後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

106 / 130
第103話

不審な音源を捕捉した伊601は海中を物音立てず、静かに接近していく。

 

 

「司令、音源は徐々に大きくなっていきます。間違いなく爆音と思われます」

 

「こんな夜の海上で爆音か………他に音は聞こえるか?」

 

「はい。爆音に混じって木材が破断する音も聞こえます」

 

「となると、音源はやはり……」

 

「我々が探している正体不明の潜水艦か確かめよう。海遊を用意」

 

 

伊601の魚雷発射管に1発の有線式偵察魚雷『海遊』が装填され、発射された。

有線で伊601に繋がれた海遊は設定された距離を進むと、海面に浮上、カメラと無線傍受用アンテナを伸ばし海面の情報収集を開始する。

 

 

1時間後、海遊は回収されカメラが捉えた写真の現像と相手側の無線交信に関する記録が纏めあげられ、前原の元に届けられる。

 

 

 

「写っているのは木造の帆船の様だな」

 

 

白黒写真にはこの世界では第3文明圏でよく使用されている帆船が写っている。マストには大きくマール王国の国章が描かれている。問題なのはその帆船が爆発、炎上している事である。

 

 

「事故では無さそうだな。やはり正体不明の潜水艦の仕業か」

 

「司令、その潜水艦とおぼしき艦影を捉えた写真がありました」

 

 

入江が前原に写真を手渡す。写真に写っていたのは、海面に浮かぶ黒い影で、そのシルエットから潜水艦に間違いは無かったのだが、前原を驚かせたのはその潜水艦のシルエットだった。

 

 

「似ている」

 

「似ている……とは?」

 

「艦長、先任、この写真の潜水艦のシルエットを見て何かを感じないか?」

 

 

入江と品川は写真の潜水艦を見る。

 

 

「そう言えばどことなく……アレに似ている様ですな」

 

「確かに。前世の我が海軍が実用化した伊400型とソックリ……いや、伊400型そのものです。もしや、これも東機関が入手したと言われているあの……」

 

「そうだ。グラ・バルカス帝国のシータス級潜水空母だ」

 

 

伊400型とは、前世の日本海軍が隠密にアメリカ東海岸を奇襲攻撃を行うために設計・建造された潜水空母で、特殊攻撃機晴嵐を3機を搭載し、敵国の領海内より攻撃機を発艦させ本土に奇襲を行う事を主目的に設計されている。

後世日本に於いて伊400型の運用戦術は大和型戦艦の建造計画を全て取り止めてまで整備された紺碧艦隊の運用思想に大きく反映されており、旗艦である伊601や伊501等も前世からもたらされた伊400型の設計に後世日本の科学力を加える事により、伊400型を遥かに上回る潜水空母として完成している。

 

無論それは、前世日本と同様の技術力を誇るグラ・バルカス帝国でも実用化されており、艦影も他の艦艇と同様に前世海軍艦艇と同様に伊400型と寸分違わない見た目をしている。

高野ら海軍軍令部はこのシータス級もグレード・アトラスターと同様に最重要警戒対象としており、紺碧艦隊もこの艦の捕捉に全力を注いでいた。

 

 

 

 

「しかし、後世の我が軍に伊400型はありません。となれば、これ程の潜水艦を建造できる国があるとすれば…」

 

「間違いなくグラ・バルカス帝国だろう」

 

「一連のマール王国の商船行方不明事件に彼の国が関わっているのは確実ですな」

 

「あぁ。グラ・バルカスは前世日本と同等の技術力があると聞いた時点で予想はしていたが………そうなればこれは敵の技術力を探るチャンスだな」

 

 

前原の表情を見た入江は彼の真意に気がつく。

 

 

「司令、まさかとは思いますが………以前我々が太平洋でやったアレを?」

 

「そうだ。偶然か前回と同様に我々には鳴門と特呂型潜もいる」

 

「分かりました。では以前の作戦を元にして新たに作戦を練り上げましょう」

 

 

 

 

 

それから2日後

 

 

 

「そろそろ2日か」

 

 

 

伊601がグラ・バルカス帝国の潜水艦の追尾を開始してから2日が経過した。

海域に展開している特呂型潜からの情報を元に、紺碧艦隊は着実に帝国の潜水艦に近付きつつあった。

 

 

「司令、推進音聴知」

 

「例の敵潜か?」

 

「はい、間違いありません。ディーゼルの音とスクリューによる推進音がハッキリ聞こえます」

 

「距離は?」

 

「前方30°、距離6000」

 

「よし。では作戦を開始する」

 

 

 

前原の命令で艦隊は動き出した。

敵潜の予想針路上には伊501、502、503、特呂型潜3隻が敵潜の左右を抑えるように展開、残りの特呂型潜9隻は海底に鎮座しながら敵潜を追い込むように挑発行動を開始する。

 

 

「撃て!」

 

 

海底で鎮座していた特呂型潜1隻が、頭上の敵潜水艦に向けて放った。

魚雷は炸薬が抜かれた無弾頭魚雷であり、万が一直撃しても撃沈に至る事はない。

 

 

「敵潜、回避行動!」

 

「よし。魚雷発射!」

 

 

シータス級が回避行動を取り、今度は別の位置に待機していた特呂型潜が魚雷を放ち、再び回避行動を取らせる。

 

 

「司令、敵潜は予定通りに誘導できています」

 

「敵さん、再三の挑発に参っている様ですな」

 

「あぁ。敵が伊400型と同様なら間も無く酸素が切れる頃だな」

 

 

前原の読み通り、針路上で特呂型潜からの圧力に無駄な労力を消費しているシータス級潜水艦『カファルジャドマ』の電池と酸素は底を尽きかけていた。

 

 

「艦長、電池と酸素残量が限界です」

 

「分かっている。兎に角、安全が確保できるまでは浮上は出来ない」

 

「しかし、これ以上潜っていては………」

 

 

カファルジャドマの艦長は迷っていた。

潜水艦は浮上している間は基本無防備であるため、浮上するとなれば周囲の安全が確保できなけれは浮上はできない。

しかし現実に艦内の酸素、推進用のバッテリーは底を尽きかけており、それらを補充するには浮上して外部から酸素を取り入れて、ディーゼル発電機を動かして充電するしかない。

 

 

「聴音、周囲に音源は?」

 

「ありません」

 

「よし。敵を過度に恐れていては我々の身がもたん。浮上だ」

 

「了解!浮上!」

 

 

 

カファルジャドマはその場で浮上を開始した。その音は少し離れた位置に居る特呂型潜が捕捉、その情報は紺碧艦隊にもたらされる。

 

 

「よし。上空の雷洋に知らせ!」

 

 

伊601から有線式通信用ブイが伸ばされると、海面に浮かんだアンテナから周辺空域に待機している2機の雷洋改に通信が送られる。

 

 

「飛行長、旗艦より通信!『猫に鈴を付けよ』です。位置は……」

 

 

雷洋改1番機の宮城兵曹が操縦席の大竹大尉に報告を入れる。

 

 

 

「来たか!富岳1番より2番機!作戦開始だ!」

 

 

大竹大尉は雷洋改の高度を下げ、一定の高度を保ちながら待機する。

 

 

「居た!」

 

 

カファルジャドマの浮上位置にたどり着くと、そこには酸素の補給と電池の充電をしていたカファルジャドマの巨体があった。

 

 

「よぉし!高度を下げるぞ!」

 

 

大竹と1番機と2番機はそれぞれ左右から挟み込むように接近を仕掛ける。

 

 

「先ずは奴の頭を抑える!」

 

 

海面間近の超低空飛行をしながらカファルジャドマに接近を仕掛ける。

雷洋改の存在に気付いたカファルジャドマは対空砲で牽制を仕掛けるが、たった3丁の機銃の弾幕を避ける等容易い大竹は、巧みにそれを交わしていく。

 

 

「行くぞ!」

 

 

操縦桿を手前に向けて思い切り引き寄せ、機体を急上昇させ一気に上昇する。

 

 

「宮城兵曹、敵潜は!?」

 

「潜行していきます!」

 

「頃合いか!宮城兵曹、小判鮫魚雷用意!」

 

「はい!」

 

 

機体が水平飛行になり、そして機首を下に向けての降下態勢に入ると、爆弾倉の扉が開き、小判鮫魚雷が姿を表した。

 

 

「飛行長、速読と角度そのままで!」

 

「おぅ!任せたぞ!」

 

 

宮城兵曹は照準器を覗き込みながら潜行していくカファルジャドマに照準器を合わせる。

 

 

「投下!」

 

 

爆弾倉から小判鮫魚雷が投下され、2番機と合わせて2本の小判鮫魚雷は重力に従ってカファルジャドマに向けて吸い込まれるように落下していき、直撃寸前に魚雷の外郭が外れ、内蔵されていた発信機がばら蒔かれ、海中に潜る寸前のカファルジャドマのセイルと潜望鏡と船体に付着した。

 

 

「旗艦に連絡!『猫に鈴をつけた』」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




皆様からのご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。