夜が明けて、水平線から昇る太陽の明かりが辺りを照らす頃、第23、24水雷戦隊が仕掛けた夜襲と紺碧艦隊の火遁作戦で壊滅的な被害を受けたハーク港は、湾施設がある場所からは火の手が上がり、魚雷と砲撃で破壊された軍船の残骸が漂い、ハーク湾の海面には燃えきらなかった重油が浮かんでいる。
「まだ復旧できそうにないか?」
「はい。敵艦隊の夜襲で施設の50%近くが使用不能です。」
「艦隊の被害はどうか?」
「湾内に停泊していた2500隻のうち、敵艦隊の夜襲と、海面から上がった火の手で5割近くが沈没、又は修理不能の状態です。」
この時点でハーク港に集結していたロウリア艦隊とロウリア海軍はその戦力の半数近くを失い、もはや残存戦力だけでは国の自衛のみしか出来ず、海からクワ・トイネへの侵攻は不可能となったのである。
「しかしクワ・トイネはいつの間にあのような力を得たのだ?奴等が持っている技術力とは到底思えん………」
「提督、もしやクワ・トイネの一角にあるリーン・ノウの森にある"例の遺跡"では…………」
副官の言葉にシャークンが反応する。
「古文書で魔王ノスグーラ以下の魔王軍を撃退したと言う"太陽神の遣い"と"星の戦士"の事か?」
「はい。奴等は我々が知り得ない内に極秘で解析に成功し、それを実戦投入してきたのでは……」
「だが奴等にそれ程の技術力があるとは思えん……あの遺跡はミリシアル帝国やムーの学者ですら解析出来なかったんだぞ。」
「しかし古文書には太陽神の遣いと星の戦士達は、ワイバーンの速度を遥かに上回る鋼鉄の竜を操って魔王軍の竜を葬り去り、魔王にも痛手を与えたと伝えられています…………それにハーク港を夜襲に来たあの高速船の戦闘能力も古文書に記されている『神の力を持つ船』と一致します。」
「だがそれは一万年も昔から伝わる古文書の中の話だろ?長い年月が経ってその話を盛り上げようと人々が太陽神の遣いと星の戦士達の力が誇張して伝え残ってるだけじゃないのか?」
「ですが提督も敵艦隊の夜襲をご覧になられたでしょう?あれは古文書に記されている通りの力に間違いないと私は考えます。」
長年連れ添った副官の言葉によって今まで何度も助けられた事もあるシャークンにとっては、副官が嘘を言っているようには聞こえなかった。
「……………確かに君の言う通り、奴等が遺跡の解析に成功していたとして、その技術を投入してきたとしても既に戦争は始まっているんだ。今さらこんな事を上に伝えても信用はされんだろう。」
その場で立ち上がり、甲板から朝日を見つめながらシャークンは呟く。
「もしかしたら、我々はとんでもない相手を敵にしてしまったのかもしれん………この戦争、どっちへ転ぶか分からんぞ…………」
その時、シャークンの耳に何かの音が聞こえてきた。
「何だ?………向こうからか?」
音は水平線の向こうから聞こえてくる。時間が経つに連れて音はだんだん轟音のようになってくる。
「上か…………」
ふと上を見ると空には薄い雲が掛かっていたが、その雲の隙間から鳥のような形をした黒い影が見える。
「鳥?……いや………」
シャークンは首から提げていた遠眼鏡を使って空を見上げる。
「あれは……」
それを見た途端、彼の脳裏に警鐘が鳴り響く。
「敵だ…!あれは敵だ!敵襲ぅぅぅぅ!!!!」
シャークンはその場で大声で敵襲を伝える。
「副官!直ちに魔信でワイバーン基地に出撃命令を打信せよ!!」
「それが……昨夜の夜襲で魔信機が全損し、基地への魔信は不可能です。」
「何だと………」
この時既に、ハーク港にあった魔信装置は水雷戦隊の艦砲射撃によって施設ごと破壊されており、もはやワイバーン基地との通信手段は絶望的といって良かった。
「提督!敵の飛竜はワイバーン基地に向かっているようであります!!」
その報告と同時に見張りからも耳を疑いたくなる報告が入った。
「報告します!ハーク湾沖合いより、敵艦隊を視認しました!」
「何っ!?」
遠眼鏡を水平線に向けると、彼の目には途轍もなく巨大な何かの影が近づいてくるのが見える。
一瞬だけシャークンはそれを島かと思ったが、影はゆっくりではあるが徐々にこちらへ近づいてくるのを見て敵の艦隊だと分かった。
「そうか………敵の狙いは我が海軍力を壊滅させることだったのか!」
ここでようやくシャークンは敵の目的を悟った。
高杉艦隊による鼠捕り作戦は、水雷戦隊と紺碧艦隊の夜襲で壊滅状態となったハーク港の南にあるワイバーン基地に空母から飛び立った攻撃隊を差し向けてロウリアの航空戦力を壊滅させると同時に、艦隊をハーク湾に突入させ艦砲射撃で基地と港ごと海軍力を壊滅させようという物であった。
「生き残った船には直ちに出撃するように伝えろ!」
「はっ!」
シャークンの命令によってロウリア艦隊の残存艦は戦闘態勢を取り、高杉艦隊の迎撃に向かう。
戦艦『比叡』 艦橋
「司令!ハーク港より敵の艦隊が接近中です!」
「うむ。これより我が艦隊はハーク湾に突入する!全艦戦闘配備!」
高杉の号令により、高杉艦隊も速度を上げてロウリア艦隊との艦隊決戦に備える。
こうして異世界の海軍同士による艦隊決戦はその火蓋を切らんとしていた。
続く
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