このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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この冒険者たちに死を!

≪イリヤside≫

アナウンスを聞いたわたしたちが慌てて正門の前まで駆けつけると、その先には首の無い馬に跨がった、左手で自分の頭を抱えた首の無い騎士、いわゆるデュラハンがそこにいた。

デュラハンの後ろには多くの騎士、……うん、直視はしたくない。直視したらきっと吐く。今だって、わざと焦点合わせてないくらいだし。

その騎士たちは、多分アンデッドだ。デュラハンなら、そういうの引き連れててもおかしくないし。

 

「お、やっぱりな。またあいつか」

 

……ん? また?

そしてこっちを、というかカズマさんたちを見つけたデュラハンが、叫ぶように言った。

 

「何故城に来ないのだ、この人でなしどもがぁぁぁぁ!」

 

デュラハンは、それはもうお怒りでした。

 

「えっと、何故城に来ないって、何で行かなきゃなんないんだ? もう爆裂魔法を撃ち込んでもないのに、何そんなに怒ってるんだよ」

「爆裂魔法を撃ち込んでないだと!? 何を抜かす、白々しいっ! そこの頭のおかしい紅魔の娘が、毎日欠かさず通っておるわ!」

 

爆裂魔法? 紅魔の娘って、めぐみんさんの事だよね?

 

「お前、行ったのか? もう行くなって言ったのに、また行ったのか!」

 

カズマさんがめぐみんさんのほっぺたを引っ張る。あー、昨日クリスさんに引っ張られたの思い出すなぁ。

 

「ひたたたた。違うのです、聞いてくださいカズマ!

今までなら、何もない荒野に魔法を放つだけで我慢できていたのですが、城への魔法攻撃の魅力を覚えて以来、大きくて硬いモノじゃないと我慢できない身体に…」

「よぉし、ちょっと黙ろうか!

子供がすぐ傍にいるのに、モジモジしながら何口走ってやがるっ!」

 

え? わたしがいるのにって…。

 

『大きくて硬いモノだなんて、めぐみんさんってば、イヤラシーですねー』

 

大きくて? 硬、い……!!!!

 

『おや、イリヤさん。顔を真っ赤にして、どうしたんですかー?』

 

ううううるさい! 判ってて聞かないでよっ!

 

「いやまてよ。お前、魔法撃ったら動けなくなるよな? って事は、一緒に行った共犯がいるはずだ! 一体誰と…、ってお前かあぁぁぁ!!」

 

スッと視線を逸らすアクアさまを見て、カズマさんが怒鳴りつける。

 

「だってだって、あのデュラハンのせいでろくなクエストが請けられない、その腹いせがしたかったんだもの!」

 

デュラハンのせいでクエストが請けられない?

あれ? そういえばクリスさんが、魔王軍幹部のせいで初心者向けのクエストが無いって…。

 

『どうやらあのデュラハンが、クリスさんの言っていた魔王軍の幹部みたいですね』

「ええっ!? 転生二日目で中ボスなんて、ゲームバランスおかしすぎない!?」

 

もちろん、世の中ゲームのような流れで物事が進んでいくとは思ってないけど、これは、あんまりと言えばあんまりだ。

そんなわたしの困惑を余所に、デュラハンが話を続けた。

 

「俺が頭にきているのは爆裂魔法の件だけではない!

貴様らには仲間を助けようという気はないのか!?」

 

仲間を助ける? それってどういうこと? なんか呪いがどうとか言ってるけど、このデュラハンとカズマさんたちとの間で、何かあったのかな?

と、そこへ、鎧をガチャガチャさせてようやく追いついたダクネスさんがやって来た。

 

「や、やあ…」

「……あ、あれえーーーーっ!?」

 

あれ? この反応って、ダクネスさんがデュラハンに呪いをかけられてたって事?

 

「ダクネスに呪いを掛けて一週間経ったのに、ピンピンしてるから驚いてるの? このデュラハン、私たちが呪いを解くために城に来るはずだと思って、ずっと待ち続けてたの? 私があっさり呪い解いちゃったのも知らずに?

プークスクス! ちょーうけるんですけど!」

 

あー、そーいう…。うん、女神さまなら、デュラハンの強力な呪いでも解けるだろうなぁ。

でも、煽るのはやめて? デュラハンから怒りのオーラが出てるのが、駆け出し冒険者のわたしでも判るくらいなんですけど。

 

「……おい、貴様。俺がその気になれば、この街の冒険者をひとり残らず斬り捨て、住人どもを皆殺しにすることだって出来るのだぞ。いつまでも見逃してもらえると思うなよ」

「見逃してあげる理由がないのはこっちの方よ!

アンデッドのくせにこんな注目を集めて生意気よ!」

 

ジャイ●ニズム!? なんかアクアさまが、言いがかりで難癖つけてるチンピラみたいなんですけどッ!!

 

「『ターンアンデッド』!」

 

アクアさまが放った魔術…、魔法? が、デュラハンに直撃する。

 

「魔王の幹部が、プリースト対策も無しに戦場に立つと思っているのか?

俺を筆頭に、このアンデッドナイト軍団は魔王様の加護により、神聖魔法に対して強い抵抗をぎゃあああああああっ!!」

 

あ、効いた。

 

「ねえカズマ! 変よ、効いてないわ!」

 

いえ、何とか持ちこたえてるみたいだけど、効いてると思います。

 

「……話は最後まで聞くものだ。

俺はベルディア。魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディアだ!

魔王様の特別な加護を受けたこの鎧と俺の力により、そこら辺のプリーストのターンアンデッドなど効かぬ! 効かぬのだが…。

なあお前。本当に駆け出しか?」

 

なんでだろう。デュラハン…、ベルディアの威厳が空回りして、まるでコントみたいなんだけど…?

 

「……まあいい。本来は、この街周辺に強い光が落ちてきたと占い師が騒ぐから調査に来たのだが、面倒だ。この街ごと無くしてしまえばいいか」

 

ちょっと、ジャイ●ニズムにジャイ●ニズムをぶつけるのはやめてーーーッ!?

 

「さあ、お前たち。俺をコケにしたこの連中に、地獄を見せてやるがいい!」

 

ベルディアが、振り上げた手を下ろ…。

 

「あっ、あいつ、アクアの魔法が意外に効いてビビったんだぜ、きっと!」

「ちち、違うわっ! 魔王軍の幹部がそんなわけがなかろう!

いきなりボスが戦ってどうする!? まず雑魚を片づけてからボスの前に立つ。コレが昔からの伝統と…」

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!!」

「ひあああああああああっ!!」

 

ベルディアの足下に浮かんだ魔法陣から光が立ち上がり、その光を受けたベルディアが、ゴロゴロと地面を転がり回ってる。

 

「どうしようカズマ、やっぱりおかしいわ!

あいつ、私の魔法がちっとも効かないの!!」

 

いえいえ、さっきよりも断然効いてますよ!?

 

「この…っ、セリフはちゃんと言わせるものだ!

……ええい、もういい! おい、お前ら」

 

立ち上がったベルディアは右手を掲げて。

 

「街の連中を、皆殺しにせよ!」

 

命令と共に、その手を振り下ろした!

 

 

 

 

 

ベルディアの命令で、アンデッドナイトたちが冒険者たちに襲いかかっていく。……って、いけない! アンデッドナイトが街の方に!

そう思った瞬間、ベルディアの更に向こうから向かって駆けてくる影が。……あれは!

その人物はベルディアに斬りかかったけど、気がついたベルディアは素早く身を躱した。

それを気にせず通り過ぎ、街の入り口へと駆けて行き。

 

ザシュッ!

ズバッ!

 

まさに街へ入り込もうとするアンデッドナイトを斬り倒したのは。

 

「すまない。クエストからの帰りに知って、僕だけ先行して来たんだけど、どうやら間に合ったみたいだね」

「キョウヤさん!」

 

そう、キョウヤさんがグラムを手に立っていた。

 

「クエストの帰りって、どうやってこの危機を知ったのですか?」

 

めぐみんさんが尋ねると、アンデッドナイトを倒しながらキョウヤさんが答える。

 

「僕たちの所に盗賊の女の子がやって来て、知らせてくれたんだ」

「おそらくクリスだな」

 

ダクネスさんの意見には同意できる。でもクリスさん、天界の仕事が忙しいはずなのに、わざわざキョウヤさんに知らせに行ってくれたんだね。

 

『イリヤさん』

「うん。わたしたちも!」

 

わたしはステッキになったルビーの柄を掴む。

 

多元転身(プリズムトランス)!』

 

演出無しの転身をしたわたしは、すぐにカードを取り出して。

 

「クラスカード『キャスター』、夢幻召喚(インストール)!」

 

その瞬間、わたしの頭の中に『キャスター』の記憶の一部が流れ込んでくる。

そうか。この英霊は、コルキスの裏切りの魔女メディア。けれどそれは、女神の呪いによって人生の歯車を狂わされた、悲しい物語だった。

わたしはその記憶を受け止めつつも、今やることに意識を集中する。

 

「『紫光弾(ユピテル・ロッド)』!」

 

五つの魔力弾を連射した。この一発分でも、今のわたしの砲撃(フォイア)より威力が高い。うう、落ち込むなぁ。

因みに宝具は使わない。神官魔術式・灰の花嫁(ヘカテック・グライアー)っていうビーム技らしいんだけど、そんなの使ったら、冒険者の皆さんにまで迷惑がかかっちゃうから。

それにしても、アンデッドナイトの数が多い。街への侵入は何とか防いでいるけど。

と、そこへ。

 

「わあああん、カズマさーん! カズマさーん!」

 

アクアさまがアンデッドナイトの大群を引き連れて、こちらにやって来た!

 

「このバカ、こっち来んな! 向こうへ行ったら今日の晩飯奢ってやるから!」

「私が奢るから何とかしてえ! このアンデッドたちおかしいの! ターンアンデッドでも消し去れないの!」

 

わあ、酷いなすりつけ合いだぁ。……と思ったら、めぐみんさんに何か言ったかと思うと、カズマさんはアクアさまに追いかけられる形で走り出した。

 

『……イリヤさん、何だかアクアさんが引き連れているアンデッドの数、増えてませんかー?』

「うん。……って言うか、周りのアンデッドたちも引き寄せてる?」

 

そして、すべてのアンデッドたちを引きつけてカズマさんが叫んだ。

 

「めぐみん、やれーっ!」

「何という絶好のシチュエーション! 感謝しますよカズマ!」

 

そう言ってめぐみんさんは杖を構え。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者! 魔王の幹部、ベルディアよ! 我が力、見るがいい!

『エクスプロージョン』ッ!!!」

 

その、あまりにも強力な術が、アンデッドナイトたちを一瞬で吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

正門の前には巨大なクレーターが出来てる。アンデッドナイトたちは、……すべて吹き飛んだみたいだ。そして。

 

「我が爆裂魔法の威力に、誰一人として声も出せないようですね…。ふああ…、口上といい、凄く…、気持ちよかったです」

 

めぐみんさんは、悦に入った表情で言った。地面に倒れた状態で。

……って、大丈夫なの!?

 

「おんぶはいるか?」

「あ、お願いします」

 

ふたりの会話からすると、どうやらいつものことらしい。そういえばさっき、一発撃ってガス欠とか言ってたっけ。

めぐみんさんの活躍に、他の冒険者さんたちも大騒ぎしてる。

でも待って。倒したのはアンデッドナイトたちだけだよ? まだ安心できる状況じゃないんだよ?

この状況で緊張を解いてないのは、わたしの他にはキョウヤさんとダクネスさんくらいだ。

そして。

 

「クハハハ! 面白い! この駆け出しの街で、本当に配下を全滅させられるとは思わなかったぞ!

……では約束どおり、俺自ら貴様らの相手をしてやろう!」

 

ベルディアが大きな剣を構えて、こっちへやって来る!

だけど街の冒険者さんたちが、その前に立ち塞がった。

ベルディアは報償金のことを口に出して、それを聞いた冒険者さんたちが色めき立つ。

そして、冒険者さんのひとりが言った。

 

「どんなに強くても、後ろに目は付いちゃいねえ! 囲んで同時に襲いかかるぞ!」

 

それダメ!? 死亡フラグ!!

カズマさんも、キョウヤさんまで、表情がそう語ってる。

 

「相手は魔王軍の幹部だぞ! そんな手で簡単に倒せるわけねーだろ!!」

「みんな、冷静になるんだ!」

 

カズマさんとキョウヤさんが静止の声をかける。キョウヤさんの場合はブーメランな気もするけど。

 

「ミツルギにばかり任せてられるか! 俺たちだって、この街の冒険者なんだ!

おい、お前ら! 一度にかかれば死角が出来る! 四方からやっちまえ!」

 

その叫びと共に襲いかかろうとする、冒険者さんたち。その時ベルディアは、自分の首を上空へ放り投げた。

その瞬間、イヤな予感が奔る。

 

「行っちゃダメ…!?」

 

そう言って駆け出そうとしたわたしの手を、キョウヤさんが掴み。

 

「ムリだっ、もう間に合わないっ!」

 

キョウヤさんはわたしを引き寄せて、自分を壁にベルディアが見えないようにして、わたしを抱きしめる。

次の瞬間。重いモノが倒れる複数の音。

わかって、しまった。それは人の命が奪われた、絶望の音なんだ、って。




大変お待たせしました。
途中で内容がダレてしまい、しばらく放置してました。
結局途中から展開を少し変えて仕上げましたが、話の流れは変わってません。

紫光弾(ユピテル・ロッド)は、格闘ゲーム【Fate/Unlimited Codes】のキャスター(メディア)の技のひとつです。

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