後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第2話

中央歴1639年1月25日 午後1時 マイ・ハーク

 

特別に設けられた会談場で今、歴史的な会談が行われようとしていた。

 

 

(日本国……生物とは思えぬ高速の竜を飛ばし、全長240メートルを越える巨大な軍船を持つ彼らの真の目的を、この会談で見定めなければならない…)

 

 

カナタ達、クワ・トイネの首脳陣達は日本国の特使との会談で、日本国がどのような国家なのか慎重に見極めるため、緊張した面持ちで会議場へと入る。

 

 

 

 

「本日はお忙しい中、このような会談の場を設けていただきありがとうございます。私は日本国より貴国へ特使として遣わされました田中と申します。」

 

 

 

クワ・トイネ公国を訪れた日本国からの特使、田中はスーツを着こなし、カナタ達に向けて緊張した面持ちで話を始めた。

 

 

「では先に、我が国の哨戒飛行艇が貴国の領空を侵犯してしまった事について、この場で深くお詫びさせて頂きます。」

 

 

田中はカナタに向かって深く頭を下げる。

カナタ達は真っ先に領空侵犯について深く謝罪した上に、頭まで下げて謝罪する田中の姿に好感を覚えた。

 

 

「公式に謝罪を受け入れます。この件に関しましては不問としましょう。その上で、貴国の事について誠実な説明を求めたい。」

 

「はい。不確かな情報による誤解は、双方にとっては大きな損失となるでしょう。先ずは我が国についての説明を纏めた資料をお持ちしましたので、ご覧ください。」

 

 

 

田中は鞄から紙の束を手渡す。

束を受け取ったカナタ達は、書かれている内容を見るや困ったような表情となった。

 

 

「特使殿、誠に申し訳ないのだが……この文字は我々は読めませぬぞ。」

 

 

クワ・トイネの外務を統括する『リンスイ』の言葉に、田中は驚く。

 

 

「それは……申し訳ありません。日本語を話されているので、てっきり日本語を読めるとばかり……」

 

「私からすると、貴方が世界共通語を話しているように聞こえますぞ。」

 

「そうですか……これは失礼いたしました。では、口頭で説明させて頂きます。」

 

 

田中は日本国の地図を取りだし、カナタ達に自国についての説明を始める。

 

 

 

「我が日本国は、貴国より北東に1000キロメートルに位置し、37万8千キロ平方メートルの国土と、7300万人の人口を有する島国です。」

 

「待ってくれ!あの海域にそのような形をした島など聞いた事が無いぞ!」

 

「今現在、原因は判明していませんが…我が国は前世界より国土ごと、この世界に転移してきたと思われます。」

 

 

田中の言葉にリンスイは鼻を鳴らし、笑う。

 

 

「貴方方はこのような場で、我が国におとぎ話を基にしたほら話を吹聴しておるのか?」

 

 

リンスイは、日本国が転移国家と説明する田中の説明が信じられず、異議を唱えるが田中は凛とした表情で、臆する事もなく冷静に話を進める。

 

 

 

 

「ご指摘の通り、私も貴方達と同じ立場であれば転移国家などと説明されては信じられないのは当然の事であります。………ですがそれを承知の上で私は日本国より遣わされた特使として貴国に提案を申し上げます。我が国は貴国使節団を受け入れる準備と用意があります。我が国が本当に転移国家であると言う証拠をお見せするため、ご足労を願いないでしょうか?」

 

「なっ………!それはあまりにも無…」

 

 

リンスイが異議を唱えようとしたが、カナタは目線をリンスイに向けて手で静止させると田中に向き直る。

 

 

「田中殿、貴国からのご提案をお受けしましょう」

 

「閣下!」

 

 

リンスイは明らかに反対の意を示すが、カナタは話を続ける。

 

 

「今回の貴国が我が国に対する対応は誠実で礼節をわきまえておられる。なにより、貴方方は強力な竜と軍船を保有しているのにも関わらず、それを盾に軍事的示威を見せず、自らの過ちを認めて謝罪に訪れる。その事に対し私はそんな貴方達に非常に興味が湧きました。」

 

 

カナタはその場で立ち上がると、田中に手を差し出す。

 

 

「私は貴国、日本について知りたいと思います。」

 

「申し出を受けて頂きありがとうございます!」

 

 

二人は互いに固い握手を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

この会談の日より、カナタ達は日本国への特使として派遣する使節団の編成を直ちに開始し、一週間後にはカナタからの直々の指名を受けた使節団の代表が、マイ・ハーク港へと集まっていた。

 

 

「お集まりの皆様、本日は日本へ使節団として来て頂けるとの事で、喜びの極みです。」

 

 

使節団を出迎えた田中は、使節団の代表である『ヤゴウ』以下の、使節団の面々に挨拶を兼ねて、日本国への移動手段として用意した船が停泊している場所へと案内する。

 

 

「はぁ……船旅は好かんのじゃ…」

 

 

使節団の中で憂鬱そうな表情をしているのは、使節団のメンバーとして日本国の軍事力を見定める役目を担う陸軍の『ハンキ』将軍だった。

 

 

「ハンキ将軍、顔色が優れませんが?」

 

「ヤゴウ殿、今は外務省出向の身なのだから将軍はやめてくれ。いやな、船旅は良いものでは無いぞ。船内は暗く、狭く、湿気も多い。長旅になると疫病に掛かる者もでるからのぅ……」

 

 

クワ・トイネ公国において、船旅と言うのは過酷との戦いである。

中世時代の帆船しか知らない彼らにとっては、船の中と言うのはあまりイメージは良くなく、ハンキ将軍程では無いが、ヤゴウ達使節団も少し憂鬱に感じている。

 

 

「皆様、我が国の船が到着しました。」

 

 

 

岸壁の上で田中が言うと、ヤゴウとハンキ達も岸壁に上がり沖を見る。

 

 

 

「なっ!」

 

「あれは……なんてデカイ!」

 

 

マイ・ハーク港沖に止まっていたのは旭日旗を掲げた日本の軍艦だった。

全長240メートルの船を海軍が臨検したという噂を聞いたヤゴウとハンキは、作り話程度にしか聞いていなかったため、その軍艦の大きさに驚く。

 

 

 

「あれは我が国の海軍に所属する『紅玉艦隊』の旗艦を努めております米利蘭土(メリーランド)と言う艦です。本来なら設備の整った客船を使用したかったのですが、何分我が国の客船は数が少ない上に、周辺の海域と空域の安全が確認されていないので、使節団の方々の安全を第1に考えご用意しました。」

 

 

 

米利蘭土(メリーランド)……かつて前世界において、ハワイ沖海戦で鹵獲したキンメル艦隊の旧式戦艦メリーランドを改造した奇想航空爆撃戦艦である。

 

当艦は照和22年のインド洋での戦闘でナチス第3帝国のUボートによる攻撃で破損し、インドのコーチンにあるドックで姉妹艦の『手音使(テネシー)』と共に修理がてらに改装されたが、転移の際に急遽横須賀港へと帰還していたのである。

 

帰還の後に横須賀港の桟橋に係留されていたのだが、今回のクワ・トイネへの特使派遣に伴い、カタパルトやクレーンを撤去、『爆龍』を収めていた航空機格納庫を客船と同様の宿泊用施設として改装し、武装が少ない見た目を利用して特務外交艦として派遣されてきたのである。

 

 

 

 

「た…田中殿、めりぃらんど?と言うあの軍船には帆が付いていないようじゃが、どうやって動いてるのじゃ?」

 

 

ハンキの質問に田中は快く答える。

 

 

「はい。あの艦はガスタービンエンジンを使用して動いています。」

 

「がすたーびんえんじん?」

 

「はい。帆やオールを使わなくても船を動かせる事ができる………………何と言いましょうか………人間で言う所の心臓に相当する絡繰りと考えて頂ければ。」

 

「よく分からんが…凄いと言う事だけは分かった。」

 

 

 

田中とクワ・トイネ使節団は、米利蘭土からやってきた迎えの内火艇に乗り込み、無事に米利蘭土へと乗艦する。

 

 

「これが軍船の上なのか………まるで要塞のようじゃ…………」

 

「それに見てください。甲板の木も綺麗に磨かれていますし、船そのものも何処か美しさと言うか……異国の匂いを感じます」

 

 

 

ハンキは米利蘭土の偉容に敬服し、ヤゴウは米利蘭土の大きさと手入れされた甲板を見て感心する。

 

 

 

(鹵獲艦を改造しているとは言えんな……)

 

 

 

田中は心の中で米利蘭土の正体については口に出さず、胸の内に仕舞い込む。

 

 

 

 

「田中殿、出来ればで良いのじゃが、このめりぃらんど?の責任者に合わせて頂けないじゃろうか?ワシも軍人の端くれとして、この軍船の責任者に挨拶をしたいのじゃが。」

 

「はい。ではこちらへどうぞ。」

 

 

田中達は米利蘭土の水兵の案内で、航空機格納庫の上にある艦橋へと案内される。

 

 

 

 

「クワ・トイネ使節団の皆さん、お待ちしておりました。私は当艦、米利蘭土の艦長兼、紅玉艦隊司令の川崎です。本日より2日間は大変窮屈な思いをさせてしまうでしょうが、日本までの道中よろしくお願いいたします。」

 

 

艦橋では、紅玉艦橋司令の『川崎弘』が使節団を出迎える。

 

 

「クワ・トイネ使節団代表のヤゴウです。」

 

「おなじくクワ・トイネ使節団団員のハンキです。軍人として司令官閣下にお会いできて光栄です。」

 

「司令官閣下とは………いや、自分のような老人に司令官閣下とは勿体無い言葉です。私はこの艦と同じ老体に鞭打って軍務に就いているだけの老人です。」

 

 

自らを卑下し、威張り散らすような態度を見せない川崎の言葉に軍人であるハンキは好感を抱く。

 

 

「ではこれより米利蘭土は日本国へ向けて出航いたします。これより皆様を客室へとご案内いたします。」

 

 

 

使節団は航空機格納庫に設けられた客室エリアへと案内する。

 

 

「なんて広いんだ!それに回りは明るい!」

 

「光の精霊でも宿しているのかこの船は!?」

 

 

 

豪華客船程では無いが、軍艦とは思えないほど清潔に保たれた客室に一同は驚きの連続だった。

驚きの熱が覚めぬまま、各々は割り当てられた客室へと入り、一堂は思い思いにくつろぐ。

 

 

 

その日に書かれたヤゴウの日記にはこう記されていた。

 

 

 

『私は日本国へクワ・トイネ使節団代表として、日本の軍船に乗り込んでいるが、私はこのような巨大で尚且つ、帆やオールも無しに動く船など見た事はない。おまけに中は一定の温度が保たれ、明るく、清潔が保たれている。こんな物を作り出す日本国について私は、この日記を書いてる今も、興味が尽きず、非常に楽しみである。もしかしたら日本国は、他の列強国に匹敵する力を持っているかもしれない。』

 

 

 

 

 

 

 

続く




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