「確保ーーー!!」
[ウィズ魔道具店]の中、アクアさんがウィズさんを取り押さえる場面を、わたしは唖然としながら眺めていた。
事の発端は、ダンジョン探索から数日後。カズマさんが、わたしとアクアさんを連れてウィズさんのお店を訪れたことから。
お店に入るなり、アクアさんがウィズさんを襲おうとしたり、アクアさんが自ら女神である事をバラしたり。ウィズさんが怯えてた理由が女神である事より、アクシズ教の御神体だからってのが、ピントがずれてるっていうか。……ウィズさんが怖がるアクシズ教って、どんななんだろ?
そして知らされた、衝撃の事実! ウィズさんはなんと、魔王軍の幹部のひとりだったのです!
『まあ、有りがちっちゃ有りがちな設定ですけどねー?』
いや、まあ、実は敵方なんて設定は、マンガやゲームでもありふれてるけどね? というか、いい加減モノローグ読むのはやめて欲しいんだけど。
……話がそれちゃった。とにかくそんな訳で、アクアさんがウィズさんに飛びかかって取り押さえたってわけだ。
「あの、アクアさん。ウィズさんはアンデッドだけど、いい人だよ?」
「そうだぞ、理由くらい聞いてやれよ」
というわけで、わたし達はウィズさんに事情を聴くことにした。
それによるとウィズさんは、魔王城の結界を維持するだけのなんちゃって幹部だそうだ。幹部は、倒したベルディアを含めて全部で八人。アクアさんなら残り三人くらいになれば、結界を破ることも可能らしい。ならせめて、結界が破れるようになるまでは生かしておいて欲しいと。
『アンデッドなのに生かしておいてとは、これいかに』
「ルビー、変な茶々入れないでッ!」
「……ええっと、まあ、いいんじゃないか? どうせ今浄化したって、結界をどうにか出来るわけじゃないんだろ? 」
うん、その通りだ。それにわたしは、ウィズさんに消えて欲しくない。……せめて、この世界に思い残すことが無くなるまでは。
「でもいいのか? 幹部連中は一応、ウィズの知り合いなんだろ? ベルディアを倒した恨みとかはないのか?」
あ、確かに言われてみれば。だけどウィズさんは。
「ベルディアさんとは、特に仲が良かったとかはないですね。私が歩いていると、足元に自分の首を転がしてきて、スカートの中を覗こうとする人でした」
『いかにも騎士といった風格でしたが、堂々と犯罪行為をする様な人だったんですねー』
「ルビー、それブーメランだからね?」
さて。カズマさんがここに来た理由。それはウィズさんの持つ、リッチーのスキルを教えてもらうためだった。前にウィズさんから聞いた、リッチーだと知って、それでも見逃してくれた事へのお礼という事だ。
「えっと、それでは私のスキルをお見せしますから、好きなものを覚えていって下さい」
そう言って、だけど急にオロオロとし始めた。どうしたんだろ?
「私のスキルは、誰かいないと使えないものばかりなのですが…」
要するに、カズマさんにスキルを使ってみせるために、誰かにスキルを使わなくちゃならないって事みたい。
因みに使おうと思ってたのは、ドレインタッチっていう、魔力や体力を奪ったり与えたり出来るスキルらしい。はっきり言って、ゲームに出てくるエナジードレインより、よっぽど使い勝手がいいんじゃないかな?
「それならわたしに使って見せてよ。魔力なら結構自信あるから」
わたしがそう言うと、カズマさんがアクアさんを肘で小突き。
「お前、仮にも女神が、こんな幼い子の殊勝な申し出を見て、なんとも思わないのか?」
「仮にじゃなくて、私は本物の女神よ! ……ちょっと、何よ、その疑いの眼差しは!? わ、わかったわよ! 私がイリヤの代わりに吸われてあげるわよっ!」
うーん。別に構わなかったんだけど、代わってくれるんならお願いしちゃおう。
『イリヤさんってよく物怖じするくせに、変なところで肝が据わってますよねー?』
ルビー、それ誉めてる?
アクアさんが途中で色々とイヤガラセをしてたけど、カズマさんは無事にスキル「ドレインタッチ」を習得できた。……出来たんだけど。
「あの、アクア様。もう手を離していただいても大丈夫ですよ? というか、何だか手がピリピリするので、そろそろ離して欲しいのですが…」
アクアさんがまた何かしているらしい。
「ア、アクア様? あの、手が熱いんですが。……というか、痛いんですが! アクア様、消えちゃう! 私、消えちゃいます!」
…………。
「ルビー」
『はいは~い!』
「一撃卒倒ハリセンモード・濃口!!」
すっぱあああああん!!
ステッキ状態のルビーの先端にハリセンが生えて、わたしはそれでアクアさんを、思いっきり引っ叩いた! だけどさすが女神さま、リンさんやルヴィアさんの意識を刈り取ったこの一撃を受けても、気を失うことはなかった。
「いったあぁい! イリヤ、何すんのよ!」
「アクアさんこそ何してるんですか?」
にこっ。
「……だって相手はリッチーなのよ!?」
「…………呼び方、駄女神さまに格下げしますよ?」
にっこり。
「ごめんなさい!」
アクアさんは、それは見事なDOGEZAをして謝った。
『イリヤさん、少しえげつないですよ?』
「だから、イリヤを怒らせるなっちゅうに」
あれ、おかしいな。わたしはただ、思ったことを言っただけなのに。
そんな事を考えていると、ドアベルが鳴り響き。
「ごめんください。ウィズさんはいらっしゃいますか?」
30~40代くらいの男の人がやって来た。
その人は不動産屋さんで、ある空き物件に幽霊が大量に棲みついて困っているそうだ。祓ってもすぐに棲み着いて、売るどころじゃないらしい。
それで、高名な魔法使いだったウィズさんに頼みに来たって事みたい。特にアンデッドに関してはエキスパートだとか、そんな説明をしてくれる不動産屋さん。……って、そりゃリッチーだから当たり前なんだけどね。
だけど。
「……ウィズさんは今日は、調子が悪そうですね。いつも蒼白い顔をしてますが、今日は特にひどいですよ? なんて言うか、今にも消えてしまいそうな…」
というか、さっきのアクアさんのせいで、本当に透けてるんですが。不動産屋さんは目の錯覚と思ってるのかも知れないけど。
「大丈夫ですよ、任せてください。
……例の? 悪霊
そんな事を気にしてると、ウィズさんがスッと立ち上がり、そしてよろけてしまう。
「ああっ、ウィズさん! 具合が悪いなら結構です!」
そう言ってウィズさんを支えてあげる不動産屋さん。わたしは原因を作ったアクアさんに視線を移す。するとちょうど跋が悪そうに、ウィズさんから視線を逸らす所だった。
わたしとカズマさんは、アクアさんをジイッと見つめる。
「……わ、私がやります」
根負けしたアクアさんは、小さな声で言った。
「ほえええ~」
思わず、どっかの魔法少女の様な声をあげてしまうわたし。だけどそれも仕方がない。なぜなら、わたしの目の前には、立派なお屋敷が建っているのだから。
少しばかり古くて、ルヴィアさんのお屋敷より少し小さいけど、ルヴィアさんのお屋敷はセカンドハウス、ここは別荘だから、造りが違うのは当たり前、……ってルビーが言ってた。それにわたしから見れば、ここだって充分に広くて大きいと思う。
そんなお屋敷の前でアクアさんが。
「悪くないわ! この私が住むのに相応しいんじゃないかしら!」
ちょっと興奮しながらそんな事を言う。
そう。なんとわたし達は、悪霊を追い払った後、このお屋敷で暮らせることになったのだ。
不動産屋さんが言うには、悪霊を追い払っても噂が広まった今の状態じゃ、なかなか買い手がつかない。だから悪評が消えるまで、タダで住んでいいって言ってくれたのだ。……幽霊はちょっと怖いけど、アクアさんがいればなんとかなるよね?
『今更、何言ってんですかねー。イリヤさんなら魔力をわざと暴発させただけで、大概のゴーストは消滅するか逃げていきますよ』
「それ、カズマさん達も危険だから! てか屋敷ごと吹っ飛んじゃうよ! それと、モノローグ読むのやめてってば!」
アサシンのカード回収の時のことが、頭を過ってしまう。
「何だか物騒な話をしているな?」
「あ、ダクネスさん! いや、さすがにルビーが言ったようなことはしないからね? ……クロだったらやりかねないけど」
「ん?」
「あああ! 何でもないですッ!」
うう、あぶない。危うく身内の恥をさらすとこだった。
「……そうか? まあ、いいだろう。
それよりも、本当に除霊が出来るのか? この街では今、祓っても祓っても霊が集まって来るという話じゃないか」
……あう。そ、それも、アクアさんがなんとか、してくれる、よね?
「……それにこのお屋敷、長いこと人が住んでいない感じなのですが? もしかしたら、今回の幽霊騒動が起きる前から問題のある、訳あり物件なのでは?」
めぐみんさんまで! しかもそれ、ウィズさんの「例の屋敷」や「悪霊だけを」って言葉に符合しちゃうんですけどーーー!?
『いやー、なかなか面白おかしい表情で愉しませてくれますねー、イリヤさん?』
「人の顔をおかしいとか言わないでーーーッ!!」
「……ああ、いや、そこの二人(?)は置いといて、だ」
「置いとかないでぇッ!」
「俺達には対アンデッド用の秘密兵器、アクアがいる。たとえ問題物件だったとしても問題ないはずだ」
……!! カズマさんに改めて言われて、わたしの心は少しだけ落ち着きを取り戻す。取り戻してないのはルビーの分だ。アクアさんも「任せなさいな!」と、頼もしげに言ってくれる。そして。
「見える。見えるわ。このお屋敷には、貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た子供、隠し子が幽閉されてたようね。
やがて体の弱かった貴族の男は病死、母親のメイドも行方知れず。一人残された少女は、若くして父親と同じ病に伏して、両親の顔も知らず一人寂しく死んでいったのよ」
『ほうほう、それは痛ましいことですねー』
「名前はアンナ=フィランテ=エステロイド。好きな物はぬいぐるみや人形、そして冒険のお話。
でも安心して。この子は悪い霊ではないわ。あ、でも子供ながらに、ちょっぴり大人ぶったことが好きみたいね。甘いお酒を飲んでたみたいよ」
『それはまあ、随分とおしゃまさんですねー』
…………。
「なあ。何でそんな余計な設定やら名前まで分かるんだって、ツッコみたいんだが。ルビーが話を合わせてるせいで、余計に胡散臭く感じるし。
……これ、本当に大丈夫なのか? 俺、安請け合いしちまったんじゃないだろうな?」
「「「………」」」
カズマさんのこの質問に、答えられる人はいませんでした。
続きを待ってくれている人がいて、自分もいい加減書かなきゃなー、と思っていたところだったので、時間がかかりましたが書きあげました。