか、パソコン盗むんじゃねえよ! いや、それ以前に、「走り出した」って意味不明だし!
「気がついたら、2032年の電子虚構世界ムーンセルの中にいたニャ」
2032年!? 電子虚構世界!?
「そこで出会った、クラスで二番目くらいにかわいい少女はくのん。パンツ履かないメガネっ娘ラニⅧ。そして何故かいた、ツインテの[あかいあくま]遠坂凛」
「リンさん!?」
遠坂凛? 確かイリヤの知り合いだったか?
「はくのんはNPCタイガーの無茶なお願いを聞きつつ、
「「聖杯戦争!?」」
つい最近聞いたばかりの、パワーワードじゃねえか!
「まあ、あちしにはカンケーにゃいんだけどニャ?」
「関係ないのかよっ!!」
紛らわしい話、してんじゃねえっ!
「タイガーのお願いで回収してきた、願いが叶う[虎の魔法瓶]、たいころ風に言うと[虎聖杯]を失敬して、あちしはこの世界へとやって来たのニャ」
そう言ってどこからともなく取り出したのは、デフォルメされた虎の顔がプリントされた、まごう事無き魔法瓶。だが、ナマモノの証言が本当なら、見てくれはどうあれ本物の聖杯に違いない。……ということは!
「アレを手に入れれば、願いが叶え放題!!」
「カズマさん!?」
『急に欲望に忠実になりましたねー、この男は』
「うるさいわい! よく考えてみろ? あの化け猫はアレを使ってこの世界へ来たんだ。逆に言えば、アレを使えば…」
俺の説明に、ハッとするイリヤ。
「元の…ううん、ミユの世界に行けるかも知れない?」
「そういうこった」
イリヤをその世界に送ったあとは、聖杯を使ってあんな事やこんな事を…。うん。実に悪くない展開だ。
「というわけで、虎聖杯戦争の始まりだあああ!」
「えっと、ネコアルクさん。恨みは無いけどその聖杯、戴きます!」
『いきますよ。
イリヤもやる気を出して、魔法少女に変身する。
「フッ、あちしと戦う気かニャ? わかったニャ、どこからでもかかってくるが…」
「
ぼふん!
「ぐはあぁっ!」
「「『弱っ!?』」」
俺が見てもわかるくらい力を抜いたイリヤの魔力弾を受けて、吹っ飛ぶネコアルク。ハッキリ言って予想外の弱さだ。
いや、今はともかく、虎聖杯を回収して…!?
「フフフ、油断したゼ、ロリブルマさんよぉ」
「ロリブルマって言わないでよっ!」
口許を拭いながら、むっくりと立ち上がるネコアルク。イリヤは盛大にツッコミを入れる。
「じゃあ略してロリマニャ」
「「ロリマじゃ
思わず俺も突っ込んだ。普段からカスマだクズマだゲスマだと言われてるせいで、なんか俺のこと言われてる気がしたんだが…。うん、言われないように気をつけなければ。
「へへっ、いいモノ貰っちまったからニャあ、お礼をしにゃきゃ気が済まねぇ。
喰らえ! 目から怪光線ニャー!!」
「どぅわあっ!?」
「うええええっ!?」
ネコアルクのヤツ、マジで目からビーム出しやがった! テメーはゲー○ーズの看板キャラかよっ!? ……ん?
「目がっ! 目がああああ!!」
目を押さえたネコアルクが、七転八倒のたうちまわってる。ひょっとして、自分で出した光線が眩しかったのか?
いや待て、これはチャンスじゃないか? 俺は右手を突き出して。
「『スティール』ッ!」
窃盗スキルを発動させた。右手にかかる重量感。その感触はフワッと…、フワ?
「まさかあちしを捕まえるとは、なかなかやるじゃにゃいですか、お兄さん?」
俺が掴んでいたのは、ネコアルクの頭だった。
「うわああああ!?」
思わず俺は、それを放り出す。
一体何が起こった? 窃盗スキルを使って、なんで本人ごと盗み出してんだ!?
「にゃはははは! 名残惜しいけど、そろそろ決着をつけるときが来た様だニャ!」
「いや、まだそれほど時間は経ってないんだが?」
イリヤもとなりで頷いている。
「まあ、文字数のカンケーもあるから、仕方ないのニャ」
『ああ、それはわかります』
「ルビー!?」
だからイリヤを、と言うか、俺達を困らせるようなこと言ってんじゃねえよ!
「と言うわけで、来たれ! 『猫二十七キャット』ッ!!」
右手を掲げ、声高らかに叫ぶ! ……が、何も起きる気配がない。
「コラ! さっさと来るニャ!」
ネコアルクが怒鳴ると、空間にぽっかりと穴があき、ひらりと一枚の紙切れが落ちてきた。気になった俺とイリヤは、紙切れを拾い上げたネコアルクに近づき、その紙を覗き込む。
『異世界までいくのめんどいからパス!ニャ』
紙切れには日本語で、そう書かれていた。流れる、気まずい空気。しかしネコアルクは突然バックステップで距離を取り、「フフフ…」と笑い出す。
「これはきっと、NECOゴッドがあちしに与えた試練! ならばその試練、見事に乗り越えて見せようニャ!」
猫ゴッドってなんだよ!? などと内心でツッコミを入れてると、ネコアルクに異変が! ネコアルクの足から物凄い勢いで、ジェット機の様に噴出する!
「喰らうニャ! NECOロケット・ボディ・アターック!
名前は適当ニャー! 」
ネコアルクが両腕を突き出し、こちらに向かって突っ込んでくる! 名前は適当かよっ!? って、やべえ! 反撃が間に合わ…、え!?
「物理保護・
イリヤが間に入り、星型の魔力の盾の中心点を前方に引き伸ばした錐形に展開する。ネコアルクは、その側面を滑るように軌道を変え。
ドギュワシャッ!!
「のぎょわあ!?」
路地へと突っ込んで行き、盛大な音と悲鳴が聞こえた。
俺達が中へ駆け込むと、すっかり伸びているネコアルクの姿があった。
「……へへっ……こんな所で会えるたぁ思わなかったゼ……、さっちんよぉ……」
なんかうわごとを言ってるが…、さっちんって誰だ?
なんて思ってると、コロコロと転がってくるものが。アレは!
「「虎聖杯!」」
俺とイリヤのセリフが被る。俺が慌てて手を伸ばすと、その前を影が横切り虎聖杯をかっ攫っていく。
「誰!?」
イリヤが声をかけ、俺は影が移動した先へと視線を向ける。そこには、ネコアルクとよく似た、スカートを履いてはいるが、おそらく雄のナマモノがいた。
「吾輩はネコアルク・カオス。そこにいるネコアルクの同胞であるな」
タバコを噴かしながらニヒルに言う。俺から見たらただのギャグだが。
「クソッ! 仲間がいたのかっ!」
俺が歯噛みをしていると、ネコアルク・カオス…めんどくさいからネコ・カオスが、ゆっくりとタバコの煙を吐き出して言った。
「案ずるな。吾輩に闘う意志などない」
「闘う意志が、ない?」
「うむ」
ネコ・カオスは頷き、話を続ける。
「吾輩は、そこで気持ち良さそうに眠っている哀れなNECOと、虎聖杯を回収しにきただけだからな」
気持ち良さそうに…って、コイツマジで眠ってやがる! なんか、スゲえムカつくんだけどっ!
「……まあ、ぶっちゃけ? 世界征服なんて出来るワケないし? やるだけムダってヤツ?」
急に砕けた口調に変わり、そんなことを言い出すネコ・カオス。どうやら、虎聖杯に願うという発想はないようだ。
「でもだとしたら、お前はどうやってここに来たんだ? もうひとつ聖杯があるわけでもないんだろ?」
「フッ。我が[グレートキャッツビレッジ]の技術を舐めないでもらいたい。我らが科学力を持ってすれば、次元の壁を越えることなど造作もないことだ」
えっ? 向こうの人間、こんなナマモノに科学力で負けてるの?
『さらっと、第二魔法の定義を無視するのがムカつきますねー』
ルビーが何に怒っているのかは、さっぱりわからん。
「ではこのNECOと虎聖杯は、責任を持って回収しよう。なに、案ずることはない。月の聖杯戦争の監督役とはメル友だからな。間違いなくムーンセルへ送り届けよう。
では、さらばだ」
そう言ってネコアルクを引きずり、ネコ・カオスは立ち去っていった。
「……結局、虎聖杯は手に入らなかったね」
「ああ。まあ、アイツが言ってたことが本当なら、悪事に使われないだけマシ、って思うしかねえな」
もちろんただの負け惜しみだ。
『でも、まあ、あの
うん、まあ、それもそうか。確かにあれは、世界観を崩壊させかねない危うさがあったからな。
翌日。冒険者ギルドにて。
「……サトウカズマさんにイリヤスフィールさん。昨日街中で、戦闘を行われたそうですね?」
「「あ」」
受け付けのお姉さんの、少しばかり怒気を含んだ声に、俺とイリヤは同時に固まる。
「住人から苦情の声が寄せられて、困っているのですが?」
「「済みませんでしたあっ!!」」
俺達は、瞬時にDOGEZAして謝ったのだった。
本日2021年10月13日はFate/Grand Carnival 2nd
seasonの発売日。というわけで、グラカニならぬカニファンネタでした。いや、AATMかも。
ちなみにネコアルクの声のイメージは、アルクェイドの先代声優・柚木さんでお願いします。