バルクルス基地制圧とレイフォル港の無力化に成功した多国籍軍は、バルクルス基地に拠点を移し、作戦の第2段階であるヒノマワリ王国解放のための作戦に向けての準備と休息に入っていた。
多国籍軍の工兵隊により僅か2日で基地機能が復旧したバルクルス基地では、多国籍軍に参加している諸国家軍が訓練を行っていた。
「放てぇぇ!!」
帝国軍が銃の射撃訓練場として使用していた訓練場ではフェン王国軍の魔導銃隊の兵が射撃訓練を行っていた。しかし彼等が手にしているのは前時代的な魔導銃ではなく、より近代的なボルトアクションライフルとマガジン給弾式の軽機関銃ばかりであった。
彼等は、これまでの戦いで帝国軍から大量の銃火器や弾薬を鹵獲しており、多国籍軍内で鹵獲した武器の取り扱いに関して特に決まりが無い事から近代的な銃火器を装備していないフェン王国軍はそれらを引き取り、自軍の武器として装備し、即席の訓練を行っている。
「凄い!これがあれば我が軍はより強くなるぞ!」
「グラ・バルカス帝国はこんな物を全ての兵士に持たせておるのか…………恐ろしいな」
ヨマヅとシダケは手にしているライフルを見て素直な感想を述べ、実際に銃を手にしている王国兵達はこれまで使っていた魔導銃とはその威力と連射性が比べ物にならない事に驚愕と興奮と恐怖心を覚えていた。
鹵獲した武器に関しては戦車や装甲車等の戦闘車両も銃火器程ではないが、それなりの数が鹵獲されており、それの取り扱いと管理に関してはムーが引き受けている。
特に彼等から歓迎されていたのは戦車や装甲車ではなく、ブルドーザーやクレーン車、油圧ショベル等の工兵や後方支援で使用される車両で、ムーではこれらの車両はまだ登場して間もない事もあり殆ど配備されておらず、実戦で使用できる軍用のブルドーザーとクレーン車が手に入ったのはまさに僥倖であった。
「このエリアの塹壕の設置は後1時間で終わらせろ!」
「そこの土で土嚢を作れ。大至急だ!」
「おい!こっちにクレーンを回してくれ!大きな岩があって地面が掘れないんだ!」
ムーの工兵隊はバルクルス基地を強化しようと躍起になっており、ブルドーザーとクレーンは引っ張り凧のように人気で、これまで手作業が殆どだったムー工兵隊にとっては非常にありがたかった。
基地を囲むように作られていく塹壕や対戦車壕は次々と完成していき、滑走路も怒涛の早さで修復されていく。
着々と基地強化が行われていく中、基地周辺には多国籍軍の偵察部隊が広く展開しており、夜豹師団の偵察大隊はヒノマワリ王国がある北方向の偵察を行っていた。
「隊長、間も無く限界線です」
「よし。各員は偵察結果を纏めろ」
大隊指揮車両である6式装輪指揮車の車内で指揮をとっている偵察隊の指揮官は展開している偵察隊の兵からの報告を纏める。
「大隊長」
「どうした?」
「先行している第1偵察小隊から緊急の無線報告です」
「緊急?分かった、俺に変わってくれ」
「はい」
通信兵からマイクを受け取った大隊長は報告してきた第1偵察小隊に詳細な報告を求める。
「こちら大隊指揮、詳細な報告を求める」
『こちら1偵、ヒノマワリ王国からの難民を保護しました』
「難民か……人数は?」
『3人です。何れも女性です』
多国籍軍では難民は無条件に受け入れる方針をとっており、2人の難民を保護しただけで緊急無線で報告してくる事はない。大隊長はその難民に何か訳ありなのかと察した。
「もしかしてだが、その難民はヒノマワリ王国の重要人物なのか?」
『はい。あ………大隊長、その難民の方が無線を変わりたいと申し出ていますが』
「分かった。変わってくれ」
一呼吸置いて、無線のスピーカーから聞こえてきたのは女性の声だった。
それから数時間後、バルクルス基地の多国籍軍の仮司令本部が設置されたテント内にて……
「……………」
「………………」
テント内は重苦しい空気に包まれていた。
その原因は偵察隊が保護した難民の女性にあった。
「この度は保護を受け入れてくださり、誠にありがとうございます」
熊谷、アーレイら多国籍軍幹部の目の前には用意されたパイプ椅子に座り、礼を述べるのは、ヒノマワリ王国の王族を示す民族衣裳を身に纏うヒノマワリ王国第3王女『フレイア』だ。
偵察大隊からの報告で、保護されたフレイアは多国籍軍との会談を要請した事から、多国籍軍司令部は急遽、会談の場を設けたのだった。
百戦錬磨の熊谷やアーレイ達の前に居ても臆するどころか、凛とした表情と声色で話すフレイアに、まずは熊谷が口を開く。
「いえ、遠路遙々ご苦労様でした」
「お気遣いありがとうございます」
挨拶もそこそこにアーレイがフレイアに質問をする。
「早速ですがフレイア殿下、事の経緯をお聞かせ願いませんか?」
「はい」
フレイアはヒノマワリ王国から此処まで夜通しやって来た経緯を話はじめる。
彼女の話を簡潔に纏めると、ヒノマワリ王国はグラ・バルカス帝国の支配を受けて以降は食糧が帝国により徴収され、国民が飢餓に苦しんでいる。そのため帝国のヒノマワリ統治機構に食糧に関しての陳情に向かった所、あっさりと一蹴されたどころか、その日の夜に突然謎の襲撃を受け、命からがら王国から脱出し、ムーへ向けて逃亡中に夜豹師団の偵察大隊に保護されたとの事だった。
「以上が全ての経緯です」
「そうでしたか………どうやらヒノマワリの状況は我々が考えていた以上に深刻ですな」
「えぇ。当作戦のヒノマワリ王国解放に関しては作戦を見直す事になりそうだ」
その言葉を聞いたフレイアは驚きの声を上げた。
「ヒノマワリ王国の解放………どう言う事でしょうか?」
「はい。我々はムー大陸のグラ・バルカス帝国を追い出すための反抗作戦を展開中なのです。ヒノマワリ王国解放は我々の作戦の一部なんです」
「では、我が祖国を帝国の支配から……」
「はい。我々は1国による独裁的な支配を良しとしていません。我々の作戦はヒノマワリとレイフォルを帝国の支配からの解放すると同時に帝国による世界征服を阻止するのための作戦なのです」
その言葉を聞いたフレイアは心底安堵した。
「良かった…………」
「しかし戦争と言うのは確実な事はありません。ヒノマワリの現状をよく理解している殿下のお力添えが作戦成否に大きく影響します。つきましては作戦にご協力をお願いできないでしょうか?」
「無論、私は全面的に協力させて頂きます。もう支配するのもされるのも嫌なのです」
「ありがとうございます」
しかしそこでフレイアは懸念を示した。
「甘い事なのは重々承知で申し上げたいのですが」
「なんでしょう?」
「戦いの際に民に犠牲者が出てしまう事が私の懸念なのです。無論、戦いに犠牲者がつきものだと言う事はこれまでの歴史が証明しています。ですが私は出来れば民に犠牲者が出るのはなんとしても避けたいのです」
フレイアの懸念は熊谷やアーレイらも慎重になっている。現状の作戦では帝国軍の兵士に加えて民間人にも犠牲が出てしまう。
一応、今作戦立案時に信玄型電算機を駆使した作戦計画書作成の時点でその事は指摘されており、大高や高野も懸念を示していた。
しかし犠牲者一切出さないための戦いは非常に難しく、如何なる案を出そうと戦争と言うメカニズムは常に不安定で流動的であり確実な事はない。
だが鋼鉄の槍作戦におけるヒノマワリ王国解放作戦で犠牲者を極力減らし、尚かつ帝国軍と帝国統治機構を無力化する方法が導き出される可能性が出てきた。
「それは我々も同じです。そこで殿下がお持ちの王国内の実情とグラ・バルカス帝国統治機構の情報が鍵になります」
その時、何処からともなく一匹の鳩がテントの中に飛び込んできた。
「鳩ですか?」
「はい。この鳩は王族専用の緊急通信手段なのです」
フレイアは鳩の首輪から吊るされていた手紙を読む。
「…………………」
「如何いたしました?差し支えなければ…」
「はい。父である国王陛下以下の王族が幽閉された模様で、私の姉様達も先の襲撃の最中…………」
フレイアは決して顔には出さなかったが、声色は驚きと悲しみによるモノだ。
「一刻の猶予はありません。大至急本国に作戦の見直しを伝えます」
「では我々も万が一に備えて待機します」
その日のうちに、フレイアから得られたヒノマワリ王国の現状と敵の大まかな配置に関する証言、更にはヒノマワリ王国に潜入しているハギス工作員からの報告を纏め、S&Lネットワークシステムにより暗号に変換された上で遠く離れた東京の軍令部や大高の元に今回の件の作戦変更の要請が伝えられた。
大高と高野は直ちにヒノマワリ王国解放作戦の早急な見直しを指示、軍令部は信玄型高速電算機をフル活用し僅か半日で代替案が作成され、軍令部の審査と高野以下の軍令部の幹部達により細かな修正が施された後、高野が作戦内容を確認した後、変更されたヒノマワリ王国解放作戦は『雷雪作戦』と名付けられ、直ちに多国籍軍へと伝えられた。
続く
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