後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第24話

中央歴1639年 4月27日

 

 

日本とクワ・トイネの連合軍がジン・ハークへ侵攻してくるほんの何時間か前、ロウリア王国の王都ジン・ハークの南にある『貧民街』と呼ばれるスラム街に視点を向ける。

 

 

ここは、ロウリア王国のみならずロデニウス大陸の中でも『この世の終わりの一端が見える』とまで言われている。

ここには王国の治安組織や当局の人間ですら入れば数時間も生きていられないとされる程に治安が悪く、それを隠れ蓑にしてマフィアが貧民街を取り仕切り、重大な犯罪を犯して当局の追跡を逃れた極悪人、危険薬物の売人等の犯罪人の住み処となっている。

 

 

そんな街の一角に、二階建ての木造家屋がある。

その建物の屋根には八木式に似た通信用アンテナと受信装置が取り付けられており、そこから伸びるコードは二階のある部屋に繋がっている。

 

その先の部屋には、この国の一般的な家屋に置くには、あまりにも相応しくない無線機やら発電機が設置されており、部屋の中にあるベッドに腰かける男が居た。

 

 

「…………」

 

 

男の名は『ハント』…………

 

 

 

この男の正体は、このロデニウス大陸より遥か西に離れた場所に位置する国家『グラ・バルカス帝国』の情報部に所属する諜報員である。

勿論この男のハントと言う名前も偽名であり、本名はあるのだがそれは明かされる事はない。

 

 

片手に本を持ち集中しながら読んでると、不意に入り口のドアが開き首からカメラを提げ、小柄な体格の男が入ってきた。

 

 

「例の日本軍については何か収穫あったか?」

 

「あぁ。見て驚くなよ……」

 

 

カメラを持った男はそう言うと懐から十枚の写真を取り出し、手渡す。

中身を見た途端にハントの表情は驚愕に包まれる。

 

 

 

「なぁ?凄いだろ?」

 

「これは………我が国の"アンタレス"にそっくりじゃないか!」

 

 

 

1枚目の写真には鍬十稲派遣軍の電征が写し出されており、2枚目と3枚目の写真にはかなり不鮮明だが嶺花と光武と光武改が写っている。

 

 

 

「それにこっちの写真の機体はプロペラが何処にも無いうえに変わった形をしてるな…………もしかして本国で構想段階にある新型エンジンを搭載した航空機かもしれん。」

 

「驚いただろ?だがその後の写真にはもっと驚くと思うぞ。」

 

「ん?……………これは………」

 

 

 

5枚目以降の写真を見て彼は更に驚きの表情となる。

 

 

「この写真の戦艦はオリオン級じゃないか!それにこっちの空母はペガサス級に似ている………これは駆逐艦みたいだが見た事の無い型だな………」

 

 

こちらにはハーク港から少し離れた丘の上から撮影された高杉艦隊の姿が写っている。

 

 

 

「こりゃ大収穫だぞ!直ぐに本国に報告する必要がありそうだ。」

 

 

 

ハントは急いで無線機に取り付き電源を入れてヘッドセットを装着すると、暗号乱数表を見ながら無線機のエレキーを高速でタップし、モールス式と同じ方法で本国へと報告を入れる。

 

 

 

「来た…」

 

 

 

暗号で報告を送って数分後、ヘッドセットの向こうから暗号が送り返されてきた。ハントはその内容をメモに取ると無線の電源を切った。

 

 

 

「本国からは何て?」

 

「そのまま調査を続行し、日本軍に関する情報を逐一報告せよとの事だ………」

 

「続行たって……いつ日本軍とクワ・トイネ軍がここに迫ってくるかもしれんこの状況でか?」

 

「その時はマニュアル通りに危険になったら直ちに撤収するさ。俺達だってこんな国でくたばりたくは無いからな。」

 

 

 

その時、外から人のざわめきのような声が聞こえてくる。二人は慌てて外へ出て、側に居た現地民に問い掛ける。

 

 

「何かあったのか?」

 

「あぁ…どうやら日本軍とクワ・トイネ軍がここに攻めてきたらしいんだ。」

 

「本当か!?」

 

「本当さ!さっきマフィアの取り巻き連中が言ってたのをハッキリと聞いたんだ。どうやら王国軍はボロ負けらしい………もう王都の北10㎞の地点にまで迫ってきてるようだ。」

 

 

それを聞いたハントはチャンスと考えた。

 

 

(となると日本の地上戦力についての情報が得られるかもしれん!巻き込まれる危険はあるかもしれんが百も承知だが………調べてみる価値はあるぞ。)

 

 

ハントは直ぐに決断し、現地民に金を渡す。

 

 

「教えてくれてありがとう。俺達は直ぐにでもここを離れて別の場所に移るが、今まで世話になった分だ……受け取ってくれ。」

 

「本当に金払いが良いなアンタらは………まぁお互い知り合った仲だ。元気でな。」

 

「そっちもな。」

 

 

ハントは現地民の男に礼を言い、建物の中へと戻る。

 

 

「いつでも撤収できる準備をしておいてくれ。俺達がここに居たという証拠は一切合切始末するのを忘れるな。お前は先に合流地点に向かっててくれ。」

 

「分かった………で、お前はどうするんだ?」

 

「俺は日本軍の地上戦力についての情報を可能な限り集めてくる。カメラとポータブル無線機を……」

 

「おい、単身で行くのは危険すぎる。俺も行くよ。」

 

「駄目だ。万が一にも2人で向かって敵の攻撃に巻き込まれでもしたら取り返しが付かなくなるんだ。この情報を確実に本国に持って帰るには一人は必ず生き残らなければならない……」

 

 

そう言ってハントはカメラとポータブル無線機を持って出ていこうとする。

 

 

「じゃあ気を付けてな………絶対死ぬなよ。」

 

「あぁ……」

 

 

 

ハントは建物を出て誰にも見られないよう、路地裏を通って貧民街を出て、北に向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

30分後、何とか北エリアへとたどり着き、空き家となっている建物の屋根の上に上り、カメラのレンズに最新型の暗視装置を装着し、日本軍が居ると思われる方向へと構える。

 

 

 

「来た…」

 

 

 

しばらく待っていると、何処からかエンジン音が聞こえてくる。

ハントはその方向へカメラを向けて暗視装置の電源を入れる。

 

 

「見えた………」

 

 

レンズの向こうには解像度が低く不鮮明なものの、ハッキリと日本とクワ・トイネの連合軍地上部隊がハッキリと見える。

 

 

「あれが日本軍の戦車か。かなり大きいな……後方のはトラックと8輪の装甲車か?あれだけの兵力を考えると、日本軍は高度に機械化された機甲部隊もあると言う事になるな………」

 

 

ハントはそう推測しながらシャッターを押し続け、城壁を破壊する夜豹師団の全貌を撮影する。

 

 

「あの城壁の厚さと破口の直径を考えると、砲弾は少なくとも150㎜クラスはある。砲兵も居るみたいだな。」

 

 

榴弾砲や戦車隊の砲撃から夜豹師団の火力や戦闘能力の高さなどを出来る限り調べあげたハントは写真撮影を一時中断し、ポータブル無線機の電源を入れてアンテナを伸ばして本国へ向けて暗号無線を入れる。

 

 

「不味い……砲撃が近くなってきたぞ。」

 

 

無線を打っている間にも砲撃は徐々に自分が居る場所へと近づいてくる。ハントは急かされる思いで何とか無線を打ち終える。

 

 

「よし!後はスタコラサッサだ。」

 

 

屋根から降りて建物から出ると側を流れる川に向かい、水深が深い位置に来ると、カメラからフィルムを抜き取りポータブル無線機をナイフで破壊するとカメラと共に川へと投げ捨てる。

 

 

(これで証拠は見つかる事はない………さて、さっさと逃げるか。)

 

 

ハントはその場から全速力で走り出し、王都から脱出すると仲間が待っている合流地点がある東海岸まで向かい、そこからボートに乗って沖まで出る。

 

 

 

「時間だ…」

 

 

腕時計で時間を確認すると信号拳銃に信号弾を装填し夜空に打ち上げると、ボートの底に耳を当てる。

 

 

「来た………タンクブローの音だ…」

 

 

やがて彼の目の前の海中から巨大な影が浮かび上がってきた。

その影は月夜の夜で誰が見てもハッキリと分かる潜水艦のシルエットだった。潜水艦の甲板にあるハッチから乗員が出てくると素早くハントの乗ったボートを回収し、彼は乗員と共に潜水艦に乗り込む。

 

 

「どうだ?何か分かったのか?」

 

 

潜水艦に乗り込むなり、艦長から質問が飛んでくる。

 

 

「それは答えられない。」

 

「ふん。まぁそうだろうな………。急速潜航っ!ダウントリム10、メインタンク注水っ!」

 

 

 

ハントを乗せた潜水艦はその場で海中深く潜り、何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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