後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第18話

中央歴1639年4月26日 クワ・トイネ公国城西都市エジェイ近郊ダイダル平野

 

 

高杉艦隊によるハーク港攻撃が行われる直前、日本陸軍鍬十稲派遣軍とクワ・トイネ軍の全線基地が置かれたダイダル基地では、両軍の将兵達が慌ただしく駆け回っていた。

 

 

『こちら戦車71連隊、配置よし!』

 

『こちら第31機動歩兵連隊、各大隊はあと十数分で配置完了!』

 

『こちら自走33連隊全隊は配置完了!』

 

『こちら………』

 

 

 

司令部に設置されている無線機から派遣軍に所属する各部隊からの報告が入る。

 

 

 

「ギム方向から侵攻してくる敵部隊の数は?」

 

「はい!偵察隊からの情報によれば、敵軍は先遣隊2万を前衛にして、エジェイの西方向より接近中との事です。」

 

「2万か………かなりの数だな。」

 

 

司令部では報告を受けた熊谷とノウの二人が、これからどうするかを検討する。

 

 

「やはり敵はハーク港奪還よりこちらへの進軍を優先したようです。」

 

「いくらロウリアとは言え、目の前にある勝利のチャンスを逃す程馬鹿では無いでしょう。まぁ、ハーク港を抑えたお陰で敵が総戦力をこちらに向けて来なかったのは救いか……」

 

 

海軍の鼠取り作戦により、敵はハーク港からの圧力に対処するため王都防衛にも戦力を回さなければならず、そう言う意味では鼠取り作戦は敵の戦力分散という当初の目的は成功したと言えた。実際に東方征伐軍以外にクワ・トイネ侵攻のために編成されていた後続の部隊は王都防衛に戦力を回されており、この作戦を立案した大高や高野らの戦略は概ね進んでいると言える。

 

 

 

「では今度は我々の番ですな」

 

「あぁ。『耕作作戦』は実行に移せそうだ」

 

 

 

『耕作作戦』

 

派遣軍とクワ・トイネ軍との合同で実行されるロウリア東方征伐軍を壊滅を目的としたこの作戦は、クワ・トイネ首都マイ・ハーク侵攻を目的とするロウリア東方征伐軍を派遣軍とクワ・トイネ軍の連合軍がギムの町に征伐軍を追い込み制圧すると言う一大地上作戦である。

 

派遣軍は主に敵の地上戦力に打撃を加え敵戦力の半減と海軍航空隊による上空からの支援を主とし、クワ・トイネ軍は劣勢となった征伐軍を追い込む役目を担う。

 

独軍との直接戦闘を想定して編成されていた鍬十稲派遣軍は砲火器等の近代兵器を備えているとはいえ、兵隊同士の接近戦闘や魔法と言う未知の物が存在するこの世界の戦争の研究が進んでいない状況下では、近代的な戦術がどれ程の効果を見せるかは不透明であるため、耕作作戦は日本とクワ・トイネが持つ戦術を組み合わて立案されている。

 

 

 

「ノウ将軍、我が派遣軍は戦闘準備が完了しています。既にダイダル基地では指揮下の戦車連隊や砲兵連隊の配置は終わっている。そちらはどうですか?」

 

「我が軍も貴軍と同様にいつでも作戦行動が取れる準備は出来ている。やるか?」

 

「はい……やりましょう!……各隊に作戦開始の暗号を送れ!」

 

 

 

遂に耕作作戦開始の合図が送られ、派遣軍とクワ・トイネ軍の無線に送られた作戦開始の暗号は『鍬を構えよ』である。

その合図と同時に、エジェイより西に10㎞先に展開している瀬戸少将指揮下の各戦車連隊、砲兵連隊、歩兵連隊は一斉に行動を起こす。

 

 

前衛に戦車を置いて、装甲兵員輸送車と高機動兵員輸送車、トラックに分乗した派遣軍とクワ・トイネ軍の連合歩兵部隊が配置され、エジェイと前衛部隊の間にあるダイダル基地には自走榴弾砲、高射砲、自走対空機関砲を装備した砲兵隊が配置に就く。

 

 

それに合わせて爆装した海軍航空隊の電征Ⅱ型とⅢ型も、両軍の航空支援のため基地から飛び立っていく。

 

 

 

 

 

「師団長、各隊配置完了しました。いつでも攻撃可能です。」

 

「うむ………………では各隊に攻撃開始を指示せよ!」

 

「はっ!」

 

 

 

熊谷の司令は直ちに無線でダイダル基地の砲兵連隊に通達され、各榴弾砲と高射砲の発射用意が整う。

 

 

 

『こちら受け付け、お客さんが来場した。客席番号は1階席より左下のC1番から3番。』

 

「了解。演劇を開始する。」

 

 

先行していた偵察隊と観測班からの報告に合わせて目標に向けての着弾位置の計算と割り出しが行われて、諸元通りに砲撃準備が整う。

 

 

「各砲、1発のみ試射。」

 

「照準よし!」

 

「砲撃始めっ!」

 

 

その瞬間、ダイダル基地一帯に腹に響くような砲撃音が連続して響き、砲兵連隊から放たれた大量の榴弾が侵攻してくるロウリア軍に向かって飛んでいく。

 

 

『弾ちゃ~く………今っ!』

 

 

十数秒後、西の方角から多数の爆音と閃光が見える。

 

 

 

『着弾を確認!そこからCの3番から8番に掛けて効力射っ!』

 

「了解。各砲30発射撃せよ!」

 

 

再び連続して一斉砲撃が始まり、閃光と爆音が見える。そのまま各砲は指示通りに30発を敵に向かって次々と撃ち込んでいく。

 

 

『前進観測班より本隊へ。敵軍の被害は甚大。目測で敵軍は1万近くの戦力を損失している。』

 

「了解。じゃあ次の段階に行きましょう。」

 

「はい。」

 

「本隊より砲兵へ。続けて各砲30発程射撃せよ。射撃を終えた後、別命あるまで待機せよ。」

 

『了解。』

 

 

熊谷は無線のチャンネルを瀬戸少将率いる戦車連隊へと繋ぐ。

 

 

「本部より各前衛部隊へ、あと砲兵隊の各砲が30発ずつ撃ち込む。砲撃が止んだ後に前進を開始せよ。」

 

『了解。このまま砲撃終了まで待機する。』

 

 

 

無線を切り熊谷は目を閉じて作戦成功を祈る。

 

 

 

「………頼むぞ。」

 

 

 

 

続く




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