マイカル沖1050㎞地点の上空では、イシュタム艦隊本隊のペガスス級空母シェアトから飛び立った、第1次攻撃隊が編隊を組んでマイカルへと向かっていた。
「各機、間もなくムーの領海だ!!久しぶりの狩りを楽しもうじゃないか!」
攻撃隊指揮官のアベールの言葉に、皆の目つきが変わり、性格が豹変する。
『狩りじゃ!』
『久々の狩りじゃ!』
『うちの隊長はたまに過激だぜ……』
人格的に問題のある問題児集団の集まりであるイシュタム艦隊所属の航空隊も、その名に恥じない程の問題児ばかりである。既にこの無線交信の内容から彼らがそう言う人間である事は素人でも分かる。
攻撃隊は今回の目標であるマイカルへ向けて前進を続けるが、隊の先頭に居た指揮官機に搭乗する、アベールは遥か前方に一瞬だけだが小さな光点を見つける。
「なんだ? 各機、前方から敵機が………」
前方からやってきた光点は一瞬でアベールの機体の鼻先にまで接近すると、突然爆発し、機体ごと彼の身を引き裂いた。
『何が起きたっ!』
『隊長がっ!!』
アベールに続いて、他のアンタレスやシリウスに謎の攻撃が殺到し、何も出来ないまま攻撃隊は僅かな時間のうちに全滅した。
マイカル港 『日本武尊』
「長官、迎撃隊が敵攻撃隊を全滅させたとの報告が入りました。」
「なら次の段階と行こうか。敵艦隊の無線周波数はどうだ?」
「はい。既に飛鴎が解析済みです」
「よし。繋いでくれ。」
「了解。」
日本武尊の無線が飛鴎を通じて、イシュタム本隊に繋げられると、大石は無線のマイクを手に取って呼び掛ける。
「こちら日本国海軍、旭日艦隊司令官の大石である。マイカルに接近中のグラ・バルカス艦隊、応答されたし。」
『こちらグラ・バルカス帝国海軍、第58地方隊イシュタム司令官のメイナードだ。何の用だ?』
日本武尊の艦橋にメイナードの声が響く。無線越しに聞こえる彼の声は、誰が聞いても不快感を覚えるが、大石は気にも留めずに本題に入る。
「メイナード司令、貴艦隊はムーの領海に不法侵入している。直ちに離脱されたし。」
『離脱? あいにく我々は作戦中で、オタハイトを灰にしない限り引き返すなんてできないのだよ。』
「それを曲げてお願いする。直ちに作戦を中断し引き返して頂けないか?」
『我が国に宣戦布告された貴国が敵である我々に対して上から目線とは笑わせますね。………もしかしたら強気の割りに直ぐに攻撃してこないと言う事は、君達は対した戦力を持っていないのだろう? 大石司令、君はたった今から帝国と我々を侮辱した罪を犯した蛮族として、我々が処刑してあげましょう。話はこれで終わりだ!』
メイナードは一方的に無線を切ってしまい、再度の呼び掛けには応じなくなった。
「あの敵司令官、我々の事をまるで知らないかのような口振りでしたな。」
「あぁ……どうやらカルトアルパス戦の結果は、グラ・バルカス軍全体には伝わっていないみたいだな。相手は交戦の意思ありと見なす。原参謀長、"彼ら"に攻撃開始命令を伝えよ。我々も万一に備えて待機だ!」
「はっ!」
その頃、イシュタム本隊の後方の海中では、彼らを見張っている紺碧艦隊の姿があった。
「司令官、旭日艦隊から攻撃開始命令の暗号を傍受しました。」
「そうか。では艦隊殲滅攻撃と行こう。僚艦に伝えっ!」
イシュタム艦隊の後方から追尾していた紺碧艦隊は、その場で横列を組み、艦隊殲滅攻撃態勢に入った。
「メインタンクブロー、潜望鏡深度まで浮上」
周辺確認のため、伊601は潜望鏡深度まで浮上し、潜望鏡と全天監視鏡を上げて周囲に航空機と別の艦船が居ない事を確認する。
「周囲に航空機の姿はありません。」
「よし。対艦誘導噴進弾発射用意。」
「発射扉開けっ!」
伊601以下の全艦に装備されている、誘導弾発射扉が開かれる。
「目標設定完了。全艦、対艦誘導噴進弾発射用意よし!」
「全発射筒………撃てぇ!」
前原の合図と共に、紺碧艦隊全艦から対艦誘導弾が撃ち出される。
発射筒から飛び出した噴進弾は海面から飛び出すと、ロケットモーターを起動させ、一気に上昇を始めた。
「司令っ!後方から……」
「何だとっ!?」
後方の海面から突然姿を表した誘導弾にイシュタム本隊の将兵全員が驚いた。
「あれは………ロケット!?」
真上に向けて上昇していた噴進弾は高度を200メートル地点で向きを下に変え、弾頭部に装備されている熱シーカーがイシュタム本隊の艦艇を捉えるとロケットによる加速で急降下を開始した。
「対空戦闘用意っ!急げっ!」
イシュタム艦隊全艦による対空射撃が行われるが、音速で急降下してきた、対空砲の死角となる真上や斜め上から襲いかかり、次々と直撃していく。
「重巡アマテル被弾っ!轟沈っ!」
「ウェズン、ムリフェインもやられました!」
紅海雷撃作戦でドイツ海軍地中海艦隊を全滅させた誘導弾の威力の前に、装甲が薄い駆逐艦は一発、ある程度の防御力がある重巡洋艦は数発で轟沈に至り、メイナードはその光景に恐怖した。
「そんな馬鹿なっ!……何故だっ!何故海中からロケットが!?………まさかっ!」
メイナードは水中から攻撃できる唯一の兵器として、一番に潜水艦の存在がよぎった。
「海中の潜水艦がロケット攻撃ができるのかっ!? 」
「本艦にロケット接近中っ!」
見張り員が指差した方向を見ると、4発の誘導弾が高速で迫ってくる。メイナードは慌てて、無線機で本国に報告を入れる。
「こちら第52地方隊イシュタムっ!!現在、本艦隊は日本の潜水艦によるロケ……」
『ロケット』と最後まで言おうとした瞬間、誘導弾がシェアトの格納庫に2発、船体中央部吃水線上に1発、艦橋に1発が命中した。
格納庫に直撃した2発の誘導弾は格納庫内に仕舞われていた燃料と弾薬類に引火と同時に大爆発を起こし、船体に直撃した誘導弾は命中と同時に生じた爆発によって開いた大穴から大量の海水が雪崩れ込む。
艦橋に直撃した誘導弾は、大爆発と共にメイナード以下艦橋内の全将兵を消滅させた。
シェアトは、僅かな時間のうちに艦内は海水で満たされ、右へ向けて大きく傾斜していき、あっという間に転覆したと同時に大爆発を起こし、黒いキノコ雲をあげて沈んでいった。
第52地方隊は今までのツケを払わせられたかの如く、異世界の海へと消え、ここに全滅した。
続く
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