このカレイドの魔法少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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この魔法少女と共闘を!

≪カズマside≫

「すまねぇ、ミツルギ」

 

ミツルギの近くに駆け寄った俺は言った。お陰で、イリヤにあんな凄惨なシーンを見せずにすんだ。

本当なら俺がやるべきだったんだろうが、めぐみんを背負った状態では、そこまで素早く駆け寄ることは出来なかったのだ。

 

「いいや、構わないよ。考えてることは同じさ」

 

そう、だよな。イリヤは確かに強いけど、地球から転生してきたばかりの小学生。まだ、子供なんだ。

 

「ほう…」

 

ベルディアが感嘆の声を漏らす。

 

「幼い少女を庇うか。それに先程の冒険者のセリフ…。貴様が魔剣の勇者ミツルギか」

 

さすがチート持ち、魔王軍にも名前が知れ渡ってやがる。

 

「どうだ。この俺と勝負をしないか?

魔王軍の幹部とはいえ、元は騎士。強敵相手に、一対一で剣を交えてみたいというものだ」

 

兜に隠された口元には、笑みが浮かんでいるんだろう。高揚感を感じさせる声でベルディアは言った。

 

「なになに? 私たちにビビってアンデッドナイトをけしかけたデュラハンが、何ほざいてるのかしら? ヘタレが粋がって、ちょーうけるんですけど! プークスクス」

「ええい、うるさいわっ!」

「アクアお前、ちょっとは空気読めねーのか!?」

 

ホント、空気ぶち壊してんじゃねぇよ!

そんな状況を正すべく、ミツルギは軽く咳払いをする。

 

「……昨日までの僕なら、その申し出を受けていただろうね。でも、今の僕には受けることは出来ない。

……だって僕は、昨日負けたばかりだからね」

 

俺は、少しだけミツルギのことを見直した。ちゃんとイリヤに負けたことを受け入れていたんだから。

するとミツルギはこちらへ視線を移し。

 

「サトウ君とイリヤちゃんには、僕に足りないものを色々と教わったよ」

 

え? 俺も頭数に入ってんの? いや、確かに俺も勝ったけど、まさか評価されてるとは思わなかった。

 

「……え? あれ、ホントにあのイタい人? なんだか正統派主人公みたいなんですけど?」

 

アクアのセリフに、若干顔を引きつらせるミツルギ。うん、まあ、がんばれー。少しは評価、上がってるみたいだぞー。

 

ふう…

 

ベルディアがため息を洩らす。

 

「自分の弱さを認め辞退するのは、なかなかの潔さではあるが…。しかしせっかく盛り上がった俺の思い、誰が晴らしてくれるのだ?」

 

いや、アンタが勝手に盛り上がってただけだろ!?

そう突っ込みそうになる俺の前に躍り出る人影。

 

「なら、相手はこの私がしよう!」

「ダクネス!?」

 

何言ってんだ、アイツ! 剣が当たらないのに、戦いにならねえっての!

その時、ミツルギの腕の中にいるイリヤが、もぞもぞと動く。

 

「イリヤちゃん?」

「……キョウヤさん。もう、大丈夫だから」

「いや、でも…」

「……おねがい」

 

そう言われたミツルギは、躊躇いながらもイリヤを解放する。

イリヤは、ベルディアの周りに倒れている数人の冒険者を見て、体を小刻みに震わせているが、目を逸らしたりはしない。そして視線を、攻撃が当たらないダクネスに落胆しながら相手をするベルディアへ移す。その時にはすでに、イリヤの震えは治まっていた。

その様子を見た俺は、ようやくクリスの言っていた意味を理解した。

イリヤは、目の前の現実を全て背負(しょ)い込もうとしているように見える。だけどそんなことをしてたら、クリスが言うとおりその重圧に押し潰されるか、歪んだ成長をしてしまう。そんな危険性を感じさせるのだ。

だから俺はイリヤに近づくと、ポンとイリヤの頭に手を置いた。

 

「ふぇっ、カ、カズマさん!?」

「イリヤ。自分ひとりで背負(しょ)い込もうとしなくていいんだ。これは、俺たち全員が背負(せお)うべき結果なんだからさ」

 

自分でもちょっとばかし、キザったらしいセリフだとは思う。だがイリヤの肩から、無駄な力が抜けたのがわかった。どうやらこれで正解だったようだ。

 

「カズマさん、ありがと。

……でもわたし、戦うから!」

「ああ、それを止める気はねーよ」

 

本当なら止めたいとこだ。だけど、俺にはわからないが、戦おうとする理由はおそらくイリヤが転生してきた理由と深く関わってるんだろう。そういう決意じみたものを確かに感じる。

箱に入れて守るのは違う、か。確かにクリスが言ったとおりだ。そんなことしたら、イリヤの決意すら踏みにじってるようなもんだからな。

 

 

 

 

≪イリヤside≫

カズマさんのお陰で、心の中に重くのし掛かっていたものが、スッと軽くなっていくのがわかった。もちろん、綺麗さっぱり無くなったわけじゃないけど、さっきまでとは雲泥の差だ。

 

『イリヤさん、行けますか?』

「もちろん」

 

答えて私は、カードホルダーから一枚のカードを取り出し。

 

「クラスカード『アーチャー』、上書き夢幻召喚(オーバーライトインストール)!」

 

夢幻召喚の上書きをする。

……?

この時、僅かな違和感を感じた。……そうだ。[キャスター]のカードの時と違って、記憶が流れてこないんだ。ただ一瞬、荒れ果てた丘に突き刺さる無数の剣と、赤焼けの空に浮かぶ巨大な歯車が、ゆっくりと回転している。そんな風景が脳裏に浮かんだだけ。

……ううん、そんなことは後回しだ。今はダクネスさんに加勢しないと! ちなみにルビーは、わたしが羽織ってる赤い外套になってる。

 

投影開始(トレースオン)!」

 

わたしはクロがしていたのと同じように、黒と白の中華剣、干将・莫耶を投影する。

 

「フッ!」

 

気合いと共に干将で斬りかかると、ベルディアは大きな剣でそれを受け止めた。わたしは生まれた隙へ莫耶で斬りつけたけど、ベルディアも干将を受け止めてる剣で強引に押し返す。

そこへダクネスさんが上段から剣を振り下ろすけど、どうせ当たらないと思ったのかベルディアは避けようともしない。だけど。

 

「ハアァッ!」

 

剣を振り下ろしたダクネスさんの後ろから、ジャンプして斬りかかってくるキョウヤさん。不意を突かれたものの、慌てて身を躱すベルディア。

 

「ええい、ちょこまかと鬱陶しい! 貴様ら、一週間後に死ね! 死の宣告!!」

 

えっ? ベルディアのかけ声と共に、わたし達三人に黒い何かが襲いかかった。

 

『イリヤさん、これは死の呪いです! おそらくは宣言の通り、一週間後に死を与えるものと思われます!』

 

呪い!? ……なら!

 

投影開始(トレースオン)破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)!」

 

投影した歪な剣を、自分に突き立てながら真名開放すると、わたしの体から黒い何かが霧散した。

 

「なに!?」

 

驚愕するベルディアを後目に、わたしは続けて、ダクネスさんとキョウヤさんにも剣を突き立てながら真名開放して、死の呪いを解除する。

それにしても、どうしてこの英霊の投影品の中に、キャスターの[破壊すべき全ての符]があったんだろ?

 

 

 

 

 

あっさりと呪いを解かれたベルディアはだけど、すぐに気を取り直して、再びわたし達に襲いかかろうとする。そこへ。

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

カズマさんが水の魔法を放つ! ベルディアは大きく一歩後退して水を躱し。

 

「……からの『フリーズ』!」

 

さらにカズマさんは、氷結魔法でベルディアの足下を凍らせる。そうか、ベルディアの足止め!

 

「食らいやがれ! 『スティール』!」

 

そして放たれた窃盗のスキル。だけど。

 

「悪くはない手だったな。それなりに自信はあったのだろうが、俺は仮にも魔王軍の幹部。レベル差というヤツだ」

 

そう。ベルディアからは何も奪うことが出来なかった。

ベルディアはゆっくりとカズマさんを指差す。慌ててわたしは、[破壊すべき全ての符]を投影しようとして。

 

『全く、何を格好つけてるんでしょうかねー、このデュラハンは。自分の弱点さらけ出しといて、よくもまあ…』

「なっ!?」

 

ルビーの発言に動揺するベルディア。……って、弱点!?

 

「おいルビー、弱点なんてあるのか!?」

『いやですねー、あからさまだったじゃないですか。

このデュラハン(ひと)、水の魔術を大袈裟に避けてましたよね? デュラハンはアンデッド。そしてアンデッドと言えば…』

 

……あ。

 

「ヴァンパイア! ヴァンパイアの弱点は、……流れる水だぁっ!!」

「『クリエイト・ウォーター』!」

「『クリエイト・ウォーター』!」

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

カズマさんが叫ぶのと同時に、待機していたウィザードの人達が水の魔法を放ちだした。

 

『……まあ、あくまで創作(ものがたり)では、ですけどねー』

「ん? 何か言った?」

『いいえ、こちらの話です』

「?」

 

まあ、いいや。ダクネスさんとキョウヤさんも、ベルディアに逃げられないように立ち回ってるんだ。わたしだって。

投影した弓に、同じく投影した剣を矢に変換して番える。

 

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

放った矢は、狙い違わずベルディアに向かう。

 

「小賢しいわっ!」

 

飛び交う水を躱し、キョウヤさんの攻撃を躱し、その上でわたしが放った矢を剣で弾く。さすが中ボス、一筋縄じゃいかない。……でも。

 

「なにっ!?」

 

再び襲いかかる矢を、慌てて躱すベルディア。しかし矢は軌道を変えてまたもやベルディアを襲う。

わたしが放ったのは、命中するまで相手を追いかけ続ける、自動追尾の矢。簡単には逃がさないんだから!

 

 

 

 

 

……なんて気負った時期もありました。

ちょっと、どうしてどの攻撃も当たらないの!? さっきから器用に避けまくってるんだけど!

わたしとキョウヤさんも攻撃してるし、ダクネスさんは剣での攻撃を捨てて体当たりをしてるのに、剣撃は避けられ、あるいはいなされて、体当たりにはビクともしない。その上で水の魔法や[赤原猟犬]も避けきってる。

……体当たりしてるダクネスさんが嬉々とした表情をしてる気がするけど、うん、きっと気のせいだ。

 

『さすが、腐っても魔王軍の幹部ですね。アンデッドだけに』

「上手いこと言ってる場合じゃないよぉ!」

 

と言うか、この状況でおふざけは要らない!

……不意に。いやな予感が奔る。

ベルディア…、じゃない。振り返ったわたし達が目にしたのは、呪文を唱えるアクアさまの姿。

 

『詠唱からすると、水に関する魔術のようですが…』

 

冗談じゃない! [メイガス]になったお陰か、ある程度の魔力の流れは認識できるようになったけど、今、アクアさまが使おうとしている魔法の魔力量がトンデモナイことまでわかってしまった。

ここは逃げたいとこだけど、同じくいやな予感を感じたんだろうベルディアも逃げようとしていた。でも、そんなことはさせない!

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

「ぐおぉ!?」

 

ベルディアに向かう矢を爆発させて足止めをする。うっかりダクネスさんも巻き込んじゃったけど、なんだか喜んでるみたいだし、いいよね?

そして次の瞬間。

 

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 

アクアさまの魔法が発動した!




ルビーの創作云々のセリフは、型月世界の死徒(吸血鬼)にはそういう設定が見受けられないことを言ってます。某真祖様は某ファンタズムで、平気で海に潜ってましたからね。

追記
型月世界にも流水に弱いという設定があるとのご指摘を受けました。なのでルビーのセリフの意味を「あちらの世界では例外もいる」という含みで言ったことにします。

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