中央歴1639年4月24日 クワ・トイネ公国 マイ・ハーク港。
クワ・トイネ公国の玄関口であるマイ・ハーク港にある
公国海軍本部は港に停泊している高杉艦隊からの"ある報告"に、蜂の巣を突付いたような騒ぎになっていた。
「高杉提督、それは本当なのですか?」
海軍基地に来ていた高杉に公国海軍長官が問う。
高杉からクワ・トイネ海軍にもたらされた情報とは、ロウリア海軍艦隊を監視していた紺碧艦隊から暗号にて送られてきた『ロウリア艦隊の出撃』の事であった。
「はい。ロウリア近海に展開している我が軍の"情報部隊"からの緊急の情報です。」
高杉は紺碧艦隊や潜水艦と言う言葉を敢えて使わなかった。紺碧艦隊は任務の特性上、存在を認知しているのは日本海軍内でも一握りの人物のみであり、情報統制は厳しく艦隊の存在は秘匿されており、それは無論の事クワ・トイネ公国に対しても例外ではない。
「現在、私の艦隊の空母から偵察機を飛ばして、ロウリア艦隊の監視を逐一行っておりますので、新しい情報が入り次第、貴軍にも速やかにお伝えします。」
「ううむ…それなら我々は出撃用意を急がなければなりませんな。」
「我が艦隊はいつでも出撃可能です。貴軍の準備が整い次第出撃するつもりです。」
「了解した。しかし我が軍は早くても出撃準備が整うのは明日の昼頃になります。それまでにロウリア艦隊がここへ到達しない事を祈るばかりだ……」
「では我々は、貴軍より先に先行してロウリア艦隊に対する時間稼ぎを行います。貴軍は気兼ねなく落ち着いて出撃準備を整えてください。」
高杉の言葉に海軍長官の表情が青褪める。
「高杉提督!それはあまりにも無謀だ!相手は4000隻もの船を従えた大艦隊であり、その指揮官はロウリア海軍一の猛将と言われるシャークン提督だ!!貴軍を疑う訳では無いが、数が違いすぎる!」
「戦いと言うのは数だけで雌雄を決する訳ではありません。我が国の歴史に於いても圧倒的に数で勝っている敵軍を、戦術や戦略を駆使して打ち負かした例はいくつもあります。」
「高杉提督にはロウリア艦隊に対抗するための秘策がおありで?」
「無論です。」
高杉の言葉に海軍長官は不安は感じなかった。
彼はこの2日前に高杉の招待を受けて、部下と共に高杉艦隊旗艦の戦艦『比叡』を訪問しており、その能力と性能に、それまで彼が抱いていた軍船と言う概念を根本的に覆され、心中にも彼等が心強い味方であると感じていたからである。
「高杉提督……本当に信じてもよろしいのか?」
「はい」
一呼吸置いて、海軍長官は高杉に頭を下げる。
「クワ・トイネ公国海軍長官として高杉提督にお願い申し上げる…………どうか、よろしくお願いする。」
「貴国の期待に添えるように努力いたします。」
高杉は海軍長官と握手を交わす。
その日の夜
慌ただしく出撃準備を整えていくクワ・トイネ海軍第2艦隊司令官『パンカーレ』は海軍本部内にある自室にある人物と話していた。
「私に観戦武官の任を?」
「そうだ。ブルーアイよ。」
パンカーレの前に立つこの若い海軍士官『ブルーアイ』は彼の側近であり、若くして海軍士官に登り詰めたエリートである。
彼はパンカーレのお墨付きであり、近い将来に自分を越える海軍司令官に育て上げるため、日々訓練に取り組んでいた。
「分かりました。ブルーアイ、観戦武官の任を拝命しました。」
「頼むぞ。」
数分後、ブルーアイは高杉艦隊から迎えにやって来た内火艇に乗り、その足で比叡へと乗り込んだ。
ブルーアイは初めて乗る日本の軍艦に驚いていた。
(何なんだこの巨艦は………艦内は広いし明るくて、清潔が保たれているし…………船は鋼鉄で出来ている!どうやって浮かせてるんだ?)
日本海軍が保有する戦艦の中で最古参に分類される比叡はブルーアイにとっては、未知の船に見えた。
驚きっぱなしの中、水兵の案内でブルーアイは比叡の艦橋へと通される。
艦橋内には比叡と艦隊の幹部が顔を揃えており、その中で一際オ-ラが違う高杉の姿を見つけたブルーアイはその場で直立不動の姿勢で公国海軍式の敬礼をする。
「公国海軍より観戦武官としての任を携えて参りました、ブルーアイです。」
「お待ちしておりました。私が艦隊司令の高杉です。」
簡単に握手を済ませてから、先ずは高杉から現状の説明が入った。
「取り合えず現状についてご説明いたします。我々は既にロウリア王国本土より、4400隻に及ぶ大艦隊の出撃を確認しています。現在ロウリア艦隊は、我が艦隊の警戒機と付近の海域に展開している我が国の情報収集部隊が逐一監視を行っております。」
艦橋の中央にある海図台に置かれた海図を使って、ロウリア艦隊の現在位置を指差す。
「我々は貴国の艦隊より先に出撃しますが、敵艦隊の速度を考えると我が艦隊が敵艦隊に接触できるのは明朝となるでしょう。」
「分かりました。……………ですが高杉提督、相手は数に物を言わせてやって来ます。相手は4400隻、こちらは20数隻………大丈夫なのでしょうか?」
「ご心配なく。既に手は打ってあります。」
「手とは……どういった物でしょうか?」
「それは明日にでも分かりますよ。」
この日、高杉艦隊はロウリア王国の諜報員の目を警戒しつつ、深夜にマイ・ハーク港を出撃していった。
続く
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