派遣軍の榴弾砲による長距離攻撃から始まった戦闘は、ロウリア軍を一気に劣勢に追いやった。
「何が起きてるんだ!?」
ロウリア軍東方征伐軍先遣隊指揮官のジューンフィルアは派遣軍の砲兵部隊からの砲撃に晒されていた。
指揮下の2万人の兵達は、ここに来るまでに何の障害も受けずに前進を続けてきたが、遂数分前より突然起きた爆発に味方は次々とその数を減らしていく。
「聞いてないぞ!奴等がこんな高威力の爆裂魔法を使ってくるなんて!」
既に彼らの頭上からは100発近い榴弾が降り注ぎ、味方の歩兵や騎兵も何とかこの爆発から逃れようとするが、爆風や破片から逃げる間もなく、無惨にその屍を築いていく。
「こんなのが……こんなのが戦いであってたまるかぁぁ!!!」
この直後、ジューンフィルアが居た先遣隊後方に多数の榴弾が着弾し、彼を含めた先遣隊の幹部の大半が戦死し、指揮官を失った先遣隊主力9500人は潰走を始める。
だがそんな彼らに次なる一手が加えられようとしていた。
『こちら前進観測班、敵主力は後退を開始した。』
「了解。これより前進する。全車前へっ!!」
陣地に控えていた瀬戸少将指揮の5式改の戦車2個連隊を前衛に、トラックと装甲兵員輸送車と高機動兵員輸送車に分乗した日本とクワ・トイネ軍連合歩兵部隊が続く。
「前方12時方向に敵部隊発見っ!」
「前車、榴弾装填っ!砲撃しながら突撃っ!」
戦車隊は扇状に展開し、砲撃を行いながら全速力で前進する。
「うわぁ!何なんだあれはっ!!」
「地竜だ!地竜だぞ!!」
「逃げろ!」
砲撃でパニックに陥ってたロウリア軍の前に突然現れた5式改の姿に、皆逃げるように走り出す。
「敵歩兵は後方の奴等に任せろ!我々はこのまま前進を続ける!」
ロウリア兵は迫ってくる5式改に恐怖しながら逃げ出し、果敢に挑んでくる図体の良いロウリア兵も居たがこれも同軸機銃と車載機銃によって駆逐される。
戦車の前進と攻撃から逃れられた運の良いロウリア兵も居るが、それらも後方から続く派遣軍歩兵部隊の銃撃や、クワ・トイネ兵との格闘戦により制圧されていった。
「耕作作戦とはよく言ったものだな……我々はトラクターかブルドーザーだ……」
瀬戸がキューポラのペリスコープ越しに外を見ながら言う。
彼の言う通り、砲撃と戦車による突撃はロウリア兵をあたかも畑の土のように耕している。戦車やトラックは畑を耕す機械のように例える瀬戸の考えは決して間違いでは無かった。
やがて双方の衝突は僅か3時間程で勝敗はつき、日本とクワ・トイネ連合軍は敵先遣隊を悉く粉砕し、生き残った僅かな数のロウリア兵は捕虜となった。
「よし!我々はこのままギムに向けて前進っ!」
「了解!」
敵先遣隊を壊滅させた瀬戸らは、一路ギムに向けて前進を開始する。
「夜明けか……予定じゃ高杉艦隊がハーク湾に攻撃を仕掛けてる頃だな。」
戦闘に集中していたため気が付いていなかったが、既に東の空には朝日が昇っており、辺りを明るく照らしていた。
「ん?」
ふと東の空に視線を向けると、朝日を背にダイダル基地から飛び立った60機の電征による海軍飛行隊の姿が見え、瀬戸達が目指しているギム町の方向へと飛び去っていく。
その頃、ギム町の東20㎞の地点に設けられたロウリア軍陣地では、先遣隊からの通信途絶に混乱が走っていた。
「先遣隊との連絡は取れないのですか!?」
「はい…先程から何度も呼び掛けているのですが応答がありません。」
アデムは混乱していた。
つい一時間前の定時連絡を最後に先遣隊からの通信が途絶してしまったからである。2万もの大軍が通信を送る間もなく全滅したとは彼の考えには無かった。
「アデム副将、偵察隊が間もなく先遣隊が通信を絶った地点に到着します。」
アデムはこの時、偵察としてワイバーン12騎をエジェイ方面に向けて放っていた。
「そろそろだな……」
ロウリア軍東方征伐軍所属のワイバーン乗り『ムーラ』は、先遣隊が消息を絶った地点に達しようとしていた。
既に夜が明けてから時間が経っているが、薄い雲がある以外空は何時もと変わらない様子を呈していた。まだ4月下旬と言う事もあってから僅かながらに肌寒さを感じる。
「ん?」
東の方角に視線を向け続けていると、何かが見えてくる。
「何だ?」
グワァァァ~!グワァァァ~!
その時、彼が乗るワイバーンが警戒を知らせる鳴き声を放つ。
「相棒っ!?……あれは敵か!」
こちらに向かってやって来る敵の竜は段々距離が縮まるにつれて、その姿が鮮明になっていく。
「なんだ?あの竜は…」
迫ってきた多数の竜は、羽ばたいておらず、鼻先にある何かが高速で回転していた。
その謎の竜の群れの中から1騎が突然速度を上げて迫ってくる。
「早いっ!?」
ムーラが見た謎の竜、電征Ⅱ型は一瞬でムーラの真横を通過し旋回しながら後ろを取る。
「やらせるか!」
ムーラは後ろを取らせまいとその場で右方向への捻り込み急降下を仕掛け、電征もそれを追い掛ける。
「……………今だっ!」
地面に激突しそうな程の高度でホバリングに入らせワイバーンの速度を一気に減速させる。無論電征はそれを読んでおり、ムーラが減速する直前にフラップを下げて減速しつつ機首を上に向けて回避する。
「読まれてたか………当然だな。」
彼は電征を地面に激突させるように見せ掛けて、地面スレスレで速度を落として電征の背後に就こうと考えていた。
だがそれを回避されたため、上空へ向けて待避しようとする電征を追い掛ける。
「クゥ!早いっ!」
誉エンジンのパワーによる高い上昇速度にワイバーンでは追い付けず、振りきられる。
「速度と上昇力、運動性は負けてる。旋回半径はこちらが若干勝ってると言った所か…………」
ムーラはこの戦争に従軍する前に愛する家族から贈られたお守りを握り締め、これ以上電征と戦っても意味は無いと判断し、直ぐ様反転しその空域を去る。
「追い掛けてくる!?」
電征隊はムーラの背後より速度を上げて迫ってくる。
もはや彼には勝ち目などない。
(すまない………)
心の中で国に残してきた家族を思いながら目を閉じる。
「ん?」
だか何時まで経っても衝撃は来なかった。
恐る恐る目を開けると、電征隊はムーラを無視しながら全速力で西へと飛び去っていく。
「待て!クソっ!」
ムーラは慌てて追い掛けようとするが、電征の巡航速度には追い付けず、ただ見ているしか出来なかった。
「最初から相手にされていなかったのか…………」
ムーラの呟きは誰にも聞こえず、広い空の中に消えていく。
続く
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