同じく感想欄を見た神「まだその時では無い」
シンオウ地方ポケモンリーグスズラン大会準決勝、サトシとタクトのバトルは苛烈を極めていた。お互いに繰り出すは伝説、幻のポケモン達。白熱したバトルもついに5体目を迎え、海の神ルギアと宇宙からの来訪者デオキシスとの一瞬の瞬きも許されない空中戦が繰り広げられていた。
様々な姿へとフォルムチェンジを行い、ルギアを翻弄するデオキシスはスピードフォルムでの分身を維持したたまま、アタックフォルムへと移行し、胸のコアから発したエネルギーを触手のような細くしなやかにうねらせた腕で大きく広げる。
「これで終わりだ!」
デオキシス最高の技、サイコブーストがルギアへと襲いかかろうとする。しかし、サトシとルギアの目はまだ死んでいない。諦めない心による逆転に次ぐ逆転。それがサトシの真骨頂で、多くのジムリーダーやライバル達をうならせるほどのバトルを繰り返してきたサトシは未だに勝機を見逃さず、デオキシスを注意深く観察する。
「デオキシス、サイコブースト!」
エネルギーをMAXにチャージしたデオキシスの分身体、その数10体がルギアへとサイコブーストを放つ。そして、その一瞬でサトシはとあることに気づいた。
「ッ!ルギア!右に避けるんだ!」
サトシの指示に従って、ルギアはすぐさま右方向へと大きくつばさを広げて飛翔する。放たれた10個のサイコブーストのうち、9個がルギアへと直撃するもそれはまるで実体を持たないかのようにすり抜けていく。それにタクトとデオキシス、さらには観客やルギアですら目を見開く。そして、当たらなかったひとつ、実体を持っていたサイコブーストはスズラン島沖の海中へと大きな水しぶきを起こしながら落ちていく。
「な、なんだと…」
狼狽えたタクトは自信満々に微笑むサトシを睨んだ。
「なぜだ、なぜ実体が!?」
「サイコブーストを放つ一瞬、1体だけ先行して撃ってるやつがいた。それが実体だと思って賭けに出たんだ」
ニヤリと笑うサトシだが、帽子に隠れた額には汗が滲んでいる。自分の見間違いかもしれない。本当にアレが実体なのかは定かではなかった。しかし、あのまま何もしなければこうはならなかった。自分の方に流れ再びやってきたことを感じたサトシはルギアへと檄を飛ばす。
「よし、ルギア反撃開始だ!!」
吠えるルギアにデオキシスは分身を維持したままでんじほうの構えをとる。
「なるほど、確かに」
ルギアのそのつぶやきにデオキシスはわずかに反応を示す。宇宙から来たデオキシスは地球の言語に精通していない。タクトと共に過ごして言っていることは理解出来ても自らの言葉を返すことは出来ない。だから、表情だけでルギアに「どういうことだ」と尋ねた。すると、ルギアは今の主のように大胆不敵に口角を上げる。
「なに」
刹那。ルギアは言葉を継ぐよりも先にデオキシスへと迫る。アタックフォルムのデオキシスはルギアの突進に反応出来ず突進をまともに喰らい、うしろへととばされるも直ぐに体勢を整える。
「先行して動くのが実体、というのは間違いないようだと思っただけだ」
吹き飛ばされたデオキシスは自分の分身が消えていることに気づく。今度は精度の高く、先行して動く個体など存在しないほどの完璧な分身を作ろうとスピードフォルムへと変わろうという時、下にいるサトシからルギアへと命令が下される。
「今だ、ルギア!ハイドロポンプ!!」
ルギアの口から大量の水がすごい勢いで放たられ、その水流の速度、威力はデオキシスがフォルムチェンジするより早く迫り、またもデオキシスへと直撃し、後ろへと下がらされる。
「これがお前のもうひとつの弱点。フォルムチェンジ前は隙だらけになるということだ」
ただ無駄にダメージを受けていたわけではないと海の神は威圧するようにデオキシスへと言葉を投げかける。それにデオキシスは生まれて2度目の怒りを顕にした。一度目はタクトにゲットされた時。その時は自分よりもつよかったダークライに鎮められたが、今は違う。タクトの元でトレーニングを行い、ダークライにも勝てるほどの力を得たデオキシスは身体の中で煮えたぎる怒りを燃やし、スピードフォルムへと変身するとすぐさま分身を作る。
「デオキシス、サイコブーストだ!!」
先程よりも遥かに強大で、コアから発生させたエネルギー全てを注ぎ込んだサイコブーストをほんの数秒で完成させたデオキシスにルギアは主の指示でエアロブラストの構えをとる。
デオキシスの思惑通り、今回作られた分身に落ち度はない。寸分違わない精密さ、スピード、波長を合わせた動きにサトシは瞑目する。目で見てわからないなら、音で感じろ。耳で聴き取れないなら、心で感じろ。
目を見開いたサトシは大きく叫んだ。
「後ろだ!!」
その声が届いた時、ルギアは後ろを振り向きながら距離をとり、エアロブラストを放つ。デオキシスもまた、サイコブーストを発射し、巨大な爆発がシンオウ地方の大空で炸裂した。
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雲ひとつない空は2体のポケモンの放った必殺の一撃のぶつかり合いで起こった爆発により黒い煙に覆われた。そして、その原因である2体は互いに傷を負いゆっくりと地面へと降り立つ。海の神と呼ばれるルギアも連戦に加え、フォルムチェンジを持うトリッキーなデオキシスとの戦闘で大きく疲弊していた。それでも、その身を地に預けず、自らの脚で立っている姿はまさに勇猛であり海の神に相応しいであろう。一方、エアロブラストを咄嗟にディフェンスフォルムで受け止めたはいいデオキシスも、胸のコアという急所に当たったが故に想像以上のダメージを負っていた。
そして、先に地面に倒れ伏したのはデオキシスであった。
『す、すごい!ル、ルギア!空前絶後の空中戦を制してタクト選手の5体目も撃破!これが海の神の力なのかー!?』
熱狂する実況にところ忙しと湧き上がる観客たちはルギアの勇姿に感動すら覚える。タクトはデオキシスをモンスターボールに戻すと歯を強くかみしめ、拳を握った。
まさか自分が先に追い込まれるとは思ってもみなかったと、6体目のポケモンが入ったモンスターボールを掴む。
「すごい。すごいですよ、サトシくん。見事なバトルです」
「……」
タクトからの賞賛にサトシは何も答えない。
「けれど、勝つのはこの僕です。まさかこの子をトレーナーとのバトルで使うとは思いませんでした……後悔はしないでくださいね」
タクトは腕を大きく振りかぶると、モンスターボールを投げる。モンスターボールが開いて中からポケモンが飛び出した瞬間、会場に身の毛がよだつような寒気が走る。気温が一気に下がり、氷点下まで下がったのではないかと思うほどの気温下降に会場の誰もが身を縮こまらせ自らの腕を摩った。
「ヒュラララ!!」
現れたポケモンが咆哮を上げると、会場に霜が降り始める。凍てついた氷で覆われた左右非対称で歪な身体をしたそのポケモンは再び大きく吠える。
「なんなんだあのポケモンは……」
タクトの6体目はこれまで様々な地方で旅をしてきたサトシが見たことの無いポケモンであり、考古学者であるシロナやポケモン博士の権威であるオーキドですらそのポケモンの詳細は分からなかった。
空気とともに静寂に包まれた会場に君臨した謎のポケモン。一体このポケモンは何なのか。果たしてサトシはこのポケモンに勝つことが出来るのか。
……To be continued
もはや語ることはあるまい。あと2話で終わります。